凱旋門、BC、ドバイ、サウジ、香港、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス
まだまだあるが、海外遠征をする際の大きなG1でよく耳にするのはこの辺りではないだろうか。
勿論だが私は、何度もG1を取ったことがある。
この内のいくつかも、ゲームのシンボリルドルフではあるが獲ったことがある。
当時ゲームをしていた私はシンボリルドルフの凄さにそこまで気づいてはいなかった。
前年のミスターシービーに続いてただただ滅茶苦茶強い馬だと思っていた。
が、実際に馬主になって競馬を深く知ったことで彼の馬の凄さに改めて気づいたものだ。
ジョッキーも変な小説を執筆するというものである。
ウィニングポストではそれはもう脅威の強さだった。
だからまあお守り――他所から馬を強奪する権利――を使ったり、牝馬を先に購入したりして、シンボリルドルフを必ず愛馬にしていた。
初心者の頃は強すぎて自分の馬がミスターシービーから続いて二年連続全く太刀打ちできなく、どんな魔境だと思ったものだ。
一番最初にすごい馬なんだなと思ったのはハイセイコーとタケホープだがそれでも強い衝撃を受けたのを覚えている。
というか頭抱えた。
どうしたってこの年代では勝ち目がないのではと思わされた。
ミスターシービーとシンボリルドルフ、絶対に敵対したくない内国産馬である。
★
お茶を一口。
少しぬるくなったお茶。
ちょっといいところの茶葉使っているのでぬるくなっても美味しい。
「うん、うまい」
最近は紅茶も拘っているのだが、やはり日本茶が一番ほっとする。
「君も一口どうだい?」
そう言われ、彼女、ルドルフも一口お茶を飲むと深く考え込み、ため息をついた。
彼女には全てを告げた。
ウィニングポストのこと、そして前の世界であらゆるG1を取るオーナー兼牧場長であること、そして馬とウマ娘のことを全て話した。
そのせいで外はすっかり夜が更けている。
「衝撃的、と言うには荒唐無稽が過ぎる……参ったね……」
そうは言うもののどこか納得したような顔。
信じ難いが自分の中のウマソウルが納得しているから認めざるをへないと言ったところか。
「つまり君は複数の前世がありそこで私と世界を獲ったということか?」
「まあゲームでだけね。私は、常に君がいる年代では君と共に凱旋門を連覇したよ。本来の君と凱旋門に行きたくはあったが、流石に君が引退したあとの世界へと飛ばされては共に駆けるもなにもなかったよ」
「信じがたいが…………たぶん本当なんだろうな…………私もどこか腑に落ちる感覚がある。君と何度も凱旋門を制覇したような感覚が間違いなくある…………しかしウマ娘ではなく四足歩行の馬という存在か……そして私達がその生まれ変わり……そう言われると動物的本能が強い気性難のウマ娘にも説明がつくが……」
「まあ自分が動物の生まれ変わりなんて信じるのは難しいか。だがまあ日本の輪廻転生の観念で言えば私の前世……ああ、本来の世界の話だが、私の前世は虫かもしれんし、犬やウサギ、はたまた魚かもしれん。そう考えれば世に愛されていた動物の生まれ変わりなんて良い方ではないかな?」
そう言うと、彼女は少し考え込み「ふふ、君が魚か」と笑う。
「確かに、そう考えると幾分気持ちが楽だな。それに君は内心どうかは知らないが外面が無愛想だからね。魚と言われれば納得だな、ふふ」
私の顔を見て、いたずらっ子のように笑う彼女に、私は少しむっとなる。
なるほど、君はそういう奴なんだな。
「…………君も大概無愛想な方だろ。あー実は君の前世はカマキリだ。私の思い違いだったな」
「…………君はなんというか負けず嫌いというか、プライドがあるのか無いのかわからないな」
なにを言うかと思えばそんなものあるし、無いよ。
「負けず嫌いでプライドがなければわざわざG1を中心のスケジュールを作ったりしないし、設備や人員をかき集めようなんて思わんさ。自分の都合を通すためにはプライドを捨てることも辞さないだけでね。そうでもないと、前の世界で全てのG1を制覇する気にならないだろうさ」
「確かに、この数日でそれは感じる。その境地に至ったのは年の功というものかい?」
「これはどちらかというと性分というものだ。学生時代からこんな感じさ」
特に勉学や運動は同学年には負けたくないと思っていた。
弟に誇れる兄でいたいという思いもあったのであろう。
「なんとも頑固な学生だな」
「君もだろう。前に言っていた全てのウマ娘の幸せを作ると言う目標の前では頑固になるんだろう?」
「それはそうさ。私の目標はきっとずっと変わらない」
「なら似たもの同士じゃないか」
「確かに、では私の前世も魚かも知れないな」
「まだ言うか」
まったく、舐められているのかそれとも信頼の裏返しなのか、まだ会って三日と経っていないからな、恐らく舐められているのであろうが、まあいいだろう、これから信用と信頼を積み重ねればそういう事も無くなるだろう。
