若さとか、年よりとか、
力があるないとか、才能とか、金とか、
あらゆる条件を超えて、
その持てるぎりぎりいっぱいの容量で挑み、
生きるということだ。
- 岡本太郎 -
(日本の芸術家 / 1911~1996)
その日の晩。
全てが解決した、その日の夜。
僕はシャルロットと一緒に屋上で星を眺めていた。
今夜は天気が良くて、星が良く見える夜だった。
「綺麗……」
シャルロットがうっとりとした声音で、そう囁く。
僕はそれに小声で「そうだね」と相槌を打つ。
「……よかった。本当に、よかった」
彼女は僕の方を向き、そう言った。
目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。
かなり、心配をかけてしまったようだ。
「心配かけて、ごめん」
「ううん。いいの。廉太郎が無事なら、何でもいいよ」
「シャルロットも無事でよかった。……人の事言えないけど、無茶しすぎだよ」
「あはは、ほんと、無茶しすぎだね、僕たち」
彼女につられて、僕も苦笑を浮かべてしまう。
本当に、僕たちは一人で無茶をしすぎた。
「ねえ、シャルロット」
「ん?なに?」
僕が声をかけると、彼女は僕の横に立って、そう聞き返してきた。
「僕は、何もできない。能力がないから。才能がないから。無力だから」
シャルロットは何かを言おうとした。
だけど、僕はそれを遮って言葉を続ける。
「だから。僕は、他の人の助力がなくちゃ、何にもできない。でも今までの僕は、誰かの手を借りることが怖かったんだ。信じて裏切られるのが怖かったんだ。それに、人に迷惑をかけたくないからって、差し伸べられていた手を払い除けてたんだ。……でも、それは違うんだって、今回の事件で気付かされたよ。僕は、間違ってた」
「廉太郎……」
「シャルロット。僕は、無力だ。だから、その、情けないかもしれないけれど…………これからは、君の手を借りても、いいかな?」
本当に情けない。
でも、これが僕なんだ。
「うんっ!いくらでも貸してあげる。僕にできることなら、何でもするよ」
でも、彼女はそう言って笑ってくれたんだ。
「……その代わりと言ってはなんだけど、シャルロットが困ってる時は、僕が手助けするから。……まあ、僕にできることなんて少ないんだけどさ」
「そんなことないよ!現に、廉太郎は僕を助け出してくれた。苦しい状況から、僕を救い出してくれた」
「そ、そうかな?僕は何もしてないような……それに、むしろ助けられたような気が…………」
ほんと、今回の事件、僕は何も活躍してないな。
なんか、虚しくなってきた。
「ま、まあ、何にせよ。お互いに助け合って、一人で無茶をするのはもうやめよう」
「そう、だね。僕も、廉太郎に無理されるのは嫌だもん」
「約束だよ?」
「うん、約束」
そう言って微笑むシャルロットの姿は、今まで見てきた何よりも美しく、そして誰よりも可愛かった。
星が瞬く夜空の下。僕たちの距離は、ぐんと縮まった気がした。
Φ
「…………」
翌朝。
僕は一組の扉の前で一人固まっている。
シャルロットはいない。なんでも、事情聴取を受けているのだとか。
僕は手を扉にかけては離しかけては離しを繰り返して、なかなか中に入れないでいる。
恐ろしいのだ。皆の反応が。態度が。僕を見る目が。
学園内で今、僕は女子生徒を無理やり押し倒し、そのせいで謹慎処分を受けたということになっているだろう。更識先輩たち生徒会や、教師側が情報規制を敷いていたとしても、噂とは完全には止められないもの。多分、ほとんどの人にバレたはず。
だから、怖い。
入ったら、 何を言われるだろう?
罵倒が浴びせられるのだろうか?
