IS《無力な僕は空を逝く》   作:砂肝串

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 翌朝。時刻は四時少し過ぎ。

 あの後更識先輩と軽く談笑した後に、予習を何時間かやったあとに寝た。比較的早く寝たためか、割と早くに起きてしまう。

 となりのベッドでは、更識先輩がまだ寝息を立てている。

 僕は物音を立てないようにこっそりと着替えて顔を洗い、机に向かう。

 

「…………よしっ」

 

 今日からはもっと、頑張らなければ。

 

 

     Φ

 

 

「おはよ〜……」

「おはようございます、先輩」

 

 眠い目を擦りながら、更識先輩は僕が起きた一時間後に起床した。

 そして、僕の姿を見るなり目を丸くして驚く。

 

「君、何してるの?」

「何って…………勉強、ですね」

 

 普通に答える僕。

 事実、これは今日の授業の予習だ。復習も少しだけやってはいるが。

 

「何時からやってたの……?」

「四時半くらい、ですかね」

「そんなに早くから……」

 

 本当に驚いた様子で僕を見る先輩。

 そんなに驚くことかな……?

 僕は普段からこんな感じだったけども。

 

「僕、要領悪いから。人の何倍も努力しないとダメなんです。特にISに関しては何も知らないから、今まで以上に頑張らないと…………」

「…………」

「何の才能も実力も能力も持ってませんから、僕。まあでも、それでも諦めたくはなかったから……頑張ってるつもりです。まだ足りてないみたいですけどね……」

 

 あははと苦笑する僕の頭を、更識先輩は優しく撫でてきた。

 

「え、えっ!?」

「うーん、関心関心。いや、驚いたわお姉さん。君がそんな頑張り屋だとは思わなかったよ」

「え、いや、あのっ」

「普通、君の年齢かつその立場の人間なら腐って努力しないで適当にやったりするもんだけどね…………いやいや、君はそんなことなかったみたいで安心したよお姉さん」

 

 そんなベタ褒めすることかな……?

 うーん、よく分からない。

 

「分からないところがあったら聞いてね?私が答えられる範囲なら何でも答えるから」

「あ、ありがとうございますっ」

 

 優しいな、更識先輩。

 この厚意にはありがたく甘えさせてもらおうかな。

 

「じゃあ、早速一ついいですか?」

「うんうん、まかせなさいっ♪」

 

 

     Φ

 

 

 場所は変わって一年生寮の食堂。

 一年生だけでもかなりの賑わいとなっており、見た瞬間僕は圧倒されかけた。

 

「…………」

 

 僕が来るなり、周りの騒がしさが若干静かになったような気がした。それに加えて、数多くの視線が突き刺さる。かなり、辛い。胃が、痛いなぁ。

 

「ねえねえ、彼が噂の……」

「え?じゃあ、織斑先生の弟っていう……」

「違う違う、もう一人の方……」

「ああ、あのあんまりパッとしない……」

 

 ヒソヒソ話がまたも耳に入ってくる。

 …………そりゃあ、まあ、一夏はイケメンなのに対して僕は普通な容姿……いや、下手したらブサメンなのかもしれないけどさ……何も、口に出さなくたっていいんじゃないかな。

 

「正直、微妙なんだよねぇ……」

「根暗そうだし……」

「オタクだったりして……」

「何それ、いやだ……」

 

 嫌だ。嫌だ嫌だ。やめてくれ。陰口なんか聞きたくない。そんなもの、昔飽きるほど聞かされた。こんなところに来てまで聞かされたくない……!!

