IS《無力な僕は空を逝く》   作:砂肝串

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つらい道を避けないこと。

自分の目指す場所にたどりつくためには

進まなければ。

 

- キャサリン・アン・ポーター -

(米国の女性小説家 / 1890~1980)


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「ごめん、廉太郎。やっぱり……僕、一夏と組むよ」

「え?」

 

 僕が、ペア解消をどう切り出そうか悩んでいると、なんとシャルロットの方からそう言ってきたのだ。

 

「僕と組んだら、廉太郎が辛そうだから…………」

「……ごめんよ」

 

 確かに辛い。

 ストレスが溜まる。

 それは決してシャルロットが嫌だからとかではなく、シャルロットとペアを組むことによって反応する周囲の人間たちの威圧からくるものだ。

 いつもよりも格段に増した嫌がらせ等は、はっきり言って僕を限界に追い詰めていた。

 

「僕こそ、ごめん。廉太郎のことちゃんと考えてなかったよ」

「いや、シャルロットは何も悪くないよ。そう、シャルロットは何も悪くない」

「でも……」

「いいんだ。それじゃあ、また今度お願いするね?」

「うん…………」

 

 そして気まずい沈黙。

 ああ、僕が一夏だったらこうはならなかっただろうに。シャルロットに、申し訳ない。

 

「……僕が」

「ん?」

 

 思い詰めた顔で、シャルロットが呟く。

 

「僕が男の子の振りをしてるから、こうなるんだよね」

「いや、まあ…………」

「じゃあ僕が女の子だってことをばらせば……」

「そんなことしたらここにいれられなくなるよ、シャルロット」

「ううぅ…………」

 

 シャルロットの問題、はやくなんとかしないと。

 僕はまだ彼女の延命をしたに過ぎず、根本的なことは何も解決していないのだから。

 でも、でも僕の力じゃ…………僕ごときの力じゃ何もできやしない。

 

「どうしたもんかなぁ…………」

 

 このままじゃ、何も解決しないのかな。

 リスクなしで解決しようだなんて、甘かったのかな。

 ……ほんと、何が正解で、何が間違いなのだろうか。

 

 

     Φ

 

 

 僕とシャルロットのペアが解消されたことは、翌日になって学年の皆に知れ渡った。

 

「藤井くん、大丈夫?」

 

 それを知った一組の皆が僕に話しかけてくる。

 事情を察してくれているようだ。

 

「うん。まあ、何とか」

「本当に、二人が不憫だよ。ただペアを作っただけでこんな目に遭うんだから」

「無理、しないでね?」

「ありがと。その言葉だけでなんだか救われた気がするよ」

 

 事実、皆の優しさが心に染みるような感覚。

 いい人たちが多いよこのクラスは。

 

「でも、どうしようかなぁ……このままペアが決まらなかったら、どうなるんだろう」

「最後まで残った人はくじ引きで余った人同士ペアが組まされるらしいよ」

「そう、か。ならそのくじ引きでペアを決めることにするかなぁ」

 

 その方が楽だし、くじ引きなら誰にも文句は言われないだろう。

 最初からこうしていたらよかったのかもしれない。

 

「あのね、藤井くん」

「ん?何かな、谷本さん」

 

 僅かに頬を染めながら話しかけてくる谷本さん。

 谷本さんはクラスのムードメーカーで、僕相手でも何の隔たりもなく話しかけてくる人だ。

 クラス対抗戦以降ずっと友達である。それなりに仲がいい……と僕は思っている。他の人よりも話すことが多いし。

 

「その、もしよかったらでいいんだけど、私とペア組まない?」

「えっ?谷本さんと?」

「うん。実は、私もまだペアが決まってなくて……」

「あ、そうなんだ。うん、いいよ。むしろこっちからお願いしたいな。ペアの相手が谷本さんだったら気が楽だよ」

「ほんと?やった!」

 

 いやはや、助かった。

 見ず知らずの人とペアになるところだった。

 谷本さんとのペアならかなり気が楽だ。

 

「これって、そういことなのかな?」

「どうなんだろう……」

「ゆこりん、まさかぁ〜……?」

「ち、違うよ!?別にそういうわけじゃ!?」

 

 ん?

 いつもの女子メンバーが何やら騒がしくなったけど、話についていけないぞ?

 

「谷本さんがどうしたの?」

「ふじりん、気づいてないの〜?ゆこりんはー、ふじりんのことがー」

「わあああああ!?何言ってんの本音!?何でもない、何でもないからね藤井くん!?」

「……?う、うん」

 

 凄い勢いで布仏さんの口を塞ぐ谷本さん。かなり、焦ってるみたいだけど……何故?

