運命の日がやってきた。ついにアメリカが動き出し、銃の悪魔の召喚が確定したのだ。どうやら召喚位置は秋田県、にかほ市の沖合であり、時刻は午後三時頃らしい。
「じゃあセンカイ君、移動しようか」
「了解です!」
執務室でマキマさんと会話をしていた俺は、彼女と共に特異五課専用の飛行場へと向かう。そこで俺が流星となり、最大巡航速度でにかほ市に向かう予定なのだ。
天気は晴れ。所々に雲が浮かんでいるが、八割方が青空だった。また、眼下を見下ろすと自然豊かな森が広がっている。都会とは程遠い景色であり、家々が疎らに建っている程度だ。
俺とマキマさんは既に都心を越えており、埼玉、栃木、福島を通り過ぎて山形県を横断している最中だった。目的地であるにかほ市には、もう間もなく辿り着くだろう。なお、にかほ市は秋田県南西部に位置する市で、かつては三つの町があったのだが合併して出来た経緯があるらしい。秋田県唯一のひらがな自治体としても知られていたりするようだ。
そんなうんちくを思い出していると、操縦席に座っていたマキマさんが話しかけてきた。
「センカイ君に初めて乗ったけど、これはこれで楽しいね。旅客機とは違うよ」
「そういえば、マキマさんに乗ってもらうのは初めてでしたネ」
マキマさんが俺に乗っている。字面が酷いが、不埒な要素は何もない。俺は武器であり、兵器。そしてマキマさんは悪魔であり、敬愛すべき上司。俺は雑念を振り払うために、話を変えることにした。
「銃の悪魔の詳細は、皆に話したんですカ?」
「うん、討伐遠征参加者にはね。ショックを受けてる人も多かったけど、殆どの人は私を心配してくれたよ」
「当然でしょウ。マキマさんを純粋に心配する気持ちもありますが、それだけではありませン。俺達にはマキマさんが必要なんでス。もし貴方がいなくなれば、特異課は間違いなく烏合の衆と化しますヨ」
マキマさんがいなくなれば、特異五課はどうなる? バルエムは野望の為に他のメンバーを囲い込もうとするだろう。スピアとムチコはバルエムにつくだろうな。ソードはどうだろうか。バルエムにつく気もするが、俺やデンジを選ぶかもしれない。
俺とフミコは公安に残るような気もする。残りのレゼ、サムライソード、チャクラム、クァンシは公安に愛着はないだろうから残らなそうだ。いや、レゼは残りそうか。デンジが公安にいる限りは。
やはり、マキマさんは必要不可欠な存在だ。せっかく築き上げたものが崩壊する様など見たくはない。
「マキマさん、銃の悪魔への勝率はどのくらいでしょウ?」
「私を心配してくれてるのかな? 大丈夫、勝率は100%だよ。それに銃の悪魔と言っても、相手にするのは二割の肉体だけ」
だから、負ける要素はないね。そう勝利宣言をするマキマさんは自信に満ち溢れていた。俺はこうも断言されると頼りになるなと思いつつも、もしもの際は死んでも彼女を守ろうと心に誓う。願わくば、何も起こらないでくれよ。
──時が来てしまったようだ。
アメリカ合衆国のとある場所では、一人の老人が電話を掛けていた。彼は窓から見える澄んだ青空を見つめながらも、自らの正義を証明するかのように言葉を紡ぐ。
──今、マキマを殺さなければ人類に最悪の平和が訪れるだろう。
──マキマを恐れさせ、大きくしたのは我々人類の歴史に他ならない。
──だが、私は自由の国を背負う者。ただで屈するわけにはいかないのだ。
──国民よ。愚かな決断をどうか許してくれ。
老人は強く拳を握り締める。そして、苦しげに言葉を告げた。
──“銃の悪魔”よ。アメリカ国民の寿命を一年与える。代わりに、どうかマキマを……いや……。
──支配の悪魔を殺してほしい。
にかほ市沖合いの海上。その上に俺はマキマさんと共に立っていた。この場所だけ波が立っておらず、湖面のように穏やかだ。
海の上に立つという不思議な感覚に気を取られていると、マキマさんに声をかけられる。
「センカイ君、来たよ」
