IS《無力な僕は空を逝く》   作:砂肝串

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挫折してもプライドは失わない、

それは努力しているからだ。

 

- 長嶋茂雄 -

(日本の元プロ野球選手、監督 / 1936~)



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 谷本さんとペアを組むことになり、僕たちは一緒に行動することが多くなった。

 もっとお互いを知るためだ。

 お互いのことをよく知れば、うまく連携が取れるはずだから。

 

「というわけで、藤井くんにお弁当作ってきました〜」

「あ、ありがとう……」

 

 何がというわけなのかは分からないけど、僕は素直に差し出されたお弁当箱を受け取る。

 今は昼休みなので、丁度昼ごはんを食べる頃合だ。

 それにしても、すごく美味しそうだ。

 

「いただきます」

 

 経緯はどうであれ、家族以外の人が作ったお弁当を食べるのは初めてだ。味わって食べよう。

 僕はおかずの一つを箸で取り、口へと運ぶ。

 

「……おいしい。凄くおいしいよ、谷本さん!」

「ほんとに?よかったぁ…………」

 

 まさか、女の子の手作り弁当を食べられる日が来るだなんて…………!!

 

「って、なんで泣いてるの藤井くん!?」

「あ、ごめん。なんだか感極まっちゃって」

「な、泣くほど喜んでもらえたならよかったかな、あははは」

 

 軽く引かれてしまった……

 

 

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「……………………」

「どうしたんだシャルル?」

 

 投げかけられた一夏の問いに、僕は応えることができなかった。

 何故なら僕はとある光景に目が釘付けになってしまっていたから。

 

「ん?……ああ、廉太郎と谷本さんか。ペアになってから二人になることが多くなったよな」

「そう、だね」

「廉太郎曰く、もっとお互いのことを知って連携を深めるためらしいぜ。いい心掛けだよなぁ。俺たちも負けてられないな、シャルル!」

「……うん、そうだね」

 

 …………何を考えているんだろう、僕は。

 廉太郎に、怒ってる?

 どうして?どうして僕は、廉太郎に怒っているの?

 違う。何かが違うよ。

 僕は、廉太郎に怒ってるんじゃない。

 これは。この、この気持ちは────

 

 

(……そっか)

 

 

 単純なことだった。

 この気持ちは、嫉妬だ。

 

 

(僕、恋してるんだ…………)

 

 

 廉太郎に。

 僕は、廉太郎に恋をしてしまったんだ。

 思えばそれは、当たり前のことかもしれない。

 僕の境遇を話して、あんなに怒ってくれて……スパイ目的で近づいたというのにも関わらず、むしろ助けてくれようとして。そんな優しい人を、好きにならないわけがない。

 

 

(どう、しよう。自覚した途端、凄くドキドキしてきたよ…………)

 

 

 いつも優しい笑顔で励ましてくれて。

 何気ないところでいつも支えてくれて。

 一人じゃないよって、そう言ってくれてる気がして。

 そんな、そんな人に、惚れないわけがなくて。

 

 …………でも、僕が関わったら彼を不幸にしてしまう。

 ただでさえ今でも巻き込んでいるというのに。

 充分幸せにしてもらっておいて、僕はこれ以上彼に何を求めるというのか。

 

 

「……どうしたら、いいのかな」

「どうしたんだ、シャルル?」

「…………ううん。なんでもない。いこっか、一夏」

「あ、ああ……?」

 

 

 今はまだこの気持ちは閉まっておこう。

 最低限、自分の事にけじめをつけるまでは。

 今の僕にはまだ、彼のことを好きになる資格なんてないのだから。

 

 

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 深い深い深淵。一寸先も見えない暗闇。暗黒。そんな場所に、生まれた当初からその少女はいた。

 

「………………」

 

 この少女は闇の中で育まれ、影の中で誕生し、そして人の欲望によって育てられてきた。それは兵器として、道具として、言いなりに動く人形として。

 ラウラ=ボーデヴィッヒ。

 それが彼女の名前だ。

 彼女は自身の名に何の意味もないことを知っている。何の意味も込められていないことを理解している。

 だが、唯一の例外がある。

 それは、織斑千冬に呼ばれる時だ。

 彼女に名を呼ばれる時だけ、この名に何かしらの意味が込められたような、そんな響きを感じて、その度に彼女は言葉にできない高揚感を心から抱いていた。

 

