すなわち衰える時である。
- 渋沢栄一 -
(日本の武士、官僚、実業家、日本資本主義の父 / 1840~1931)
倒れた。
それは今日の朝のことだった。
突如体がふらつき、いうことを聞かなくなったのだ。体が動かず、そのまま僕は倒れてしまった。
意識が失った僕を介抱してくれたのは、更識先輩。本当に助かった。
怒られた。無理をし過ぎだと。
でも、それと同時に僕のことを凄い心配して、優しく介抱してくれた。
かなり嬉しかった。それと同時に凄く申し訳なくなったが。
「うぅっ……………………」
ちょっと、辛い。
流石に学校は休まされることになった。
更識先輩は学校を休むわけにもいかず、心配をしてくれつつも登校した。
「頭、痛い…………」
熱が酷い。
今までの疲れが全部襲いかかってきているみたいだ。
「…………寝よう」
このだるさに逆らって勉強することはできなさそうだ。第一、そんなことをしたら先輩に怒られてしまう。
だから、僕は久しぶりに長時間の睡眠を貪ることにした。
Φ
Φ
Φ
かなりの時間、僕は眠っていたらしい。
背中や首が少し痛むが、熱は大分落ち着いて体調も楽になった。
「ふうー…………これなら勉強できるかな?」
いや、でも怒られそうだなぁ…………。
ああ、風邪のせいでまた大分遅れをとった。早く取り戻さないとなぁ。
するとそこで、ノックが鳴る。
誰だろう。
「はい、どうぞ」
「お邪魔しまーす。よっ!廉太郎!」
「あ、一夏」
来訪者は一夏だった。
手にビニール袋を掲げて部屋に入ってきた。
「お見舞いに来たぜ」
「あ、ありがとう」
「大丈夫そうか?」
「うん、明日までには回復しそうだよ」
「そっか。よかったぜ。あんま無理すんなよ?」
「…………うん。大丈夫」
それは、あまり約束できないけど。
でも、これからはもう少し体調管理にも気をつけよう。
「本当にありがとう、一夏。お見舞いなんて初めてだから嬉しいよ」
「そうなのか?お見舞いくらいならいくらでもしてやるよ!」
「あはは、それはやめといた方がいいよ。一夏に風邪移るかもしれないし、何より嫉妬する人がでてくるよ?」
「嫉妬?ないない、そんなの」
あれ、本人に自覚はないんだ。
モテモテなのに。
特に、篠ノ之さんとオルコットさんあたりはベタ惚れだと思う。
篠ノ之さんの僕に対してのあの邪険な態度は、嫉妬からきてるのかな……?嫉妬って、男の僕にか…………。
オルコットさんは、それだけじゃないような気もするけど。
「そんじゃ、なんかあったら呼んでくれよな」
「うん。ありがと」
「んじゃ、明日来れたら明日な!」
「またね」
そう言って、手を振って部屋を出ていく一夏。
そりゃモテるよね。こんだけ気遣いができて、優しくて、強くて優秀で、格好良くて。モテないほうがおかしいよ。
……………………あはは、まるでこれじゃあ僕が一夏を嫉妬しているみたいじゃないか。
はは、ははは…………やっぱり、最低だなぁ僕。
Φ
翌日になって、僕は普通に登校した。
先輩にまだ休んでた方がいいんじゃないの?とは言われたが、そう休んでもいられない。熱がないのなら登校しないと。
教室に入ると、何人かがこちらを見る。でも、興味なさげに再び視線を各々戻していく。
多分、誰も心配はしてないと思う。ひょっとしたら、風邪移すなよ、来んじゃねーよとか思っているのかもしれない。まあ、勝手な思い込みだけど。
誰にも話しかけられることがないまま、僕は自分の席についた。
一夏はまだ登校してこない。彼は、登校するのは遅い方であるから。
「ちょっと」
「え?」
するといきなり、見知らぬ女子に話しかけられる。この人は、誰だろう?同学年の娘だけど……少なくとも一組の人ではない。
「来て」
「あ、あの……」
「いいから来てっ」
「は、はいっ」
僕はその女子の言いなりのまま、校舎の人気が無いところへと連れてかれる。
するとそこには、他にも数人の女子がいた。僕のことを待ち構えていたかのように。
────嫌な予感しかしない。
「ねえ、アンタさぁ。調子乗りすぎ」
「えっ」
「えっ、じゃないわよ。何なのよ、ホント。何の力も無いくせに専用機なんて貰っちゃってさ。しかもそれ、元々学園のISでしょ?アンタにそれが渡って数が減ったから私達の貸出待ち時間が伸びたじゃない!」
言い返せない。でも、僕が望んでこうしたわけじゃ────
「大体、国家代表の楯無様から教わってんのに、何なのその実力?アンタここに何しにきてんのよ」
「織斑くんの足も引っ張ってるしさぁ」
「正直、邪魔なのよ」
「アンタの利点なんて、織斑くんの良いところを強調してくれることだけなのよね。そのほかは本当に邪魔になるだけ」
やめて、やめてくれ。
「つーか何調子こいて織斑くんと話してんだよ。分をわきまえろよ」
やめてくれよ。
「ホント、この学園から消えてくれない?使えないんだからさ」
Φ
「何故遅刻した、藤井」
「…………ごめんなさい。トイレに行ってました」
その後、僕は解放されたがしばらく立ち尽くしていた。その結果、授業に遅れてしまったのだ。
「……もういい。座れ」
「…………はい」
てっきり拳骨でも飛んでくるのかと思ったが…………こなかった。何かを察してくれたのかもしれない。
ちなみに、僕が連れていかれる一部始終を見ていた女子からの助け舟は一切ない。
まあ、そうだろう。助ける理由もないし。義理もないし。
心配そうにこちらを見つめる一夏の姿が視界に入った。
一夏。
皆一夏、一夏、一夏って。
一夏ばっかり。
僕のことは誰も見てくれない。
まるでゴミのように扱う。
僕は、僕はゴミなのか。
この場にいてはいけないのか。
そうなのだとしたら、
────消えてしまいたい。
女の子の虐めとかって怖いですよね。
まあ、僕の勝手なイメージですけど。