IS《無力な僕は空を逝く》   作:砂肝串

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重要なのは行為そのものであって、

結果ではない。

行為が実を結ぶかどうかは、

自分の力でどうなるものではなく、

生きているうちにわかるとも限らない。

だが、正しいと信ずることを行いなさい。

結果がどう出るにせよ、

何もしなければ何の結果もないのだ。

 

- ガンジー -
(インドの弁護士、宗教家、政治指導者 / 1869~1948)


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 ビーッと鳴り響くブザー。

 アリーナの内部で、一夏と、二組の代表であるかの凰鈴音さんが激闘を繰り広げ始めた。

 凰さんが素早く初撃の青竜刀を放つも、ギリギリではあるが、一夏はそれを刀で受けて防いでみせた。

 

 凄い。

 僕は二人の戦いを見て、素直にそう思った。

 僕では決して至れない領域の、別次元戦いにただただ圧巻したのである。

 

「あれが中国の第三世代機《甲龍》か〜」

「近接型なのかな?」

「見たところ近接のパワー型だとおもうけど」

 

 僕の隣では、布仏さんたちが凰さんのISを見て議論をしていた。

 途中途中専門用語が混じり、僕には理解できないところもある。

 

「えっ!?」

 

 会場の皆が、驚きの声をあげる。

 僕は慌ててアリーナに目を戻した。

 

「何だあれ……?」

 

 一夏が見えない何かの衝撃を浴びているかのように、凰さんが何もしていないのに勝手に吹っ飛ぶ。

 

「なるほど〜あれがあのISの能力なんだ〜」

「というと?」

「私も噂できいた程度なんだけど、周囲の空気を圧縮して、それを弾丸にして放つ《衝撃砲》っていう武装があるらしいんだよ〜今のは多分それかなぁ〜」

 

 僕にも分かり易いように、噛み砕いて説明してくれる布仏さんに僕は心の中で感謝する。

 それにしても、空気圧縮……?

 そんなの、目に見えないからよけようがないじゃないか!

 一夏、大丈夫かい…………?

 

『ぜやああああああああアァッ!!』

 

 一夏の雄叫びが、観客席にまで響いてくる。

 凄い、覇気だ。

 思わず僕は、身をすくめてしまう。

 

「……ッ!凄い、織斑くん!衝撃砲をかわしてる!?」

「え、えぇッ!?」

 

 谷本さんの驚きの声を上回る声を僕は出してしまった。

 見えない砲撃を!?どうやって!?

 

「見た感じ、衝撃砲には砲身がないから……多分360度全包囲に撃てるんだと思う。でも、織斑くんはそんな全包囲に放てる見えない砲撃をどうやって…………!?」

「音、とか?」

「うーん、流石にそれは…………音だけじゃどこに向かって撃たれてるのかとかまでは分からないんじゃないか」

 

 じゃあ一体、一夏は何を基準として…………?

 

 

     Φ

     Φ

     Φ

 

 

 やばい。

 かなり、やばい。

 はっきりいって、戦況は明らかに俺の不利だ。

 つーかなんだ、見えない砲撃って!ずるいだろ!!

 

 …………まあ、でも、コツは掴めてきた。

 

 "空気の流れ"を読みさえすれば、どこにくるのかが分かる。それに、どの角度から撃てるっていったって、弾丸が飛び出す場所は限られてるしな。

 感覚さえ分かれば、あとは"慣れ"だ。

 慣れつつある。後は、近接戦で鈴に勝てるかどうかだ。

 

 …………正直、勝てるとは思わん。

 

 だって、相手は代表候補生だぜ?

 それに比べて俺はド素人。セシリアの時こそ奇跡的にいい結果が出せたけど……いやまあ、それにしたって負けたけどよ。とにかく、奇跡なんてそう滅多に起こるものじゃない。

 でも、勝つ。

 俺は皆を、廉太郎を、箒を、セシリアを、鈴を、一組の皆を、学園の皆を守るために、俺の手が届く範囲の人たち皆を守るためにも負けるわけにはいかないんだッ…………!!

 

 

「…………本気で行くッ」

 

 

 俺は、鈴に向かって飛び出した。

 

 

     Φ

     Φ

     Φ

 

 

「「「………………ッ!!」」」

 

 会場の皆が、声にならない声を出した。

 僕も同じだ。

 

「瞬時加速…………!?」

 

 一夏が、瞬時加速をしたのだ。

 これは僕でも知っている。

 瞬時加速とは、後部スラスター翼からエネルギーを放出、それを内部に一度取り込み、圧縮して再び放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用し、爆発的に加速する一つの技法だ。

 そしてこれは、とてもじゃないが素人にはできない技法。

 

「い、一夏、いつの間に…………!」

 

 また一歩、いや、二歩も三歩も先を行かれた気分だ。

 

(一夏も努力、してるんだな……こんな技法、普通じゃ得られないよ…………)

 

 もちろん、ここにも才能の差は介入してくるだろう。

 だが、才能だけで得られるものではない。一夏自身が絶え間なく努力したからこそ得られた技法だ。

 

(やっぱり、一夏は凄い。自分の才能に胡座をかくことなく努力するんだから。…………僕だって、いつかは……!!)

