エルフとトロール 〜三流魔法使いのトロール、メスガキエルフの下僕になる〜   作:ルブク

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甘い言葉にはご用心――。

という訳で第一章の区切り。次のエピローグを挟み、第二章へ入っていきます。

作中に登場した通貨単位ですが、そこまで深い設定はありません。とりあえず1円=1ネイくらいで、作中世界では貨幣経済が主となっていることを認識してもらえればと。

第一章の人物紹介はこちら
https://syosetu.org/novel/385833/1.html


終 エルフ、トロールを下僕にする

 かつて、この都市は千年戦争における人類側の拠点の一つであった。大陸を南北に通る大道が交わる地であり、近くに大きな川も流れている。交通の要衝(ようしょう)であることから、軍需物資の一大集積地として期待されたのだ。

 

「どう? 来てみての感想は」

「噂通りの賑わいだ。手に入らない物がないと言われるのも分かる」

 

 リュミエを案内役に、ヴィンセントは交易都市の市街地に入った。郊外に広がる田園地帯とを隔てる城塞(じょうさい)を潜ると、そこは人々の活気に満ち満ちた空間が広がっていた。

 石畳が敷かれた目抜き通りは、馬車が横一列に並んでも余裕があるほどに広い。通りの両側には木組みに白い漆喰(しっくい)を塗った家々が整然と建ち、軒下に食料品、金物、革細工等の様々な商店が連なる。

 耳を傾けると聞こえるのは客の呼び込み、店先での会話、そして世間話。どこを切り取っても、その裏側には平穏な暮らしを謳歌する人々が見えた。

 

「ま、戦争様々ってやつね」

 

 軍需物資を始まりとしてモノがヒトを呼び、ヒトがまたヒトを呼び、ヒトが更にモノを呼び、と連環する営みによって類を見ない成長を見せた交易都市。

 元より物資が潤沢のため、戦争による疲弊も比較的少なかった。周辺地域の住民の受け皿となることで、発展の極みにまで至ったのだ。

 

「それにしてもこの人波には圧倒される」

 多種多様な種族がひっきりなしに通りを行き交う。ヴィンセントから見える範囲からでも、ヒトはもちろんのこと、エルフやオーク、四本腕の魔族も見かけた。

 

「――魔族もいるのか」

 

 魔族は先の大戦で覇を争った相手ではあるが、何不自由なくこの街の住民となっているようだった。

 

「元々、戦争終わったらすぐに魔族にも門を開いたから。というか魔族側の商人が商いさせてくれって押しかけてきたらしいし」

「随分と逞しいな、その魔族達は」

「機を見るに敏なのはどこも変わんないってこと」

 

 小柄な体躯ながら、器用に雑踏を掻き分けてリュミエは進む。置いてけぼりにされないよう、必死に彼女の背中を追いかけるヴィンセントだった。

 

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 そして程なくして、リュミエはとある建物の前でぱたりと立ち止まる。

 

「よし、ついた」

 

 見上げると、そこは三階建ての大きな建物が。白い漆喰が目に眩しく、通りに面する壁には窓が幾つも設けられている。どの窓も惜しげもなく硝子が嵌められているという、他とは一線を画する立派な造りである。

 

「ここは――」

「依頼元の商館。報酬貰ってくるからちょっと待ってて」

「待った、どのくらい……」

 

 庶民が立ち入るには場違いに思えるが、リュミエはまったくのお構いなし。部外者であるヴィンセントを一人残し、商館の重厚な扉の向こうへと赴いてしまった。

 彼は街に詳しくもなければ伝手がある訳でもない。頼みの綱は彼女ただ一人であり、どうやら待つ他に手はなさそうである。ひとまず邪魔にならないよう脇に退き、街の賑わいを眺めながら戻りを待つ。

 

「お待たせ〜」

 