 女の子って、ほんとよく分からないな。

 

 

     Φ

 

 

「なあ、廉太郎」

 

 放課後になって、一夏が神妙な顔で僕に話しかけてきた。

 

「どうしたの一夏。そんな顔して」

「シャルルとペア解消したんだってな」

「うん。あれ、僕はてっきり一夏とシャルルがペアを組んだのだとばっかり。シャルルは何も言ってきてないの?」

「まだ、な。多分くると思うけど。まあ来なくても俺からいくさ。…………箒たちの誰かと組めば、死ぬような気がしてならないからよ」

「あ、あははは……」

 

 冗談に聞こえないから怖い。

 一夏って何かと篠ノ之さん、オルコットさん、凰さんの三人から暴力を受けているからね。まあ、愛ゆえになんだろうけど。

 …………っていうか、一夏はまだペアを決めてなかったんだね……。

 

「って、それはどうでもいいんだ。いや、どうでもよくないけども!!」

「結局どうしたのさ」

「……どうしてシャルルとペアを解消したんだ?」

「…………」

「また、誰かに何かされたのか?」

「まあ、ね」

 

 恋愛方面には鈍感なのに、一夏ってこういうことでは妙に鋭い。恋愛方面にもこうだったら、何人もの女の子が救われるだろうに。

 

「脅迫まがいなことを、ね。このままだったら僕の身が危険だってことで更識先輩にペアを解消しろって言われてさ。……僕も少し、精神的にきてたし。シャルルには悪いけど、ペアは解消させてもらったんだ」

「なんだよ、それ。何で廉太郎がシャルルとペア組んだだけで脅迫されなくちゃいけないんだ!!」

「僕が聞きたいくらいさ…………」

 

 そうまでして僕がシャルルに、シャルロットに近づくのを防ぎたいのか。僕って、皆からしたらそんなに害悪なのかな?ウイルスかなにか?

 

「こんなの、間違ってる」

「うん。でも、どうしようもないよ。多分どう規制したって、どう対処したって、僕を虐げる人達の気持ちが変わらなければ、意味がない。また繰り返すだけ。だから、どうしようもないんだ」

「くそ、どうして廉太郎がそんな目に…………」

 

 ぎりっと固く拳を握り、俯く一夏。

 その表情は、怒りに染まっていた。

 

「ごめん。何とかするとか大口叩いといて、結局俺は廉太郎に何もしてやれてない」

「そんなことないよ。その言葉だけで、僕はかなり救われてる」

 

 僕のために、僕の代わりに怒ってくれているという事実だけで、大分楽になる。ああ、僕にはまだ仲間が、友達がいるんだって気になる。

 だから、まだ頑張れる。

 

「まあでも、ペアに関しては谷本さんと組むことになって解決したからさ。大丈夫」

「……そうか。でも、また何かあったら言ってくれ。何もできないかもしれないけれど……話を聞くことくらいはできる。それが俺の力でも何とかできそうだったら、必ずお前のことを助けるから」

「…………ありがとう、一夏。取り敢えずは学年別トーナメント、お互い頑張ろうね」

「おう!」

 

 屈託の無い笑みを浮かべる一夏。

 その笑みには、何も含まれていない。含まれていない、はずなんだ。

 なのに、最低な僕はこんなことを考えてしまう。

 

 ────無力なお前を俺が助けてやるよ、と彼は僕のことを見下しているのではないか?と。

 

 ────そもそも助けると言っている時点で彼は僕のことを格下として見ているのではないか?と。

 

 嗚呼、やはり僕はどうしようもない奴だ。

 こんなことを考えてしまうのは、疲れているからかもしれない。大分精神的にもきていたし。

 

 …………でも、これだけは思う。

 

 僕は、守られるだけじゃなくて、一夏と肩を並べられるだけの存在になりたい。

 守られるだけじゃなくて、誰かを守れる存在になりたい。

 

 

 もっと、強くなりたい。

 

 

 ……………………僕に強さなんて言葉は、無縁なものなのに。

 

 嗚呼、神様。

 僕はどうしたら強くなれるのでしょうか?

 どうやったら一夏と同じ土俵に立てるのでしょうか?

 それとも、一夏と同じ土俵に立つのは不可能なのでしょうか?

 

 僕は、どうしたらいいのでしょうか?

 

 ……疑問ばっかりだ。

 答えのない、どうしようもない疑問ばっかりだ。

 その答えを教えてくれる先生はいない。

 なら、どう答えを出したらいいんだ。この答えの方程式はどう求めるんだ。

 

 

 誰か、教えてよ……………………。

 

 

 

 

 

 


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