優しさがかえって苦痛になる。
それは、双方にとって何よりも辛いことだと思います。
時は経ち、月曜日。
決闘の当日だ。
あれから僕は何回か先輩との訓練を行い、今日にまで至った。
はっきりいって、何も進歩していない。これは先輩の教え方が悪いとかではない。僕自身がどうしようもないグズなだけだ。
「緊張するなぁ」
ピットの中、隣では僕と同じようにISスーツを着用した一夏が微妙そうな顔をしている。
「一夏、大丈夫そう?」
「いや……結局ISには触れてないし……やばいと思う、普通に」
「え?ISを使った特訓とかしてないの!?」
「おうよ。ずっと箒と剣道の訓練だ」
「…………」
果たして、大丈夫なのだろうか。
一夏も僕と同じでそこまでISには触れていない。
むしろ時間に関しては更識先輩との特訓をしていた僕の方が上だろう。
「そういう廉太郎は?」
「僕は先輩にISを実際に使った訓練をしてもらってたけど…………ダメだよ。僕、ISの才能ないし」
「そんなこと言うなって。まあ、さ。負ける気はないけど……勝つのは正直難しい。ていうかほとんど不可能だ。負けても当たり前……とは言わないけどそんくらいのレベルなんだからさ。そう悲観的になんなよ!」
「そう、だね」
あ、どうやら試合が始まるみたいだ。
最初は僕とオルコットさんの戦いだ。
その次に一夏とオルコットさん、さらにその次に僕と一夏の対戦だそうだ。
「…………頑張る」
「おう、頑張れ!」
含みのない、爽やかな笑みで激励してくれる一夏。
やっぱり一夏はいいやつだ。
────でも、最近なんだかその一夏の優しさが逆に辛い。
やっぱり、僕は最低だ。
Φ
待機形態であった打鉄を纏ってアリーナ内部へと飛ぶ。
すると、観客席に大量の生徒たちが。
まさかこんなに来ているだなんて…………。
「あら、逃げずに来たようですわね」
「…………僕だって、やるときはやるんだ」
「ふん。大勢のギャラリーの前で、大恥をかかせてさしあげますわ」
試合開始のブザーが鳴り響く。
「うあああああッ!!」
僕は刀型ブレード《葵》を展開し、オルコットさんに向かって飛ぶ。
「あら、随分と遅いですわね」
「くっ」
しかしそれはあっさりとかわされる。
でも、まだだ!!
「うらぁッ!!」
「まあ!なんて直線的な攻撃!よけてくださいと言っているようなものですわ!!」
「くそ、くそっ!!」
更識先輩に習ったことを何も生かせてないじゃないか!!
くそ、当たれ!当たれ!!当たってくれ!!
「本当に愚かな人でしたわね。期待したわたくしが馬鹿でしたわ」
すると彼女は手元にスナイパーライフルを展開、即時僕に照準し光弾を放つ。
「ああああッ!?」
頭、肩、胸部と立て続けに攻撃をくらってしまう。
シールドエネルギーがごっそりともっていかれた。
このシールドエネルギーが0になった時、僕は敗北する。
「くそ、くそ、くそッ!!」
「おしまいですわ」
負けじと飛びかかる僕の頭に彼女の放ったレーザーが直撃したところで、試合は終了した。
────言わなくても分かる通り、何もできずに終わった。
Φ
「お疲れさん、廉太郎」
「……………………うん」
ギャラリーの何人もが僕を失望したような瞳で、あるいは嘲笑うかのような瞳で見つめていた。
それが、どうしても悔しい。
「お前の仇は、俺が取るぜ」
「…………うん」
一夏は失望も嘲笑いもしない。
その事実が、今の僕の心を少しだけ慰めてくれる。
「いってくる」
「いってらっしゃい。頑張って」
「おうよ!」
白いISを纏いながら、彼はアリーナへと飛び立って行った。
あの白いISは一夏専用に造られた専用機なのだとか。何でも男性パイロットのデータ収集が主な目的らしい。
では、何故僕に専用機が造られなかったのか?
なんでも、データ採取に二人もいらないのだとか。ただでさえ、ISは個体数が限られているのに二つもISを製造して提供することはできないのだそうだ。だから、僕には打鉄が当たったわけだ。まあ、無いよりはマシだねど。
まあ、単純に僕よりも一夏の方が広告塔になるからという理由もあるのだろうが。
「…………はぁ」
考えれば考えるほど、惨めだ。
Φ
結果は一夏の負け。
だが、僕なんかとは比べ物にならないほどのいい結果での負けだ。
一夏は何と、僕よりもISに触れていないというのに代表候補生であるオルコットさんを、一時は追い詰めたのだ。後少しで勝てる、というところで一夏のエネルギーが底をついて負けた。
「くそ、負けたっ!次は勝つッ!!」
「……お疲れさま、一夏」
「ごめんな、廉太郎。お前の仇はとれなかった……」
「ううん、そんなことない。凄いじゃないか一夏」
やめろ、汚いことを考えるな。
分かってる。一夏にそんな気が無いのは分かっている。これは、これは僕の勝手な思い込みだ。
────でも、どうしても一夏が"僕のことを馬鹿にしている"ようにしか聞こえないんだ!嫌味を言っているようにしか聞こえないんだ!!お前と俺では格が違うんだ、と。比べるまでもないんだぞと言われているような気がしてならない。
やめろ、やめるんだ。一夏はいい人なんだ。なのに、なのに僕はそれを踏みにじってる。最低だ。最低だ、僕は……………………。
Φ
次いでの試合。
これも僕の惨敗。
オルコットさんの時よかは動けたが、それでも惨敗。「正々堂々戦おうぜ!」と言ってくれた一夏も後半は手加減をしていたようにも見えた。まあ、これも僕の勝手な思い込みだが。でも、惨めだ。
最近、疲れてるのかな…………。
一夏のことをどうしても悪く見てしまう。彼は、微塵も悪くないのに。悪いことなんてしてないのに。
「もう、何なんだよ…………ッ!!」
僕は更識先輩がいないのをいいことに、部屋で一人泣いた。悔しさのあまり、泣いた。
あまりにも自分が不甲斐なくて、情けなくて、アホらしくて馬鹿らしくて。
「どうして僕はこう、何もできないんだ………………」
何をしたらいいんだ。
誰か、教えてください。
原作を見る度に思います。
一夏って、普通じゃないですよね。
国家代表の次に強い代表候補生を素人同然の腕で追い詰めたんですから。それを織斑千冬の弟だから、の一言で片付けてしまうのはちょっとなぁ……と思うこの頃。