……いや、違う。
そうじゃない。僕は、僕はもう怖がりはしないって決めたんだ。一夏たちを信じるって、そう決めたんだ。
僕は一組の皆が、そんなことをする人じゃないって知っている。信じてもいる。
だから、大丈夫。大丈夫だ。
「…………っ!!」
僕は、思い切って、扉を開けた。
「「「っ!!」」」
何人かが驚いた目でこちらを見る。
その中で一番驚いた顔をしていたのは、一夏だ。
「廉太郎っ!!」
僕が教室に入るなり、一夏はすぐさま駆け寄ってきた。
彼だけじゃない。一組の色んな人が、僕のところに来てくれた。
「廉太郎、大丈夫なのか!?」
「え?あ、うん」
「そっか。……なあ、廉太郎。噂じゃお前、誰だか知らないけど、三組の生徒を押し倒して謹慎処分を受けてたってことになってるんだけどさ」
一夏は僕の肩を掴み、こう言った。
「誤解は解けたのか?つーかどうせ濡れ衣かなんかなんだろ?脅迫とかされたのか?大丈夫なのか!?」
「一夏……」
その言葉は、僕のことを信用している前提で語られたものだ。
一夏は。
いや、一夏たちは僕のことを信用してくれてたみたいだ。
……心配、かけちゃったみたいだなぁ。
「もう、大丈夫。全部解決したから。僕のことも、事件のことも、全部」
「そっか。じゃあ、廉太郎の無実はもう確定なんだな?」
「うん」
「よかったぁ…………」
「うわわっ」
へなへなと僕に倒れ込んでくる一夏。
僕はそれを慌てて受け止める。
「いや、ほんとによかったぜ。ずっと不安だったんだ。このまま廉太郎が冤罪のまま学園を去ることになったら……って」
「ごめん、心配かけて。でも、なんとかなったよ。織斑先生や、更識先輩が僕を助けてくれたんだ。事件は解決したよ。…………ありがとね、一夏。信用していてくれて」
「当たり前だろ。俺と廉太郎は友達なんだからよ」
屈託の無い笑みでそう言ってのける一夏。
普段なら何だかちょっと恥ずかしい台詞だけど、今それを聞かされたら、泣いちゃいそうなほどに嬉しくなる。
「みんなも、ありがとう」
疑った様子で僕を見る人は、一人もいなかった。
皆も、信用してくれてたんだ。
本当に僕は、幸せ者だ。
「まあ、普通に考えて有り得ないよね」
「そうだね〜、ふじりんが女の子を押し倒すなんて有り得ないよ〜」
「そんな度胸ないもんねぇ」
「うんうん」
…………幸せ者だ。幸せ者、だ。うん。傷ついてなんかない。別に傷ついてなんかない!!
「大丈夫か、廉太郎……?」
「あははは……うん」
なんとかね。
「ふ、藤井くん!」
「……っ!」
声がした方を向く。
……そこにいたのは、谷本さんだ。
「よかった、無事で」
「うん」
「えっと、その────」
「谷本さん、ちょっといいかな?」
「えっ?」
Φ
谷本さんを連れて、僕は校舎の人気のない場所へとやって来ていた。
「ふ、藤井くん?どうしたの?」
「…………僕、谷本さんに、言わなくちゃならないことがあるんだ」
「えっ?私に?……何、かな?」
人気のない場所。
二人きり。
言わなくちゃならないこと。
まるで、愛の告白のワンシーンのようだ。
まあ、ある意味間違いではないのかもしれない。
僕は今から彼女に、"ある告白"をするのだから。
「僕、全部知っちゃったんだ。君のことも含めて、ね」
「私のこと……?」
あくまでもシラを切るみたいだ。
でも、逃がしやしない。
「やめてくれないかな、もう」
だから、はっきりと告げる。
「────僕たちを陥れるような真似は、やめてくれないかな」
そう。
そうだ。
そうなのだ。
谷本癒子。
現僕のパートナーにして、クラスメイトで、友達。
彼女こそが、黒幕。今回の事件の、首謀者。
そもそも誰が僕とシャルロットの部屋に盗聴器を仕掛けたのか?
あの女子生徒たちには無理な話だ。
こと対人セキュリティに関して言えば、この学園はなかなか高い。僕とシャルロットがいないうちに、見つからないように部屋の鍵をピッキング等で開けて侵入するというのは、無理な話なのだ。
では、誰が?
