IS《無力な僕は空を逝く》   作:砂肝串

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生きている間は、

なにごとも延期するな。

なんじの一生は、

実行また実行であれ。

 

- ゲーテ -

(ドイツの詩人、小説家、劇作家 / 1749~1832)


CODE:14

 

 

「ただいまです……」

 

 その日の放課後、僕は寄り道をするでもなくそのまま自室へと戻った。登校の許可は貰えたが、まだ怪我が完治したわけではなく、なるべく安静にしておくようにと保険医に釘を刺されたからだ。

 

「藤井くん!」

「わっ!」

「よかった!元気そうねっ!!」

「ぐ、ぐるじいでずっ」

 

 部屋に入った途端、更識先輩に強く抱きしめられた。

 息ができなくてくるしい。

 

「本当に、心配させて……」

「ご、ごめんなさい」

 

 更識先輩はちょっとだけ怒っていた。

 心配かけさせちゃったからな。本当に、申し訳ない。

 

「でも、貴方がしたことはこの学園の生徒たちを守ってくれた。これは生徒会長の立場として言うわね。本当に、ありがとう」

「い、いえ、そのっ」

「そしてこれは姉である私からの言葉。偉いわね、よくやったわ」

「せ、先輩……!」

 

 先輩が僕の頭を優しく撫でる。

 何だか最近泣いてばかりだし、頭を撫でられまくるし、凄い子供みたいだな僕…………。

 

「でーも」

「へ?」

 

 ガシッと先輩が僕の頭を強く掴む。

 

「もうこんな危ない真似しちゃダメだからね!貴方だって、この学園の生徒の一人であることに代わりはないのだから!!」

「は、はいいいい!?」

 

 掴んだままぐわんぐわんと首を回される。

 目、目が、目が回る…………。

 

「ま、こんなところで許してあげましょうか」

 

 よ、よかった…………許してもらえた。

 それにしても先輩を見るのがなんだか久しぶりに感じるなぁ。昨日会えなかったからかな。

 昨日は結局、保健室にて一夜を明かした。怪我のこととかもあったし。授業道具に関しては先輩と一夏が用意してくれたんだよね。本当に助かる。

 

「藤井くん」

「はい?」

 

 先輩に呼ばれ、僕は視線を向ける。

 すると、彼女は慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、こう言ってくれた。

 

 

「────おかえり」

 

 

     Φ

 

 

 翌朝。

 あの後、先輩に「今度からお姉ちゃんの許可無く無茶したら擽り地獄の刑よっ!!」などと言われたり、ちょっとした雑談をしてから眠りについた。

 多分、学園に来てから一番ぐっすり眠れたと思う。

 肩の荷が少し降りたからかな。

 時刻は五時。うーん、少し遅く起きちゃったな。

 

「……よし、勉強しなきゃ」

 

 病み上がりでも何でも、やることは変わりない。

 僕は僕で、やることをやらなくちゃ。

 取り敢えずは遅れを取り戻す。

 …………頑張ろう。

 

 

 あれ、怪我から回復した時も病み上がりって言うのかな…………?

 

 

     Φ

 

 

「おはよう、谷本さん」

「あ、おはよう藤井くん!」

「おはよう、相川さん」

「おっはー!藤井くん!」

「おはよう────」

 

 などと、延々と続いていく挨拶。

 それを終えた僕は、ようやくといった感じで自分の席についた。

 

「ふぅー…………」

 

 取り敢えず一息。

 そんな僕にとある少女がとてとてと駆け寄ってきた。しかし、そのスピードは極端に遅い。

 

「やっほぅ、ふじり〜ん」

「おはよう布仏さん」

 

 やって来たのは、布仏さん。

 相も変わらずのほほんとしている。

 

「教室に来るまでに、何もされなかった……?」

「あー、うん。睨まれたりとかはしたけど……直接的なことはなにもされてないかな」

「そっかー…………あんな噂が流れちゃったからね。気をつけてね〜?」

「うん。気をつける。ありがとね、布仏さん」

「ふふふ〜、友達の心配をするのは当然なのだぁ〜」

 

 当然、か。

 嬉しいことを言ってくれるなぁ。

 

「よう、廉太郎。のほほんさんもおはよ」

「おはよう一夏」

「あ、おりむーだぁ。おはよ〜」

 

 いつも通りの時間に、いつも通り一夏が篠ノ之さんとオルコットさんを引き連れて登校してくる。

 皆にとってはいつも通りの日常が始まるけれども、僕にとっては新しい日常。皆との、本当の意味での初めての日常なのだから。

 

 

     Φ

 

 

 放課後。

 僕は寮に戻るために、校舎の玄関にいた。

 

「今日も疲れたなぁ…………」

 

 今日はISの実習があった。

 普通の授業でさえくたくたになるのに、それが実習ともなると…………凄く疲れる。あの一夏でさえへばるほどだ。彼の場合、専用機持ちということもあってより疲れるだろう。

 

「帰ったら少しだけ仮眠しようかな…………」

 

 フカフカのベッドを想像しながら下駄箱の扉を開けた、その時。

 

「ッ!?」

 

 何枚もの紙が雪崩落ちてきた。

 それは、手紙だ。

 

「て、手紙……?なんで、こんなに」

 

 僕は一枚を拾い上げる。

 ラブレター……などではないだろう。この僕がラブレターなんてものを貰える筈がないのだから。

 では、何か?