 リュミエが戻ってきたのはおよそ半刻ほど後。貨幣でずっしり垂れる革袋を片手に、頬を緩ませてのご帰還である。

 

「館長のヤツ、切り取った耳見せたら顔真っ青にしてやんの。デカい腹のわりに肝っ玉はちっこいんだからさ――」

 

 どういったやり取りがあったのかは見当もつかない。しかしケタケタ笑う彼女を見るに、知らない仲ではない様だ。

 

「用も済んだことだし、約束だったね? 宿に案内したげる」

「――よろしく頼む」

「任せて任せて。私のおススメだし、きっと気に入ると思うよ」

 

 よもや忘れられていたかと不安だったが、約束はしっかり覚えていてくれたようだ。再びリュミエを先頭に、大通りから一本二本と路地を渡ってゆく。

 

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 目を回すほどの喧騒の大通りとは打って変わって、そこは穏やかに時間が流れていた。頭上には物干し用のロープが建物から建物へ幾条も張り巡らされ、吊られた洗濯物が時折吹く風で揺れている。

 更に路地を抜け、また幾つかの通りを経て辿り着いたのは一件の宿屋だった。

 

「はい到着〜。ちょっと古いけどさ、私も一部屋間借りさせてもらってるんだ」

 

 木造の二階建て。玄関の上に、一本の大樹を模した看板が吊り下げられている。

 

「緑風、亭――」

 

 色褪せた看板に書かれた名を、目を細めながらヴィンセントは読み上げた。板張りの外壁は色がくすみ、かなりの年数が経過していることは間違いない。閑静な住宅地にひっそりと佇む老舗(しにせ)宿、といった趣が感じられる。

 そして宿の中に入ろうとしていた矢先。

 

「!?」

 

 玄関の奥から、獰猛な狼の顔に鮮血の色の瞳の魔物が姿を現した。ヴィンセントは反射的に足を止め、かの者を見やる。

 深く青いビロードの毛並みに包まれた肉体は異常なほど発達している。筋骨隆々なヴィンセントより一回り、いや二回りは大きいだろう。額からは二本の角がそそり立ち、その猛々しい体躯と相まって魔獣と形容するに相応しい。

 そして、身につけているのが――素朴な麻のエプロンと箒。

 

「おや、いらっしゃ〜い。お客さん、と……リュミエちゃんお帰りぃ」

 

 鋭い牙を覗かせて笑いながら、間延び気味な穏やかな声。荒々しい外見とは裏腹に、至って温厚そうな空気感だった。

 

「ただいま。おっちゃんさぁ、部屋一つ空いてない? 大型種用の」

「大型種用の? ん〜、空いてたような――」

「ような、じゃ困んの。ようなじゃ」

 

 リュミエはごく自然に魔獣と会話をしている。むしろかなり親しげであり、ヴィンセントはどことなく疎外感を肌に覚えた。

 

「このトロールに部屋を用意してあげるって約束してんだから」

「ああそ〜いうことぉ。じゃあマルカちゃんに聞いてみてくれる? 部屋ならあの娘の方が把握してるから」

「いい加減だなあ。マルカに怒られるよ?」

「あっはっはっ! 怒ると怖いからねぇ」

 

 会話だけ聞けば他愛のない世間話。しかし現実は美少女と野獣。これも多種族が集まる交易都市ならではの光景なのだろうか。

 

「マルカは? 中?」

「うん、いるよ。ちょっと待ってね――マルカちゃあ〜ん! リュミエちゃんが呼んでるよぉ〜!」

 

 玄関の中へ向かって、魔獣が伸びのある一声。

 

「んじゃ、ボクは表の掃除してるからねぇ。何かあったら呼んでねぇ」

 

 魔獣とは共に会釈を交わして別れた。彼は鼻歌混じりに掃き掃除を始めるが、ヒト用の箒がまるで子どもの玩具のように見えてきてしまう。

 

「……あの方は?」

 

