デンジがレゼと別れてから、おおよそひと月が経った。それまでの間、デンジが彼女を忘れた事は片時もない。
デンジはただひたすらに、彼女の残した“いつか必ず会いに行く”という言葉を信じて待っていた。そして、今日。二人は会うこととなったのだ。
待ち合わせ先の喫茶店、二道でデンジはレゼを待っていた。店内の時計は午後一時を指しており、待ち合わせ時刻丁度だ。
その時、来店のベルがなる。デンジが緊張しながらもそちらへ振り向くと──レゼが嬉しそうな表情で立っていた。
「っレゼ……!!」
「デンジ君……!!」
二人はひと目もはばからずに抱き合い、そして溢れんばかりの笑顔で笑い合った。
「ずっと会いたかった!」
「私も……! ずっとデンジ君に会いたかった……!」
デンジは嬉しさ故に頬を赤らめ、レゼは嬉し涙を流す。二人は長い日々の果てに、ようやく感動の再会を果たしたのだ。なお、彼らを見守るマスターは目を瞬かせていたが、なんとなく二人の事情を察すると口元に笑みを浮かべて微笑んでいた。
二人は喜びを分かち合い、テーブル席につく。そして、互いにこれまでの事を語り始めた──。
デンジが語り終え、次はレゼの番となった。
「私は特異五課で仕事してるの」
「へえ〜、そうなんだな!」
「特異五課の人達は本当に優しくてね、私をちゃんと見てくれる。それが、何よりも嬉しい」
「へへ、俺も嬉しくなっちまうぜ!」
「もう、デンジ君ったら……!」
デンジはレゼを思い、心から笑う。そしてレゼは、自身を偽る必要のない毎日に感謝をし、心からデンジへと笑っていた。
喫茶点、二道の外で俺とフミコは待機をしていた。店内ではデンジとレゼが楽しげに会話をしており、二人が並々ならぬ関係なのがよく分かる。
「甘酸っぱいっすねえ。私も青春してみたかったな〜」
「青春か。俺には無縁だったな」
「フフ、センカイ君絶対モテないでしょ」
「何笑ってんだ」
ツボに入ったのかフミコがずっと笑っている。流石にムカついたので、俺は聞き返してやった。
「そういうお前はどうなんだ。男と青春してたのか?」
「いや〜、私好きな人居なかったんですよね。私の望むレベルに達してなかったっていうか」
「モテない女の常套句じゃねぇか。さては暗い青春時代を送ってたな」
「送ってませんけど〜!?」
「嘘つけ」
そういえば、俺が武器人間に覚醒する前は人生二週目の高校生活を送っていたな。そこでは後悔のないようにしっかりと学業に励んでいた気がする。もう二年前と考えると、懐かしさを覚えるものだ。
ここでふと、俺は青春していたことを思い出した。
「おい、俺は告白されたことあるぞ」
「嘘でしょ!? いくら何でも見る目なさ過ぎ!!」
「喧嘩売ってんのか?」
フミコは冗談だと弁明すると、意外と気になったようで詳細を聞いてきた。
「近所に住む中学生ぐらいの少女に告白されたな。確か、名前は……三鷹アサ? だったような? いや違ったか?」
「ええ? それ青春じゃないでしょ。多分お父さんと間違われてますよ」
「やっぱり喧嘩売ってるだろお前?」
フミコがまたもや冗談だと弁明してきた。だが流石に許せないので、後で事務所のおやつを俺が処理することにする。
しかし、あの少女には悪いことをした。俺の一家は全員死んだことになってるはずだ。今後出会うことはないだろうが、もしいつの日か出会えたなら、返事を返す前にいなくなったことを謝りたいものだな。
デンジとレゼが再開をした次の日、俺とフミコは特異五課の代表として、民間のデビルハンターと顔合わせをしていた。彼はデンジの護衛としてマキマさんに雇われたらしく、一ヶ月の契約を結んだとのことだ。
「オレは吉田ヒロフミ。よろしくな」
「ああ、よろしく。俺は公安対魔特異五課のプロペラヘッドだ」
「同じく特異五課のナイフこと、フミコちゃんで〜す。よろしくね!」
「……貴方がプロペラヘッドか。実は、ずっとお礼を言いたかったんだ」
「お礼?」
吉田が驚いた顔をしたかと思えば、急に畏まってきた。そして、以前俺に助けてもらったことがあると言ってきたのだ。
「鯉の悪魔って、覚えてるかな」
「鯉の悪魔……? ああ、あのアレだな。どっかの湖に居たやつだろ?」
「榛名湖っすよ。確かボートで囮役やってましたっけ?」
「そうだよ。あの時の俺はまだ雇われの身でね、中々にひどい待遇だったんだ」
吉田は話す。鯉の悪魔を処理できなければ、二度と独立ができないほどの借金を背負わされていたと。しかし、俺達が救援に駆けつけたことによって難を逃れたらしい。
「君達のおかげで、オレは穏便な方法で独立出来たんだ。本当に感謝してるよ」
「穏便じゃない方法が気になるところだが、そうか。なんというか嬉しいもんだな」
「そうっすね! いや〜頑張った甲斐があったな〜!」
「お前は何もしてないだろ」
「え〜? しっかりと応援要請を選別してるんすよ? 緊急性が高い奴から順番に処理してるんですから」
「やめろ、何も言い返せなくなる」
「いえ〜い、私の勝ち〜!」
フミコが嬉しそうに勝ちを誇り、俺は思わずため息をつく。吉田はそれを見て笑うと、俺達に握手を求めてきた。
「貴方達となら楽しく仕事をこなせそうだ。一ヶ月の間だけど、改めてよろしくな」
「こちらこそよろしく」
「よろしくっす!」
俺達は吉田と固い握手を交わす。そして、せっかくなので彼を食事へ誘うことにした。
公安対魔特異課本部の廊下を、二人の男女が歩いていた。マキマと岸辺だ。彼らはついに刺客が動き出したことを察知し、実施する作戦の最終確認のために会議室へ移動している最中だった。
「中国からクァンシが刺客としてくるそうです。おそらくお仲間の魔人達と一緒に来るでしょうね」
「アイツには近づきたくないな。全人類が集まって素手で殴り合う競技があったら、一位がクァンシだ。──とにかく、やりにくい女だな」
マキマはちらりと岸辺を見る。しかし、彼に特段変化はなかった。そのため会話を続ける。
「こっちに来るビッグネームは彼女だけじゃないでしょうね」
「警戒すべきは……」
「ドイツの“サンタクロース”」
マキマは噛みしめるように呟き、かなりの大物であるために警戒をする。
「来ると思うか?」
「どうでしょう。寿命で死んだという噂もありますが……」
「アイツに悪魔を使われたら終わりだからな。天に召されてるのを祈るか」
会議室へと辿り着いたマキマ達は会話を終わらせ、扉を潜る。そして、中で待機をしていた部下達に挨拶をするのだった。