熱風が身を焦がすように襲い掛かる中、野茂は気にも留めずに駆けていた。狙いは溶岩使いの魔人。何故ならば、彼の中で最も脅威だと判断したためである。
溶岩人形が行く手を阻むように佇んでいた。野茂は気合を入れると、左手を鞘に添えて鯉口を切る。その瞬間──爆炎と共に刀が勢い良く射出された。
「烈風ゥゥーッ!!」
一瞬宙に浮いていた刀を握り締め、野茂は勢いをそのままに居合斬りを放つ。それと同時に烈風が吹き荒び、溶岩人形を斬り飛ばしてはそのまま吹き飛ばした。
もはや再起不能となった溶岩人形が溶け落ちる中、その場には轟々と燃え盛る火炎竜巻が発生する。野茂はそれに意識を向けると、自由自在に操り始めたのだ。
次から次へとやってくる溶岩人形達を火炎竜巻で妨害しては斬り飛ばし、野茂は風と炎を味方につけて突き進む。もはや、彼を止められる者はいない。
「な、なにあの人間!? ロン、迎撃っ!!」
そんな彼に恐れを抱いたのか、ピンツイがロンに指示を出す。ロンは彼女へ了承の意を示すと、手足に溶岩を纏わせては一瞬で冷え固めた。それにより火成岩のガントレット、及びソルレットを身に纏った彼女は大地を砕きながらも野茂へと突貫する。そして──両者は激突した。
「ッほぉ、やるじゃねぇか!!」
「負けない……!」
真っ向切りを放っていた野茂は、それを両腕で防いだロンと鍔迫り合っていた。その時、彼の脇を二人の若者が通り過ぎたのだ。
「しゃあ! 誰か知んねぇけどありがとよ!!」
「デンジ! 俺達はレーザー女を仕留めっぞ!!」
「おう!!」
デンジとソードだ。彼らは野茂の切り開いた道を辿り、一番乗りでやってきていた。そしてレーザー女ことコスモへと、一直線に向かっていく。
「ハハ! イイねぇ!!」
彼らを見送った野茂は嬉しげに声を上げると、力を込めてロンを弾き飛ばす。そして彼女へ告げる。俺は強いぜ?と。
デンジとソードはコスモを目指し、味方が切り開いた道を疾走していた。なお、脅威であった溶岩人形は尽くが野茂に破壊されている。そのため二人に妨害が来ることはなかった。
「俺だって戦えっこと証明してやらぁぁぁ!!」
「俺も証明してやるぜぇぇぇ!!」
気合の入った声を上げる二人は競うように走っており、漠然ながらもどちらが先にコスモを討ち取るかの競争となっていた。だが、その時。件の彼女よりレーザー光線が放たれたのだ。
「ハロウィ〜ン!!」
左目から射出されたレーザーは、予測不可能な動きで二人へと迫る。そしてデンジが右に、ソードが左に避けた瞬間──左にレーザーが傾いた。
「痛ぇ〜!? ハズレ引いちまった!!」
「ギャハハハ! 正解は右だぜ〜!!」
片腕を切り飛ばされたソードだったが、すぐに再生をさせる。それを見ていたデンジは大笑いをしていた。
「ハ、ハロウィ〜ン!!」
第二射がやって来る。次はデンジが左に、ソードが右に避けた。その結果──左側をレーザーが薙ぎ払った。
「ぎゃああああ!?」
「ぶははははは!! デンジ〜、俺の勝ちだな〜!!」
デンジは首を切断されたが、無理やり頭を押さえつけてチェンソーを吹かす。それにより頭がくっついていた。
「ハ、ハロウィーーン!!!」
第三射がやって来る。既にコスモとの距離は近いため、これを凌げば間違いなく彼女へ辿り着けるだろう。それ故にデンジ達は気合を入れて──両者とも右に避けた。
「ちょ!?」
「馬鹿!?」
容赦なくレーザー光線が薙ぎ払われ、二人は纏めて両断された。
『ぎゃああああああ!!?』
計四つの人体が散らばり、デンジ達の進軍は止まってしまう。コスモがそのことに安堵をしたが、デンジとソードは体を再生させながらも這いつくばり、彼女へと迫ったのだ。
「まだ死んじゃいねぇぞぉぉぉ!!」
「まだまだぁぁぁ!!」
「ハロウィン!?」
驚くコスモを余所に、ソードが先に再生を終わらせて駆け出した。続くようにデンジも再生を終わらせて駆け出す。
「お前には渡さねぇぞデンジィィィ!!!」
「うるせぇぇぇ!! 俺のモンだぁぁぁ!!!」
両断された下半身を再生させたため、二人は大変見苦しい姿となっていた。それに恐れをなした訳ではないだろうが、コスモが即座に逃げ出す。
「ハロウィ〜〜ン!!?」
「逃げんなやぁぁぁあ!!!」
「その首置いてけやぁぁぁあ!!!」
デンジ達は、もはや戦う意志のなさそうな魔人を追いかけていった。
デンジとソード、そして魔人の一人が去っていく。アキは彼らを追うべきかと思ったが、ここでバルエムが声を張り上げた。
「スピア君、ムチコちゃん! 君達はデンジ君の護衛を頼むよ。アキ君、天使君。君達はリーダー格の魔人を処理してくれ。フミコ君、吉田君は念の為に待機だ」
