転生したらプロペラヘッドだった件   作:卍錆色アモン卍

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52恋・愛・チェンソー

 

 

 

 昨日、俺とデンジは喧嘩をした。そのせいで俺の顔面はボコボコである。それに体の節々が痛い。

 武器人間へと変身すれば傷は治せるが、それはデンジに負けたようなもので絶対にやらない。そもそも俺は負けてないのだ。

 

 そんなこんなで東高校へ登校をすると、デンジと廊下ですれ違った。そして、彼の顔面もボコボコであったのだ。

 

「……よお」

 

「……ああ」

 

 彼とぶっきらぼうに返事を交わし、それっきり会話はせずに通り過ぎる。だが、俺達は通じ合ったのだ。間違いなく、互いに謝罪をしていた。

 

「センカイ君、デンジ君と何があったか知らないっすけど仲直りしてくださいよ」

 

「もうした。明日からはいつも通りだ」

 

「え? いつしたんすか?」

 

「ついさっきだ」

 

「……え?」

 

 フミコが困惑しているが、男ってのはプライドがいっちょ前に高い生き物である。そうそうと謝らない。だからこそ、これが妥協ラインだ。頭は下げないが、互いに悪かったと反省する。そうすれば元通りとなれる。

 

「俺達の問題は片付いた。そろそろ、死の悪魔対策に本腰を入れるぞ」

 

「わ、分かりました」

 

 カッコつけて本腰を入れるとは言ったが、俺達にできることはあまり無いだろう。やはり、デンジに頑張ってもらうしかない。

 また、レゼにも頑張って欲しいところだが、彼女はシーちゃんとはライバル関係である。なんというか、複雑だな。先行きが少し不安だ。

 

 

 

 今日も今日とて天気は快晴であり、レゼは屋上にてデンジとシーちゃんと共に昼食を取っていた。

 

 相も変わらずシーちゃんはそれとなくデンジに触っており、件の彼は照れ臭そうに笑っている。そのことにレゼはほんの少しの嫉妬を覚えつつも、デンジへ話しかけた。

 

「デンジ君。私ね、今日弁当を手作りしてきたんだ! よかったら、味見して欲しいな」

 

「て、手作り弁当!? もちろん頂きます!」

 

 計画通り……! レゼはエメラルドグリーンの瞳をキラリと光らせると、丹精を込めて作っただし巻き卵を箸で掴む。そして、デンジへと差し出した。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、あ〜ん!」

 

 大口を開けてかぶりついたデンジは、心底幸せそうな表情で噛み締めていた。思わずレゼも嬉しくなり、はにかんでしまうがすぐさま気を落ち着かせる。

 

「どう、美味しい?」

 

「甘くて美味え!! それに、レゼの気持ちがめっちゃ詰まってるぜ!!!」

 

「もう、流石に恥ずかしいよ〜!」

 

 レゼはさり気なくデンジへボディタッチをして、彼に笑いかけた。

 その時、レゼは喫茶店二道での出来事を思い出していた。あの時はソ連の兵士としてデンジと接していた。だが、今は純粋に彼の事を想って接している。それが、なんと幸せなことなのか。

 

 そして、過去を思い出したのはデンジも同様なのだろう。彼はまっすぐにレゼを見つめてきており、かつてレゼと過ごした日々を思い浮かべているのかも知れなかった。

 

「なあ、レゼ。俺、レゼに酷い事をしていたかも知れねえ……」

 

「……そんなことないよ?」

 

「ずっと、レゼは俺の事を考えてくれてたのに。俺は、それが当たり前だと思ってたかも知れねえよ……」

 

 放心した様子のデンジ。彼は、レゼがデンジの事を一心に考えていたことに気付いたのだろう。

 

 レゼが、デンジに対して学校へ行ったことがないのはおかしいと、普通じゃないと言ったのは本心なのだ。たとえ、自分も学校へ行ったことがないと分かっていても。

 レゼが、最後にデンジと砂浜で言葉を交わした時、彼との約束を守って会いに行こうとしたのは本当なのだ。決して、再会することは叶わなかったけれど。

 レゼが、デンジと再会した時に流したあの涙は本物なのだ。彼と出会うまではずっと、本心を隠して生きてきたけれど。

 

 レゼが、デンジの為を思って行動したことは他にもある。だが、全てを知る必要はないのだ。ほんの少しでも、自身の気持ちに気付いてくれたのならレゼは満足だった。

 

