これが報われるんだと思うと良くない。
こんだけ努力してるのに何でってなると腹が立つやろ。
人は見返り求めるとろくなことないからね。
見返りなしでできる人が一番素敵な人やね。
― 明石家さんま ―
(日本のお笑い芸人)
「そういえば、どうして僕と接触したんだい?スパイ目的ならわざわざ僕と仲良くする必要はなかったんじゃないかな。僕の専用機は学園からのレンタルもので、第二世代型の打鉄なのに」
翌日の朝、僕はシャルルにとある質問を投げかけていた。
まあ、同室の人間だから仲良くしなきゃっていうのはあったんだろうけど。
それにしたって、あんまり仲良くしたら疑われるだろう。特に、男には。男のフリをした女なんて同性からしたらすぐに分かるものだ。まあ、一夏は例外みたいだけど。
「……言いにくい、けど。廉太郎もスパイの対象になってたよ?」
「え、じゃあ僕にもスパイ目的で接触してきてたの?」
「う、うん。あ、その、でも、最初こそスパイ目的で接触してたけど、今じゃもうそんなことないよ?その、純粋に廉太郎とお話しとかたいし…………」
「あ、うん。ごめん、なんか言い方が悪かったね。……でも、どうして僕まで?」
「廉太郎が、真の男性適性者だからかな」
「真、の?」
何だ、それ。
どうして僕が真の男性適性者?
一夏が一番最初に動かしたんだから、真の男性適性者は一夏なんじゃないか……?
「一部の場所では廉太郎はそう言われているの。理由は…………一夏の場合、IS開発者である篠ノ之束博士との接点があるから、もしかしたら篠ノ之束博士が何かをしたのかもしれない。でも、廉太郎は博士との接点は何もないでしょ?だから、本当の意味での男性適性者って、もしかしたら廉太郎なんじゃないだろうか……っていうわけで、真の男性適性者って廉太郎は呼ばれてるの」
「一夏が、篠ノ之束と……?ああ、そうか。篠ノ之さんの姉が、篠ノ之束博士だもんね。幼馴染みのお姉さんだったら、そりゃあ接点もあるか」
だとしたら、一夏は篠ノ之束博士に意図的に男性適性者にさせられたのか?篠ノ之束博士に無理矢理男性適性者という道を定められたのか?
……それって、酷い話だ。
何が目的なんだ、篠ノ之束博士は。
「……でも、そんなの関係ない。僕は廉太郎をちゃんと廉太郎として見てるから。だから、その……これからもよろしくね?」
「うん。こちらこそ」
僕を僕として、か。
なんだか嬉しいや。
Φ
そして今日も普通に一日が始まる。
何も変わらずに無事終わるだろうと、そう思っていたのに。
「話がある、藤井廉太郎」
「……………………」
休み時間に、トイレから教室まで戻る道中でのこと。
僕は、ラウラ=ボーデヴィッヒさんに遭遇した。
「えーっと……」
「そう身構えるな」
「い、いや。どうしても転入初日のあのことが忘れられなくて…………」
ボーデヴィッヒさんはあの一夏ビンタ事件以来、クラスから浮いた位置にいる。僕自身も、怖くて彼女には話しかけられなかったのだが…………まさか彼女自身から話しかけてくるなんて。
「ああ、あれか。あれは騒がせてすまなかったな」
「い、いや…………でも、何で突然ビンタなんかを?」
「…………奴が弱いからだ」
「一夏が、弱い…………?」
「そうだ。あの軟弱な態度、今思い出しただけでも腹が立つ」
…………何やらこの二人は因縁があるみたいだ。どんな因縁なんだろう。
「それで、だ。一つ質問をさせてもらう」
「う、うん。どうぞ」
「何故お前はあのような男と共にいる」
「へ?」
なんだ、突然。
何で一夏と一緒にいるのか、だって?
「そうだ。あのような軟弱な男、それもお前にとっては厄災の原因でもあるではないか。そんな男と何故だ?」
「……言っている意味が分からないよボーデヴィッヒさん」
「他の連中はどう思っているのかは知らんが……私はお前のことを強いと思っている。織斑一夏よりもな」
「僕が、一夏よりも強い……!?」
何を、言っている。
そんなわけないだろ。
一夏より僕が強いなんて、そんなこと。
「過去の自分を乗り越えようとしないあの男なんかよりも、お前の方がよほど強い。確かにお前は実力がないかもしれない。能力がないかもしれない。だが、お前には織斑一夏にはない"強さ"がある」
一夏にはない、強さ?
