今まで 打ちのめされた事が無い選手等、存在した事は無い。
ただし、 一流の選手はあらゆる努力を払い速やかに立ち上がろうと努める、 並の選手は少しばかり立ち上がるのが遅い、そして敗者はいつまでも グラウンドに横たわったままである。
ダレル=ロイヤル(アメフトコーチ)
シャルロット、谷本さんの両名が取り調べ等で不在の今、一夏と僕がペアになるのは当然だった。
二人はどうやら次のトーナメントまでには間に合わないらしい。残念だけど、仕方がない。彼女たちには無事解決した状態で戻ってきて欲しいから。
ちなみに、シャルロットについてだが、先日ようやくデュノア社が世界に向けて発表をした。シャルロットはハニートラップをおびき寄せる囮であり、そのために男装をして学園に送り込まれたのだ、という虚偽の発表を。
これによりシャルロットの地位は安泰。他の組織やIS委員会からは何かと突っ込まれるかもしれないが、そこらへんは更識家の方が全面的にカバーするらしい。ほんと先輩には感謝してもしきれない。
谷本さんの方は、順調、とまではいかないが、それでも少しずつ改善には向かっているのだという。それ以外は何も分かっていない。今はただ、無事を祈ろう。
「おい、廉太郎。どうしたんだよ、ぼーっとして」
「へっ?あ、ごめん。考え事してた」
「今は訓練中なんだからよ、俺だけに集中しろ」
「……うん」
なんだろう。
一夏の発言に、心なしか寒気がしたような気がする。
どうしてだろう?……分からない方がいいような気がしてきた。深入りはやめよう。
「それじゃ、再開するぜ」
「うん。やろう」
僕たちは今、模擬戦闘訓練を行っていた。
放課後の第三アリーナ。
トーナメントが近いということから、他にも色んなクラスの生徒達の姿が見える。皆トーナメントに向けて、練習をしているんだ。
僕も頑張らなくちゃ。
「うおおおおっ!!」
戦声をあげながら、一夏は僕に向かって斬りかかってくる。手加減なしの、本気だ。僕がお願いしたんだ。手を抜かないで、って。
だから僕も、全力で応えなきゃ!!
「はぁっ!!」
一夏の攻撃は、シャルロットとかに比べてとても真っ直ぐで、直線的だ。
だから攻撃を"受け止めやすい"。
僕は一夏の斬撃を、打鉄に搭載された刀型ブレード『葵』で受け止めてみせた。
「くっ……!!」
つばぜり合いになる。
単純な力比べじゃ、確実に僕が負ける。
それならっ!
「う、あァっ!!」
右足のブースターだけを点火させ、左回りで回転する。
それで一夏の斬撃から、なんとか逃れる。
あの斬撃をまともに受けるわけにはいかない。一夏の手にある『雪片』という刀は、自身のシールドエネルギーを消耗する代わりに、エネルギー無効化という恐ろしい能力を発動するから。
受けるわけにはいかない。当たってはいけない。受け止めるんだ。刀で全部受け止めるんだ!受けてから、よける!!
「はっ!」
「遅い!」
背後に回り込んで刀を振りかぶるも、寸でのところでよけられてしまう。
今のが当たらないのかっ!!
「今度は俺の番だ!」
「くぅっ!?」
雪片による斬撃の連続。
僕は必死に刀でそれを受け止めていく。目で追って、肌で感じて、流れで感じて。
でも、それでも受け止めきれない。
目が追いつかない。
頭が真っ白になる。
くそ、くそ、くそ!
