防衛作戦から数日経った頃、俺はいつもの飛行場にいた。そこで新たに加わった新入りと会話を交わす。
「知ってるかも知れないが、俺はプロペラヘッドだ。よろしく頼む」
「サムライソードだ」
「チャクラム。よろしく」
公安襲撃事件で相対したサムライソードと沢渡アカネ。その二人が新入りとして特異五課に入ってきた。なお、もう一人新入りがいるのだが、普段は特異一課で仕事をするらしいので未だに面識がなかったりする。
「おやおや、二人とも硬いですね」
「キャハハ! おいアカネ、そんな緊張すんなよ!」
俺の隣にいるスピアとムチコが口を開いた。どうやら、彼らは新入りのお目付け役としてマキマさんに選ばれたようだ。
その時、嬉しそうに頷くフミコが俺に話しかけてきた。
「ん〜! 私達も後輩が増えたっすね〜!」
「そうだな。俺達が新入りだった頃を思い出す」
「あの時のセンカイ君は尖ってたなぁ。それに比べれば、だいぶ丸くなりましたね?」
「フン、尖ってて悪かったな。だがあの時のお前、明らかにヤバい目で見てきてたぞ。それを警戒してたってのもある」
「……そうなんすか?」
「お前、俺を籠絡しようと画策してただろ。人の体をベタベタ触ってきやがって」
「何のことだか分かんないっすぅ〜!」
そう言ってフミコがベタベタ触ってきた。俺がしらけた目線を送っても気にもせず、正面から抱き着いては頬ずりしてくる始末。流石に鬱陶しいので引き剥がした。
再度抱きつこうとするフミコと取っ組み合いをしていると、ムチコが話しかけてくる。
「いちゃついてるトコ悪いんだけどよ、フミコ借りていいか? 今から女子会すんだよ」
「遠慮なく持っていってくれ。むしろ持ってけ」
「あ〜ん! 愛しのロミオ〜!!」
「誰がロミオだ」
馬鹿な発言をするフミコがムチコに連れ去られていった。なら俺はサムライソードと親睦でも深めるとするかな。
喫茶店、二道。フミコはムチコの連れられ、そこへやってきていた。他の同行者は新入りのアカネと、途中で合流をしたレゼ。彼女らはフミコと同様に特異五課の女性メンバーであり、あともう一人女性がいるため勢揃いとはいかないが、かなり華やか面子が揃っていた。
テーブル席についたフミコは、音頭を取るムチコの言葉に耳を傾ける。
「んじゃ、新人歓迎会も込めて女子会始めるぜ! ここは私がケツ持ちだ!」
「やった〜! 流石ムチコ先輩っす! よっ日本一!」
「ありがとうございます! ムチコ先輩!」
「どうも」
フミコが率先して場を盛り上げる中、各々がメニュー表を見開くと食事内容を吟味し始めた。
楽しく会話をしながらも食事を終えたフミコは、食事の余韻に浸るように果実ジュースを飲む。だがそんな時、ムチコが話題を上げたのだ。
「お前らコイバナしようぜ。まず大前提として、好きな人いんのか?」
フミコは来た……!とでも言いたげな表情を一瞬浮かべると、仕事並みに頭を回し始める。そして、それぞれの顔色を窺いながらも話し出した。
「私いるっすよ〜? レゼちゃんもいるでしょ?」
「はい、いますよ!」
「キャハハ! いいねぇ〜! そういうのはいくつになっても気になっちまう。アカネはいないのか?」
「……まぁ、いますよ。あくまで人として好きっていう感じで、異性としてはそんなにですけど」
ほうほうと楽しげに頷くムチコが、始めに語り出す。
「フミコは知ってるだろうが、私はバディを組んでるスピアと付き合ってる。あいつもそれなりに長生きだからよ、お互いにお熱ってワケじゃないが恋愛してんだぜ?」
「はぁ、いいな〜。オトナの恋愛って奴っすかね〜?」
