俺は死んだ。そして蘇った。
いや、正しくは転生か。しかし俺は俺であり、この身体は俺ではないが心は俺だ。なら蘇ったと言っても過言ではないだろう。
俺は知らない世界で目が覚めて、知らない親と暮らしていた。だがある日、気付いたのだ。胸元に穴が空いていることに。鏡越しに覗いてみれば、工業部品が覗いている。オイルは血のように赤いが。
一体なんだろうかと思った瞬間、本能的に親指を突き刺した。すると歯車が回りだす。ギアが噛み合い、どこからともなくバラッバラッとプロペラの音が鳴り響く。そして火花が走り──。
両親が死んだ。俺が怪物に成り果てた際に家が倒壊したのだ。だが、悲しみはない。そんなことよりも重要なことがある。俺は悪魔だった。なにせ頭部が巨大なレシプロエンジンと化しては胴体にまで食い込み、両腕両足が金属板に覆われていたのだ。
とりあえず逃げよう。
一心不乱に走る。走り続ける。しかし排気管から白煙が吹き出し、プロペラがバラバラと爆音を鳴らし続けていた。これ逃げれなくね? 俺はどうにかできないかと考えた時、ある妙案を思い付いた。
俺は悪魔だ。プロペラの悪魔だ。なら空を飛べばいいじゃないか。
この世界は悪魔が日常に溶け込んでいる。テレビニュースでは悪魔被害の報道をしており、弱い悪魔を飼う人間だって存在する。そして俺は悪魔そのものだった。いや、人間ではあるから悪魔人間か? よく分からないが、今はのんびりと空の旅を楽しむことにしよう。
真っ白な雲海と真っ青な空。俺は前世で知っていたレシプロ機に変身?変形?して空を飛んでいた。名は「流星」。大日本帝国海軍の艦上攻撃機だ。普通に考えて詳細を知らず、実際に見たこともない航空機に変身できる訳ないが、なんか出来た。ご都合主義ってやつだろう。気にしたら負けだ。
さて、今直面している問題がある。それは燃料だ。恐らく血液がガソリンとなってエンジンを稼働している。つまりは補給が必要だ。輸血? そんな人間らしいことはできない。なら悪魔らしく人間達を虐殺するか? 正直それでもいい。俺は人間を遥かに凌駕する力を手に入れてウズウズしてるんだ。しかし、ここで立ちはだかる問題がある。それはデビルハンターだ。悪魔が日常的に存在するように、悪魔を狩る者達が日常的に存在する。彼らは悪魔と契約を結び、悪魔の力を使って悪魔を殺す。俺も当然討伐対象だろう。
困ったな。しかしデビルハンターの殉職率が高いのは知っている。そのため万年人手不足なのも。何が言いたいのかと言うと地方、それも田舎の方ならデビルハンターの数が少なく、実力も低いと予想できるのだ。
やることは決まった。陸路で来づらく、デビルハンターがいないと思われる過疎地域へと行けばいい。俺が今いるのは東京か埼玉の上空。ならここから南下する。そして海へと出る。向かうべき場所は伊豆諸島のどれか。
人口が少なく、定期船の少ない場所がいいだろう。しかし燃料の問題がある。あまりにも遠すぎるのは駄目だ。なら大島を超えた先にある三宅島にしよう。そこで住民達に血を分けてもらい、燃料を補給する。そして情報収集に励む。
完璧なプランだ。やはり俺は天才かも知れない。蘇ったのも俺が選ばれた人間だからだろう。ハハ、これからの人生が楽しみで仕方ないな。
三宅島。そこは遥か昔に海底火山が噴火して誕生した島であった。そのため島は円形をしており、ど真ん中には雄山と呼ばれる山と、噴火口であるカルデラが存在する。住民達は島の外周に居を構え、水産資源や観光資源を元に生活をしていた。
そんな都会の喧騒とはかけ離れた島に住む一人の男性。彼は休漁日だったので、妻と一緒にのんびりとテレビを眺めていた。
和室に置かれたアナログテレビにはニュースキャスターが映っており、情報を発信している。
『次のニュースです。本日未明、東京都〇〇地区で家屋が倒壊する事件が発生しました。悪魔を見たと目撃証言が上がっており、警視庁は公安対魔特異課と協力し、悪魔被害の線で捜査を進めています──』
「都会は恐ろしいわねぇ〜」
「だなぁ〜」
男は妻の言葉に同意をすると、寝っ転がり体を伸ばした。彼はいつも通りの日常になんの感慨も覚えなかったが、この平穏がいつまでも続くのだろうと考えていた。しかし、変化が訪れる。
……バラ……バラ……
始めは気にしていなかった音。
……バラバラ……バラバラ……
だが、段々と近づいてくる。
……バラバラバラ……! バラバラバラ……!