「ああああああっ!!」
一夏が大きく振りかぶろうとしたその瞬間を狙って、僕は突きを放つ。
「っとぉ!」
が、それが当たるよりも先に、一夏の蹴りが僕の脇腹に食いこむ。
「ぐ、あっ!?」
横薙ぎにふっとばされた僕に、
「うおらああああああああっ!!」
瞬時加速で間合いを詰めた一夏は、とどめの一撃をさした。
Φ
「はぁ……なんで僕はこう、弱いんだろう」
模擬戦闘が終わっての反省会。
僕は深いため息をついた。
そんな僕に、一夏がアドバイスをしてくれる。
「なんていうか、廉太郎には力があると思うんだ。今まで培ってきた力が。努力を積み重ねてきた力が。……でも、今はそれをうまく使いこなせていないって感じに見える」
「うまく使いこなせてない、か…………」
「ああ。なんか、落ち着きがなくなってるっていうか、余裕がないって感じかな?」
余裕がない、か。
なるほど確かに。
僕は戦いになると、どうしても頭が真っ白になるんだ。
「僕、臆病者だからなぁ。頭が真っ白になっちゃうんだよね……」
「廉太郎は臆病者なんかじゃないよ。身を呈して皆を守るくらいなんだからな。……だから、臆病とかそういうんじゃなくて、多分緊張したり焦ったりしてるんだと思うぞ」
「緊張と焦り、か」
確かにそれに近いものは感じている。
急がなくちゃ。急いで、強くならなくちゃ、みたいな、そんな焦りが僕の中にはある。
胸を締め付けるほどの緊張感も、僕の中にはある。
「落ち着いてやらないと、できることも出来なくなるからな。試合が始まる前に1回、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせてみるのはどうだ?」
「深呼吸……。分かった。やってみるよ」
「まあ、それで治るかは分かんねぇけど……とにかく落ち着くことを心がけないとな!」
「うん!」
「ま、俺はいくらでも練習に付き合うからさ。焦ったり、緊張しなくなるまで何回もやろうぜ!」
「ありがとう、一夏」
「パートナーなんだ、当たり前だろ?」
ありがたいことを言ってくれる。
もし、この場に篠ノ之さんとオルコットさんに凰さんがいたら、僕は…………ダメだ、死ぬ未来しか思い浮かばない。それもまともな原型を留めずに死ぬ未来しか。
彼女たちの嫉妬深さには、正直まいっている。
男である僕にまでかなりの嫉妬をするのだから、もうたまらない。
一夏が男である僕を、好きになる筈がないのに。
「よし!じゃあ、今日はもうあがろうぜ。やり過ぎても体調を崩すしな」
「そうだね」
一夏の言う通りだ。
無理のし過ぎは、後々痛い目を見る。
適度な休憩も必要。僕の経験談だから、これは確実である。
僕と一夏はISの展開を解き、ISスーツを纏っただけの姿となり、ピットに向かう。
「ほら!早く行こうぜ、廉太郎!」
「え?あ、う、うん」
いきなりだ。
一夏はいきなり僕の手を掴み、駆け出す。
……なんだろう、またしても嫌な寒気が。
僕の手を握る、一夏の手の感触が、こう、なんか…………いや、何も考えない。考えないようにしよう。
一夏は普通だ。普通なんだ。……きっと。
Φ
一夏との特訓を終え、自室に向かっている。
シャルロットが不在なため、今あの部屋は僕の貸切状態だ。ちょっと寂しかったりする。
「おーい、そこの」
「へ?」
突然声を投げかけられ、困惑した僕に再び声が投げかけられる。
「こっちだよ」
「あ、」
声は後ろからした。
振り向くと、そこには二人組の女子がいた。
一人は金髪の髪を横でまとめたサイドテールの長身な人、もう片方は小柄な体格に、蒼髪を後ろで三つ編みにしている人だ。
「えーっと……?」
「オレはダリル=ケイシー」
「私はフォルテ=サファイアっす」
「はぁ……どうも?」
見たことないな。
こんな人たちいたっけかな?
「って、」
よくよく見たら、この人達上級生だ!
ダリルさんは3年生、フォルテさんは2年生だ。
「ようやく近くで拝むことができたよ。織斑一夏は何かと見る機会があったが、君はあまりなかったからね」
「通りかかったらいたから話しかけたってわけっす」
「はぁ……」
僕の身としてはどう反応したらいいのか分からないから、かなり困るのだけども。
「まあ、それだけだ。じゃあな」
「何か困ったことがあったら連絡するっす。私たち二人が手助けするっす。ではでは」
「あ、はい。お気を付けて……」
行ってしまった。
……何がしたかったのかな?
Φ
Φ
Φ
「あれが二人目、ねぇ」
「先輩?」
廉太郎と別れて少し経ったあと。
ダリルはフォルテの横でそんなことを呟いた。
「いや、なんでもないよ。……ああ、なんでもないとも」
「……?」
ダリルが不敵な笑みを浮かべる意味が分からず、フォルテはただ首を傾げるだけだった。
こんにちは´ω`)ノ
30話更新しました。
今回の前書き格言(?)は暇人作業員さんからのリクエストです。
提供有難うございます!
皆さんも「これ載せて欲しい!」というのがあれば是非メッセージをください!
そしてIS最新刊見ました。
いやー、おもしろいですねぇ。
色々設定も増えたのでやりやすくなりました。
続きどんどん書くぞー!!