僕とシャルロットが部屋にいても入ってこれた人物。そうなると、かなりの数が絞れる。
まず、あの女子生徒たちには無理だ。招き入れたことなど一度もないのだから。
そうすると、自ずと答えは見えてくる。
「谷本さん。君が、黒幕だ」
「…………」
「君は、関口さんら僕をよく思わないグループにけしかけて、僕とシャルルを陥れようとした。そうでしょう?」
「……どうして?」
真顔。
その表情からは、何も読み取れない。
震えるでもなく、激昂するでもない。感情のこもっていない声を、彼女は出した。
「どうして私がやったと思うの?」
何の感情の色も見せない谷本さんに戸惑いつつも、僕は応える。
「……ひとつは、僕がボーデヴィッヒさんと戦って気絶したあの日。保健室から部屋に戻った時、君は僕たちに着いてきて部屋に入ったよね?その時に、ちらっとだけど、君が僕のスマートフォンの充電器を触ったように見えたんだ。意識がまだ朦朧としてたから気のせいかなぅて思ってたんだけど……多分、その時に盗聴器付きの充電器と、僕のとを入れ替えたんだろう?」
「…………」
「ふたつめは、君が謹慎室に来た時。情報規制が敷かれていたというのに、君は僕が押し倒した女子生徒が関口さんだと知っていた。……これはまあ、噂が流れるに流れて君の所にたどり着いたっていう線も考えられるけど。でも、おかしいって思ったんだ。一夏は僕が押し倒した生徒が関口さんだって知らなかったみたいだし」
「…………」
「ねえ、何か言ってよ、谷本さん!」
終始無言なのが、逆に不気味なくらいだ。
「ぷっ」
突如、
「は、はははは!あははははっ!!」
彼女は、腹を抱えて笑い出した。
僕の中にあった、彼女の何かが瓦解していく。
「酷いなぁ藤井くん。友達の私を、疑うなんてさぁ」
「…………昨日の取り調べで、関口さんたちが喋ったみたいだよ。君がこの件の首謀者だって。君に唆されて、協力したって」
「ああ、あの人たち、喋ったんだ。一応口止めはしておいたんだけどね。……だから疑ったってことね。納得したよ」
「………………できることなら、信じたかった。君に嘘だって、言って欲しかった」
彼女じゃない。
目の前にいる谷本さんは、僕の知っている谷本さんじゃない。
誰なんだ。僕は、こんな谷本を、知らない。
僕が知っている谷本さんは、優しくて、いつも僕を支えてくれて、一緒にいるだけで楽しいような、そんな人だったのに。
この目の前にいる少女は、ダレナンダ?
「僕には、君のあの優しさが演技だったとは思えない。どうして、陥れようとした相手なんかに、優しくしたりしたんだい?いや、そもそもなんでこんなことを…………」
「あはは!なに、それ?あんなの全部演技に決まってるじゃん」
「…………」
「優しい友達の"フリ"をしてた理由?そんなの、簡単な話だよ。四方敵だらけな君に優しくすれば、自然と私に心を開いてくれるでしょ?そうなったら、藤井くんとの距離が短くなって、貴重なISの男性適性者のデータが簡単に取れる」
僕の、データ。
男性適性者としての僕のデータ。
それはつまり、
「君は、どこかの企業に属して……?」
「そう。アメリカのIS企業、Roland社。知ってる?ISの武器を主に開発している企業なんだけど」
「じゃあ、君は……企業の命令で僕を、陥れた?」
「うん。デュノアさんを陥れたのも、藤井くんをより追い詰めるため。必要だったからやったの。企業の命令だったからやったの。ただ、それだけだよ」
必要だったから、やった。
それだけの理由。
それだけの理由で、シャルロットはッ…………!!
