IS《無力な僕は空を逝く》   作:砂肝串

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もう終わりだと思うのも
さぁ始まりだと思うのも
どちらも自分だ

フェデリコ・フェリーニ (イタリアの映画監督)


CODE:33

 

 

 

「一夏ぁっ!!」

 

 

 眼前の光景に、僕は叫ばずにはいられなかった。

 ボーデヴィッヒさんは強いし、そんなことは今更な話で、分かりきっていたことなんだけど、でも、それでも、一夏がこんなにあっさりとやられるだなんて。

 この試合においてはボーデヴィッヒさんの味方であるはずの篠ノ之さんも、僕との戦いの手を止め苦悶の表情を浮かべる一夏の方に釘付けとなっている。

 

「やはり、ダメだなこの男は。話にならん。雑魚にも劣るクズだ」

「う、るせえっ」

 

 一夏はもがくように雪片弐型を振るうが、ボーデヴィッヒさんはそれをいとも容易く片手で受け止めてしまう。

 その表情は呆れと、侮蔑と、落胆と……とにかくそういった、一夏に対する侮辱に値するものだった。

 ふざけるな。一夏に、一夏にそんな表情を向けるなっ。

 

「よくもまあこの程度の力で私の前に立ったものだな。痴愚にも程があるぞ、織斑一夏。とても織斑教官の弟とは思えない」

「……」

「ふん、言葉ですら言い返すことも出来んか。ゴミめ、貴様はここで死ね」

 

 ボーデヴィッヒの右手の先から出現した光の刃、プラズマブレード。その切っ先は一夏の顔面を向いている。

 いくらシールドバリアがあるからって、そんなの危険すぎる。"競技"としてのISバトルの域を超えている!

 無意識、反射だ。すぐ隣にいた篠ノ之さんのことなど気にかけず、僕は一夏に向かって飛翔した。篠ノ之さんが何かを叫んでいたが、気にしない。振り返りもしない。今はただ、一夏だけのことを考えるんだ。

 

「果てろ、腑抜け」

「させないよっ」

「ふん、来たかッ」

 

 叫びつつ、僕はボーデヴィッヒさんにブレードで切りかかる。……が、その一撃は当然のように彼女のプラズマブレードによって防がれてしまう。

 鍔迫り合いの形となり、僕達は対峙する。額と額がくっつくんじゃないかってくらいの至近距離で、ボーデヴィッヒさんは僕に語りかけてきた。

 

「この間の私闘で分かっただろう? お前の力では私には勝てない。何故ならお前の強みは、戦闘における技量や腕力などではなく、精神面における強さなのだからなァッ!!」

「そんなこと、分かってるッ」

「ならば大人しく敗北しろッ」

「くぁっ!?」

 

 視界が眩むほどの衝撃。撃たれた? 殴られた? いや、違う。これは蹴りだ。死角から放たれたボーデヴィッヒさんの蹴りが、僕の脇腹にめり込む。

 トラックに轢かれたんじゃないかってくらいの衝撃だ。実際に轢かれた事なんてないし、実際はもっと凄いのかもしれないけれど、とにかくそれぐらいの衝撃。僕はたまらずボーデヴィッヒから離れ、距離を取る。……というよりも、蹴り飛ばされたことで彼女との距離が開く。

 蹴りだけでこれって、なんなんだよ。いくらISによる能力補正がかかってるからって、人間がこれほどの蹴りを放てるものなのか? 僕にできるとは思えない。自分で言うのもあれだけど、ヒョロいし。

 痛い。痛い、けど。これぐらいじゃやられない。ていうかこの程度で負けてたら情けなさ過ぎる。体勢を立て直して、反撃に移らなければ。

 

「甘い」

 

 でも、ボーデヴィッヒさんはそれだけでは終わらせてはくれなかった。

 未だ体勢を立て直しきれていない僕に向かって、彼女は加速する。せっかく開いた間合いは、それによってあっさりと埋まってしまった。一瞬だ。この一連の流れは一瞬の出来事だ。少なくとも、僕にはそう感じられた。

 

「シィッ」

 

 袈裟懸けに、プラズマブレードによる斬撃が放たれる。標的は当然のことだが僕。体勢を崩されたこの状態では避けることは不可能。このままではおそらく、いや確実に直撃。

 しかし、この斬撃ぐらいではまだ僕の纏う打鉄のシールドエネルギーは底を尽きないはず。尽きないはず、だが。

 

「このまま受け続けるわけには……!!」

 