「そうだったんですか!?……ちなみに、何処まで進んでます?」
質問の答えを知っているためフミコはそれほど身構えないが、レゼとアカネがそわそわしている。そして、ムチコがさも当然のように口を開いた。
「そりゃヤることやってるに決まってんだろ? てかあいつテクニシャンでよぉ、これがまたスゲーんだわ!」
「前聞いたんすけど、意識飛ぶってマジすか?」
「マジマジ、飛ぶぜ」
「へぇ〜、私は流石に飛んだことは無いっすね」
フミコは性病の悪魔と契約していることもあり、男性経験が豊富だ。そのため下の話だろうが平然とついていけるが、レゼとアカネはそうではないようだった。
二人はやや顔を赤らめており、意外とウブな一面があるらしい。フミコが目敏くそのことに気付き、話題に上げる。
「あれ〜? レゼちゃんとアカネちゃんは、意外と経験がないのかな〜?」
「知識としては知ってますけど、そんな好きな人とは……」
「……別にいいだろ」
「キャハハ! 可愛いトコあるじゃねぇか。せっかくだ、お前らのコイバナを聞かせろよ!」
ムチコがワクワクした表情で二人を問い詰める。すると、躊躇いながらもレゼから話し出すのだった。
都内にあるショッピングモールにて、早川アキは買い物に勤しんでいた。その時、買い物リストの書かれたメモに抜けがあったことに気付く。
「しまった、牛乳を買わないといけない」
「じゃ、一度戻ろっか! さっき通り過ぎたし!」
「ええ? 後で回ってこればいいよ。大丈夫、僕は記憶力がいいんだ」
アキの両隣には、何故か姫野と天使がいた。今日は休日なので二人がいてもおかしくはないのだが、アキはそもそも二人を誘っていない。
「その、いつまで俺と行動するんです? このあと野茂さんに会いに行くんですが」
「ええ!? アキ君、私よりも野茂さんを取るの!?」
「人間君、それはどうかと思うなぁ」
「いや、元より予定が入ってたんだよ」
アキは困ったように笑い、どうするべきかと思案する。やがて野茂に相談をすればいいかと結論を出すと、彼に電話をかけた。
『おうアキ、どうした?』
「お疲れ様です、野茂さん。このあとの予定なんですが、姫野と天使がついてきたいみたいで。迷惑ですかね?」
『構わねぇよ? そもそも俺の彼女を紹介するだけじゃねぇか。せっかくだし、同性がいた方が気楽かもしれん』
「ありがとうございます! すみません、ご迷惑をお掛けして」
『いいって。それより姫野か。珍しいこともあるもんだなぁ』
野茂の発言に疑問が浮かび、アキは質問をした。
「珍しいとは?」
『俺の彼女と苗字が一緒なんだよ。面白いだろ?』
「へぇ、そんな偶然もあるんですね」
その後、アキは野茂と数言会話を交わすと通話を終える。そして、何故かいる二人と共に買い物を楽しんだ。
東京のある街角に存在する喫茶店。そこへ姫野と天使を引き連れて、アキはやってきていた。そして、野茂と共にいる清楚な女性と対面した時──姫野が声を上げたのだ。
「えっ!? メイ、なんでここにいんの!?」
「姉さんこそ、なんでここに……?」
「あん? メイは姫野さんを知ってんのか?」
「知ってるも何も、実姉ですよ」
「ええ? そんなことあんの?」
アキは一連のやり取りを見ており、彼もまた驚いていた。アキは姫野に妹がいるのは知っていたが、まさか野茂とお付き合いをしているとは思わなかったのだ。
「まあ、とりあえず座れや」
「失礼します」
アキは野茂達の対面に座る。野茂は包帯を取っており素顔が見れるが、あれはそもそも戦闘用に巻いているだけだ。そのため彼曰くのハンサムフェイスは無事である。また、彼の隣に座る姫野メイは、黒髪を伸ばした儚げな女性であった。