 

「僕は、僕は何もしてないじゃないか…………」

 

 思わず口から溢れた言葉。

 それが聞こえたのかどうかは知らないが、それで陰口はパタリと聞こえなくなった。

 

 惨めだ。

 自分が、酷く惨めだ。

 どこにいっても陰口ばかり。

 

「はぁ…………」

 

 憂鬱だ。

 やはり、憂鬱だ。

 

「お、廉太郎じゃん。おはよう!」

 

 背後から一夏に声をかけられ、僕は我に戻る。

 僕は振り返って慌てて返事を返す。

 

「お、おはよう一夏っ」

「どうしたんだ、そんなに慌てて?」

「な、何でもないよ」

「そうか?ならいいけどさ。んじゃ、飯取りに行こうぜ!」

「うん」

 

 歩き出した一夏の後ろを歩く僕。

 その際に、またあの声が聞こえてきた。

 

「やっぱり、織斑くんかっこいいなぁ……」

「あんな彼氏欲しいよね……」

「藤井くんと一緒にいるとより映えるよね……」

「いい感じで織斑くんのイケメンさを際立たせてくれてるわね彼……」

 

 僕とのあまりの違いの差に、そして一夏の比較対象としてしか認識されていないという事実に、やはり惨めな思いになる僕だった。

 

 

     Φ

 

 

 授業。

 予習をしたのにも関わらず、ついていくのがギリギリな状態だ。辛うじて、といった感じだろうか。

 

「分からないことがあったら何でも聞いてくださいね?」

 

 授業の途中に放った山田先生のその言葉は、先日どこかで聞いたことがあるようなものだった。

 僕がそれに甘えようと手を挙げようとした、その時。

 

「はいっ」

 

 一夏が手を挙げる。

 

「ほとんど分かりませんッ!」

 

 クラスの数人がズッコケ、笑いが起こる。

 だが、僕は彼のことを笑えない。僕も似たようなものなのだから。

 

「ほ、ほとんどですか!?え、えっと……他に現段階でほとんど分からないという人はいますか…………?」

「…………」

 

 僕が恐る恐る手を挙げると、一夏は仲間がいたことに喜び、山田先生は絶望的な顔をしていた。

 ちなみに笑いは起きない。代わりに、またあのヒソヒソ話が。

 

「頭悪いんだ……」

「まあ、織斑くんはどこか抜けてるような気がするから分かるけど……」

「藤井くんもなんだね……」

「なんだかなぁ……」

 

 再び聞こえてくる小声。

 僕は、そんな彼女たちに言ってやりたい。勝手に期待しといて期待どおりに動かなかったからって陰口を叩くのはやめてくれ、と。

 というか、何で僕だけ一夏とは扱いが違うんだ。あんまりじゃないか。

 

「お前たち、入学前に配布した冊子は全て読んだのか?」

 

 あの電話帳並に分厚い冊子。

 ISの基礎知識などが叩き込まれたものだ。あれをきちんと読めば序盤の授業程度にならついていけるらしいのだが……僕の能力不足で、ちゃんと読んだにもかかわらずついていけていない。

 

「冊子……?ああ、それなら確か古い電話帳と間違えて捨て────」

「馬鹿者がっ!あれほど読んでおけ釘をさしておいたであろうが!!」

「いってえええええッ!?」

 

 教室内がどっと沸く。

 それにしても、電話帳と間違えるのって…………。

 

「お前はどうなんだ、藤井」

 

 織斑先生の目が怖い。

 有無を言わさずって感じだ。 

 本当のことを言わなければ殺されそうだ。

 

「えっと……読みました。三周くらい…………」

 

 笑いは起きない。

 何とも言えない空気が流れる。

 

「……本当のことを言え」

「いや、あの、本当のことを行ったつもりなん、ですが?」

「……………………はぁ」

 

 呆れたような、そんなため息。

 仕方がないじゃないですか。読んでも分からなかったんですから。

 他の人よりも僕は出来が悪い。だけどそれを理由に努力をしなかったわけではない。自分なりに頑張ったつもりだ。でも、それでも分からないんだ。どうしたらいいというんだ。

 

「もう一度ちゃんと読み直せ。織斑、お前には後で新しいものをやる。二人とも一週間以内に読み直せ」

「ちょ、あの厚さを一週間以内とか────」

「異論は聞かん。やれ」

「は、はいい……」

 

 一夏が項垂れながら返事をするのに対し、僕はそれに隠れるように小さく、弱々しく返事を返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




相手は悪くないのに、それでもその相手に苦しめられるのって一番辛く、タチが悪いですよね。
自分にはどうしようもなくて、相手は悪くないからどうすることもできない。

こういう場合、何が正しくて、何が間違いなんでしょうか。
僕には分かりません。

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