 時には敢えて攻撃を受けるというのも有りだと僕は思う。でも、そういうのは大抵攻撃を受けた後に何かしらのアクションを起こせる場合に限っての話だ。所謂、肉を切らせて骨を断つというやつ。当たり前な話だが、ただ攻撃をくらうのと、戦略としてくらうのとではまったく意味が異なってくる。

 故に、たとえくらったとしても何のアクションも起こせない僕はこの攻撃をどうにか対処しなければならない。多分、この攻撃を受けてしまったら、その後の彼女の攻撃を防ぐことが出来なくなる。反撃することも出来ないまま僕は袋叩きにされ、敗北することになるだろう。

 それでは、ダメだ。以前と何も変わらない。前回から何も成長していないことになる。

 

「僕だってッ」

 

 現状、僕は滅茶苦茶な体勢をとっている。ボーデヴィッヒさんに蹴られたことによって崩れた体勢が未だ直っていないのだ。

 しかし、彼女の攻撃は迫る。無慈悲に、淡々と、どこか作業的に。

 つまり僕は、この体勢のまま彼女のその一撃をどうにかしなければならないわけだ。

 どうする? ……そんなの決まってる。

 

「どうにかする、だけだァッ」

「ほうッ!」

 

 振り下ろされた雷刃を、僕は急いで左手に移し替えたブレードで受ける。右手で防ごうとしては間に合わない間合いだったからだ。

 僕の利き手は右手。当然左手のみだと力はいくらか減衰してしまうわけで。両手を使ってでさえ力負けしてしまうような彼女の攻撃を、僕の左腕一本の力しか込められていないブレードで受け切れるはずもなく、このままでは無論のこと押し切られてしまう。

 故に僕は早急になにか行動に移らなければならない。だから僕は、そうした。

 

「う、らァッ」

 

 このまま受け続けるのは不可能。力が劣る僕では、押し通されてしまう。……ならば、流せばいい。僕は体を無理矢理捻じり、横に回転することでボーデヴィッヒさんの一撃を受け流してみせた。

 なんとか、事なきを得た。でも、無理矢理行ったツケは回ってくる。首と左肩、それに加えて腰辺りを今の一連の流れで痛めてしまった。でも、動けなくなるほどの痛さというわけではない。まだ、戦える。

 

「あの体勢から私の一撃をかわしてみせたか。少しは腕を上げたようだな、藤井廉太郎」

「僕だって、いつまでも弱いままじゃいられない」

「ふん、その台詞、お前のヒーローとやらにも言ってやれ。────なあ、ヒーロー?」

「くっ!?」

 

 僕がボーデヴィッヒさんをひきつけている間になんとか立て直した一夏が、瞬時加速を用いて瞬時にボーデヴィッヒさんに背後から迫るが……しかし彼女はそれにすら対応してみせる。

 ゆっくりと、しかし隙など見せずに彼女は迫り来る一夏の方を向き、そしてワイヤブレードを解き放つ。

 瞬時加速を用いたことによって急な方向転換ができない一夏は、そのワイヤブレードを避けることが出来ない。ワイヤブレードは難なく一夏に直撃し、彼を縛り上げる。

 

「どうしようもない雑魚め……!」

 

 怒りの念さえ込めて、ボーデヴィッヒさんは一夏にそう吐き捨てた。

 同時に、レールカノンの照準を彼に合わせる。あれをくらえば、ひとたまりもない。実際に至近距離で受けた僕が言うんだ、間違いない。

 

「馬鹿は死んでも治らんというが……さて、腑抜けはどうなのかな。どれ、少しばかり試してやろう」

「させないよッ」

「やれやれ、バカ正直に突っ込んでくるとは……お前もお前で学習をしない奴だ」

「なっ────」

 

 くるりと反転、こちらを向き、彼女はレールカノンの銃口をこちらに向ける。

 まさか、

 

「狙いは最初からお前だよ」

 

 銃口の奥が、輝く。

 僕が捉えられたのはそれだけ。

 次の瞬間には僕は吹き飛ばされていて、どうしようもないほどの痛みが全身を襲った。

 

「ぐ、ぁ」

「廉太郎ォッ!!」

 

 一夏の叫びが聞こえる。

 何でもないよこの程度。そう返したかった。でも、声が出ない。痛い。痛すぎる。なんだよこれ。自制してるのに涙が出てくる。不意を突かれただけで、こんなにも痛さって変わってくるものなのか。ダメだ、ダメだダメだ。何も考えられない。わけが分からない。なんだ、なんなんだこれ。全身も、ISも、何もかもが悲鳴を上げている。視界がISの警告文によって埋め尽くされ、赤く染まっているが、それすらも薄れてきた。視界が白く、意識が失われそうになって、ああもう自分でも何言ってるのかが分からない。