ややチャラげな野茂と、清楚で大人しげなメイ。第一印象ではあるが、二人はお似合いだなとアキは思う。
「あ〜、先に姉妹水入らずで話すか?」
「いえ、大丈夫ですよ。少し驚きましたけど、姉に説明する手間が省けましたから」
「ちょっとちょっとメイ! 私デビルハンターと付き合ってるなんて聞いてないんだけど! てか、そもそも付き合ってるなんて聞いてないし!」
「姫野先輩、落ち着いてください」
「見苦しい。少し落ち着きなよ」
天使の強い言葉にムッとする姫野だったが、ため息をつくとどっかりと椅子に座った。そして、品定めをするような目線を野茂に向ける。
「あ〜、なんだ。俺達は付き合っててな。そろそろ結婚を視野に入れてたんだ。だからアキに報告しようと思ってたんだよ」
「そうなんですか! 野茂さん、おめでとうございます。俺、自分の事のように嬉しいです!」
「ありがとな、アキ。それでその〜、メイはなんか言うことあるか? 姉に」
「……姉さん。私達の結婚を、認めてくれますか?」
メイの発言に際して、普段は自信に満ち溢れている野茂がそわそわし始めていた。さしもの野茂さんでも、婚約者の身内となれば緊張するのか。アキはそんなことを考えながらも姫野を窺う。
姫野は腕を組み、難しい顔をして考え込んでいた。彼女は野茂が妹にふさわしい男かを見定めているのだろう。しかし、アキからすれば野茂は婚約者として相応しい男なのだ。
情に厚く、仕事熱心。そして決して諦めない心を持っており、誰よりも熱い男。またデビルハンター歴が長く、一度は生死の境を彷徨ったが、そこで火の悪魔に魅入られてより強い力を手に入れた。今の彼は公安の中でも、上澄みの実力者だ。
長い沈黙の末、姫野が口を開いた。
「……結婚に反対はしない。だけど! メイはデビルハンターの殉職率が高いのは知ってるでしょ。こんなこと言いたくないけど、幸せがいつまでも続くなんて思っちゃ駄目だよ」
「姫野先輩、少しは……」
「アキ君は黙ってて。メイ、あんたにその覚悟はあんの? 好きな人がいきなり死ぬことだってあるんだよ? 私だって何度も死にかけてる。それに野茂さんだって何度も死線をくぐってる。この前なんて、彼本当に死にかけたんだから」
「姉さん、覚悟はあります。勿論、私は野茂さんと死に別れたくなんかありません。ですが──それでも彼と共にいたいのです」
「……はぁ、分かったよ。まさか、引っ込み思案なメイにそんな強く出られるなんてね。でも、嬉しいよ。あんたの成長が見れて」
姫野は困ったような、しかし喜びを隠しきれない笑みを浮かべていた。それを見たアキは安堵の息をつき、二人に祝いの言葉を送ろうとする。だが、その時。
「おいおいおい! 素敵な場面に出くわしちまったな!」
「や〜ん! 素敵っす〜!」
「わぁ、おめでとうございます!」
「……素敵だね」
特異五課のメンバー、ムチコ、フミコ、レゼ、アカネが話しかけてきたのだ。アキは素直に驚いたが、自身も彼らに続いて祝いの言葉を投げかけた。
「野茂さん、メイさん。本当におめでとうございます!」
「おめでとう。僕は悪魔だけど天使だからね、きっと二人には天使の加護があるさ」
「ありがとな、皆!」
「皆さん、ありがとうございます」
そして最後に、姫野が二人に祝いの言葉を送るのだった。
──妹に先を越されちゃったか。でも、私も自分の事のように嬉しいよ!
──野茂さん、メイ。本当におめでとう!
オリ要素
・姫野の妹→姫野メイ