馬は好きだ   作:ははもり

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胸揺さぶられて

 ウィニングポストというゲームを知っているだろうか。

 自分は最新作しかやっていないので過去のゲームがどうなのかは知らないが、日本競馬の過去から未来まで馬を育てレースに出走させるゲームだ。

 私とウィニングポストとの出会いは友人のおかげであった。

 私は何分競馬というものに疎く、仲の良い友人に連れられ、競馬場に行ったのが競馬を本格的に知ることになる契機であった。

 知っている馬はオグリキャップ、ディープインパクト、ハルウララなどの馬だが、名前は知っていると言ったくらいで興味はなかった。

 しかしその日、私は衝撃を受けることになる。

 阪神競馬場、宝塚記念。

 凄まじい人の多さ。

 凄まじい熱量。 

 凄まじい歓声。

 そして凄まじいレース。

 私は、こんな世界があったのかと興奮を覚えたものだ。

 記念に買った馬券もメイショウ……タバラ? タバル?と言う馬を買い、軽く一万円ほど賭けていたのだがまさか十倍になるとは。

私はその日、競馬というものに興味を持ち、家に帰って競馬ゲームのウィニングポストを早々に購入インストールし、有休を使って1週間家に籠もってやり続けた。

 そして寝落ちしたかと思えば私はどこともしれぬ牧場で目を覚ました。

 どこだろうか、不眠不休でゲームをしていたせいだろうか、無意識で牧場に行ってみたくなり、夢遊病のように来てしまったのだろうか。

 いや、流石にありえないか。

 それはもう病気だろう。

 

 「オーナーオーナー!どうしたん?  テンション低すぎじゃない? もっとテンアゲで行こうよ! 今日はオーナーのテンシンハンが無敗の3冠取るかもしれない日だよ! シンボリルドルフ以来の無敗の3冠!! 緊張してるのは分かるけどテンションは上げてこ! アタシたちの牧場で初めての3冠かつ、無敗までついてきるんだよ! テンアゲ絶好調でしょ!」

 

 「あ? て、天津飯? ドラゴンボールの?」

 

 「ナニゴンボールかは知らないけどオーナーの牧場で産まれた馬じゃん。忙しいのは分かるけど忘れたら可哀想だよ!」

 

 「え、いや、ん?」

 

 なんだかよく分からないが、私は牧場のオーナーと勘違いされており、そのオーナーの馬が無敗の3冠を取りそうということらしい。

 いやゲームの列伝で知ったが無敗の3冠はディープインパクトとコントレイルという馬がいただろう。

 なにを言って……いや、テンシンハン? そう言えば私のウィニングポストの馬に名前を真剣に考えるのに飽きてそんな名前をつけた馬がいたような。

 それにこの子、どこかで……。

 

 「オーナー! そろそろ行かないと! 車回してくるからそこで待ってて!」

 

 「あ、ああ」

 

 まあ細かいことは今はいいか。

 G1だ。

 あの興奮をもう一度味わえるというのなら、今はなにも考える必要はあるまい。

 流れに身を任せよう。

 なんとかなるさ。

 私の脳は既に競馬とウィニングポストに支配されていた。

 

            ★

『テンシンハンだ! やはりテンシンハンだ! 他を寄せ付けない圧倒的逃げ足! 圧倒的実力! 2着とは8馬身離しての圧勝! 無敗の三冠! シンボリルドルフ以来の無敗三冠です! 【永久エネルギー炉】テンシンハン! まるで足色衰えぬ究極の逃げでした! しゅごーいッ!!』

 

 うわすっごい。

 ゲームだけだろみたいな展開だ。

 長距離を逃げて勝って8馬身とか実馬だと絶対無理だろう、どんな体力してるんだ。

 ああ、だから二つ名が永久エネルギー炉なのか、納得である。

 この二つ名つけた人絶対ドラゴンボール好きだな。

 

 「やったやった! テンシンハンが無敗三冠! G1はこれで7連勝! シンボリルドルフの記録を抜くのは間違いなし! すっごいスーパーホースでアタシの鼻も高いよ!」

 

 7連勝か、2歳で海外のG1を走らせたのか? 