マキマさんが指差した方向、そこには巨大な悪魔がいた。頭部や両腕、背中から銃を生やし、下半身がベルト式の弾薬となった悪魔。全長一〇〇メートルはくだらないだろう。その異様は恐ろしく、俺は思わず勝てないと悟るが、気合を入れて奴を見据えた。
銃の悪魔が巨大な両腕を掲げる。あと数秒とせずに殺されることは間違いない。俺はいつでもマキマさんの肉壁になれるように待ち構えていると、その時。彼女がただ一言、言葉を発したのだ。
「“堕ちなさい”」
その言葉と共に──銃の悪魔は海へと落ちていた。巨大な波飛沫を上げ、下半身が海へと沈んでいく銃の悪魔は必死に藻掻いている。しかし、何やら抵抗が鈍い。そのため奴はどんどんと海の中へと引きずり込まれていった。
「マキマさん、この力は一体……?」
「私は“呪言の悪魔”と“怠惰の悪魔”を支配しているの。だから、こんな芸当ができる」
「なるほど」
俺が関心していると、マキマさんが質問をしてきた。
「ねえ、センカイ君。尖閣諸島と竹島って知ってる?」
「聞いたことはありますが……それがどうしたんです?」
「私はね、それらの島をある悪魔に捧げたの。すると、どうなったと思う?」
島を悪魔に捧げた? すると……悪魔の島になったとかだろうか? 俺がその予想をマキマさんに伝えると、彼女は衝撃的な答えを返してきたのだ。
「正解はね──“海”へと沈んだの」
突如として、周辺の海が渦を巻き始める。やがて銃の悪魔を中心に激流が生み出され、決して逃れ得ない大渦と化した。俺はこれまでとは桁違いの悪魔の力に驚愕し、すぐさまマキマさんへ問いかける。
「マ、マキマさん。この力は一体何なんですか……?」
「私は、捧げた島の体積分の海を自由自在に扱える。何故なら──“海の悪魔”と、契約を交わしたから」
「海の悪魔、ですか。……海の悪魔!? あれ、いつの日か冗談って言ってませんでした!?」
「フフ、どうやら実在したみたいだね」
「絶対知ってたでしょ!!」
マキマさん勘弁してくれよ! 冗談じゃすまないって!! ん? ということは……?
「ねえ、センカイ君。私はね、護衛艦を十隻、ある悪魔に捧げたの。すると、どうなったと思う?」
「う、嘘だろ……!? 実在しないですよね……!?」
「正解はね──悪魔の“軍艦”を貸与されたの」
マキマの遥か前方、銃の悪魔の背後に巨大な門が顕現をした。苦悶の表情を浮かべる悪魔達が彫られた鋼鉄の門が開門し、地獄の海と現世の海が繋がり始める。
暗闇の広がる門の先から、波を切り開く音が響いた。やがて、現世にやって来たのは──威風堂々たる悪魔戦艦であったのだ。
「戦艦、長門。二番艦陸奥とともに、日本海軍の象徴として帝国民に親しまれ、そして誇りであった軍艦だよ」
「嘘だろおおお!!?」
センカイが大口を開けてたまげている中、新たに門が二つ顕現をする。そして開門をすると、またもや軍艦がやってきたのだ。
姿を現したのは、長門と同程度の巨体を誇る戦艦。だが、もう片方はやや小ぶりな軍艦であった。
「巡洋戦艦、金剛。日本海軍が大東亜戦争で使用した、唯一の外国製戦艦。そして、重巡洋艦、高雄。城郭のような艦橋が特徴的な、高雄型重巡洋艦の一番艦」
計三隻の軍艦が銃の悪魔を囲うような位置に出現し、こちらへとやってくる。もはやセンカイは言葉さえ発せないようだ。マキマはそんな彼に小さく笑うと、呼び出した軍艦に指示を出した。
「巡航速度、二十ノット。面舵いっぱい」
マキマの指示に従い、悪魔軍艦の艦隊が右に舵を切る。そして、船体の側面を晒し始めた。
「目標、銃の悪魔。全艦、全砲塔を旋回の後、九一式徹甲弾を装填」
長門の四十五口径四十一センチ連装砲四基、金剛の四十五口径十四インチ連装砲四基、高雄の五十口径二十センチ連装砲五基が銃の悪魔へと旋回し、砲塔が僅かながらに上を向く。そして──。
「──全艦、斉射せよ」
爆音とともに艦砲射撃が行われ、放物線を描く破壊の雨が銃の悪魔目掛けて飛んでいった。やがて、それらは寸分違わず銃の悪魔へと到達し──対象を爆散させたのだ。
悪魔戦艦、長門
悪魔巡洋戦艦、金剛
悪魔重巡洋艦、高雄
あと一隻登場予定。なお大和ではないです。