「…………僕は、君を許すことはできない。絶対に許さない」
「それで?藤井くんに許されなくてもなんとも思わないし。それに私、そもそも悪いことしたなんて思ってないもの」
「君はッ!!」
「────覚えておきなよ、藤井くん。この世は弱いものが淘汰される世界。優しいだけで弱い人は、すぐに飲み込まれるよ」
「っ!!」
「この世界は、そんなに優しくない」
そう言って彼女は振り向く。
振り向いた先には、更識先輩がいた。
一部始終を見ていたのだろう。その顔に表情はない。
「……私を捕らえるんですか?」
「ええ」
「証拠は?」
「貴女の部屋のゴミ箱から、藤井くんの使用していたスマートフォンの充電器が見つかったわ。これが貴女が藤井くんの充電器を盗聴器込のものとすり替えたっていう証拠になるわ」
「…………そうですか」
谷本さんは、全てを悟ったような、諦めたような笑みを浮かべながら、更識先輩の前に立つ。
「投降します。私は、どうすれば?」
「まあ待ちなさい」
「え?」
更識先輩は、僕を見る。谷本さんではなく、僕を。
「……ここから先は藤井くん、君の判断に委ねようと思う」
「なんの、ことですか?」
「谷本さんについて」
「え?」
「────まさかッ!更識生徒会長!やめてください!!」
だが、更識先輩は谷本さんの制止の声を無視して、僕に語り始めた。
「更識家で彼女のことを深く調査したの。その結果、分かったことが一つ。……彼女のご両親は現在、Roland社に身柄を拘束されているの。人質としてね」
「っ!?な、なんで!?」
だって、谷本さんは、Roland社に務めているんじゃ!?
「彼女の両親は元々Roland社に務めていてそれなりに上級の職に就いていたのだけれど、会社そのものを敵対していたライバル会社に買収されたの」
「会長、やめてください」
「その中で彼女のご両親は反旗を翻そうとしたけど……あえなく失敗。ご両親は人質として拘束、谷本癒子さん自身は買収された新しいRoland社の手駒になったというわけ」
「会長っ!!」
じゃあ、谷本さんにも、譲れない事情があったっていうことなのか?
どうしようもなかったということなのか?
となると、先程の豹変した態度は全て、演技?
何故、なんで、
「どうして、それを言わなかったの…………?」
「…………」
「谷本さん!!」
俯く彼女に向かって、僕は怒鳴った。
後少しなんだ。後少しで、本当の彼女が分かるんだ。
だから、黙ってないで何か言ってくれよ、谷本さん!
「────だって」
その時だ。
彼女の双眸から、水滴が落ちていったのは。
「だって、どんな理由があったにせよ、私がしたことは許されることじゃないもん……。私は、藤井くんと、デュノアさんを、陥れようとした。その事実は、決して変わらないから」
「で、でも!谷本の立場だったら、仕方がな────」
「立場を理由に言い訳したくないっ!……私は、私は藤井くんたちを、裏切ったの。最低なことを、したのっ」
「谷本、さん」
彼女の瞳から、涙が止めどなく溢れ出す。
「酷いですよ、会長。諦めがついてたのに。ありのままを受け容れる決心がついてたのに。悪者のまま終わらせてくれれば、一番楽だったのに。これじゃあまるで、私まで被害者みたいじゃないですか…………」
「私には真実を究明して伝える義務があるから」
「でも、真実がどうであれ、私が今までしてきたことが正当化されるわけじゃありません。罪が消えるわじゃありません」
「まあ、そうね」
そんな。そんなの。
「……違う。そうじゃない。間違ってる」
「藤井、くん?」
そんなの、あんまりじゃないか。
「悪いのは谷本さんじゃない。悪いのは、全部悪いのは、Rolandの親会社だ。……先輩、なんとか谷本さんを、助けられませんか?」
僕はまっすぐ先輩を見つめる。
だって、このまま終わらせたくないから。
こんな終わり方、認めたくないから。
「本気で言ってるの?藤井くん」
「本気です。何でそんなこと聞くんですか?」
「何でって、この子は貴方とデュノアさんを陥れようとしたのよ?」
「……正直、シャルルのことを陥れようとしたのは、今でも許せません。でも、それでも谷本さんはそれをせざるを得なかった。家族のためにそうするしかなかった」
「…………」
「なら、僕は谷本さんを助けてあげたい。救ってあげたい。まだ完璧には許せないけれど、だからって彼女を見捨てていい理由なんてないんだ」
僕は頭を下げる。
「だから、お願いします。力を貸してください。谷本さんを、助けてあげたいんです!!」
もう、何もできないまま終わるのは、嫌なんだ……!!
