馬は好きだ   作:ははもり

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誤字修正感謝


違和感

 あれから二日後、私は担当を持ったことで貸し出されたトレーナー室で、経済新聞を見ていた。

 金は天下の周りものとは言うがここまで都合がいいと私は神に愛されているのではないかと勘違いしそうになる。

 

 「つい最近までガラケーだったのがもうスマートフォンか。いやウマホだったな」

 

 なんでわざわざウマ娘に絡めるんだと言いたくなるがそれだけウマ娘が国民的、いや世界的にメジャーということなのだろう。

 小さな時に見たホビーアニメのような世界だな。

 

 「しかし投資先がもう利益を産み出すとはな。ネットもあっという間に普及しそうだし私のいた世界とは様相が違うな」

 

 まあ出たばかりの初期ウマホ、速度ももっさりしており、未来を知っている身としては高性能とはお世辞にも言えないが、ここから日進月歩で高性能化するだろう。

 それに前とは技術の進みも違う、投資先には用心しなければな。

 

 「トレーナー君。なにをしているんだい?」

 

 ルドルフはいつもの体操着の姿でもう自分の部屋かのようにトレーナー室に入ってきたかと思えば、新聞を広げている私を見て不思議そうに声をかけてきた。

 

 「ああ、君か。なに、投資先で利益が出たから次を見定めていた所だ」

 

 「なるほど、不断節季。君は金を育成手段として使うタイプだから、幾らあっても足りないのか」

 

 その通り、人雇うにも金、他より抜きん出るために設備投資するにも金。

 それを世の傑物に惜しみなく投資できるだけの金は何より必要だ。

 世の中金を持ってる奴が強いのは当たり前なのだから。

 

 「なに、その内金が金を産み出すようになる。そうなれば金に困ることもない。レースの賞金も10%ほどいただけるし、君が私を潤してくれる」

 

 私は、新聞から目を離し、折りたたみながら彼女へと肩を竦めて言うと少し不満そうな表情になっていた。

 

 「む、金のために走れと言われているようで少し気分が悪いぞトレーナー君」

 

 まあそう聞こえるか。

 しかしなあ、金は必要だが金のために走れと言うならこんな遠回りせん。

 

 「金のためだけなら賞金の低い海外なんて行かせずに日本のG1とドバイに行かせるね私は。君との未来設計は大きな転換をせざる経ないだろう」

 

 金金金とは言ってはいるが、当たり前だが全て勝利のための手段である。

 金が目的なら海外遠征なんて馬鹿のすることだろう。

 海外のG1より日本のG2のが稼げる。

 

 「ふふ、それを聞けて安心した。なに、君が頭から足先まで信じているこの私だ。全て勝って賞金を飼い犬のように咥えて帰ってこようではないか」

 

 そう言って拳を丸めて犬のようなポーズをする彼女に私は、それでは犬じゃなくて猫みたいだなとは思ったものの口にはしない。

 彼女は、真剣だぞ?

 

 「それはありがたい、ということでこれだ。読んでくれ」

 

 そう言って私は、デスクに置いていた一枚の紙を彼女に渡す。

 何故か彼女は少し寂しそうな表情をしたがもしかして精一杯のボケだったのだろうかまさかな、あんな程度の低いボケ、小学生くらいしかやらないだろ。

 

 「スケジュールか、6月にメイクデビューとはまた早いね」

 

 「ああ、まだ君の本格化が終わっていないだろうが、それでも基礎スペックがずば抜けている君なら、この時期のウマ娘くらい距離適性を無視してもねじ伏せられる。そして他に2000の中距離を挟んだらフランスへ行こう」

 

 「―――っ、君、まさか」

 

 「ああ、10月にある。クリテリウムドサンクルーフランスにおける最も距離の長いジュニア期のG1だ。君は、中長距離適性だからね丁度いいのはここだと思ったんだよ」

 

 流石にこの時期ともなると他のウマ娘もそこそこ仕上げて来ているだろうが、私の見立てではこの年の中距離で彼女に勝てる馬もといウマ娘は皆無だ。

 だからわざわざここを選んだまである。

 

 「無敗三冠なんて当然取れるものに価値なんて見いだせないだろう? だから五冠を取りに行こうか」

 

 そう言うと、彼女は首を傾げ、五つ? と疑問符を浮かべる。

 なにを疑問に思っているのかは知らないが丁度五つだろう?