(あの人の存在が、強さが。あの人の全てが私の目標であり、存在意義。存在理由……)

 

 それはまるで、暗闇の部屋の中に差し込む一筋の光のようだった。

 出会った時に、一目でその強さに震えた。震撼した。恐怖、感動、歓喜、様々な感情が彼女の中を渦巻き、掻き乱した。心を揺らした。

 

 そして、願った。

 

 

 ────嗚呼、こうなりたい。

 

 ────私もこうなりたい。

 

 ────何でもない私は、貴女になりたい。

 

 

 何もなかった心が"織斑千冬"という存在で埋まり、そしてそれが彼女の全てとなった。

 だからこそ、彼女は許せなかった。

 許してはならなかった。

 目標であり、存在意義であり、理想であり絶対的であり何よりも完全でなければならない己の師に汚点を残した、あの男を。

 

(……織斑一夏。私はお前を許しはしない。決してお前を許しはしない)

 

 憎悪に満ちた瞳を細め、彼女は暗闇の中固く拳を握り締める。

 

(排除する。どのような手段を用いてでも、奴は排除する。あんな弱者が、教官の肉親であっていいはずが、ないッ……!!)

 

 

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     Φ

 

 

 それは放課後のアリーナでの出来事。

 

「「あっ」」

 

 遭遇するなり、二人はそんな間抜けな声を同時に出した。

 セシリアと鈴音だ。

 

「……奇遇ねセシリア。あたしはこれからトーナメントに向けての特訓なんだけど」

「あら、奇遇ですわね。わたくしも丁度今からそうする予定でしたの」

「…………」

「…………」

「「…………ッ!!」」

 

 二人の間に、火花が散る。

 だがそれは険悪なムードなどではなく、ライバル同士が競い合っている時のような、そんなムードだ。

 

「丁度いいわ。そろそろ決めましょうよ。どちらが上なのかを、きっちりとね!」

「いいですわね。そのお話、のらせていただきますわ。いい加減どちらが強く、優秀で、優美で優雅なのかを決めたいと思っていましたの!」

 

 ふたりが互いのメイン装備を身構え、今まさに戦いが始まろうとした…………その時。

 

「「っ!?」」

 

 二人の間に、一筋の熱線が迸る。

 反射的に二人が振り向いた先には、黒いISを身にまとった少女の姿があった。

 小柄で銀髪、さらには眼帯という嫌でも覚えてしまうような特徴の持ち主だ。二人は一瞬で邪魔をした人物が何者なのかを知る。

 

「……なんのつもりよ、あんた」

「ボーデヴィッヒさん、今のはどういうことでして?」

 

 ラウラ=ボーデヴィッヒ。

 第三世代IS《シュヴァルツェア・レーゲン》の登録操縦者にして、ドイツの国家代表候補生。

 

「なに、ちょっとばかし付き合ってもらいたくてな」

「何によ」

 

 あくまでも険悪な態度で尋ねる鈴音に、ラウラはフンと嘲笑を浮かべて応える。

 

「あの"雑魚"の周りでさぞ愉快そうにしている人物が代表候補生だと聞いてな。実力がどれほどのものなのか、本当に代表候補生としての実力に足る人物なのかを見定めに来たのだ」

「……一応聞くけど、その雑魚って誰のことよ」

「決まっているだろう?────織斑一夏のことだ」

 

 その言葉で、二人の中の何かがキレた。

 

「あったまきた!あんた、そんなにボコボコにされたいらしいわね…………!!」

「この場にいない人間まで侮辱するとは……同じ欧州連合の候補生として情けない限りですわ。その軽口、二度と叩けぬようここでわたくしがしっかりと潰しておいてさしあげますわ…………!!」

「ふん、御託はいい。さっさと二人同時にかかってこい。所詮、一足す一では二にしかならん。来い、本当の"代表候補生の実力"を見せてやる」

「「上等ッ!!」」

 

 

 

 

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