陽気な祭り囃子が鳴り響き、楽しげに過ごす人々の喧騒が何処までも続く。そんな中、デンジはレゼと共に祭りを回っていた。
人混みをかき分けて露天を回り、輪投げや射的などで勝負をしては一喜一憂をする。はたまた綿菓子やりんご飴を買っては食べ比べをし、デンジ達は楽しい時間を過ごしていた。
だが、終わりの時はやってくる。
デンジはレゼに連れられて、人気のない高台へと訪れていた。
「この場所、カフェのマスターに教えてもらったんだ。花火が一番見えて、誰も人が来ないマル秘スポットなんだって」
「ふ〜ん」
祭りの余韻に浸っていたデンジは、夢見心地で返事を返した。
「ねえデンジ君」
「ん?」
「いろいろ考えたんだけどさ、やっぱり今のデンジ君の状況おかしいよ。十六歳で学校にも行かせないで悪魔と殺し合いさせるなんて、国が許していい事じゃない」
レゼがデンジの手を取り、二人は向き合った。
「仕事やめて……私と一緒に逃げない? 私がデンジ君を幸せにしてあげる。一生守ってあげる。──だから、お願い」
デンジはレゼの切なる思いを聞き、思わず赤面をした。しかし、彼女に頷くことが出来なかったのだ。
「逃げるって……どこに?」
「知り合いに頼めば、絶対に公安に見つからない場所があるの。そこだったら……すぐには無理でも、いつか一緒に学校へいけるよ」
「なんで、レゼがそんなことを……」
「だって私──デンジ君が好きだから」
俯いたデンジはレゼに答えたかった。一緒に逃げようと。しかし、それがどうしても出来ない。今の生活を捨てることと天秤にかけ、逃げるという選択肢が取れなかったのだ。
「……なんでそんなに悩んでいるの? デンジ君は私の事嫌い?」
「好きィ! だけど……最近仕事が認められてきてさ、監視がなくても遠くへいけるようになったし、糞みたいな性格んバディの扱い方もだんだん分かってきたんだ」
デンジは、絞り出すように答え続ける。
「それにイヤ〜な先輩とも、やっと仲良くなってきたんだ。仕事の目標みてぇなモンも見つけてさ、だんだん楽しくなってきてんだ今……。ここで仕事続けながらレゼと会うのじゃ……ダメなの?」
「そっか、わかった。──デンジ君私の他に好きな人いるでしょ」
「え?」
デンジが動揺した瞬間、大きな花火が咲いた。闇夜を照らす大きな華は二人の姿を映し出す。熱く、接吻を交わす二人を。それは恋人同士のように甘く、そして熱烈な愛の形であった。
満開の華を背景に二人は別れ、デンジは尻もちをつく。だが、ここでデンジは異変に気付いた。舌が──無い。
顔を上げたデンジが見たものとは、舌を噛み千切ったレゼであった。彼女はデンジが動揺している隙にナイフを取り出すと、デンジの首を切り裂く。そして、咄嗟に胸のスターターを引こうとしたデンジの腕を切り落とし、今一度彼に接吻をしたのだ。
「痛いね? ごめんね? デンジ君の心臓──貰うね?」
デンジは呆然としていた。胸中には、ただ純粋にどうして?という疑問が埋め尽くされていた。なんで、どうして。俺の事が好きだったんじゃ。そんなことをデンジは考えていた。
そこへレゼが手を伸ばす。しかし、次の瞬間。
「ダッシュ!!」
地面からサメの魔人──ビームが飛び出してはデンジに抱き着いたのだ。そして、そのまま高台から落下をする。
「え!?」
頭上から驚愕する声が聞こえる中、ビームは高台の下にある道路へと着地した。
「ああ! なんで匂いで気付かなかった! ビィーム!!」
ビームは自分を責め立てる。しかし、すぐさま呆然とするデンジへと声を掛けた。
「アイツヤバいですチェンソー様! あん匂い! あいつボムだああああああ!!」
目標を見下ろしていたレゼは、首に刺さっていたピンに指を掛ける。そして──。
「ボンっ!」
勢い良く引き抜いた。するとレゼの頭部は爆発し、ピンを引き抜いた右腕ごと吹き飛ばす。一瞬レゼは頭部を失うが、新たに生えてきた。だが、それは人間の頭部などではなく──悪魔の頭部だったのだ。
爆弾の武器人間。それがレゼの正体であった。
手すりに立ったレゼは導火線を束ねて作られた両腕を後方へと伸ばし、爆破させる。たったのそれだけでデンジ達のいた場所へと辿り着き、道路を粉砕しながらも着地した。
「逃さないよ」
レゼは拳を振り上げ、道路を殴りつける。それが齎したのは、破壊の嵐だった。
道路が連鎖的に爆破をし、やがてデンジを抱えるビームに襲い掛かる。彼は辛うじて直撃を避けたが、爆風によって吹き飛ばされていた。
「アナタも四課の一員なのかな? 今デンジ君を置いて逃げるなら見逃すよ」
レゼは粉微塵と化した道路の上を堂々とした歩みで進み、彼らへと迫る。対するビームはレゼを迎え撃とうと、悪魔の力を開放しようとした。