 

「この間は油断して一撃を受けてしまったからな。……今度はきちんと止めをさしてやろう」

 

 そう言って、再び向けられる銃口。

 これ受けたら、死ぬんじゃないかな。そんな気がする。ていうか死ぬ。絶対。いやどうだろう。流石にボーデヴィッヒさんも殺しはしないでしょ。そこらへんの加減はきちんとしてくれるはずだ。……なら、これを受ければ、僕は楽になれる。そう、楽になれるんだ。なら、無理して頑張る必要なんてないじゃないか。

 これまでだってそうだ。無理して無理して無理をして、その先に何が待っていた? ────苦難だけじゃないか。苦しみを乗り越えたところで、次に待っているのはまた苦しみだ。それも、乗り越えたものよりも大きい苦しみ。

 なんだよ、それ。意味が分からない。なんのために乗り越えるんだよ。なんで乗り越える必要があるんだよ。

 楽したって、いいよね? 僕は充分頑張ったよね? そもそも相手は代表候補生なんだ。僕ごときが勝てる相手じゃない。……ああ、そうだ楽になろう。楽になってしまおう。

 僕はそっと目を閉じ、そのままレールカノンによる一撃を────

 

 

「廉太郎、頑張ってッ!!」

 

 

 受ける直前、僕はその声を聞いたんだ。

 

 

     ◆

 

 

 学園についた時にはもう、トーナメントは始まっていた。駆け足でアリーナに向かう。

 途中、トーナメント表を見て、現在誰が誰と戦っているのかを確認した僕はより一層早く走ってアリーナに向かった。

 廊下を走るな、なんて先生には言われてしまうかもしれないけれど、今日この時ばかりは許して欲しい。

 誰もいない無人の廊下を駆け抜け、観客席へと続く階段を駆け登り、ようやく僕は目的地へと辿り着く。

 在校生たちの凄まじい歓声を間近で耳にしながら、しかしそんなものなど一切気にせず、僕はアリーナのフィールドに目をやる。

 そこには、"彼"がいた。ボロボロになりながらも頑張っている"彼"の姿があった。

 周りの目がどうとか、この声が届くかどうかとか、そんなことはまったく考慮しない。

 とにかく"彼"のそんな姿を目にした瞬間、僕は叫んでいた。

 

 

     ◆

 

 

 なにを、やっているんだ。なにをしてるんだ僕は。腑抜け、阿呆、馬鹿間抜け弱虫ヘタレ。なにを弱気になっているんだ、なにを諦めているんだっ……!

 まだ、動けるだろ。止まるな。止まっちゃいけない。立ち止まってはいけないっ!!

 手足はある。ちぎれてないし、潰れてもいない。全然動かせられる。なのに、なのになのに……ああもう、これだから僕ってやつはッ!!

 立ち上がれ、立ち上がれ、立ち上がれ立ち上がれ立ち上がれ立ち上がれ。死力を尽くして立ち上がれ。僕に出来るのは、それくらいだろう? それすら諦めたら、一体僕に何が残るっていうんだよ。

 ボーデヴィッヒさんも言っていただろう。僕が強いのは精神面における強さだって。それを、自分で覆してどうするんだよっ。

 

「う、おぉおぉおぉおォッ!!」

 

 全身を襲う激痛? ISの警告文? 節々から噴き出す火花? ────総じて知ったことじゃないね。何故なら僕は、まだ負けていないッ。

 死んでも譲れないものがある。なら、突き進めよ。

 僕は雄叫びとも呼べる叫び声を吐きながら、立ち上がってみせた。

 それに、ボーデヴィッヒさんは一瞬驚いた表情を見せたが、しかしすぐにまた冷酷なものへと変貌する。

 

「……なんとなく、だが。お前なら屈しないと思っていたよ。しかし、そのザマで何が出来る? そんな状態で形勢逆転ができるようなご都合主義など、この世には存在しないのだぞ?」

 

 彼女の言い分は最もだ。シールドエネルギーは風前の灯で、唯一使いこなせる武器は先程の攻撃の衝撃により手元になく、当然避けられる間合いでもなければ、彼女をどうにかする手立てもない。

 でも、知らないよそんなこと。

 

「何が出来るとか、何が出来ないとか、そんなことはどうだっていいんだよ」

 

 

 そう。無力な僕は、いつだってそうだっただろ?

