都心の路地にあるベンチにて、一人の悪魔がアイスを食べていた。彼──天使の悪魔は公安のスーツを身に纏い、足を伸ばしてはゆったりとアイスを堪能している最中だ。
「もう三つも食べたら十分だろ。さっさとパトロールにいくぞ」
そんな時、早川アキが話しかけてきた。そのため天使は嫌そうな顔を作り、彼に気怠げな返事を返す。
「アイス食べたら疲れた……。食べるのにも体力って使うらしいよ。今日はもう働きたくないんだけど」
そう言って、天使は未だに持っているアイスをペロペロと舐め始めた。だが、アキがめげずに話しかけてきたのだ。
「銃の悪魔の場所がわかったから遠征がある。それに参加するにはデカい悪魔を倒した成績がもっと必要だ。だから、俺はもっと悪魔を探したいんだ」
アキが続けて、俺のバディになったのなら協力してくれと言ってきた。しかし、天使にとってはどうでもいい事だ。それ故に、適当にはぐらかした。
「え〜、う〜ん……。もう一個アイス食べてから考えるってのはどうかな?」
「──立て。お前が使えないことを上に報告すれば悪魔として殺されるぞ。それでもいいのか?」
アキが怒りの表情を浮かべて責め立ててくる。だが、天使はその程度では動じない。
「ん〜、働くくらいなら死んだほうがマシかな……」
天使がそう言葉を返すと、アキは遠い目をして空を見上げていた。
──特異課で岸辺さんの次に強いのは彼だよ。
マキマにそう言われ、アキは窓越しに天使の悪魔を見つめた。
「怠け癖がなければの話だけどね。銃の悪魔討伐遠征に参加したいなら、彼をうまく使えるようにすればいいよ」
「……悪魔とうまくやっていける気がしません」
アキは湿布の貼ってある頬を撫でる。
「パワーちゃんとはうまくやってるんじゃないの?」
「今日の朝も殴り合いの喧嘩してますよ」
少し考え込んだマキマが、再度話し出した。
「別に仲良くならなくてもいいんだよ。利益になるように使えさえすればいい」
そして、彼女は天使の悪魔の過去について語り出したのだ。
──彼は自分が産まれた場所の村人を一人殺している。
──正確に言うなら、寿命を吸い取って武器に変えてしまった。
「武器……?」
アキは頭に疑問が浮かんだ。そのためマキマへ問いかけると、彼女は答える。
「彼は触れた人の命を武器に変換する。アキ君の持っている刀も彼の武器だよ。その武器は触れられないはずの幽霊を切れたり、いろんな特殊な力を持っている」
そう語ったマキマは、最後にこう言い残した。
──フリでもいいから仲良くしなよ。きっとアキ君の力になるよ。
ビルの合間にある路地にて、アキは処理した悪魔の上に立っていた。彼を恐る恐る観察する人々は冷や汗を流しながらも、公安のデビルハンターであるアキに信頼を寄せるような目を向ける。
「悪魔は処理しました! みなさんは血や肉に触らないようお願いします!」
事後処理のために動いていたアキは、悪魔の前に蹲る天使に声を掛けられた。
「へい人間君、ちょっとこっちきて」
そうしてアキは近寄ると、天使が指さしたものを見る。それは皮膚が消化液で溶け、既に下半身を失った人間であった。
「こいつは民間のデビルハンターみたいだね。この悪魔に食べられてたみたいだけど……下半身ないしもう死ぬね」
『おっ、こ、こおして……こおして……』
彼はただひたすらに死を望んでいた。きっと地獄の苦しみを味わったのだろう。
その時、アキは天使へ言った。お前の力なら楽に殺せるだろと。しかし、天使は断ったのだ。
「え? やだよ。僕は天使である前に悪魔だよ?──人間は苦しんで死ぬべきだと思ってる」
アキはその言葉を聞くと、刀を逆手に持つ。そして死を望む彼へと突き刺した。
『あ……り……』
最後に感謝の言葉を告げた彼は、やがて静かに息を引き取った。