 

 「五冠? 四冠ではなく?クリテリウムドサンクルーと皐月、ダービーに菊花で四つでは?」

 

 「ホープーフルステークスがあるだろう。だから五冠だ」

 

 「なるほど、君はとんでもない馬鹿だな。どれだけ私を信頼しているんだ」

 

 そりゃ、君だからだが。

 シンボリルドルフをただの無敗三冠で終わらせるなんて勿体ないことはできんだろう。

 

 「だが君にとって四冠程度、画龍点睛に欠くと言いたいのだな」

 

 別にそこまでは思っていない。

 ゲームならもっとキツめのローテで走らせてはいる。

 それに前の世界でも海外に飛び回ってもう少しG1を獲得はしていた。

 それに

 

 「いや、その程度して貰わないとレーティングと種牡ば………かち……が…………」

 

 自分が不味いことを口走ろうとしていることに気づき、口を閉じた。

 だが、流石に聞かれたか。

 

 「あー…………忘れてくれ、スキップさせられた弊害か、いかんな……」

 

 幼少の記憶がまるでガラス一枚挟んだ向こう側にあるような感覚なので、つい最近の出来事は前の世界が基準だ。

 いかんな未練が捨てきれん。

 

 「シュボバ? スキップ? 何を言っているんだ君は」

 

 「いや、関係ないことだ。どうにも寝不足で変なことを口走ったようだ」

 

 無理筋な言い訳だがどうにかこれで納得してもらえないだろうか。

 あんまり突っ込まれても説明が難しいというか非常に面倒だ。

 知っても知らなくても大して変わらないことは知らなくてもいい。

 

 「君、最低6時間は寝てるとかこの前言ってなかったか?」

 

 ああ、そうだ。

 牧場経営を辞めてからそれくらいは普通に寝るようになった。

 何かの雑談の拍子に一日の睡眠時間はそれくらいとかそんなこと言った気がする。      

 なに自分の首を絞めてるんだ私。

 

 「今日はたまたまだよ。夜中にピンク番組がやっていたからそれで寝不足なんだ。私も男の子なんだよ」

 

 「………君は何かを誤魔化すのが下手、というか誤魔化すためなら自分の名誉を躊躇なく切り捨てるタイプだな……あい、わかった。これ以上は聞くまい」

 

 「助かる」

 

 気を使わせてしまって申し訳ないが、説明するには非常に難しい上に純粋に面倒臭い。

 意味のわからないことを口走り始めたと思われたら面倒臭いからやってられんという気持ちにワンランクアップしそうだ。

 

 「これ以上は聞くまい、そうは言ったが他に聞きたいことがあるんだ。いいかなトレーナー君」

 

 「ああ、好きに聞いてくれ」

 

 この際私のプライベートでも恥ずかしい過去でもなんでも聞いてくれて構わない。

 今更そんなことで動揺しないし、レースのことなら共有して当然のことだからなんの問題ない。

 さて、何を聞いてくるのか。

 

 「君とは契約してまだ三日と経っていない」

 

 「そうだな」

 

 「では聞くが、君は私のレースを一つしか見ていない上にトレーニングもまだ本格的に始めていないが、何故私が中長距離に適性があると判断できたんだ? そこが少し引っかかってね」

 

 汗が、一つ垂れた気がした。

 頭の中で学園長が扇子を広げて『迂闊!』となにか口走って去っていく幻想をみた。

 これは結局説明しないとダメではなかろうか?

 

 

        ★

 

 

 私が彼を見たのは偶然であった。

 私はトレーナーの選別のため、レースを行なっていた日のことだ。

 一着でゴールをし、息を整え汗を拭った。

 その時偶然遠くで私を見ていたであろう人物が目に入った。

 特に興味も無さそうに去っていく姿にも興味が惹かれたが――――それよりも魂が、感情が、まるで咆哮を上げるように歓喜していた。

 まるで、そう。

 まるでやっと帰ってきた主にじゃれつく犬。

 はやく私を外に連れ出してくれとも言わんばかりの狂喜。

 私は、他のトレーナーが勧誘してくる声を置き去りに駆け出していた。

 笑えるだろう?