何だよそれ。一夏は僕なんかよりも強くて、比べられないほど強くて……それなのに、僕の方が強い?やめてくれ。一夏が僕より弱いなんて、あるわけないんだ。
「胸を張れ。お前は強い」
……どうしてボーデヴィッヒさんは、僕をここまで評価しているんだ?分からない。でも、一つだけ分かることがある。
「────一夏は、弱くなんかない」
一夏はいつだって僕より強くて、僕を助けてくれて、僕の中でのヒーローみたいな存在なんだ。
「一夏は僕よりもずっと強いよ。彼は、一夏はいつだって僕のことを助けてくれる」
「……まあ、お前がどう思おうとも私の考えは変わらんさ。それで、答えを聞かせてもらおうか。何故だ?」
「一緒にいることに、理由って必要なのかい?」
「必要だな。少なくとも、利益は求めるであろう。利益なしに人と関わろうとはしないだろう?人とはそういうものだ。損得勘定で動く。あの男は、お前に何か利益をもたらしているのか?お前の利となっているのか?もたらしているのは貴様にとっての厄災だけではないのか?」
「……厄災、だって?」
何を言っているんだこの人は。
厄災?意味が分からない。
「そうだ。厄災だ。あの男がそばにいるだけでお前は周囲に比べられ、そしてその度に悪評をつけられる。無力だと罵られている。ふざけた話だが……それは、事実だろう?なのに、何故お前はあの男と共にいる」
「…………」
確かに、確かにその通りなのかもしれない。いや、その通りだ。一夏と一緒にいると、僕は常に彼と比べられて…………否定される。落胆される。罵られる。
でも、それでも僕は。
「…………確かに、僕は一夏といつも比べられて、その度に罵られている。でも、それは一夏がしたことではないし、一夏自身も悪い奴じゃない。一夏のことを何も知らないのに、知ったような口ぶりをするのはやめて欲しい」
「答えが見えんな。私はお前が何故あの男と共に行動するのか、と聞いている」
「強いて言うなら、彼と一緒にいると楽しいからかな。それに彼は僕の中でのヒーローでもあるし。そんな彼と一緒にいたいと思うから僕は一緒にいるんだ。そこに、損得勘定なんてものはないよ」
「損得勘定が、ないだと?そんなことは────」
「じゃあ仮に君に大切な人がいたとして、君はその人に自身の利益を求めているのかい?」
「……………………」
ボーデヴィッヒさんが、押黙る。
彼女自身、思うところがあるのだろうか。
「僕は、人に見返りは求めないよ」
「…………相容れないな」
「そう。なら、話しても無駄なんじゃないかな。僕は僕の考えがあって、君には君の考えがある。それでいいんじゃないかな」
「……そういうことにしておこう。引き止めてすまなかったな」
「ううん。大丈夫だよ」
それから僕とボーデヴィッヒさんは無言で教室へと向かった。
同じクラスなのを忘れていた。道中、凄く気まずかったな……………………。
教室に一緒に入ると皆ギョッとして僕とボーデヴィッヒさんのことを見つめる。
すぐに皆から心配する声がかかる。
シャルルには何もされてない?怪我してない?と安否の確認をされるほどだった。皆ボーデヴィッヒさんのことをどういう風に見ているのだろう…………。
話してみて分かったけど……ボーデヴィッヒさんって、そんなに悪い人じゃないと思う。
ただちょっと人と違うところがあるだけで、決して悪い人なんかじゃないと思うんだ。
それなのに、誰も彼女に近づかず話しかけようとしないのは……少し、可哀想というかなんというか。勿論彼女自身の行動が悪かったということもあるけれど。それでも、なんだか…………。
……………………こう思ってしまうあたり、僕はお人好しなのかもしれない。
さて、ここでお知らせが。
この度とある絵師様に協力してもらい、廉太郎くんのデザインを描いてもらいました!!!!!
やったね!!廉太郎に絵がついたよ!!
絵師様には感謝してもしきれないです!!滅茶苦茶ありがとうございます!!!!
気になる廉太郎くんのデザインはこちら!!
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
【挿絵表示】
まさしく僕のイメージぴったりでした!!
本当に思い浮かべていたイメージまんまで驚きです笑
廉太郎くんを描いてくれた絵師様、本当にありがとうございました!!