エルフとトロール 〜三流魔法使いのトロール、メスガキエルフの下僕になる〜 作:ルブク
オリジナルの新シリーズです。
都合二回のやり直しを経てますが、個人的にまあまあ納得いく出だしになったのでこれでいこうかなと。
現在、二次オリのシリーズをメインとしているため、こちらの更新は遅めかつ一話短めな感じになる想定です。
また、作者の趣味全開になるのでその辺りご容赦のうえでお付き合いください。
第一章の人物紹介はこちら
https://syosetu.org/novel/385833/1.html
――その世界には、ヒトとマモノが暮らしている。
昔々のまた昔、遥か悠久の神々がおわします頃。
世界は何もない『無』に満たされていた。
一つ、神は無の世界に水を注ぎ、母なる海を作り
一つ、神は岩を
一つ、神は大地に世界樹を植え、草木の絨毯を敷き給うた。
一つ、神は虫、鳥、魚、獣を創り世界に放ち給うた。
そして最後に、神はヒトを創らんとした。
しかし神は思案した。ヒトだけでは話し相手がいないではないか。それはなんと残酷なことであろうか。
慈悲に溢れる神は一計を案じ、ヒトとツガイとなる種族――マモノを創り給うた。手を取り助け合えるよう、神はヒトに無限に湧き上がる叡智を授け、マモノに大自然の力を操る魔法を授けた。
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ヒトとマモノは仲睦まじく暮らした。ヒトが狩りに出て、マモノが魔法で火を起こし、寝食を共にする。ヒトとマモノの心が通じ、愛し合うようになるのに時間はかからなかった。
やがて二人の間に沢山の子供が産まれた。ヒト、トロール、オーク、ウェアウルフ、マーメイド、ハルピュイア……ついにはドラゴンまでも。世界樹の果実から生まれしエルフも加わり、無の世界は多くの彩りに溢れ、神は両手を挙げて歓喜した。
しかしそれも束の間。ヒトとマモノは自らが持ちえぬモノを備える者を互いに恐れ始めた。マモノはいかなる困難にも立ち向かい乗り越えるヒトの知恵と勇気を。ヒトは森羅万象を意のままに操るマモノの魔法を。
恐れはやがて恐怖に変わり、いつしか敵意が鎌首をもたげる。毎日毎日、口汚く罵る二人の姿に神は頭を悩ませた。
ヒトとマモノは仲睦まじくあるべきである。昔のように。
仲直りのため神は二人に話し合うように促した。しかし二人の亀裂は、既に神ですら手の施しようがない段階に至っていた。
耳を覆いたくなる罵詈雑言に、飛び交う果物や食器。この世界に君臨するは我一人のみと、汚らわしいお前は不要だと。
地上に戻った二人はとうとう武器を手に取り争いを始めた。人類と魔族として子供達をも二分し、血で血を洗い、憎しみが憎しみを呼ぶ果てなき戦争。神が思い描く理想の世界は見るも無残な地獄と化した。
そして神は絶望し、黒い大粒の涙を一つ流していずこへと去っていった。後に残されたのは、殺し合いを続けるばかりの人類と魔族のみ。
これが今に伝わる、千年戦争始まりの寓話である。
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そして始まりがあればいずれ終わりが訪れる。千年に渡る泥沼の戦争にて、ありとあらゆる種族が疲弊しきった頃のこと。
当初は人類と魔族で分かれていた陣営も、頻発する内部分裂と鞍替えにより誰が敵か味方かも分からぬ状況となっていた。
これでは戦争の継続は困難。むしろ種の存続の危機であると、各陣営が和平交渉を重ねようやくの終結に至った。
既に戦争の大義名分を見失い、ただ周りに合わせて剣を振り上げ、何となく命を落とすこと千年あまり。各地に深い傷痕を幾つも残しながら、安寧の時がようやく訪れたのだった。