 声を潜めてリュミエに尋ねる。宿の関係者というのは確かだと思われるが。

 

「この宿の亭主だよ。ララクララのおっちゃん」

「ご亭主だったのか……」

「あのナリだしふつー分かんないでしょ……昔はねぇ、戦争で――」

 

 緑風亭の亭主ララクララ。その秘密をリュミエがこっそりと口にしようとした瞬間、正に当人から『それは言わない約束』と声が飛んだ。

 あれだけの迫力の持ち主である。荒っぽい話の一つや二つはあるだろうが、本人が拒否するのでは仕方がない。リュミエが無邪気に舌を出して肩を竦める。

 

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「オーナー、そんな大きな声しなくても聞こえますって……リュミエさん、ご用って何です?」

 

 次いでララクララから呼び出された女性が顔を出した。

 麻の生成(きな)りのブラウスに青いエプロンドレスというシンプルな装い。素朴なスタイルの中、焦げ茶のシニヨンヘアをまとめる青いリボンは本人の洒落っ気だろうか。

 

「ちょっとさ、大型種の部屋空いてない? このトロール泊まらせてあげてほしいんだけど」

 

 マルカは顔をヴィンセントの方に向けた。灰色がかり、人懐こそうなどんぐり眼に緑色のトロールが映る。リュミエより頭一つ分は背が高く、なかなかしっかりした体つきをしている。

 

「えっと、そうですねぇ。トロールさんくらいの背の高さでしたら……」

 

 顎に人差し指を置き、うーんと唸りながら空を見上げる。今、彼女の中では様々な思考が駆け巡っていることだろう。

 

「大丈夫です、一部屋空いてますよ!」

 

 少し考えた後、パッと笑顔の花が咲く。

 

「すぐご案内しましょうか?」

「よろしく〜」

「かしこまりました! ではトロールさん、こちらにどうぞ!」

 

  マルカは快く二つ返事でヴィンセントを建物の中へと招き入れる。

 まさに流れるように事が進む。自身が一切介入できないのは一抹(いちまつ)の不安を覚えるが、物事というのは得てしてそういうものかもしれない。

 少なくとも、今は流れに身を任せるべき。ヴィンセントはそれに逆らうことなく、マルカに促され玄関をくぐっていった。

 

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「お部屋は一階の奥です。お手洗いや井戸は周りと共用で――」

 

 飾り気のない質素なホールにて宿帳に記名した後、ヴィンセントは泊まる部屋に案内される。リュミエはというと、ちょっと渡すものがあるからと言い残して階段を登っていってしまった。

 

「あの人もここに泊まっていると聞いたが」

「そうですよ。屋上にある小部屋なんですけどね。物置小屋をちょっと改装して」

「物置小屋?」

 

 マルカの答えに内心首を捻る。

 リュミエ一人に専用の部屋が設けられているということであり、一介の宿屋にしては随分な特別待遇ではなかろうか。

 

「リュミエさんの場合はお部屋兼事務所って感じですね。何でも屋みたいなお仕事されているので」

「なるほど。だから間借りと言っていたのか」

 

 賢いやり方かもしれない。家を借りるのでなく宿の一部屋を借り受ければ、住宅の諸事を宿側に引き受けてもらえる。そのために多少費用がかさんだとしても、十分なリターンがあると判断してのことだろう。

 

「まあ、リュミエさんは色々特別(・・)ですから――こちらです。このお部屋です」

 

 マルカは意味深な台詞をぽつりと呟いた。真意を尋ねようとしたものの、その前に泊まる部屋に到着となった。

 背丈が高いヴィンセントも悠々通れるサイズの扉。部屋の家具類もベッド、テーブル、椅子、チェスト等必要最低限が一揃いあり、ヒトのものより大きめに造られている。

 

「お気に召していただけました?」

「申し分ない。屋根がある所で寝られるだけでなく、こうまで良くしてもらえるとは」

 

