廊下を粉砕しながら巨大な狐の頭部が現れ、それはサムライソードの片腕ごとデンジに噛み付いた。
『早川アキ……私に飲み込めというのかい?』
巨大な目玉がギョロリとアキの方を向く。
「違う、吐き出してくれ。それとすまん。次呼んだ時はもっとイイものを食わす」
『フン……忘れるんじゃないよ……』
狐の悪魔は煙のように消え、デンジがその場に残された。そこへパワーが猛追し、取り返そうとするサムライソード達を牽制する。
「がははははは!! ワシが最強じゃああああああ!!!」
「クソッ! 邪魔しやがってぇ〜!!?」
サムライソードは片腕であり、その腕で沢渡アカネを抱えているため反撃ができない。そのため、苦渋の決断として逃亡を選択していた。
「どうじゃデンジ!! ワシに恐れをなして逃げたぞおおお!!!」
「早く追いかけろやぁ!!?」
その場で高笑いをするパワーを他所に、アキは無線機で通信をする。重要対象は逃亡、七階から飛び降りる可能性あり。方角は南側。
その後、アキは必死に二人を追いかけたが、予想通り彼らは窓を突き破り地上へ飛び降りるのだった。
落下に伴い爆風に襲われる二人は、前方のビルより二人の武器人間が迫っていることに気付いた。
「キャハハ! こっちに来るなんて馬鹿だなぁッ!!」
「焦らず、冷静に対処しますよ!」
「分かってらァ!」
ムチコとスピアだ。両者は競うようにこちらへやってきており、サムライソードは臍を噛む。
「クソ、やっぱり五課の奴らがいやがる……!」
「落ち着け、あれを見ろ!」
アカネが指差した方角には電車が走っていた。いくら武器人間といえど、そう簡単に追いつけるものではないだろう。サムライソードはすかさず電車に飛び乗り、窓を突き破って客車内に避難した。
乗客が驚く中、サムライソードは武器化を解除して食い千切られた腕を止血する。そして先頭車両を目指して走り出した。
「とにかく遠くへ逃げるぞ!」
「分かった。……その、さっきはありがとう」
「ああ!」
サムライソード達は客車を行き来し、あと一歩で先頭車両という所で立ち止まることとなった。何故ならば、窓を突き破ってムチコとスピアが乗り込んできたからだ。
「逃がす訳ねぇだろォ!」
「荷物を抱えながらでも、意外と動けるものですねッ……!」
サムライソードは瞬時に左手を抜き捨て、武器人間と化す。その間に乗客達は避難をしており、客車内には四人の男女が残された。
睨み合う両者。しかしアカネはもはや戦闘に参加できないため、サムライソード達が圧倒的に不利であった。
始めに動いたのはムチコだ。彼女は床を蹴り、壁を蹴り、そして天井を蹴りつけ、目にも止まらぬ速さでサムライソードに肉薄した。そして、鞭と化した両腕を束ねて薙ぎ払ってきたのだ。
僅かな風切り音。それがした時には客車そのものが斜めに切断されていた。辛うじて脱落することはないが、抉られた断面は細く、そして鋭い。
「ほぉ! これを避けるか!」
「クソ……!」
地に伏せることでサムライソード達はやり過ごしていたが、彼女へ反撃する余裕がなかった。
「ムチコちゃん、殺しちゃ駄目ですよ?」
「……分かってるよ!!」
「本当かなぁ」
スピアがやれやれと首を振ると、クラウチングスタートをとる。そして、次の瞬間──サムライソードに飛び膝蹴りを食らわせていた。
頭部の刀を砕かれ、そのまま綺麗に並んでいた歯さえも粉砕する膝蹴りに、サムライソードは一瞬意識を飛ばす。だが気合で意識を呼び戻すと、再生した腕でスピアを貫いた。
「危ないですねぇ……!」
しかしスピアは刀と身体の間に槍を挟み込んでおり、致命傷を防いでいたのだ。サムライソードが思わずスピアの顔を見上げると、彼は凄惨な笑みを浮かべて殺し合いを楽しんでいた。
「チッ! どいつもこいつもイカれてやがるッ!!」
悪態をつくサムライソードだったが、状況は悪くなる一方だ。距離を取ったスピアはムチコの隣に並んでおり、恐らく次は二人同時に攻めてくる。サムライソードはアカネを後ろへ下がらせて防御の姿勢を取るが、もはや後はどれだけ時間を稼げるかといった問題だった。
最善策を必死に考えるサムライソードを他所に、二人の姿が掻き消える。スピアは真っ直ぐこちらへ迫ってきており、ムチコは壁を蹴り、不規則な動きでこちらへ迫ってきている。もはやここまでか。そう考えたサムライソードはせめて一矢報いてやろうと、攻撃の構えを取った。そして足に力を溜め、解放しようとしたその時。
アカネが前へ出た。
サムライソードは反射的に彼女を庇おうとするが、もはや手遅れだった。スピアがすでに槍を突き出しており、アカネを貫いたのだ。
「ガッ、あああ……」
「おや、まさか貴方が出てくるとは」
「キャハハハハ!! おいおい殺すなよ!!」
スピアは困惑しており、ムチコは大笑いをする。サムライソードは何故アカネがこんな真似をしたのか分からなかったが、彼女がこちらを振り向き、口を動かしたのを見て真意を悟った。
──逃げろ。
槍の根本まで腹部を貫通され、血反吐を吐きながらもこちらを案じるアカネに、サムライソードは答える。
「ッ見捨てられる訳ねぇだろォォォ!!!」
そして最後の突貫をした。今まで感じたことのない高揚感、そして全能感を味方につけてサムライソードは前へと進む。
対するスピアはアカネを引き抜き槍を構え、ムチコはサムライソードへ応えるように突貫してきた。
「キャハハハ!! ならァ私と死合おうぜェェ!!!」
「うるせぇぇぇぇぇ!!!」
音速を超える鞭が振るわれるが、サムライソードは紙一重で躱しムチコを殴り飛ばした。そして一直線にスピアへ迫り、全身全霊をもって刀を突き出す。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
「いいですねぇッ……!!!」
凄惨な笑みを浮かべるスピアもまたサムライソードに応え、全身全霊をもって槍を突き出した。やがて両者は交差をし、互いに位置が入れ替わる。
「クク、貴方の将来が楽しみですよ……!」
「……スマン、沢渡」
腹部の大部分が抉れ落ちたサムライソードは、その場で頽れた。大量の血を流し、徐々に意識が薄れていく中、彼は共に倒れていたアカネに寄り添われる。
二人は一言も喋ることはなかった。しかし、確かに心を通わせていたのだ。
──ありがとう、嬉しかった。
──うるせぇ、お前を守れなかったよ。