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とある国の開けた山中。青く茂る木々が覆う山路を、一人の魔法使いが歩いていた。
膝丈の長さがある青い法衣に厚手の生地のズボン、履き古しのブーツ。そして片手には端が鉤状に曲がった杖を持ち、荷物が詰まった
しかし唯一にして最大の違和感――。
法衣の袖を通した腕は筋骨隆々。並の丸太ならやすやすとへし折れそうなほどに逞しい。法衣の下に着る白いシャツの胸元からはち切れんばかりの筋肉が覗き、魔法使いと呼ぶにはいささか無理のある外見であった。
「頂上はもうすぐ、か」
左手でひさしを作り、魔法使いは緩い登り坂の向こうを青く鋭い瞳で眺める。淀んだ緑の肌に形の整ったスキンヘッドと、この魔法使いはトロールの特徴を有していた。
――トロール。
優れた体格と膂力により、古来より力作業に従事することが多い種族。千年戦争においても自慢の腕力を武器に、前線で大いに暴れ回ってきた。
性格は
トロールは山路をなおも歩く。人間の男と比べても抜きん出て背が高く、ただ歩くだけでも威圧感は十二分。その上、どこか険のある顔つきで近寄りがたい印象すらある。
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やがて坂を登りきると視界が大きく開けた。なだらかな草原に岩場のいくつかが広がり、休むにはうってつけの場所である。
しかしその岩場のふもと、日陰となっている部分に一組の男女がうずくまるように座っていた。どちらも頭巾を目深に被り、俯き気味で表情は窺いしれない。
「失礼。どこか具合でも」
トロールはゆっくり歩み寄り、ためらいなく声をかける。
「えっ、あ、いや……」
男女は明らかに動揺していた。突然魔法使いの格好をした筋肉バカのトロールが声をかけてきたのだ。いくら立膝で座って目線を近くしようとも、もともと拭いようがない体格差。これは驚かない方が無理というもの。
「……つ、ツレが軽い立ち眩みで休んでるだけだよ。大丈夫だから気にしないでくれ」
「ご、ご心配なく」
男女共にまだ若さが残る顔つきだった。頭巾をめくって愛想笑いを返す女の頬にそばかすが広がり、本来の歳よりあどけなく見えてくる。
「それなら良かった。では」
女も特に顔色が悪いということもない。男の言う通り、少し休めば回復するだろう。
「いやなに」
「ご心配、ありがとうございます」
トロールは男女と分かれ、更に道を進む。少し行った先に二又に分かれており、左は下り坂で右は真っすぐの道。彼は立ち止まり、少し考えた後に左手の道を進んだ。
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更に歩くことしばらく。
「……街はこっちで良かったのか……?」
深くなるばかりの木々、終わる気配が見えない山路。下るどころか登り坂に再び差しかかった所で、トロールは本来往くべき道ではないことに気がついたのだった。
(仕方ない。道を確認するか――)
闇雲に進んでもただ迷うばかり。少なくとも現在位置を知らぬことには始まらない。
トロールは背嚢を地面に置き、魔法の杖を握り直す。身体の前で垂直に構え、呼吸と精神を平静に保つ。
『浮揚』
ほんの短い、ごく簡単な詠唱。トロールの足元をそよ風が吹き抜けた次の瞬間、両脚が地面より離れた。空とは無縁の緑色の巨体が魔法でゆっくり浮かび上がってゆく。
びゅう――。
空を覆う木々を越えるや否や、にわかに風が強く吹いた。トロールの大きな体が煽られ大きく傾く。
「くっ……!」
バランスが崩れるとともに乱れる精神。魔法が解除しかけるのを踏みとどまり、息を大きく吐きつつ宙に浮くイメージを脳裏に強く描く。
(――!)