 僕は封をあけて、中を見てみた。

 

 

「なに、これ…………」

 

 

 そこに書かれていたのは、僕に対しての不平不満や、罵倒の羅列。他にも脅迫文などがある。それも、「死ね」や「退学しろ」などの過激なものだ。中には「スパイは消えろ」などと書かれているものもあった。

 脅迫文に関しては「殺してやる」とまで書かれている。

 呪いの手紙というやつだ。

 僕を恨んでいる、学園の生徒が僕の下駄箱に…………。

 

「…………」

 

 ……大丈夫。

 こんなの、今までだってあったことだ。

 ただ、方法が少し変わっただけ。

 大丈夫。大丈夫だ、問題ない。これくらいじゃあ、僕の心は折れやしない。僕にはもう、心強い友達たちができたのだから。心の支えがいくつもできたのだから。

 だから、大丈夫。

 でも、問題が一つだけある。

 

「…………この手紙、どうしよう?」

 

 自分で処理するの?

 えぇー………………。

 

 

     Φ

 

 

「ただいまです……」

「おかえりなさ────って、その大量の手紙は何!?」

「……見てみてください」

 

 僕は手に持つ大量の手紙の数枚を、彼女に見せる。

 

「…………」

 

 目を通し終えた彼女は、すぐさまその手紙を破り捨てる。

 そして無言で僕を抱きしめてくれた。

 

「大丈夫です、先輩。僕、心の支えができたから……だから、大丈夫です。心は折れてません」

「……よかった。ごめんね、藤井くん。生徒会側でも、もっときつく取り締まるわ。もう、こんなことなんかさせやしない」

「……ありがとうございます」

 

 先輩には、本当に頭が上がらない。

 

「あのー……」

「何かしら?」

「これ、どうやって処分しますか……?」

「……あー…………」

 

 

     Φ

 

 

 その後僕たちは手紙を一枚一枚破り捨て、全て一つの袋にまとめて雑紙ゴミとして処分した。かなりの量だった。

 中には剃刀が仕込まれている危険なものもあり、全てを処理するのに苦戦して結構時間をかけてしまった。

 ようやく落ち着くことができる。

 

「はぁ…………」

 

 思わず漏れてしまう溜息。

 そりゃ、暗い気分にもなる。あれだけの呪いの手紙を寄越されたのだから。

 

「貴方の処遇に関しては、学園側でも正式に無実で決定となったわ。確証となる証拠がないからね。でも、それでも一度流れた噂は止まらない。噂の厄介なところは尾ビレがついて広まるところね」

「……僕、何もしてないはずなんだけどなぁ」

 

 こういうのって、冤罪っていうのかな?

 何もしてないはずなのに、何故かどんどん僕の立場が追いやられていく。

 

「あー……でもなんか、こういうのに慣れ始めてる自分が怖いです…………」

「慣れって怖いわねぇ……」

 

 なんか、前ほどの苦痛がなくなったような気がする。

 これは果たしていいことなのか、悪いことなのか……。

 

「まあ、この話はもうやめましょう?今後のことは私がなんとかするから」

「そうですね。このままじゃ気分が悪くなる一方ですし…………」

 

 この雰囲気を払拭するように言ってくれる先輩の気遣いがありがたい。

 

「そうそう。そういえばだけど。明日で私、この部屋を出ていくからね?」

「えっ!?」

 

 出ていく!?

 何故ですか!?

 

「ほら、言ったでしょう?この部屋割りは、部屋の調整が落ち着くまでの一ヶ月間の仮の部屋割りだって。明日で調整がつくから私はこの部屋を出て行くわ。お引越しよ♪」

「あ、な、なるほど…………」

「さっき、凄く残念そうな顔をしてくれたよね?もしかして、お姉さんと一緒の部屋じゃなくなって、寂しい?」

「……先輩と過ごす時間はとても楽しいですから。凄く、残念ですよ」

「……………………」

 

 僕の言葉に、目を丸くして驚く先輩。

 対する僕は、顔を真っ赤にして彼女から目を逸らしていた。

 うぅ……恥ずかしい…………何を馬鹿正直なことを言っているんだ、僕は。

 

「可愛いことを言ってくれるなぁ〜!」

「あわわわ!?」

 

 突如僕の頭を猛烈な勢いで撫で始める先輩。

 うわ、髪がぐしゃぐしゃだ。

 

「まあ、寂しくなったらいつでも言いなさい?お姉さんが来てあげるから♪」

「は、恥ずかしいので遠慮しますッ!!」

 

 

 叫ぶことが、僕にできる唯一の抵抗だった。

 

 

 

 

 

 




あんま話進んでません。ごめんなさいです。

作者から1つ、お話があります。
廉太郎は『れんたろう』って言います。
謙太郎でも、兼太郎でも、康太郎でもありません。
ルビふりわすれてました……ごめんなさい…………
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