IS《無力な僕は空を逝く》   作:砂肝串

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たとえ小さな斧でも、

数百度これを打てば

堅い樫の木も切り倒せる。

 

- シェイクスピア -

(英国の劇作家、詩人 / 1564~1616)


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 翌日。

 無事回復した僕は一組の教室にいつも通りに登校した。

 教室に入ると、何人かが僕に挨拶をしてくれる。僕はそれに、ぎこちなく返していく。

 今までこんなことがなかったから、何だか不思議な気持ちだ。

 

「よーす、廉太郎」

「おはよう一夏」

 

 いつもどおりの時刻に一夏が登校してくる。

 彼と一緒にいるのは篠ノ之さんと、オルコットさんだ。

 う…………やっぱり、この二人はまだ怖い。

 まだ僕のことを敵対視してそうで…………。

 

「…………おはよう」

「その……おはようございます、廉太郎さん」

「っ!?え、えと、おはよう……?」

 

 ふ、二人から話しかけられた!?

 それに今、オルコットさんが、僕の名前を……!?

 

「廉太郎さん、今までの非礼をどうかお許しくださいまし……」

「え、えぇっ!?」

 

 突如頭を下げたオルコットさんに、僕は盛大に慌てる。いきなり謝られても、何がなんだか!?

 

「か、顔を上げてよオルコットさん!?非礼なんて、そんなっ」

「いいえ、謝らせてください。わたくしは貴方に、それだけの仕打ちをしたのですから」

 

 ま、まいったな。

 どうしたらいいんだろうか。

 

「えっと、とりあえず話を聞かせて欲しいからさ。だから、ね?」 

「……分かりましたわ」

 

 不承不承と顔を上げるオルコットさん。その表情は本当に何かを反省しているようなものだった。

 そんなオルコットさんが、僕の目を見て語り始める。

 

「わたくしは、殿方が嫌いでしたの」

「へ?」

 

 突然のカミングアウト。それも、結構すごいの。

 あれ?それで僕に辛く当たるのは分かるけど、でもじゃあなんで一夏には惚れちゃってるんだろう?

 

「でもそれは全ての殿方じゃありませんわ。わたくしが嫌いとするのは、意志も決意も力も弱い殿方。女性の下に隠れて媚びへつらっている殿方ですわ」

「…………」

 

 弱い、か。

 たしかに、僕はオルコットさんが嫌うような男かもしれない。現に弱いし。

 

「でも、全ての殿方が弱い方ではないということを、恥ずかしながら一夏さんに教えてもらいましたの」

「へ?俺?」

 

 突然の名指しに戸惑う一夏。

 まさか自分が話に上がるとは思わなかったのだろう。

 

「一夏さんは、強い意志と決意、そしてなによりも他の殿方には感じない、熱い感情をその瞳から感じとれましたの」

「…………」

 

 なんだろう、これ。惚気話なのかな?聞いているこっちが恥ずかしいというか、なんというか…………。

 

「そしてそれを、貴方にも感じましたわ廉太郎さん」

「え!?」

「先日のクラス対抗戦の時、貴方は身を挺して一組の皆様を守りましたわ。その時に、貴方から一夏さんに似た何かを感じましたの」

「そ、そんなこと……」

「それに貴方は、人一倍努力している。二倍も三倍も、何倍もですわ。そんな努力をしている人が、弱いはずがありません」

 

 そう言ってオルコットさんは、深々と頭を下げてくる。

 

「貴方のことを弱いと決めつけ、非礼な態度をとったことをどうかお許しくださいまし」

「……僕は、オルコットさんが思っているほど強くなんかないよ。僕は、弱い」

 

 何の力もない、弱い人間だ。

 

「だから、頭を上げてくださいオルコットさん」

「許して、くれますの?」

「許すも何も、オルコットさんは悪くないからさ」

「わ、わたくしは…………」

「そ、その……あの、オルコットさんがよければでいいんだけど、僕と友達になってくれませんか……?」

「……っ!本当に、よろしいのですか?」

 

 目を見開いて驚くオルコットさん。

 

「うん。その、ダメ……かな?」

「いいえ、こちらからもお願いしますわ廉太郎さん」

「ほんと?その、ありがとう。えっと……これから、よろしくおねがいします……ってあれ?なんて言えばいいんだろう、あはは…………」

 

 こういう時ってどうしたらいいんだろうね?

