IS《無力な僕は空を逝く》   作:砂肝串

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必ず一度や二度の屈辱を味わされるだろう。
今まで 打ちのめされた事が無い選手等、存在した事は無い。
ただし、 一流の選手はあらゆる努力を払い速やかに立ち上がろうと努める、 並の選手は少しばかり立ち上がるのが遅い、そして敗者はいつまでも グラウンドに横たわったままである。

ダレル=ロイヤル(アメフトコーチ)



CODE:30

 

 

 シャルロット、谷本さんの両名が取り調べ等で不在の今、一夏と僕がペアになるのは当然だった。

 二人はどうやら次のトーナメントまでには間に合わないらしい。残念だけど、仕方がない。彼女たちには無事解決した状態で戻ってきて欲しいから。

 ちなみに、シャルロットについてだが、先日ようやくデュノア社が世界に向けて発表をした。シャルロットはハニートラップをおびき寄せる囮であり、そのために男装をして学園に送り込まれたのだ、という虚偽の発表を。

 これによりシャルロットの地位は安泰。他の組織やIS委員会からは何かと突っ込まれるかもしれないが、そこらへんは更識家の方が全面的にカバーするらしい。ほんと先輩には感謝してもしきれない。

 谷本さんの方は、順調、とまではいかないが、それでも少しずつ改善には向かっているのだという。それ以外は何も分かっていない。今はただ、無事を祈ろう。

 

 

「おい、廉太郎。どうしたんだよ、ぼーっとして」

「へっ?あ、ごめん。考え事してた」

「今は訓練中なんだからよ、俺だけに集中しろ」

「……うん」

 

 なんだろう。

 一夏の発言に、心なしか寒気がしたような気がする。

 どうしてだろう?……分からない方がいいような気がしてきた。深入りはやめよう。

 

「それじゃ、再開するぜ」

「うん。やろう」

 

 僕たちは今、模擬戦闘訓練を行っていた。

 放課後の第三アリーナ。

 トーナメントが近いということから、他にも色んなクラスの生徒達の姿が見える。皆トーナメントに向けて、練習をしているんだ。

 僕も頑張らなくちゃ。

 

「うおおおおっ!!」

 

 戦声をあげながら、一夏は僕に向かって斬りかかってくる。手加減なしの、本気だ。僕がお願いしたんだ。手を抜かないで、って。

 だから僕も、全力で応えなきゃ!!

 

「はぁっ!!」

 

 一夏の攻撃は、シャルロットとかに比べてとても真っ直ぐで、直線的だ。

 だから攻撃を"受け止めやすい"。

 僕は一夏の斬撃を、打鉄に搭載された刀型ブレード『葵』で受け止めてみせた。

 

「くっ……!!」

 

 つばぜり合いになる。

 単純な力比べじゃ、確実に僕が負ける。

 それならっ!

 

「う、あァっ!!」

 

 右足のブースターだけを点火させ、左回りで回転する。

 それで一夏の斬撃から、なんとか逃れる。

 あの斬撃をまともに受けるわけにはいかない。一夏の手にある『雪片』という刀は、自身のシールドエネルギーを消耗する代わりに、エネルギー無効化という恐ろしい能力を発動するから。

 受けるわけにはいかない。当たってはいけない。受け止めるんだ。刀で全部受け止めるんだ!受けてから、よける!!

 

「はっ!」

「遅い!」

 

 背後に回り込んで刀を振りかぶるも、寸でのところでよけられてしまう。

 今のが当たらないのかっ!!

 

「今度は俺の番だ!」

「くぅっ!?」

 

 雪片による斬撃の連続。

 僕は必死に刀でそれを受け止めていく。目で追って、肌で感じて、流れで感じて。

 でも、それでも受け止めきれない。

 目が追いつかない。

 頭が真っ白になる。

 くそ、くそ、くそ!

 

「ああああああっ!!」

 

 一夏が大きく振りかぶろうとしたその瞬間を狙って、僕は突きを放つ。

 

「っとぉ!」

 

 が、それが当たるよりも先に、一夏の蹴りが僕の脇腹に食いこむ。

 

「ぐ、あっ!?」

 

 横薙ぎにふっとばされた僕に、

 

 

「うおらああああああああっ!!」

 

 

 瞬時加速で間合いを詰めた一夏は、とどめの一撃をさした。

 

 

     Φ

 

 

「はぁ……なんで僕はこう、弱いんだろう」

 

 

 模擬戦闘が終わっての反省会。

 僕は深いため息をついた。

 そんな僕に、一夏がアドバイスをしてくれる。

 

「なんていうか、廉太郎には力があると思うんだ。今まで培ってきた力が。努力を積み重ねてきた力が。……でも、今はそれをうまく使いこなせていないって感じに見える」

「うまく使いこなせてない、か…………」

「ああ。なんか、落ち着きがなくなってるっていうか、余裕がないって感じかな?」

 