「兵隊を作る魔人はどうするっすか?」
「溶岩の魔人には加勢しなくてもいいのかな?」
フミコとヒロフミが疑問を呈すると、バルエムがすぐさま答えを返す。
「兵隊を作る魔人は俺が処理するさ。それと溶岩の魔人は野茂君に任せよう。ただし、彼が危機に陥ったら助けてやって欲しい」
アキはその言葉を最後に聞くと、全力で大地を駆った。
ピンツイに迫るアキは、彼女が手で輪っかを作りこちらを覗いていることに気付く。
「狐、呪い、斬撃……。ふ、ふ〜ん? まあまあじゃない」
恐らく契約している悪魔を把握されたのだろう。アキはより一層表情を引き締めると、ピンツイの前で止まり刀を構える。そして、彼女へ問いかけた。
「大人しく投降しろ。さもなければ痛い目に遭うぞ」
「馬鹿ですねぇ、私はクァンシ様よりご命令を承ったんですよ?──投降なんてする訳ないでしょーが!!」
そう言って彼女は突貫してくる。予想以上に素早い身のこなしだ。アキは即座に刀を薙ぎ払い、こちらへ迫る彼女を遠ざけようとした。しかし、ピンツイは残像を残しながらも姿勢を下げ、アキの懐へと入り込んできたのだ。
彼女が小柄な体格というのはあるだろう。だが、それを加味しても素早かった。冷や汗を流すアキは可能な限り致命傷を避けようとするが、彼女の手に握られた暗器が腹部を貫こうと差し迫っていたのだ。
アキは一撃貰うことを覚悟する。しかし、次の瞬間──光り輝く長剣がピンツイへと襲い掛かった。彼女はまたもや残像を残して回避をするが、一度アキから距離を取る。
「すまん、助かった」
「油断は禁物だよ。彼女は魔人、本質的には悪魔なんだから」
アキの隣には天使が並んでいた。彼の周囲には光り輝く武器が三本浮遊しており、先程飛ばした光剣が意思を持つかのように戻ってくる。
「もお、二人も相手するのはきついですねえ〜」
「──私も居るよ! アキ君!!」
その時、一人の女性の声が響いたのだ。アキがそちらへ振り向くと──姫野が駆けつけてきていた。
「姫野先輩!」
「誰?」
「私のこと影薄いと思ってない? ちゃんと裏方で働いてるからね!!」
「そんなこと知ってますよ!」
「アキ君……好きッ!!」
「は?」
姫野がアキに触れ合うほど近づくと、思いっきり彼に抱き着いた。しかし、今は戦闘中なのだ。アキはすぐさま姫野を引き剥がすと、彼女へきつく忠告をする。
「姫野先輩、死にたいんですか!!」
「死ぬならアキ君と死ぬ!!」
「この人間、なんかムカつくなぁ」
「私を無視してイチャイチャしやがってぇ〜!?」
アキがため息をつく中、緩んだ表情を引き締めた姫野がピンツイへ右手を掲げていた。そして、悪魔の力を行使したのだ。
目に捉えることはできる、しかし触れることのできない腕が次々とピンツイへと掴みかかり、彼女を拘束し始めた。宙に浮いたピンツイは必死に藻掻くが、触れることが出来ないため息苦しそうに呻く。
「ぐっ!? こ、これは幽霊の力……!?」
「私さ、相性はあるんだけど結構強いんだよ? 物理攻撃しかできない人型相手なら、余裕で完封できるんだよね」
「姫野先輩……!!」
「アキ君、惚れてもいいよぉ〜!!」
デレデレとした表情を浮かべた姫野がアキへ抱きつこうとした瞬間──光剣が物凄い勢いで通り過ぎていった。アキは思わず驚き天使へ物申そうとするが、突如としてピンツイが悲鳴を上げたのだ。アキがすぐさまそちらへ振り向くと──彼女の腹部に光剣が突き刺さっていた。
「な、何やってんだ! 無理に殺す必要はないだろ!」
「僕の手柄」
「はあ?」
「僕の手柄だから。間違っても、そこの幽霊女の手柄じゃないよ」
「……あ?」
胡乱げな目で姫野を見つめる天使。そんな彼に対し、冷たい眼差しで見つめ返す姫野。両者は初対面だというのに、あまりにも態度が冷え切っている。アキはそんな二人を交互に見て、相性が悪いのか……!?とでも言いたげな表情であったが、すぐさま間に入った。
「やっちまったならしょうがない。とりあえず、魔人を拘束するぞ!」
「幽霊女、もう帰っていいよ」
「帰りませんけど??」
アキは刀を納め、居心地の悪さを感じながらも天使へ声を掛けた。
「天使、拘束具あるか?」
「アキ君! 私持ってるよ!」
「人間君、この女の言葉に耳を貸しちゃいけないよ。僕はしっかりと拘束具を持ってるからね」
「アキ君、悪魔の言葉に耳を貸しちゃ駄目だよ〜? 悪いことを考えてるからね」
「は?」
「あ?」
困惑するアキはどうすればいいのかが分からない。とりあえず仕事を遂行するため、二人から拘束具を受け取りピンツイを拘束した。
──よし、一人確保だ……!
睨み合う天使と姫野から目を逸らしたアキは、一仕事を終えたことに安堵をするのだった。