 

 

「できるできないじゃない。やるんだよ。たとえできなくたって、頑張って頑張って頑張って……頑張り続けて、それでもダメならその何倍も死力を尽くして頑張って頑張りまくるしかないんだッ 。僕にはそれしかできないから。無力で、不器用で、才能も能力もない僕には、それしかできないからッ!!」

「────っ、」

「諦めるわけには、いかないんだッ……!!」

 

 乗り越えた先にまた苦難が待ち受けているというのなら、上等だ、また乗り越えてやる。どんな試練でも乗り越えて、僕はもっともっと高みを目指すんだ。

 だから、来いよ。この程度で負けるような僕じゃない。僕は決っして屈しない。特に、"彼女"がいるこの場において、僕は倒れるわけにはいかないのだ。────僕だって男だ。格好悪いところなんて、見せたくない。

 

「大人しくそのまま敗れろ、藤井廉太郎ッ!!」

 

 今日くらいは格好つけさせて欲しい。いつも頼りなくて、不甲斐ない僕だからさ。

 銃口が輝き、レールカノンが放たれるも、僕は一歩もひかない。ひく気なんて、毛頭ない。

 

「僕は、諦めないッ!!」

 

 その叫びと同時に、レールカノンの砲弾は僕に直撃する。アリーナ全体が揺れるほどの衝撃が、僕を襲ったんだ。秒刻みで失われていくシールドエネルギーと意識、全身の骨が砕かれるんじゃないかってくらいの激痛。でも僕は、諦めなかった。

 不屈の精神。

 僕にあるのは、それだけだから。

 ただただ自分に喝を入れ続ける。ここからが、根性の見せどころだ。

 

 誰かを守るためには強さがいる。弱いままでは誰も守ることは出来ない。だから、僕には強さがいる。力がいる。自身の奥底から湧き上がってくるような、そんな強さが。そんな力が。

 まるで周囲の時間が止まってしまったかのような、そんな感覚を体感しながら僕は"自分"の中に潜り込む。あろうがなかろうが関係ない、僕の中にある強さを、力を、無理やり引きずりだしてやるんだ。ご都合主義は存在しない。だが、今はそのご都合主義ってやつを、自らの手で掴み取ることしか僕に残された手段はない。

 深く、深く、自分の中を潜っていく。僕という存在の芯とも呼べるような場所までただひたすら潜り続ける。

 とにかく探して探して探すんだ。その結果、僕の中に何もなくたって構わない。その時はその時で、自力でご都合主義ってやつを引き起こすんだ。

 

 僕のシールドエネルギーが0になるまで、もう何秒も残っていない。その僅かな刹那の刻の中、諦めずもがき、足掻き続けていた僕は、自分の中にあった"何か"を掴み取ることに成功した。触れた瞬間、どこか懐かしいような、そんな感覚が僕の全身を突き抜けていったが、今はそんなことどうでもいい。それが何なのかは知らないし、今この場で分かろうとも思わない。

 勝つために……いや、負けないために、僕はそれを惜しげもなく使った。

 

 結果起こったことが、奇跡なのか、それとも僕が自力で起こした現象なのかは分からない。

 でも、結果としてそうなった。なら、今はそれだけでいい。過程なんて、終わったあと考えればいいんだ。

 僕を起点に、辺り一体が眩い光に包み込まれる。

 

 

「馬鹿、な」

 

 

 砲撃と共に、光が止む。

 至近距離でのレールカノンを受けてもなお倒れない僕の姿を見たボーデヴィッヒさんは、あまり似合わない驚愕の表情を浮かべていた。

 何をそんなに驚いているんだ。言っただろう、僕は、諦めない、負けないって。

 

 

 ────ここからが僕の"ご都合主義"だ。

 

 

「さあ、勝負だボーデヴィッヒさん……!!」

 

 新たに生まれ変わった打鉄を身に纏いながら、僕ははっきりとした声音で、ボーデヴィッヒさんに向けてそう言い放った。

 

 

 





長らくお待たせいたしました。
本日より定期更新を再会したいと思います。
週1〜2更新を目安にしていきたいので、応援のほどよろしくおねがいします。
重ね重ね、長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

なお、前書きの格言は日野洋人さんのリクエストによるものです。ありがとうございました。
格言は随時募集しているので、よろしければご意見のほどよろしくおねがいします。
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