 ベッドは木枠に沢山の(わら)を敷き詰めたものだが、シーツを二枚三枚と重ねていた。特有のゴワつきもなく、寝心地は悪くないに違いない。

 

「良かったです! お食事は朝は簡単なものならご用意できます。お夕飯は外で食べていただくか、別料金でよければ準備しますので」

「ありがとう。それで十分」

「他に必要なものがあったら何でもお申し付けくださいね。これで一応お部屋の説明は終わりなんですが――」

 

 ヴィンセントはひとまず杖や荷物を床に置く。部屋で少し(くつろ)いでも良かったが、マルカが遠慮がちに部屋の外を指差していた。

 

「リュミエさんが戻ってきてるかもしれません。ホールに向かわれます?」

「そういえば……そうだな。戻ろう」

 

 彼女が渡したいもの――見当つかないが、それは行けば分かること。待たせるのもよろしくなく、マルカと共に素直にホールへ戻ることとした。

 

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「ところで、ヴィンセントさんはリュミエさんとどこでお知り合いに?」

「ああ、街に向かう途中の山路で……道に迷っていたところを助けてもらって」

「なるほどぉ! リュミエさんならこの辺りの地理バッチリですから――」

 

 ホールにリュミエが戻ってくるまでマルカと軽く世間話。力任せの粗暴な種というイメージからか、とかくトロールはヒトに嫌悪感を抱かれやすい。しかし彼女はそういったこともなく、気さくに話しかけてくれる。

 それでも、リュミエの仕事については伏せなければなるまいが。とてもではないが、これまでの経緯はうら若き乙女にしていい話題ではない。ついでに襲われたということも。

 

「――今日は血なまぐさい依頼って言ってたんですけど。大丈夫でした……?」

 

 遠慮がちに上目遣いの彼女。完全でなくとも、ある程度は把握しているようだった。

 

「ああいや……仕事を立派に果たされていたよ……」

「あっ。でしたら、何よりでした……」

 

 マルカは色々と察したのか、言葉の歯切れ悪く視線を落とした。

 

「その後、下る途中で猪の魔物と遭遇してしまって。仕事の依頼という形で手助けに入ってもらって倒したのだが――」

「え」

 

 不意にマルカがどんぐり眼を更に真ん丸にしてヴィンセントを凝視する。

 

「それって、緊急で依頼したってことですか?」

「そうだが」

「え、あっ。あぁ、う〜ん……」

 

 いきなりの曇り顔。伏し目がちに二度三度チラ見しながら口ごもる。何か知っているのは明らかである。

 

「お〜ま〜た〜せ〜。ちょっと遅くなっちゃったぁ」

 

 しかしここでリュミエが颯爽と登場。巻いた羊皮紙を手にしており、戻るなりヴィンセントに手渡した。タイミングが良いのか悪いのか、マルカに聞きたいことが聞けずじまいである。

 

「――これは?」

「恋文的な? まぁちょっと読んでみて」

 

 リュミエは広げて読むように促す。まさか彼女の言葉通りのラブレターではあるまい。ちらりとマルカを横目で見やるも、神妙な面持ちで表情が読み取れなかった。

 躊躇ったところで仕方がない。恐る恐る、ヴィンセントは巻紙を広げてゆく。

 

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 『請求書

  基本契約料:5,000ネイ

  追加契約料:2,000ネイ

  特別契約料:50,000ネイ

  緊急契約料:500,000ネイ

  基本技術料:2,500ネイ

  追加技術料:1,000ネイ

  特別技術料:25,000ネイ

  緊急技術料:250,000ネイ

  基本指導料:3,000ネイ

  追加指導料:1,500ネイ

  特別指導料:30,000ネイ

  緊急指導料:300,000ネイ

  魔物(特級)討伐料:5,000,000ネイ

  特級危険作業料:2,000,000ネイ

  山岳案内料:5,000ネイ

  市街案内料:2,000ネイ

  宿泊仲介手数料:10,000ネイ

  物資補充料:10,000ネイ

  資源運搬料:13,000ネイ

  時間外作業料:30,000ネイ

  装備補修料:10,000,000ネイ

 