男は起き上がり、辺りを見渡した。しかし変化は無く、耳を澄ませば外、それも上空から音が響いていた。
「な、なんだ……?」
バラバラバラバラバラバラ!!
男は恐怖心に駆られると、急いで障子に近寄り思いっきり開いた。その頃には音が振動となって伝わってきており、体を揺さぶるほどの爆音となっていたのだ。
太陽に照らされた男は思わず目を細める。しかしすぐに影が落ちた。男が何事かと見上げたその時。
プロペラ機が目と鼻の先にあった。
「あっ」
男がすり潰される瞬間、声が聞こえた。悍ましい、悪魔の囁きが聞こえた。
──コンニチハ、死ネ。
住民数十名に血を分けてもらい、ガソリンタンクが満タンとなった。これなら補給を必要とせず、本土へと帰れるだろう。しかし派手に暴れてしまったせいで島内がパニックになりかけている。島の反対側にはまだバレてないが、悪魔が現れたといずれバレる。なら、皆殺しにするしかない。
まずは足を潰そう。俺は流星へと変身し、大空を舞う。そして停泊している船に片っ端から機銃掃射をした。弾薬は血液。消費量が上がるが仕方ないと割り切る。
二十ミリ機銃が火ではなく血を吹き出しながら次々と船を航行不能にしていく。やがて港に止まっていた船はどれも沈黙した。
次は島民達の対処。彼らが固定電話で助けを呼ぶのは想定済みだ。だが防ぐ手立てがないためスルー。しかし時間が経てば立つほどリスクが高まるので、俺は島民が避難している市役所へ高度を維持しながら向かった。
高度四〇〇〇メートル。俺は機体を反転させ、急降下を開始した。とてつもないGが掛かり、機体そのものがガタガタと揺れ動く。だが限界ギリギリまで速度を出し、地上を目指した。
高度三〇〇〇メートル。小さいながらも目標が見えてきた。
高度二〇〇〇メートル。目標に対して角度を微調整する。
高度一〇〇〇メートル。ここらで十分だろう。
俺は機体下面にあるハッチ──爆弾倉をガバリと開ける。まるで肋骨を開き内蔵を曝け出しているような感覚を覚えるが、ぐっと堪えて中で精製した五百キロ爆弾へと意識を移した。感覚としてはラジコンだろうか。それはともかく爆弾を切り離し、地上へと落とす。そして機体は水平へと戻すと、可能な限り退避させた。
爆弾後部に取り付けられた羽根車が回り、ヒュルルルルと風切り音を鳴らす。目標である市役所へは一直線に向かっており、もはや誰にも止められない。俺は微かな興奮を覚えながらも重力の赴くままに落ち続け、そして──。
爆発した。
大きなきのこ雲が見える。無事に市役所へと落ちたようだ。爆心地は跡形もなく吹き飛んでおり、間違いなく生存者はいない。しかし困った。これでは血が回収できない。それに五百キロ爆弾を精製したことによって血が足りない。いいことが何もねぇじゃねぇか。
仕方がないので島の裏側を目指し、飛翔した。今一度島民達に血を分けてもらうことにしよう。