IS《無力な僕は空を逝く》   作:砂肝串

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踏まれても叩かれても、

努力さえしつづけていれば、

必ずいつかは実を結ぶ。


- 升田幸三 -

(日本の将棋棋士、実力制第四代名人 / 1918~1991)


CODE:10

 

 クラス対抗戦当日。

 僕は、一組の皆と共に観客席にいた。

 隣には誰も座ろうとはしないみたいだ。まあ、そうだろう。僕、嫌厭されちゃってるみたいだし。何もしてないはずなんだけどな。

 

 どうも、あの呼び出しの一件以来、僕は楽になったらしい。

 はっきりと嫌悪感を提示されたから、吹っ切れたのかもしれない。

 僕は嫌われている。僕は厭わられている。僕は邪魔者。僕は、僕は…………。

 

「……何なんだろうなぁ」

 

 僕自身、何で僕が存在しているのかが分からなくなってきた。最近ふとした瞬間に、消えてしまってもいいのではないか?と思うような時さえある。

 いっそ、消えてしまった方が楽なのかもしれない。この苦痛から逃れられるのかもしれない。

 僕なんかがいなくたって世界は回るし、彼女たちにとっての邪魔者もいなくなるのだから、きっと僕がいない世界は素晴らしいんだろう。

 …………死んじゃおうかな。どうせ、誰も悲しまない。誰も、気にしない。

 

 

 ─────私が藤井くんのお姉ちゃんになってあげる♪

 

 

 …………ッ!あの人は、あの人は僕がいなくなることを嫌がるのだろうか?悲しむだろうか?また、あの悲しそうな、今にも泣きそうな顔にさせてしまうのだろうか?

 それは、それはなんだか、

 

「嫌だなぁ…………」

「何が嫌なの〜?」

「へっ?」

 

 僕の独り言に、誰かが反応する。

 振り向くと、そこには一人の少女がいた。

 

「はろはろ〜」

「えっと、布仏さんだっけ?」

「そうそう。ふじりん何が嫌なの〜?」

「え?う、うーん……いや、何でもないよ」

「そう?」

「う、うん」

 

 すると彼女は、あろうことか僕の隣に座るではないか。

 

「の、布仏さん?」

「なに〜?」

「僕なんかの隣でいいのかな?」

「うんうん。ふじりんと一回話してみたかったんだ〜」

「そ、そうなんだ…………」

 

 ナハハーと笑う彼女に、僕はなんと返していいのか分からなくなる。彼女は独特なのほほーんとした雰囲気の持ち主で、いつも眠たそうな顔をしている。見ているこっちにまで眠気が襲ってくるくらいだ。

 

「ていうか、ふじりん私の名前覚えてたんだね〜?」

「え、えっと……一応一組の生徒の名前は全員覚えてあるよ。一番最初の自己紹介の時に覚えたから」

「あの一回で!?凄い記憶力だね〜」

「いや、まあ、うん」

 

 人とのコミュニケーションって大事かなぁーって思うし。まあ、そのコミュニケーションは全然取れてないわけだけど。

 

「あはは〜、やっぱり普通に話せるよ〜」

「え?」

 

 笑いながら言った彼女の言葉に、僕は首を傾げる。

 

「いや〜、皆ふじりんと話す前から勝手にどんな人かを決めつけて近寄ろうとしないからさぁ〜」

「ヴッ」

 

 なんか、グサッときた。

 

「でも、話してみたら全然いい人だし、話せるし〜」

「…………いやまあ、でも皆が嫌厭するのは普通だよ。僕は一夏と違って、何も持ってないただの邪魔者なんだし」

「邪魔者?何の〜?」

「え?いや、その…………」

「誰がそんなこと言ったのかわからないけど、少なくとも私は邪魔者だなんて思わないなぁ〜」

「────ッ!!」

「そもそもおりむーと比べる必要なんかないよ〜。ふじりんはふじりんなんだし〜」

 

 彼女の言葉が、僕の胸を打つ。

 

「…………はは、参ったな。吹っ切れたはずなのに、おかしいな……」

「ふじりん……?」

「ごめん、なんか、涙、止まらな────」

 

 皆の前なのに、自制が効かない。

 涙が止まらない。更識先輩が僕のことを認めてくれた、あの時のように。

 布仏さんが僕を僕として認めてくれた。その事実が何故か、僕の目の奥から涙を出させるんだ。どうしてかな。なんでかな。

 