 余裕がない、か。

 なるほど確かに。

 僕は戦いになると、どうしても頭が真っ白になるんだ。

 

「僕、臆病者だからなぁ。頭が真っ白になっちゃうんだよね……」

「廉太郎は臆病者なんかじゃないよ。身を呈して皆を守るくらいなんだからな。……だから、臆病とかそういうんじゃなくて、多分緊張したり焦ったりしてるんだと思うぞ」

「緊張と焦り、か」

 

 確かにそれに近いものは感じている。

 急がなくちゃ。急いで、強くならなくちゃ、みたいな、そんな焦りが僕の中にはある。

 胸を締め付けるほどの緊張感も、僕の中にはある。

 

「落ち着いてやらないと、できることも出来なくなるからな。試合が始まる前に1回、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせてみるのはどうだ?」

「深呼吸……。分かった。やってみるよ」

「まあ、それで治るかは分かんねぇけど……とにかく落ち着くことを心がけないとな!」

「うん!」

「ま、俺はいくらでも練習に付き合うからさ。焦ったり、緊張しなくなるまで何回もやろうぜ!」

「ありがとう、一夏」

「パートナーなんだ、当たり前だろ?」

 

 ありがたいことを言ってくれる。

 もし、この場に篠ノ之さんとオルコットさんに凰さんがいたら、僕は…………ダメだ、死ぬ未来しか思い浮かばない。それもまともな原型を留めずに死ぬ未来しか。

 彼女たちの嫉妬深さには、正直まいっている。

 男である僕にまでかなりの嫉妬をするのだから、もうたまらない。

 一夏が男である僕を、好きになる筈がないのに。

 

「よし!じゃあ、今日はもうあがろうぜ。やり過ぎても体調を崩すしな」

「そうだね」

 

 一夏の言う通りだ。

 無理のし過ぎは、後々痛い目を見る。

 適度な休憩も必要。僕の経験談だから、これは確実である。

 僕と一夏はISの展開を解き、ISスーツを纏っただけの姿となり、ピットに向かう。

 

「ほら!早く行こうぜ、廉太郎!」

「え?あ、う、うん」

 

 いきなりだ。

 一夏はいきなり僕の手を掴み、駆け出す。

 ……なんだろう、またしても嫌な寒気が。

 僕の手を握る、一夏の手の感触が、こう、なんか…………いや、何も考えない。考えないようにしよう。

 一夏は普通だ。普通なんだ。……きっと。

 

 

     Φ

 

 

 一夏との特訓を終え、自室に向かっている。

 シャルロットが不在なため、今あの部屋は僕の貸切状態だ。ちょっと寂しかったりする。

 

「おーい、そこの」

「へ?」

 

 突然声を投げかけられ、困惑した僕に再び声が投げかけられる。

 

「こっちだよ」

「あ、」

 

 声は後ろからした。

 振り向くと、そこには二人組の女子がいた。

 一人は金髪の髪を横でまとめたサイドテールの長身な人、もう片方は小柄な体格に、蒼髪を後ろで三つ編みにしている人だ。

 

「えーっと……?」

「オレはダリル=ケイシー」

「私はフォルテ=サファイアっす」

「はぁ……どうも?」

 

 見たことないな。

 こんな人たちいたっけかな?

 

「って、」

 

 よくよく見たら、この人達上級生だ!

 ダリルさんは3年生、フォルテさんは2年生だ。

 

「ようやく近くで拝むことができたよ。織斑一夏は何かと見る機会があったが、君はあまりなかったからね」

「通りかかったらいたから話しかけたってわけっす」

「はぁ……」

 

 僕の身としてはどう反応したらいいのか分からないから、かなり困るのだけども。

 

「まあ、それだけだ。じゃあな」

「何か困ったことがあったら連絡するっす。私たち二人が手助けするっす。ではでは」

「あ、はい。お気を付けて……」

 

 行ってしまった。

 ……何がしたかったのかな?

 

 

     Φ

     Φ

     Φ

 

 

「あれが二人目、ねぇ」

「先輩?」

 

 廉太郎と別れて少し経ったあと。

 ダリルはフォルテの横でそんなことを呟いた。

 

「いや、なんでもないよ。……ああ、なんでもないとも」

「……?」

 

 ダリルが不敵な笑みを浮かべる意味が分からず、フォルテはただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 

 




こんにちは´ω`)ノ
30話更新しました。
今回の前書き格言(?)は暇人作業員さんからのリクエストです。
提供有難うございます!
皆さんも「これ載せて欲しい!」というのがあれば是非メッセージをください!

そしてIS最新刊見ました。
いやー、おもしろいですねぇ。
色々設定も増えたのでやりやすくなりました。
続きどんどん書くぞー!!

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