「フリでもお前とは仲良くなれないな」
アキがそう言うと、天使はただ一言、言葉を返してきた。
──らしいね。
俺の心はマキマさんが見つけてくれた。だから俺の心はマキマさんだけのモンだ。でも、体が勝手に……。
手を伸ばしたデンジは、既に扉へと手を掛けていた。
「あ、お客様だ!」
「昼、食いきた」
デンジはノートを広げて勉強するレゼに、そう言葉を返した。その後、彼女の隣にあったテーブル席に座る。
「一週間も続けて来るほどおいしくないでしょココ」
「ウマいよ?」
「……おいしいよ?」
マスターの茶々を無視して、レゼがバカ舌と罵ってきた。しかし、デンジは気にもせずにメニュー表を開き、目を通す。
「そうだなあ……。カレーと、アイス……あ! あとチャーハン!」
食事内容を吟味するデンジだったが、レゼに話し掛けられた。そのため、一度中断をして彼女と向き合うことにした。
「こっちの机で食べないですかお客様〜」
「いーよ……勉強中だろ? 店員のクセによ」
「キミは学校いってないだろ〜? 十六歳のクセによ」
手を組んではその上に顎を乗せるデンジだったが、レゼがそれを真似してくる。
「学校いかないでデビルハンターなんて珍種だよ、珍種」
そしてそんなことを言っては、勉強用具をデンジの机へと移し、レゼ自身もまた移動してきたのだ。
デンジがなんとなしにレゼを見ていると、ふと思ったことが口から漏れた。
「……漢字は読めるようになりたいかな」
「漢字読めないの!? じゃ、教えてあげる!」
レゼがノートに漢字を書き込んだ。
「問題ジャジャン! これはなんと読むでしょう?」
彼女にそう問われたデンジはノートを覗き込む。そして、そこに書かれていた漢字とは──。
金玉。
「キンタマだろエロ女!」
「なんだ、分かってるじゃん!」
「唯一キンタマだけは読めるんだよ!」
「アハハハハハ!! なんじゃそりゃ!」
レゼが心底楽しそうに笑う。それを見ていたデンジは、自分でも気づかないうちに言葉が出ていた。
「レゼとなら学校行きたかったかな。なんか楽しそうだし」
その言葉を聞いたレゼが、デンジへ試すように笑いかけてくる。そしてデンジはレゼに対して恋心を抱いていたことに気付き、思わず体温が上がった。
「行っちゃいますか? 夜」
「夜……?」
「一緒に夜の学校、探検しよ?」
レゼに肩を抱かれ、息が掛かるほどの距離で熱願をされたデンジはただ一言、彼女へ返した。
──します。
古びた洗面器に、顔に大きな傷のある男が体重を乗せていた。彼は焦点の合わない瞳で、排水口を見つめながらも話し出す。
「台風くん」
『ナンダ』
「お前等悪魔共は、なんでチェンソーの心臓を欲しがっているんだ?」
男が話しかける排水口には、不自然に水が渦巻いていた。
『知ル必要ハナイ。俺トノ契約ダケ果タセル様、考エテイロ』
「長い付き合いになりそうなんだ。もっと馴れ合っていこうぜ?──台風の悪魔くん」
排水口に潜む悪魔、台風の悪魔へと話しかける男は続けてこう話した。
「チェンソーの心臓を手に入れたら、一生俺にアンタん力使わせてくれるっつー契約だからな」
そうして、男は気色の悪い笑みを浮かベる。だが、台風の悪魔が男に忠告をしたのだ。
「気ヲツケロ。チェンソーノ心臓持ツ人間、悪魔ヲタクサン殺シテイル」
「そりゃ悪魔が賢くねえからだ」
『……』
「仕事で中国のデビルハンターを殺した事がある。そいつは血も涙もないと言われた冷酷なデビルハンターだったよ」
台風の悪魔が、どうやってそいつを殺したのかと男に問いかけた。すると男はニタリと嗤い、謳うように語り出した。
──血と涙が出る場所を探すのさ。
──そいつの妻と娘を人質にとって、剥いだ皮見せたら。
──大人しく殺されてくれたよ。