「よしよーし」

「のほとけ、さん?」

「辛い時はこうすると楽なんだよ〜。私も辛かった時はお姉ちゃんにこうされて凄く楽になったの〜」

 

 頭を優しく、優しく撫でてくれる。

 その手の暖かさが、僕の涙腺をもっと緩める。

 

 恥も外聞も知らない。

 僕はただ、静かに泣き続けた。

 

 

     Φ

 

 

 また、泣いてしまった。

 しかも一組の皆の前で、だ。

 多分、皆ドン引きしただろうなぁ。

 もっと、嫌われたかもしれない。

 

「ほ、本音が藤井くんを泣かしてる…………!!」

「えっ?」

 

 な、何だか違う感じでこの状況が広まってる……!?

 

「ち、違っ、こ、これは僕が勝手に泣いてるだけで!?あの、その!?」

「あはは、なーんてね。分かってるよ。本音はそんなことしないし」

「…………え?」

 

 僕と布仏さんの元に、数人の生徒が集まった。

 谷本癒子さん、相川清香さん、鷹月静寐さん、鏡ナギさん、四十院神楽さん、岸原理子さん、夜竹さゆかさんの七人だ。

 

「ねね、藤井くん。友達になってもいいかな?」

「え、えぇっ!?」

 

 い、いきなりなんで!?

 

「ここにいる皆は前々から藤井くんに話しかけようとはしてたんだけど…………なんていうか、空気がそれを許してくれなくてさ。そんで本音がその空気を今ぶち壊してくれたから思い切って言ってみたわけ!」

 

 含みのなさそうな、明るい笑みでそう言ってくれるのは谷本さん。いつも元気ハツラツで、一組の隠れたムードメーカーだったりする。

 

「今更なんですが……ダメ、でしょうか?」

 

 丁寧な物腰なのは夜竹さん。大和撫子といった風貌で、そよ風のように優しい口調が特徴的。

 

「そ、そんなことないっ!むしろ、皆こそ僕なんかが友達になってもいいの、かな……?」

 

 僕が恐る恐る尋ねると、それに明るい声で岸原さんが明るい声音で応えてくれる。

 

「もちろんおっけー!あ、あ、私のことはリコリンって呼んでねッ♪」

「は、はぁ…………」

「激しく傷ついたッ☆」

 

 て、テンションが高いんだよね、岸原さんって。

 

「り、理子ってこんなのだけどあまり気にしないでね藤井くん」

「う、うん」

 

 この人は鷹月さん。多分、クラスの中では一番の常識人で真面目な人。普通の学校ならまず間違いなくこの人がクラス代表に推薦されるはず。

 

「まあ、まだクラス内にも藤井くんのことをよく思ってない人もいるみたいだけど……でもそれって絶対に誤解だと思うんだ。だからこれから私たちがその誤解を解いていこうと思うの!」

 

 陸上部所属の鏡さんが、そんなことを言ってくれた。

 

「僕のために、どうしてそこまで……?」

「だって、藤井くんは何も悪いことしてないのに偏見だけで虐げられるのっておかしいじゃん?」

 

 ハンドボール部にも所属していて運動神経抜群な相川さんが、少しだけ怒った様子でそう告げる。僕のために、怒ってくれてる…………?

 

「大体、おかしいですよ。藤井くんの立場は相当大変で苦痛で……辛いはずなのに、そんな藤井くんが虐げられるのは。しかも、本人は必死に努力しているのにですよ?」

「い、いや!僕の努力なんて、そんなの、全然…………」

 

 夜竹さんも相川さん同様に、怒った様子で言ってくれる。なんだかそれが、とてつもなく嬉しい。

 

「あ、私藤井くんのそういう謙虚なところ好きかも!あ、もちろん友達としてだけど」

「うっ……ちょっと傷ついたかも…………」

 

 あはははと、僕の言葉で笑いが起こる。

 こんなこと、ここに来てからは初めてだ。

 

「というわけで、まあその、嫌じゃなかったらよろしくおねがいしますッ!」

 

 皆がペコリとお辞儀してくる。

 嗚呼、いい人だって、こんなにいるんじゃないか。

 

「嫌なわけないじゃないですか。その、僕なんかでよかったら、これからもよろしくおねがいします……?」

「「「やったぁ!」」」

 

 

 僕は今日だけで、今までの頑張りが全て報われたような、そんな気がした。

 

 

 

 

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