 いい加減理解したが、夢か現か、この世界はウィニングポストの世界だ。

 秘書もウィニングポストのギャルだ。

 たぶんだが今後の流れはこのまま凱旋門を走らせる感じかプレイヤーならそうするだろう。

 恐らく古馬になれば香港でトリプルクラウンを取りながら古馬王道制覇するプランだろう。

 中途半端な競馬知識の私でも分かるが、現実なら普通に馬が壊れるんじゃないだろうか。

 

 「このあと、凱旋門賞を目指し、次にBCクラシック! サウジにドバイ! 今後二度と現れない最強のスーパーホース間違いなし!! テンシンハンなら両方行けるでしょ!」

 

 芝ダート両方行けるタイプだったか……。

 

 

           ★

 

 その後色々と整理がついた。

 間違いなくこの世界では私はオーナーであり牧場主だった。

 百億円スタートの謎の資本とコネでハイセイコーの時代から馬主をしており、四十半ばのおっさん(それは現実でも変わらない)。

 正直その年代から初めているのならばプレイヤーなら3冠くらいとっくに取っているはずだが、微妙にリアル寄りなのかG1はそこそこというか出来過ぎなくらい取っているものの三冠は取れておらず、金や虹色のお守り系ホースは狙って取っている感じはしなかった。

 つまり未来が分かっている訳ではないらしい。

 しかも謎なのがテンシンハン以外の馬は詰めたローテではなく、日程に余裕を持たせた競走馬に優しいローテにしてあり、何故テンシンハンだけこんなことになっているのか謎も謎であった

 

(まあ他の馬も八歳くらいまで走らせてる馬が結構見えるので考えすぎかもしれないし、時代的に詰めたローテはザラっぽいが)

 

 なんというか初心者プレイのウィニングポストくらい謎プレイである。

 私は暫く考え、考えても仕方ないと割り切ることにした。

 なにせこの現状そのものが意味不明なのだ。

 考えても仕方ないだろう。

 私はせっかく馬主になれたのだからとこの世界を楽しむことにする。

 夢であろうと現であろうと、結局長く見続ける世界であるのならばどちらでも大して変わらない。

 私はこの世界に順応することにした。

 

           ★

 

 「ブルヒヒン」

 

 「おーよしよし元気だなドラエモンジュー。いい子を産めよ」

 

 40年の月日が経った。

 あっという間の人生だった。

 この体は馬を見極める相馬眼が極めて高いのか、G1ホースを大量に獲得し、この世界に私、有りと言われるほどの大馬主となった。

 それはもう海外含め取っていないG1がなくなってしまったくらいには馬鹿みたいに勝ちまくった。

 最初の馬テンシンハンから始め、最近繁殖入りした牝馬で無敗三冠ドラエモンジューなど数々のスーパーホースを世に送り出した(ウィニングポストの世界なだけあって怒られそうな名前も全然通る)。

 正直満足だ。

 後年欧州や米国ではG1を荒らし回る悪魔の暴風などと呼ばれて恐れられたものの、強い馬は年に一頭〜三頭程度しか世に送り出していないので許してほしい。

 ウィニングポストみたいな事すると顰蹙買いそうだったのでこれでも自重したんだ。

 ……しかしまあ、次の人生があるならばそうだな、できるのならば調教師か騎手になってみたいものだ。

 きっとまた別の興奮があるのであろう。

 

 「まったく飽きないものだな競馬というものは」

 

 私はドラエモンジューの可愛らしい顔を撫でながら、次はどの牡馬を着けるか考える。

 私は何かを考え込むとき両目か片目を瞑る癖があるのでよく秘書に危ないからやめろと言われるが仕方ないであろう、癖なのだから。

 そうして私は両目を瞑る。

 

 (SS系も良いが、キンカメ系も捨てがたい。ナス系もいいな。うーむ。いい仔が産まれたら新人騎手にでも乗って貰うか、金腐る程あるし、競馬界の未来にでも投資しよう。第二の豊を生み出そうではないか)

 

 私はそう皮算用してふと思う。

 なんだ? 