  計:18,230,000ネイ

 

 ――上記を貴君に請求するものとす。リュミエ・カーリア』

 

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「……な、ん……」

 絶句、としか言いようがなかった。ずらずらと費用名目が並び、その隣に記されている金額。そして項目の最後、総計に整列した数字群を指でゆっくり追いかける。

 

 一、十、百、千、万、十万、百万、千万――。

 

 指を離し、再度請求書を眺める。記載されている数字は間違いなく――。

 

「請求書だけど。分かるよね?」

「いいや、分からん」

「は?」

 

 重々しく呟いたヴィンセントの言葉に、和やかだったリュミエの顔が険しくなる。その場の雰囲気を察しマルカが一歩退いた。

 

「これが請求書? 冗談にもほどがあるだろう」

 

 請求書を手にしたままリュミエに詰め寄る。かなりの身長差があるにも関わらず、彼女も一歩も引く様子を見せない。

 

「あァ? 人に仕事依頼しといて文句あるって?」

「もちろんだ。一言言わせてもらおう」

「上等! 喧嘩なら言い値の倍で買ってやろうじゃん」

 

 雰囲気は一触即発。どうにかなだめようとマルカが窺っているが、下手に間に入ろうものなら無惨に押し潰されかねなかった。

 

「第一、この請求書は――」

 

 費用名目を指し示しながらリュミエに突きつける。

 

「費用の内訳が書かれていない! これでは適切かどうか分からん!」

「……え、そこ突っ込む?」

「装備補修費が他と桁違いに高い。書き間違いではないのか?」

「間違ってないよ。剣を打ち直してもらわないといけないから」

 

 リュミエは刀身が半分に折れた自らの剣を見せた。特注の一点物と、それはもう恨みたっぷりに。

 

「大体さ、適切かどうか判断するのはキミじゃないでしょ。私だし」

「む……」

「むしろ聞きたいのは私の方なんだけど。払えんの? 払えないの?」

 

 非情な質問を前に、ヴィンセントは頭を横に振るしかなかった。

 

「いや、とてもではないが――」

「だろうね。払える方が驚きだよ」

「だとしてもこの金額は法外では」

「命張ったんだから安いもんでしょ? 文句あんなら出るとこ出るからね」

 

 一歩間違えていればこの場にいなかったかもしれない。そう考えると、彼女の言葉には嫌になるほど説得力があった。

 

「ま、払えないってならカラダで払ってもらうしかないよねェ」

 

 にたにたとしたり顔のリュミエ。そして、待ってましたと言わんばかりに返済プランを説明した。

 

 ――リュミエの元で依頼を請け、報酬は全額彼女が管理の上で返済費用に充てていく、という。

 

「要するに貴方の下働き、と」

「は〜? 人聞きが悪いなぁ。利子ゼロにしてあげんだから一番合法かつ安全でしょ? たった二、三十年くらい働けば返せる額なんだし余裕余裕」

 

 まさにこれが狙いだったかのような用意周到さ。明らかに立場が弱いヴィンセントは押し黙る他ない。

 

「キミは衣食住込みの真っ当な働き口にありつける。私は欲しかったげぼ……人手が増えて、マルカ達も一部屋埋まって皆御の字! 最高じゃない!」

 

 字面だけで見ればそうだが。しかし実際の所は一部に多大な負担がのしかかる歪な形なのである。

 呵呵(かか)と笑うリュミエ、ぎこちない愛想笑いのマルカ、ひたすら渋い顔のヴィンセントと反応は三者三様。明暗がくっきり分かれる結果となったのだった。




次は第一章エピローグ。ちょいエロあり。
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