「俺……レゼのこと好きだ。レゼの代わりなんて他にいない。そのことに、ようやく気付いたんだ」

 

「デンジ君……」

 

「ごめん、俺って馬鹿だよな。失ってからじゃ、遅いってのに……」

 

 落ち込んだ様子のデンジに、レゼは手を差し伸べようとした。しかし、一人の少女に邪魔をされたのだ。それはシーちゃんである。

 

「だし巻き卵」

 

「え?」

 

「だし巻き卵、私にも頂戴」

 

「あ、ああ。シーちゃんも食べたいの? いいよ!」

 

 レゼはほんの少し憤ったが、シーちゃんが無表情ながらに満足気に食べる様子を見て肩の力を抜いた。そして、いつもの自分らしく振る舞おうと、気持ちを入れ替えることにしたのだ。

 

「ほら、デンジ君! だし巻き卵はまだあるよ! シーちゃんに全部食べられちゃっても──シーちゃん凄い食べるじゃん!?」

 

「美味しいよ」

 

「あ、ありがとう?」

 

「っシーちゃん、俺のだし巻き卵だぞ!!」

 

「私、まだ食べたりない」

 

「こらこら、喧嘩しないの!」

 

 デンジとシーちゃんが楽しげに食事をしている様子に、レゼはつい笑みをこぼした。そして、シーちゃんがレゼのことを蹴落とそうとしている訳ではないことに気付く。きっと、シーちゃんは純粋にデンジの事が好きであり、それと同じぐらい食べることが好きなのだろう。

 

「フミコ先生、ごめん。私、争うことに向いてないや」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「何でもないよ!」

 

 シーちゃんとはライバル関係である。でも、仲良くすることだってできるかも知れない。心優しいレゼは、そのように思うのだった。

 

 

 

 ──なんか、平和じゃね?

 

 ──なんすか、その言い方。

 

 ──私も、あんな雰囲気作りたいな……。

 

 

 

 小さな二階建てのアパート、タツキポート。デンジは今、そこで独り暮らしをしていた。

 かつてはアキとパワーと同居をしていたデンジだったが、東高校へやってくると同時に独り立ちをしたのだ。彼らとの別れ際にデンジは寂しさを覚えたが、アキから暇な時に会いに行くと言われた。そのためデンジはパワーに号泣されながらも、尾を引くことなく独り立ちができていた。

 

 学校が終わったため、アパートに戻ってきたデンジ。彼は玄関に入ると、自宅へ帰ってきた安心感からか息をついた。

 その時、後ろから物音がする。デンジが何気なしに振り返ると、何故かシーちゃんが立っていたのだ。

 

「うぉ!? なんでシーちゃんいんの!?」

 

「ついてきた」

 

 驚くデンジをよそに、シーちゃんは靴を脱いでリビングの方へと歩いていく。デンジも慌ててついていくが、シーちゃんのあまりのマイペースぶりに困惑していた。

 

 やがて、リビングにあった座布団に腰掛けたシーちゃんは辺りを見回す。そして、気になったものから順に興味を示したのだ。

 

「このビデオテープ、なんでエッチって書いてあるの?」

 

「シーちゃんが知る必要はねえ!?」

 

「このごみ箱、少し臭う」

 

「気のせいだから!!」

 

「このモテる男の秘訣!っていう本はなに?」

 

「恥ずかしいから見ないで!!」

 

 次々と質問をしてはデンジを追い詰めるため、シーちゃんを落ち着かせようと彼はお菓子を用意した。そのおかげでシーちゃんの興味はそちらへ移り、次々と包装を開けては口の中へと放り込んでいく。

 

「はあ、シーちゃんはなんで俺ん家に来たんだ?」

 

「いっほにいははったから」

 

「食べてからでいーよ……」

 

 なんて言ってるか分からなかったので、デンジはジュースを用意してちゃぶ台に置いた。すると、一通りお菓子に満足したのかシーちゃんが豪快に飲み干す。

 

「美味しかった。ありがとう、デンジ君」

 

「どーいたしまして」

 

 ティッシュで口元を拭いたシーちゃんは立ち上がると、あぐらを組んでいたデンジに近寄ってきた。そして、強引に跨がってきたのだ。

 

「ちょ!?」

 

