転生したらプロペラヘッドだった件   作:卍錆色アモン卍

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6好きだ

 

 

 

 自然豊かな山々に囲まれた湖が眼下に広がる。ここは群馬県高崎市にある榛名湖であり、俺はその上空を飛行していた。すでに現場のデビルハンターとは連絡を取り合っており、出現した悪魔を処理する段取りはつけていた。

 

 女が持つ無線機から、作戦を開始する旨が届く。

 

 すると、榛名湖の沿岸から小型ボートが発進した。それは小さな波を起こし、湖面に波跡をつけては進んでいく。しばらくの間は異変が無かったが、榛名湖の中心部へ辿り着いた瞬間。突如として小型ボートの背後に大きな波が発生した。俺は即座に急降下をし、大きな波を引き起こした元凶、鯉の悪魔へと接近したのだ。

 

 長大な体をくねらせながら泳ぐ様は、もはや龍だ。しかし顔は髭の長い鯉であり、腕が生えているが尾びれもまた鯉であった。なんともちぐはぐな姿をした悪魔であるが、全長二十メートルはあろうかという巨体であり、脅威以外の何ものでもない。俺は射爆照準器越しに悪魔の頭部を捉えると、二十ミリ機銃を掃射した。

 

 銃口から血と爆音が吐き出され、水面を激しく叩きながらも鯉の悪魔を薙ぎ払う。胴体にいくつもの弾丸が突き刺さり、頭部にもまた複数の弾丸が突き刺さった。鯉の悪魔は大量の血を吹き出したため一度潜るが、途中で力尽きたのか浮上してきた。

 

 どうやら死んだようだ。俺は残りの作業を民間のデビルハンターへ委託し、飛行場へと帰還する。鯉の悪魔の処理に要した時間は、実質三十分ほどであった。

 

 

 

 飛行場へと帰還する道すがら、女と雑談をする。というのも移動時間が大半を占めるからだ。女が話しかけてくるということもあり、俺は素直に雑談に興じていた。

 

「鯉の悪魔はなんで龍の姿だったんすかね〜。登竜門的な?」

 

「さあナ。だが俺は龍神伝説を推ス」

 

「なるほど〜! 確かに湖とか川とかには龍神伝説がつきものですもんね〜。ところでセンカイ君の好みの女性ってどんな人っすか〜?」

 

「なんでそうなル。教えるわけが無いだロ」

 

「正解はマキマさんで〜す!」

 

「黙レ」

 

 こうして話を強引にずらされるのが鼻につくが、たとえ相手が女だろうと会話に興じてくれるのは喜ばしいことであった。間違っても、こいつには言わないが。

 

「そろそろ東京都に入りますよ。あと少しで着くっすね〜」

 

「そうだナ」

 

 一度血液を補給する必要がある。そのためにも飛行場へと帰還し、また飛び立たなければならない。

 

 俺の担当区域、というよりは特異五課の担当区域は関東地方に留まらず、中部や東北にまで及んでいる。そのため相手にする悪魔に条件があれど、俺達特異五課は火の車だった。未だ武器人間の数が少なく、戦闘力の高いデビルハンターも少ないため、どうしてもしわ寄せがこちらに来るのだ。特に俺は移動速度が段違いであるため、民間では手に負えないモンスター級の巨大悪魔が回される。予定がぎっしり詰まっているという訳ではないが、応援要請などで飛び回るのは日常茶飯事であった。

 

「最近は忙しいナ」

 

「いつもじゃないっすか?」

 

「……やめロ」

 

「センカイ君、お疲れっすね。あとで優しく筆下ろししてあげるっすよ」

 

「絶対にやめロ」

 

 女の戯言をかわし、俺は着陸準備へと入った。引き込まれていた主脚を出し、主翼についているフラップをめいいっぱい下ろす。

 

 早く休みこねぇかな。俺はそんなことを考えながら着陸をした。

 

 

 

 公安対魔特異課本部の一室。そこに俺はいた。目の前には、執務机からこちらを見つめるマキマさんがいる。

 

「センカイ君、来てもらってごめんね」

 

「いえ、構いません」

 

「キミを呼び出したのは、日頃の感謝を伝えたかったからなんだ。それでね、このあと一緒にご飯でもどうかな?」

 

 すでに午後七時を過ぎている。特に断る理由もないので、俺はマキマさんの誘いに了承をした。

 

 

 

 電車を乗り継ぎ、俺とマキマさんは高級焼肉店へとやってきていた。個室に案内をされた俺は、マキマさんの対面に座る。

 

「好きなものを頼んでいいよ。今日は私の奢りだから」

 

「ありがとうございます」

 

 俺はメニュー表を開き、目を通す。だが、マキマさんが気になってしまい集中できない。言葉使いが硬いだろうかと不安を覚え、これまでに交わした会話を反芻してしまう。

 

 ちらりとマキマさんを覗くと、楽しそうにメニュー表を見ていた。俺は無駄に緊張をしても仕方がないと割り切り、不本意ながらもマキマさんをバディの女だと思い込むことにした。

 

「どう? 食べたいものは決まった?」

 

「はい、この厳選黒毛和牛の大皿セットでお願いします」

 

「フフ、いいよ。じゃあ私はこの極上ランプと特選ハラミにしようかな」

 

 マキマさんが店員を呼び、注文をする。店員と言葉を交わすマキマさんの横顔はとても美しく、メニュー表を指す指は白くて細く、そして繊細であった。

 

 

 

 食事は終盤に差し掛かり、今はデザートを食べている最中だ。マキマさんはバニラアイスを食べており、俺も同じものを食べている。

 

「センカイ君には、負担を強いてるよね。本当にごめんなさい」

 

「マキマさんが謝る必要はありませんよ。あなたは最善を尽くしてます」

 

「そう言ってくれてありがとね」

 

 マキマさんが笑いかけてくる。俺は思わず目を逸らしてしまった。

 

「理想の世界にはまだ遠いけど、今は地盤固めの時なの。いつか報われる時が必ず来るから、どうか私を信じてほしい」

 

「勿論信じますよ。俺はマキマさんに仕えると決めた時に見た、あなたの覚悟に惚れたんです。最後まで貫き通してみせます」

 

「フフ、ありがとう。でも惚れただなんて、照れちゃうね」

 

「それは、人として惚れたといいますか」

 

「分かってるよ。でも、嬉しい」

 

 マキマさんと見つめ合う。間違っても俺のことを異性としては見ていないだろう。だが、それで構わない。俺は忠義を尽くすと決めたのだ。なら最後まで、信じ抜くだけだ。

 

 

 

 タクシーに乗ったマキマさんを見送る。彼女は窓を開けると、こちらを見て話し出した。

 

「センカイ君、今日は楽しかったよ。また二人で食べに行こう」

 

「はい、俺も楽しかったです。ぜひ、またご一緒させてください」

 

 タクシーが走り出し、やがて見えなくなった。それと同時に緊張の糸が切れ、一息つく。俺は周囲を確認すると、誰もいないのをいいことに両腕を掲げた。そして、叫んだ。

 

「マキマさん……!! 好きだあああああああ!!!!!」

 

 俺は両手をポケットの中へ突っ込むと、何事もなかったかのように歩き出す。帳の降りたコンクリートジャングルの中を突き進み、いつものプレハブ小屋を目指した。

 

 今日の一日は終わった。また明日から同じ一日が始まるだろう。だが、これまでとは違うと確信があった。きっと日常が変わるんじゃない。この俺が変わるのだ。

 

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