そんな事を思いながら彼女を見る――
「ではトレーナー君。君が世界を獲った実力を認め、再度お願いする」
――彼女、ルドルフは改まって私に向き直った。
彼女の瞳に強い意志を感じる。
それこそ、三冠を目前としたジョッキーのような、覚悟を決めた瞳。
「魔術師マーリンのように、私を頂へ、そしてこの時代の覇者、皇帝へと導いて欲しい。君の…………君のその知恵と経験を借り受けたい」
私はその言葉に、頷く。
稀代の名馬シンボリルドルフ。
前の世界では縁がなかったとは言え、彼の生まれ変わりである彼女を導き、世界に刻むのは一競馬ファンとして使命を超えて義務である。
で、あるならば私の言葉は決まっている。
「ああ、未だ皇帝とは言えない一市民である君を、キングメイカーであるマーリンとして、玉座へと導こう。なに、慣れている」
そうして私と彼女、シンボリルドルフはお互い数秒見つめ合う形になり、同時に笑う。
「ふ、頼もしい限りだ。有頂天外。あまりに私に都合が良すぎて自惚れてしまわぬよう、兜の緒を締めなくてはな」
「なに、自惚れて調子が落ちても私が無理矢理兜の緒を締めつけて鞭でケツをひっぱたいてやる。安心して自惚れたまえ」
「ふふ、怖いな。優しくしてくれると助かる」
「保証はできないね」
そうして私はお茶を飲み干すと、立ち上がり、トレーナー室の扉を開くと、彼女に退室を促す。
「さあ、私の事情を話し込んだせいで今日はもう遅い。明日から本格的なトレーニングを始めるが、今日はもう帰りなさい。そして体を休めて万全で来なさい。決して自主練をしないように」
「ああ、怖い魔術師殿に鞭で叩かれたくないからね。今日はしっかり休ませて貰うよ」
「ああ、そうしてくれ」
そうして彼女は扉を出て、私が見送ろうと外に出ようとした時、彼女は思い出したように振り返った。
「ああ、最後に聞いてもいいかな」
「なんだ? もう私には特に隠していることも言うべきことも思い当たらんぞ」
「なに、気になっただけだ」
そう言うと彼女は私の目を見る。
嘘は見抜くぞと言った風だ。
なんだというのか? 本当にもう何もないのだが。
「君は馬とウマ娘、どっちが好きだい?」
「馬だが」
即答した。
彼女は不満そうな顔をして更に問う。
「では、私と前の世界のシンボリルドルフでは――」
「前の世界のシンボリルドルフ」
また即答した。
流石に思い入れが違うというか、前の世界のシンボリルドルフの息子の更に息子のナンカイテイオーにセイカイテイオーにホッカイテイオーは私の持ち馬だったからな、トウカイテイオーとルドルフには感謝していたし、よく尊顔を拝みに行ったものだ。
「――なるほどなるほど。君はそういう奴なんだな」
「いや、私としてはつい最近まで馬と共にあったんだ。しかも四十年近く。流石に馬のが好きさ。あと君とはそんなに時間はたっていないが前のシンボリルドルフにはそれはもうお世話になったからな」
そう言うと、彼女は一度空を見上げ、腕を組み、考え込むと、また私の目を見る。
そして人差し指を私にビシッと突きつけた。
「なら、うん。なら、君がウマ娘と馬、どちらも同じくらい好きだと言ってしまうほどの走りを私が見せよう! そして前の世界のシンボリルドルフより、私のが好きだと言わせてみせるさ、私の走りでね」
「ああ、まあ、頑張ればいいんじゃないか? ちょっとやそっとじゃ私は心変わりしないぞ? もう爺だからね」
「ああ、それこそ打ち倒しがいがある! 私は全てのウマ娘の幸せにもう一つ、夢ができた――――」
何を言いたいかは話の流れで大体わかるが、言葉は選んで欲しい。
まあ流石に彼女も馬鹿ではない、そんなド直球には言わないだろう。
どこに目と耳があるか………
「君に私のが好きだと言わせてみせる! 私のが最高の愛馬だとな!」
「もう少し声を抑えれないかな?」
私が学生に言い寄られているように見えるのは非常にに外聞が悪いというか、流石にこの歳で学生相手に恋愛感情なんぞ抱かないのでその手の噂話が出回るのはやめていただきたい。
だれも聞いていないといいが…………。
「では、明日からまたよろしく頼む。私の魔術師!」
「君たぶん帰って冷静になったら悶絶するくらい恥ずかしいこと言ってるからね? もう少し我が身を顧みなさいね?」
彼女、シンボリルドルフは私の話を半ばに去っていった。
おー速い速い、流石はシンボリルドルフ。
私はトレーナー室に戻り、デスクの椅子に座り、新聞を広げて暫くして。
「洗い物面倒だな……」
使った湯飲みを洗いに再度立ち上がった。
★
翌日。
「さあ私の魔術師、今日は何をしようか?」
「君、無敵か?」
羞恥の欠片も無さそうだったのでメンタルはウィニングポスト換算でSとしておくことにした。
初心者の頃のシービーからルドルフはもうどうせえちゅうねん