だが、ここで新たな乱入者が現れたのだ。
遥か上空から轟くエンジン音。それは加速度的に近くなり、レゼが見上げた時には目視できるほどの距離まで近づいていた。それは暗緑色をしたプロペラ機だ。レゼは瞬時に悟り、忌々しそうに呟く。
「特異五課……! もう来るんだ……!!」
上空よりこちらへと迫るプロペラ機──プロペラヘッドが、翼内武装である二十ミリ機銃を掃射してきた。道路を薙ぎ払うように放たれた死の雨は一直線にレゼへと迫り、彼女は堪らず爆破を応用して横っ飛ぶ。
レゼは瞬時に着地をし、エンジン音を轟かせながらも通り過ぎるプロペラヘッドを見送った。奴は恐らく旋回して戻ってくるだろう。そう考えたレゼは、今のうちにと目標であったデンジを探す。だが、姿が見当たらない。
「逃げられちゃったか……」
小さく悪態をついたレゼは、デンジ達の痕跡を頼りに移動を開始した。
東京都某所、対魔二課の訓練施設。その室内では、アキが格闘訓練に励んでいた。彼はリングの上に立ち、対魔課の男を一方的に殴り続ける。時折男から反撃をされるが、アキはただ冷静に対処し、五分と立たずに沈めるのだった。
「ぐうう……ご指導ありがとうございました!!」
「ありがとうございました」
アキは頭を下げると、リングを降りた。
スーツに着替えたアキは、バディである天使を伴い廊下を歩く。その時、かつて世話になった男、野茂が急いだ様子で話しかけてきたのだ。
「アキ!! 下に来い! 今すぐ!」
野茂はそれだけ言うと走り出したため、アキは非常事態が起こったと判断し自身もまた走り出した。
全身に擦り傷を負ったサメの魔人ビームが、瀕死のデンジを抱えて待っていた。アキはすぐさま事情を聴く。
「何があった、デンジは悪魔にやられたのか?」
「ボムが、ボムが来る……!」
「ボム?」
アキはより詳しく話を聴こうとする。だが、先に事態が動いたのだ。
「あ! キタ! ボムが来た!!」
怯えるビームが後方へ振り返り、開け放たれたシャッターゲートの先を見つめる。アキも同様にそちらを見ると、日が落ちて暗くなった外に一人の人影があった。
初めは分からなかったが、堂々とした足取りでこちらへやってくる女を視認したアキは、冷や汗を流しながらも呟く。
「まさか、武器人間か……?」
武器人間。それはアキにとって、今もなお謎の多い特異五課の印象が強かった。彼らの戦闘力は異常なまでに高く、人間の知性と悪魔の暴力性を兼ね備えた超人だと認識していたのだ。
「そこの美女!! すまないがそれ以上近づくな!! ここは対魔二課の訓練施設だ! 民間人の立ち入りは禁じられている!!」
ここで、野茂が女への牽制と情報収集のために声を張り上げる。しかし、女──ボムは一言も発することはなく、ただひたすらにこちらへと歩み寄ってきていた。
「ありゃヤバそうだ。アキ、お仲間を連れて下がってろ。本部と副隊長に連絡、そしてここにいる二課全員を呼べ」
「待ってくれ野茂さん、あの女は特異五課と同じ武器人間だ。マキマさんに連絡をして、彼らを応援に呼んだ方がいい」
「……分かったよ。でも、それまでは時間稼ぎがいるだろ?」
困ったように笑った野茂は、アキに応援を頼むと一人前へ出た。
「さ〜て、死なない程度に頑張りますかねぇ」
野茂は腰に差していた刀を引き抜き、切っ先を地に向ける。そして足に力を込めると、全力で走り出した。
やがて二人の距離が近づいた時、ボムが野茂へ指先を向ける。その瞬間、指先から電流のようなものが走り、野茂を貫かんと迫った。しかし──彼は身体を翻して紙一重で回避をすると、ボムの懐へと入り込んだのだ。
「嘘!?」
「見えてんだよねぇ!!」
刀をすくい上げるかのような斬り上げ、逆袈裟斬りを野茂は放ち、ボムの片腕を斬り飛ばす。そして刀を翻すと、そのまま畳み掛けるように袈裟斬りを放った。
しかし、ボムは後ろへ跳びながらも掌を爆破させていたのだ。そのため野茂の視界には爆炎が広がる。思わず両腕で顔を庇った野茂はボムを見失ってしまった。
だがしかし、野茂は何のこれしき!と声を上げると、いつの間にか上空にいたボムを見据え、指を天に突き上げたのだ。
「コン!!」
突如として大地を突き破り、狐の巨腕が姿を現す。それは片腕を再生させていたボムを、より高く突き上げていた。
「ば、馬鹿なぁ!?」
「俺は次期副隊長となる男だ。──惚れちまっても、いいんだぜ?」
野茂は自身の足元からも狐の巨腕を顕現させ、空中で姿勢を崩すボムへと迫る。それと同時に刀を納刀し、居合の構えを取った。そして──。
「斬撃の悪魔よ、俺の刀を捧げる。その対価として、斬撃を飛ばせッ……!!」
居合斬りを放ったのだ。
オリ要素
・野茂強化(誰得)
劇場版レゼ篇本日公開。おめでとう、チェンソーマン。