 

 「ん? なんだ? 動物の臭いがしない………………ああ、またか?」

 

 目を開ければ知らぬ場所にいた。

 流石に二度目となれば驚きより呆れが来る。

 私の目の前の光景は狭い四畳半の恐らく子供部屋と小さな机。

 ブラウン管テレビに机に置いてある折りたたみ式のガラケーが目に入る。

 うむ、恐らく平成。

 しかも面倒なことに家族がいると見た。

 それも学生に携帯を持たせる程度にはある程度裕福な家だ。

 それと、身体の調子も肌のハリも落ち着いて見れば随分と若い。

 どうやら学生相当に若返っているらしい。

 私は今度はなにになったというのか。

 もしかしたら神様が気を利かせて私が騎手か調教師にでもなる未来を与えてくれたのであろうか。

 しかしこの身体の持ち主はどうなったというのであろうか、私がこの身体の人生を塗りつぶしたのであろうか。

 そう考えているとふいに部屋の扉が開く。

 

 「兄さん、母さんが晩飯だって言ってるよ」

 

 (…………当麻………か? 嘘だろう?)

 

 目の前にいるのは私が前の世界に来る前の本来の世界にいた弟だ。

 しかもずいぶんと若返りをしている。

 まあ私が若いので当然であるが。

 ふむ我が弟ながら相変わらずのイケメンである。

 前世では大学卒業後、起業をし、メディアにはイケメン社長と呼ばれ、あっという間に一代大きな会社にしてしまうほどの才能のある弟であった。

 性格も良く、非の打ち所のない、私も鼻が高くなるくらい自慢の弟だ。

 というか弟がそのままであるということはたぶん親もそのままだろう。

 そこだけ変える意味がない。

 

 「兄さん? ぼーとしてどうしたんだ? 風邪でも引いた?」

 

 「いや、すまん。少し考え事をしていた」

 

 「あー兄さんトレーナーかURAの職員になるか迷ってたしそのこと? 来年度で卒業だし流石に決めとかないとね」

 

 トレーナー? URA? 何のことだ? というかトレーナーはまあスポーツ系だとは分かるがURAってなんだ? 

 というか話の感じもう私は大学生なのか、弟は二歳年下なのでそろそろ大学へ入学である。

 本来の世界では同じ大学だったのでよく女子から紹介して欲しいと頼まれたものだ。

 

 「あ、ああ。私ももう流石に考えないとなって思ってな」

 

 「兄さんなら絶対にトレーナーになったほうが良いと思うよ? 人に教えるの上手いし、人を見る目もあるもん。兄さんなら絶対に名バを世に送り出すと思う。なんせ俺の兄さんだし」

 

 名馬? トレーナーとは調教師のことなのだろうか? 

 しかし人を見る目と言ってるし、そこは相馬眼、馬を見る目ではないだろうか?

 というか大学じゃなくて競馬学校だったのか?

 

 「兄さん昔から大人びてるし、ウマ娘の知識も豊富だし。絶対に名トレーナーになるよ! 俺が憧れてるにいさんなんだから間違いないよ!」

 

 「うま……むすめ……?なんだそ―――――ぐぅうううううッッッ!!」

 

 突如頭痛がした。

 あり得ないほどの情報が頭に流れ込んでくる感覚と言ったらいいのか。

 まるで風呂の線を抜いた水の如く頭にぐるぐると情報がねじ込まれてくる。

 視界が明滅する時計が回る思い出す掘り起こされる産まれた瞬間小学生中学生高校春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬春夏秋冬記季節は巡りる憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶記憶雨風雪太陽雨風雪太陽雨風雪太陽雨風雪太陽雨風雪太陽人人人人人人人人人人人人人人人人人113466sfhぁthvbrさxvbつぁq.。

 

 「ぐぅ………あがっ………!! ぐぁあああ!!」

 

 「兄さん!?」

 

 私は、これは、ああ、なるほど。

 

 「………………生まれた瞬間から……今まで………私のまま今の時間までスキップしてきた………だけか………それにしたって……………これは………ないだろう…………」

 

 私はあまりの頭痛に受け身も取れず倒れた。痛いが頭痛に比べて遥かにマシだ。

 そうして弟が私を呼びながら焦っている姿を最後に気を失った。

 初っ端からすまないね。

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