破壊された高速道路に横たわる巨大な悪魔の死体。それを囲うように多くの警察関係者がいた。彼らは悪魔被害の後処理をしており、その彼らを見守るように特異一課所属の岸辺と、早川アキが隣り合って並んでいた。
「ソ連の母親が、子供を叱る時にするおとぎ話がある」
スキットルを一度傾けた岸辺が、そう語り出した。
「軍の弾薬庫には秘密の部屋があって、その部屋には親のいない子供達でぎゅうぎゅうにあふれている。そこにいる子供達に自由はなく、外にも出られない。死ぬまで物のように扱われ、体を実験に使われる」
彼は一度話を区切ると、続きを話し出す。
「ただのおとぎ話のハズだったが……その秘密の部屋は本当にあったと新聞に載ったんだ。アメリカのジャーナリストが突き止めて、一時期話題になったよ。そこにいた子供の写真も当時公開されていたが、すぐに聞かなくなったな」
アキがもしやと思い、岸辺へ問いかけた。デンジを襲ったのは、その子供達の一人なのかと。
「ああ。デンジが引っ掛かったのはその部屋の一人だ。ソ連が国家に尽くす為作った戦士……」
──モルモットと呼ばれる連中だ。
レゼは通い慣れた道を歩いていた。本来ならば山形行きの新幹線に乗るはずだったが──デンジとの約束を果たすために、彼との思い出の詰まったカフェを目指して歩いていたのだ。
見慣れた道路、見慣れた階段、見慣れた自販機を通り過ぎ、レゼは狭い裏路地を歩いていた。視界の先には日に照らされた通りがあり、その先に待ち合わせ先のカフェがある。レゼは無意識のうちに駆け出し、そして──途中で立ち止まることとなった。
背後に気配を感じ、彼女は振り返る。しかし、誰もいない。レゼは一度安堵の息をつき、前へ進もうとした。だが、その時──建物の屋上から、何者かが飛び降りてきたのだ。
計三人の異形の者達。彼らが路地へと着地した。レゼは土埃が巻き起こる中、彼らを見やり冷や汗を流す。
頭部がプロペラとなった男。長剣を生やした青年。短剣の角を持つ女。レゼ自身がそうだからこそ、彼らの正体が分かる。
「っ武器人間……!」
レゼは足を下がらせ、すぐさま逃げ出そうとした。しかし──既に前方にも、人影があったのだ。
「私も、田舎のネズミが好き」
赤髪の女性──マキマが、火炎放射器の武器人間、槍の武器人間、鞭の武器人間を伴い、こちらへとやってきていた。
「友達が田舎の方に畑を持っていてね。毎年秋頃に、少し仕事を手伝いに行くんだ。畑の土の中には作物を荒らすネズミ達が潜んでいて、雪で土が隠れる前に駆除しておかなくちゃいけない」
マキマが、ただ淡々と語り続ける。
「だから、土を掘って中のネズミを犬に噛み殺して貰うんだけど……どうしてだろうね。それを見ていると、とても安心するの」
レゼは、彼らに抵抗する気を無くしていた。一度はピンに指を掛けたが、この人数差を覆すほどの力は無いと頭が理解してしまったのだ。
「だから、田舎のネズミが好き」
マキマに手を取られて微笑まれるレゼは、全てを諦めた表情で立ち尽くす。そして、人生最後であろうこの瞬間に、デンジのいるカフェへと視線を向けた。
レゼは独白する。聞こえもしない彼へ、聞かせるように。
──なんで……初めて出会った時に殺さなかったんだろう。
──デンジ君、ホントはね。
──私も、学校にいった事がなかったの。
日が暮れ、夜の帳が下りた喫茶店、二道。そこではデンジが花束を抱え、昼間からずっと待機をしていた。
「デンジ君、もう店閉めるよ?」
「……」
「……あの子は可愛すぎた。住む世界が違ったんだ。いつかデンジ君にもピッタリな女の子が現れるよ」
そうデンジへ声を掛けたマスターは、バックヤードの方へと消えていく。そして、そんなマスターを見送ったデンジは不貞腐れた表情で俯き、やがて諦めたように息を吐いた。しかし、その時。
来客のベルが鳴った。デンジは期待が膨らみ、嬉しそうな表情でそちらを見る。
「パパパ、パワー!! ワシ復活じゃ! デンジの匂いを辿って来たが……小さい店じゃのお!!」
「もう少し静かにできないのか?」
「うるさい! ウヌはワシの舎弟じゃろうが、指図するな!!」
「いつ舎弟になったんだ……」
パワーがいた。それと何故かプロペラヘッドもいる。デンジはお目当ての人物じゃないことに気づくと、大きく息を吐いた。そして、背もたれに深くもたれ掛かる。だがその時、プロペラヘッドが声を掛けてきたのだ。
「デンジ、お前に伝言がある」
「……伝言?」
プロペラヘッドにそう言われ、デンジは純粋に聞き返した。
「“いつか必ず会いに行く。だから、どうかそれまで待っていて欲しい”……だそうだ」
「ッなあ!! それって!!?」
「……フン、好きに解釈すればいい」
プロペラヘッドはそれだけ伝えると、去っていった。デンジは彼に伝えられた内容を何度も反芻し、確信した。レゼとはまた会えると。デンジは喜びが抑えられずに飛び上がり、抱えていた花束を放り捨てた。
「いやっほぉぉぉう!!!」
「あー!? ワシの花束が〜!!?」
テーブルに散らばる花をパワーが必死にかき集める中、デンジはソファの上でいつまでも小躍りをするのだった。