転生したらプロペラヘッドだった件   作:卍錆色アモン卍

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レゼ篇


15出会い

 

 

 

 東京のある街角をデンジは歩いていた。彼の考えることはいつだってマキマのことだ。

 

「はぁ、イイトコ見せれなかったなぁ。結局五課にサムライソードやら女やらを取られるしよ〜」

 

 悪態をついたデンジは俯く。そしてマキマに気に入られている特異五課に嫉妬をした。俺もマキマさんに気に入られたい。見てもらいたい。そんなことを思ってはため息をつき、自身の無力さに嘆いていた。

 

 

 

 かつて、劣悪な環境にデンジは居た。借金をしていた父が自殺をしたため、借金取りのヤクザにいいように使われていたのだ。デンジは父が死んだ日に親友となった小さな悪魔、ポチタと共にデビルハンターとしてヤクザに雇われ、借金を返す日々を過ごしていた。

 

 だが、ある日。デンジはヤクザに騙され、ポチタ諸共殺された。そこでデンジの人生は幕を閉じた、閉じたはずだった。しかし──ポチタが契約を結び、デンジを救ったのだ。

 

 ──私は、デンジの夢の話を聞くのが好きだった。

 

 ──これは契約だ。私の心臓をやる。

 

 ──代わりに……。

 

 ──“デンジの夢を私に見せてくれ”。

 

 そう最後にポチタは言い、デンジの心臓となった。それ故にデンジは夢を追わなくてはならない。そして、その夢とは。

 

 “普通の暮らしをして、普通の死に方をする”。

 

 ただ、それだけのこと。でもだからこそ、デンジは恋をする。何故なら、誰かと恋をして、親友と心から遊んで、そしていつの日か大切な人と愛を育む。そんな普通の暮らしを夢見ているからだ。

 

 

 

 考え事をしていたデンジは、肩に落ちる水滴を見てようやく雨が降り始めたと気づいた。どうやら通り雨のようで、すぐさま土砂降りとなり身体を濡らす。

 

「キャキャ! 水だ水だ!」

 

「ッビーム! てめえはひっそりしてろよ!」

 

「ア、ハイ!」

 

 突如として地面から浮き出てきた魔人にデンジは叱った。彼はサメの魔人であり、訳あってバディを離れたパワーの代わりを務めているのだ。彼、ビームは命令通りに地面へ潜ると姿を消した。

 

 大雨が降る中、デンジは避難するために走り出す。すると、電話ボックスを見かけたためそこへ転がり込んだ。

 

「傘持ってくりゃよかったぜ……」

 

 デンジはそんなことを言ってしばらく待っていると、一人の女性が同じように転がり込んでくる。彼女は雨に打たれて濡れており、困ったように笑っていた。

 

「わあ、どうもどうも。いやはやすごい雨ですね」

 

「あ〜、ああ」

 

 彼女が気安く話しかけてきたかと思えば、突然笑いだした。そしてデンジの顔を見て、死んだ犬を思い出したと言ってきたのだ。

 

「はあ!? オレ犬かよ〜!」

 

「ごめんなさいごめんなさい!」

 

 平謝りをする彼女に毒気が抜かれたのか、デンジはそれ以上何かを言うことはなかった。しかし無言でハンカチを取り出すと、彼女へ渡す。

 

「……え?」

 

「濡れてんじゃねえか。これで拭けよ」

 

「ありがとう……」

 

 この時、デンジは初めて彼女の顔を見た。とても澄んだ色をしたエメラルドグリーンの瞳。ほのかに赤く染まった頬。そして、デンジだけを見つめる整った顔立ち。デンジは思わず見惚れてしまい、彼女を見つめ返してしまった。

 

「あ~! 雨止んだよ!」

 

 空を見上げた彼女はそう言うと、デンジの手を引いて外へ出た。

 

 

 

 すっかり雨雲が通り過ぎた空は日が出ており、徐々に気温が上がっていた。所々に水溜まりはあるが、いずれ乾くだろう。

 

「私、この先の二道(ふたみち)ってカフェでバイトしてるの。来てくれたらこのお礼してあげる」

 

 彼女はそう言うと去っていく。去り際に、「絶対来てね!」とデンジに声を掛けて。

 

 

 

 喫茶店、二道。そこは東京のある街角に存在する至って普通のカフェであった。それなりに歳を重ねたマスターが一人で切り盛りをしており、決して大繁盛はしていないが、根強い常連客がいるような隠れた名店であった。

 

「いらっしゃい」

 

「あ〜、その。ここでバイトしてる子に、お礼を貰いに来たんすけど……」

 

「本人から聞いてるよ。空いてる席に座って待っててくれるかな?」

 

「あ、はい」

 

 デンジがテーブル席に座ると同時に、バックヤードからエプロンを身に着けた彼女が出てくる。そして、すぐにこちらへと気付いた。

 

「って早〜!? ええ〜? 私より早く来たでしょ!」

 

「まあ、そういえばそうかな」

 

 デンジは彼女が持ってきた水に手をつけると、素っ気なく言った。

 

「お礼貰いに来ただけだぜ」

 

「ふ〜ん」

 

 何を思ったのか、彼女はデンジの隣に腰掛けると密着するほど近づいてきた。

 

「一緒に飲みますか〜。へいへいマスター! 私と彼にコーヒーを!」

 

 そして、そんなことを言ったのだ。マスターは店員でしょと彼女に伝えるが、口八丁な彼女に丸め込まれ、仕方なくコーヒーを二人分用意していた。

 

 

 

 テーブルに湯気の立つコーヒーが置かれる。彼女は嬉しそうにデンジを見て言った。

 

「お礼はコーヒーでした! コーヒー、好き?」

 

「……飲む」

 

 デンジは少し躊躇いながらも口をつけ──盛大に顔を顰めた。

 

「プッ、何その顔〜! 絶対強がってる!」

 

「だぁって、コーヒーってマズくねえか!? ドブ味だよドブ!」

 

「あはははは! 子供だ子供! あははははは!!」

 

 彼女は涙を流すほど大笑いをして、デンジの肩に手を乗せてくる。デンジは見惚れた女の子のさりげないボディタッチに心を乱され、思わずたじろいでしまった。

 

 やがて笑い終わった彼女は、デンジを見つめて話し出す。 

 

「私の名前レゼ。キミは?」

 

「デンジ」

 

「デンジ、デンジ君……」

 

 何度も反芻し、彼女──レゼはデンジの名前を覚えようとする。そして、最後にデンジを見つめてこう言ったのだ。

 

「デンジ君みたいな面白い人、はじめて」

 

 それを聞いたデンジは生返事しか返せず、思わず考え込んでしまった。

 

 ──どうしよう。俺は俺の事を好きな人が好きだ。

 

 ──マキマさん助けて。俺、この娘好きになっちまう……!

 

 既にデンジは恋をしていた。

 

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