 でも、本当によかった。オルコットさんと友達になれて。やっぱり、人に嫌われたままっていうのは嫌だから。

 

「……私は完全に除け者だな」

「わっ!その、ごめんなさい!?」

「い、いや、そんなに謝らないでくれ。謝るのはむしろ、私の方なのだから」

「そ、そんな……篠ノ之さんまで……」

 

 本当に、どうしたというのだ。

 

「この間は……その、すまなかった。あんな言い方をして」

「い、いや…………」

 

 確かに辛辣な言葉で心に突き刺さったけど…………。

 

「……私は昔、姉がISを造り上げてしまったがために、危険に晒されていたのだ。その際に、国の意向で保身のためと各地を転々としていたんだ」

「そう、なんだ」

 

 彼女の姉、篠ノ之束はISの開発者。近年希に見る天才で、天災と称されてもいるほどだった。

 そして、そんな彼女の姉がISを造ってしまったがために、彼女は立場が危うくなったらしい。

 

「そんな中でも私は昔から続けていた剣道だけはやめなかった。ずっと諦めずに、努力し続けた。その結果、私は剣道全国大会を優勝することができたんだ」

「やっぱり、凄いね篠ノ之さんは」

「い、いや……そんなことは…………」

 

 あれ、ぶすって顔を背けられた。

 怒らせたのかな……?

 

「ご、ごめん……」

「あー、廉太郎。別に箒は怒ってるわけじゃないぞ?」

「えっ?」

「ありゃ照れてんだ」

「い、一夏!?」

 

 顔を真っ赤にして講義する篠ノ之さん。

 なるほど、あれは照れているのか。

 

「箒はいつも怖い顔してるから勘違いされがちだけど、皆が思うほど怖くないんだぜ?」

「私はそんなに怖いのか…………」

 

 しゅんと肩を落とす篠ノ之さん。なんだか唐突に可愛く見えてきた。

 

「ごほん、まあ、それでだ。大会を優勝した私だったが、そんな私に言い寄ってくる輩が現れたんだ」

「言い寄ってくる……?」

「ああ。剣道を教えてくれ、とな」

 

 ……篠ノ之のさんの俯く表情からなんとなく察することができる。

 篠ノ之さん綺麗だし、多分モテたんだろう。そして、彼女に近寄ろうとした男子が彼女と仲良くなるがためにそんな申し出をしたのだろう。

 

「私はまじめに剣を教えた。そうしたら、言い寄ってきた連中は厳しすぎると私を咎めて皆離れていった。己のの努力と覚悟のなさを棚上げにな」

「なるほど……」

 

 生半可な覚悟と努力じゃダメなんだな。

 僕自身、篠ノ之さんに頼むとき、覚悟が足りていなかったかもしれない。

 

「……お前に剣を教えてほしいと頼まれた時、私はそれを思い出した。お前もあの連中と同じだと決めつけてしまったのだ。すまなかった、藤井」

「い、いや……僕も多分、その人たちと一緒だと思うよ。大した覚悟もなしに篠ノ之さんにお願いしに行ったから…………多分、根を上げてたと思う」

「だが、お前は努力をするだろう。昨日の事件を見ていて、お前の誠意が伝わったんだ。必死に努力するだろう。私は、努力する人間は嫌いじゃない。なのにお前に辛辣な態度をとってしまった。お前という人間を知りもしないのに勝手に決めつけ、辛辣な態度をとってしまった。本当に、すまなかった」

「え、えーっと…………」

 

 篠ノ之さんの誠心誠意な謝罪に、またしても僕はどうしていいのか分からず、混乱する。

 

「篠ノ之さんも顔を上げて……?ほんと、僕は人に頭を下げられるような人間じゃないんだ。そのー、気にしてない……って言ったら嘘になるけど。もう、大丈夫だからさ、ね?」

「……分かった」

 

 篠ノ之さんも、オルコットさんも、いい人なんだ。

 ただ、ちょっとしたすれ違いがあったけど、でもそれでもこれからは仲良くできそうだ。

 

「皆昨日の廉太郎の頑張りを見て考えを改め直したんだ。お前が思ってるより、皆はお前のことを認めてんだぜ、廉太郎」

「一夏…………」

 

 ほんと、やめてよ一夏。

 そういうこと言われたら、泣いちゃいそうになるから。

 僕は泣くのをこらえて、篠ノ之さんに目を遣る。

 

「そのー……篠ノ之さん。迷惑じゃなければでいいんだけど……今度、剣道教えてくれないかな?」

「……ッ!ああ!任せておけ!自覚はないが、私は厳しいらしいからな。覚悟しておけよ?」

「は、はい!あ、あはは…………」

 

 自分で言っておいてあれだけど、苦労しそうだな……。

 一夏、横で合掌するのはやめて。まだ死んでないから。

 

 

 

 

 

 

 

 





投稿遅れてしまいました。
ちょっと今週と来週は忙しくて投稿遅れてしまうかもしれません。
ほんとごめんなさい。

今回は箒とセシリアの謝罪回。
彼女たちも気難しいけどいい人たちなんです。多分。

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