 デンジは首元に回されたシーちゃんの腕や、胸元に密着する柔らかな胸、そして、股に擦り付けられた女性特有の局部に興奮を覚えてしまった。

 デンジはすぐさまシーちゃんを引き離そうとするが、彼女は何度も体を擦り付けてくる。

 

「私はデンジ君のことが好き。もしデンジ君がエッチなことに興味があるなら、私が相手をしてあげる」

 

「は、はあ!? 何言ってんだよシーちゃん!!」

 

「私じゃ嫌?」

 

「嫌じゃねえけど、そうじゃなくて!」

 

 デンジは視界いっぱいに広がるシーちゃんの顔と、全身を包む柔らかな感触に頭がのぼせそうであった。また、先ほどから彼の股間は痛いほどに反応しており、シーちゃんが的確にも刺激をするため興奮が止まらない。

 

 そして、デンジが口を開こうとした瞬間。シーちゃんが優しくキスをしてきたのだ。

 

「あっ!?」

 

「デンジ君、可愛いよ」

 

 そうシーちゃんは告げると、何度もデンジへキスをしてくる。それは決して強引なキスではない。しかし、デンジの心を溶かしていくような、ゆっくりと混ざりあうような、どこか退廃的なキスであった。

 

「シーちゃん、やめてくれ!」

 

「どうして?」

 

「……俺は、レゼが好きなんだよ。レゼを裏切りたくない」

 

「私は、デンジ君が好き。自分の心に嘘をつきたくない」

 

 デンジはシーちゃんと見つめ合った。彼女が嘘をついてるようには見えない。しかし、彼はずっと疑問に思っていたのだ。何故自分のことが、チェンソーマンのことがそんなにも好きなのだろうかと。

 

 デンジは、意を決して聞くことにした。

 

「シーちゃん。どうして、そんなにもチェンソーマンが好きなんだよ。俺を好きになってくれるのはめっちゃ嬉しいけど、やっぱり疑問に思っちまうよ」

 

 その瞬間、シーちゃんの雰囲気が変わった。彼女は目線を下げ、どこか物悲しさを覚えるような雰囲気となったのだ。

 

「……かつて、私はチェンソーマンに助けられた。だから好きなの」

 

「助けられた?」

 

「そう。チェンソーマンは私のために戦ってくれた。私のためだけに命を尽くしてくれた。──いつしか、自分が何者かさえも忘れてしまったけれど」

 

 シーちゃんは無表情ながらも、過ぎ去った過去を思い出すように遠い目をしていた。

 

 やがて、彼女は続きを話し出す。

 

「顔が無くなっても。言葉が話せなくなっても。体が化物になってしまっても。チェンソーマンは私を助ける為に、全てを捧げ続けた。そして、果てしない戦いが終わった時。私は救われたの」

 

「チェンソーマンは、シーちゃんのこと……」

 

「覚えていない。本来の姿も、本来の名前も、全てを忘れてしまった。でも、誰かを助けるという高潔な意志だけは、決して忘れなかった」

 

 地獄のヒーロー、チェンソーマン。彼が何故助けを呼ぶとやってくるのか。それはシーちゃんの想い人が残した、最後の意志があるからであった。

 

「彼は死んでいない。たとえ私を忘れてしまっても、この心臓だけはずっと動き続けてる。デンジ君、お願い。私と共に生きて欲しい」

 

 ──もう二度と、彼と離れ離れになりたくない。

 

 シーちゃんが目を伏せ、デンジを強く抱き締めてくる。デンジはただシーちゃんの想いを汲み取り、優しく抱き締め返すことしかできなかった。

 

「シーちゃん。俺には、シーちゃんの好きな人は務まらねえよ……」

 

「代わりになる必要はない。デンジ君はデンジ君らしく生きて欲しい。きっと、彼もそう言うと思う」

 

 ──私は彼を愛してる。でも、彼の跡を継いだデンジ君も愛すよ。それが、残された私に出来る唯一のことだから。

 

 デンジはシーちゃんの覚悟を聞き終え、大いに悩んだ。デンジはレゼが好きだ。これは変わりようのない事実。だが、シーちゃんの思いの丈を聞き、デンジは彼女を振ることが出来なかった。

 

 一体どうすればいいのか。何が正解なのか。デンジには分からない。

 

 物静かな部屋に時計の音が響く中、デンジはただひたすらに苦悩をした。

 




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