「藤井くん、どう、して」
「たとえ谷本さんとの関係が本当は偽りだったんだとしても、僕は君のことを本当の友達だと思っていた。それにやっぱり、君の優しさが嘘だったとは、演技だったとはどうしても思えない。馬鹿みたいな理由かもしれないけど、それでも、僕は君を助け出したい」
「わ、わたしはっ…………」
僕は顔を上げて、谷本さんに目を向ける。
どうしても一つだけ、聞きたいことがあるんだ。
「谷本さん。本当のことを言って欲しい。────君のあの優しさは、嘘だったの?本当に全てが偽りだったの?……僕たちは、友達じゃなかったの?」
「っ!!」
怯えた様子で、彼女は視線を下に向ける。
やがて彼女はたどたどしく、言葉を紡ぎ始めた。
「友達に、なれるわけないよ。私は藤井くんに嘘ついて、騙して、利用して、陥れようとしたんだから。…………なれるわけがないよ」
「僕はそう言う事を聞きたいんじゃないッ!!」
「っ!?」
僕の怒鳴り声に、彼女の体がビクンッと震える。
知ったことか。
僕は、僕の言いたいことをそのまま彼女にぶちまけた。
「僕は、君が僕と過ごしてきた日々の中で君の気持ちにに嘘偽りはあったのかと聞いているんだ!!言動や行動に嘘偽りはあったかもしれない。でも、君の気持ちはどうだったんだ!?本当に僕を利用するためだけに、陥れるためだけに近づいたのかい!?」
「わ、わたし、はっ」
谷本さんの悲痛な叫びが、
「藤井くんと友達でいたいッ!!一緒にいたい!!」
辺りに響いた。
「藤井くんと、本当の、友達になりたいよ」
「うん」
「ごめん、ね、藤井、くん。許るして、もらえないかも、しれないけど、ごめん、ごめんね」
「うん。もう、いいんだ。君の本当の声を、聞けたから」
僕はその場にへたり込む谷本さんの頭を、そっと優しく抱きとめる。
「先輩」
「…………はぁ。まったく。君は本当にお人好しね、藤井くん」
「そう、ですかね」
「そうよ。君みたいな人は、そう滅多にいない」
「……先輩、彼女を」
「分かってる。君の望み通り、助ける手伝いをしてあげる。まあ、今回の事件を主体にRolandを買収した親会社を掘り起こしていけば普通に勝てると思うし、大舟に乗ったつもりでお姉さんに任せなさい!」
ちょっと冗談めかした発言だというのに、どうしてだろう。凄く、安心出来る。
「……まあでも、彼女の言う通り、彼女のしたことが全て許されるわけではない。有利になるように話はすすめるけど、それでもいくらかの罪は背負うことになる。それだけは分かって」
「…………はい」
でも、それでも、少しでも彼女が救えられるのなら、それでいい。
「谷本さん」
「藤井、くん?」
「友達になろう。嘘偽りのない、本当の友達になろう。……こんな僕だけど、いいかな?」
「そんな!むしろ、こんなことをした私を許してくれるの?私が友達になっても、いいの?」
「僕は谷本さんと友達になりたい。友達でいたい。この気持ちは、変わらないよ」
こんなことがあったけど、それでも谷本さんは掛け替えのない友達なんだ。
「ごめんね。ありがとう。ありがとう、藤井くん…………」
「……うん」
優しく谷本さんの頭を撫でる。
谷本さんも、それを黙って受け入れ続けてくれた。
「……あー、ごほん。まったく、これじゃあ私、蚊帳の外じゃない。空気読めないようで悪いんだけど、そろそろいいかしら?」
「あ、は、はいっ!」
僕と谷本さんは慌てて離れる。
……更識先輩のことを忘れていたわけじゃない。決して。決して!
「藤井くん」
まだ恥ずかしさの火照りがとれない僕の手を、谷本さんが握る。
「……さっき、私は藤井くんを陥れるために優しくしたって言ったけど、あれは、嘘なの。…………本当は、藤井くんに罪滅ぼしをしたかったんだと思う。裏切ったことへの、罪滅ぼしを。そんなので許されるはず、ないのにね」
「谷本さん…………」
「ごめんね、藤井くん。そして、ありがとう」
それだけ僕に告げると、彼女は更識先輩と共にこの場を立ち去った。
……願わくば彼女が無事に救われますように。