揺らぐ体が徐々に収まり、トロールは安堵の表情となる。そして気を取り直し、再び緩やかに空へ。
足元に森の木々が敷き詰められ、遥か彼方には霞にけぶる山々が連なる。ぐるりと一周見回してみるも、目指す街は影も形も見当たらなかった。
どうやら道を誤ったのは確かなようだ。昇る時よりも慎重に下降し、地面に降り立つ。
一息ついて額から垂れる汗を拭った。
「仕方ない。あの二人に聞いてみるか」
一度通った箇所に戻るのは気恥ずかしくもあるが、四の五の言っていられる場合ではない。道迷いで時間を浪費するくらいなら、一時の恥の方がまだマシなのだから。
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来た道を引き返し、やがて男女と出会った岩場へ。凪いだ風が草むらを優しく撫で、草むらはそれに応え優しい歌声を奏でている。
遠目に見えたのは静かに佇むエルフの少女だった。
翠の髪が風に揺れ、湛える輝きは碧玉の如く。長く伸びる後ろの髪を赤のリボンで一つに括り、腰付近まで下ろしていた。生命力溢れる草木の色に染めた上下に、リボンと同じ赤い上衣を身にまとう。
額には縦に長い菱形の紅玉が顔を覗かせ、彼女の佇まいはまさしく森の妖精そのものだった。
――抜き身の剣を右手に携えているという剣呑さを除けば、だが。
エルフの少女の足元には赤い水溜りが二つほど広がり、その中心に何かが転がっている。トロールは肌がピリつくのを感じつつ、慎重に歩みを進めた。
「手間かけさせてくれちゃって。とりあえずこれでオシマイだから良いけど」
赤い水溜りが何なのか、そして地面に転がっている物は何なのか。風に乗って届く草の香りに血生臭さが混ざるのを感じ、それが何か分かるのに時間はかからなかった。
少し前に言葉を交わした例の男女。事切れた彼らが血の池に斃れているのだ。手を下したのは、間違いなく――。
「あ、トロールの魔法使い」
近づくトロールに気づき、エルフが髪と同じ翠の瞳を向ける。体をトロールに向けると、腰の後ろに下げた筒状の鞄が揺れ、中からカタリと音がした。
足元に死体が転がっているにも関わらず、表情は穏やかそのもの。興奮や動揺している様子は一切見られない。
「何故……二人にこんなことを?」
間合いを離し、トロールはエルフに問いかける。
「何故って?」
「何故殺したのかと聞いている」
「あ〜。まぁ……面倒くさかったから? 生け捕りは
人間を二人殺害したとは思えない態度のエルフ。怒りよりもむしろ、底しれぬ恐怖がトロールの中に湧き起こった。物取りをした様子もなく、ただ純粋に殺しただけなのかと。
話が通じる相手とは思えない。杖を握る手に力が籠もる。
「あ、魔法使っちゃう? 拘束? 捕縛? い〜よい〜よぉ、な〜んでも使っちゃってぇ」
トロールが緊張したのを感じ取ったのか、エルフは両手を大きく広げ、小ぶりながらも膨らむ胸を前に突き出した。完全に見下した顔で、小馬鹿にしながら煽りに煽りを入れてくる。
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「ほらほら、やってみ? できる? できないよねぇ♡ 使えるんならもう使ってるもんねぇ♡」
トロールは何も答えず、口を真一文字に結び正面からエルフを睨みつける。下手に反応したところで、またぞろ煽りが過激になるのが目に見えていた。
しかし、トロールはある一つのことに気がつく。
「……何故、私が魔法使いだと?」
エルフに対し名乗った訳でも、ましてや自己紹介した訳でもない。にも関わらず、彼女はトロールの魔法使いと言い当てたのだ。
太い首に真綿が巻き付いてくるようだ。言いようのない圧迫感を覚え、トロールの額から汗が一条流れ落ちる。
目の前のエルフは見た目こそ年端もいかない少女である。しかし長命種であるが故、生きてきた年月は間違いなくトロールよりも長いはずだ。
「だって見てたもん。遠くだったけど」
「見ていた……?」
「うん。宙に浮くだけなのに風にあおられてジタバタしてたやつ! ホントにダッッッサくて笑っちゃった☆」
ということはつまり、彼女はこちら側の力量を知っていることになる。手の内を全て晒していないとはいえ、宙に浮くというごく簡単な魔法さえ危ういのが露見していた。
知らず知らずの内に彼女のペースに引き込まれてしまっている。無意識ながら杖の先を向けており、これで敵意はないと言い逃れられるかどうか。
そしてケラケラひとしきり笑った後、エルフは大きく息をつく。
「……さあて」
彼女は剣の柄を握り直した。足元を均し、粛々と体勢を整えてゆく。隙だらけのようで隙がなく、下手に動こうものならたちまちに斬りかかる迫力があった。
「三つになったとこで大して変わんないしなぁ」
口元だけでやりと笑うエルフ。
「ね……どうしよっか?
一触即発のこの空気。トロールは押し黙ったまま、生唾を飲み込むだけだった。
次の話はエルフとトロールのバトル。
…バトルらしいバトルはないかもしれませんが。