 

 僕も、僕もいつかは君の隣に立てるようになってみせる。

 そう、固く決心した、その時だった。

 一夏の刃が凰さんに直撃する寸前の、その時だった。

 

 

 ────事件は起きた。

 

 

     Φ

 

 

 けたたましい破砕音と共に、"ソレ"は降って来た。

 "ソレ"はアリーナの中央部に落ち、立ち上った煙を霧散しながら悠然と立ち上がる。

 

「なん、だ……あれ…………?」

 

 降って来たのは、黒いIS。

 全身が装甲に包まれた全身装甲型の。

 

「え?何が起こってるの……?あれ、何?」

 

 隣に座っている布仏さんたちも、パニックに陥っている。

 つまりこれは、イレギュラー。

 招かれざる客とでも言うべきか。

 僕は咄嗟に判断する。

 

 ────アレは、害悪の塊であると。

 

 僕は震える声音で、皆に言う。

 

「みんな…………逃げようッ!!」

 

 僕がそう言葉を放ったのと同時に、その黒いISは暴れ始めた。

 無差別に光学兵器をばら撒き始める。

 それをきっかけに、観客席にいた生徒全員が慌てて逃げ始めた。

 

「キャアアアアアアッ!?」

「な、なに!?何なの!?」

「避難よ!逃げてッ!!」

 

 まさに混乱状態。

 このままでは収拾などつかないだろう。

 

「布仏さんたち、早く逃げようッ」

「でも、こんな混み合った状況じゃ…………!!」

 

 相川さんの悲痛な叫びが僕の焦りを増加させる。

 今は辛うじて、アリーナと観客席を隔てるシールドバリアがあるから光学兵器がこちらまで届いていないが、元よりあの黒いISは上空に張り巡らされているバリアを突き破って侵入してきた。つまり、この壁も奴には簡単に壊せられるということだ。

 

(どうする?どうする、どうするどうするどうする、どうする!?僕に何ができる!?僕なんかに、僕なんかに一体何がッ…………!?)

 

 僕はチラリと布仏さんたちの方を見る。

 さっきまでは元気だった彼女たちも、怯えて震えている。今の現状が、たまらなく怖いのだ。僕も怖い。凄く怖い。震えが、止まらない。逃げ出したい。

 でも、布仏さんたちが怯えている。僕を、僕を友達として認めてくれた、彼女たちが、だ。

 

(……ッ!落ち着け!冷静に考えるんだ、僕!!普段役に立たないのに、こういう事態でもまた足を引っ張るのかッ!?とにかく、布仏さんたちだけでも逃がすんだッ!!)

 

 僕は自分の両頬を強く叩き、気合を入れる。

 

「皆!落ち着こう!とにかく慌てて避難しようとしても、混み合って逆に遅くなっちゃう!だから、落ち着いて、順番に行くんだ!!」

「ふ、藤井くん…………?」

「ほら、皆も行こう!」

 

 彼女たちを、死なせたりはしない。

 彼女たちは死んじゃいけないんだ。だって、こんなにも優しいのに、こんな馬鹿みたいな状況で死ぬだなんておかしいじゃないか?

 だから、絶対に死なせたりはしない。

 幸い、一夏たちがアリーナで黒いISを足止めしてくれている。皆が落ち着きを取り戻せたら、なんとかなりそうだ。

 でも、どうやって?どうやってこの混乱を収める?

 …………ああ、もう!考えてたって答えなんか浮かばないよ!!もう、なるがままに、ヤケクソでやるしかない!!

 

 

「皆ッ!!」

 

 

 僕は待機状態で所持していた打鉄を展開し、軽く浮かび上がる。そして声量を広域に渡って響くように調節し、ここら辺にいる人には聞こえるようにした。

 これで少なくとも、一組の人には声が届く。

 

「落ち着いて!混乱したまま避難しようとしても、かえって避難が遅くなって被害が増えるだけだ!だから、落ち着いてッ!!」

 

 叫ぶ。皆が落ち着いてくれることを祈りながら、心から叫ぶ。

 

「僕にも分かるんだ!頭の良い皆ならそれくらい分かるでしょうッ!?」

 

 ちょっと皮肉混じりに、でも事実を大きい声で叫んだ。

 それが少し効いたのか、徐々にだか皆が落ち着きを取り戻した。

 ……でもこれ、もっと嫌われたかな?明らかに嫌な人の台詞だったし。

 でも、後悔は後だ。まずは、皆を避難させないと!!

 

「藤井くん!ありがとうッ!!」

「えっ」

 

 見ると、谷本さんが僕を見上げてお礼を告げていた。

 何で、お礼なんか…………?

 

「藤井くんのおかげで皆落ち着きを取り戻した!スムーズに避難が進むよ!」

「ぼ、僕は何もしてない。皆の対応がいいだけさ。それよりも、谷本さんたちも早く!」

「藤井くんは!?」

「……僕は、最後に行く。だから、早く!!」

「で、でもっ────」

「大丈夫。僕にはISがあるから。だから、行って?」

「……うん。でも、無理しないでねっ」

 

 皆が、僕を心配したような目で見ながら、避難口へと駆けていった。本当に、いい友達ができた。

 

 

「────ッ!?皆、逃げてぇぇぇぇッ!?」

 

 

 誰かの叫び声。

 僕はハッとしてアリーナの方を振り返る。

 すると、ちょうど避難口へと向かって一筋の分厚い光線が伸びていた。黒いISの光学兵器だ。おそらくあの火力からして、軽々とアリーナのバリアを突き破って避難口へと到達するであろう。

 そうなったら、谷本さんたちが、大切な友達たちが死んでしまう!!

 

 

「させるかぁぁぁぁぁァッ!!!!」

 

 

 一夏のように、瞬時加速はできない。

 でも、僕は打鉄に出せるであろう最高のスピードで光線に向かって飛んだ。

 寸でのところで僕は光線と避難口に集中している皆の間に割り込む。

 

 

「大切な皆を、死なせたりはしなッ────」

 

 

 光線は、僕を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

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