 レース前に私の帝道を支えるものを探しているなんて言っておきながらまるで子供のように笑顔で駆け出していたのだから。

 自分でもこの感情に名を付けることができない、なにせ初めての感覚だったんだから。

 彼の前に出た時、流石に冷静になってカッコつけてはいたが、内心心臓が飛び出そうなほど緊張していた。

 私が逆スカウトを行うことになるだなんて想定すらしていなかった。

 だから、彼が勘違いして色々なことを覚えていることに拍子が抜けたし、視座の高さに驚きもした。

 私が、海外で勝てると、当然のように言う。

 私がシンボリルドルフだから当たり前だろう? だなんて君には一体何が見えているんだと言いたくなった。

 だが、彼が諦めて私の担当になってくれると言った時、内心狂喜乱舞しており、そして彼の言葉に――――震えた。

 

 「デメリットは聞いたがメリットはないのかい?」

 

 そう聞いた私に偉いと今でも言いたくなる。

 

「日本中に、いや、世界に、君が走っているこの時代はシンボリルドルフの時代であったと刻み込む指導ができる」

 

 震えた。

 三冠だなんて小さな目標じゃない。

 彼は私を世界に刻むと言ってのけたのだ。

 しかもそれをできて当然とでも言うかのようにだ。

 未だ日本のウマ娘で海外のG1に手が届いたものがいないというのに、彼は私に手が届いて当然と言う。

 私のウマソウルが歓喜していた。

 私の感情が狂喜していた。

 震えて、大きな笑い声を上げていた。

 ああ、やはり私の目に、魂に間違いは無かった。

 手舞足踏、今にも子供のように飛び跳ねて喜びを表したかったが、彼の一言に冷水をかけられその場は落ち着いた。

 自分で帝道だとか皇帝だなんだと評してはいるが、地球皇帝は流石にないだろう、トレーナー君。

 そうして彼の気が変わらないようにと直ぐに契約をし、次の日、まだ本格的なトレーニングは始まらないものの、彼に会いたくて私から出向いた。

 彼は明日トレーナー室が貸与されると言っていたのでついに本格的にトレーニングが始まるのだと思い歓喜した。

 その場では他愛ない雑談を少し交え、トレーナ室の場所を聞いて解散した。

 最後に怪我の予防のために今は体幹トレーニングだけに留めて置くようにと言われたが今にも走り出したくなったものだ。

 流石に彼の言葉に従ったが。

 そして今日、節々に感じていた違和感、いや、もしかしたら魂のどこかで理解していたのかもしれないことが表面化した。

 彼は私ですら未だ分からない距離適性を当然のように確定事項で話し始めたのだ。

 彼は私の知らない何かを知っている。

 そしてそれを私のウマソウルは知っている。

 彼と出会った日からあった違和感。

 それを彼は教えてくれるのだろうか。

 

   

       ★

 

 

 「それで、どうして私が中長距離に適性があると確信を持って言えるのかな? もしかしたら私はマイラーかもしれない。君と出会った当初から抱えていた違和感に応えて貰えないだろうか」

 

 頭の中で学園長が扇子を二枚広げて『迂闊!』と言って去っていく。

 流石にこれは面倒だとか言ってたら信頼を損ねそうだ。

 

 「そうだな簡単に言うと私は君と一緒に世界を獲った。細かく言うと長くなるから一旦お茶を淹れようか。口が渇く」

 

 仕方ない頭がおかしいやつ扱いされる覚悟は仕方ないができた。

 彼女は私の話を聞いて納得できるのだろうか、それが問題だな。

 




シンボリルドルフ (欧字名:Symboli Rudolf)
1981年3月13日 誕生
ホープフルステークス
2017年にGⅠ
クリテリウムドサンクルー
1987年 - G1に昇格。

ゲーム準拠のG1となっているので突っ込まれても聞かんぞ!
ウマ娘とウィニングポストに文句を言ってくれ!

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