長い勤務日が終わりを迎え、休日がやってきた。前に決めた通り女の家で過ごすと、昼頃にはプレハブ小屋へと帰る。というのも来客の予定があったのだ。そのことを女に伝えれば、何を思ったのか俺についてきた。
ソファに座り、女と共に来客を待っているとドアがノックされる。俺は玄関まで向かい扉に手を掛けると、反対側から勢い良く開け放たれた。
「同志プロペラヘッド!!! 会いたかったよ君にぃ〜!!」
「お邪魔しまぁす!!」
火炎放射器の武器人間バルエムと、長剣の武器人間ソードがいた。彼らは俺と同じく特異五課のメンバーだ。
俺は二人の圧に若干押されながらも、彼らを対面のソファに案内をした。なお、女は気を利かせて飲み物を用意している。
少し休憩を挟んだ後、バルエムが嬉しそうに話を切り出した。
「同志プロペラヘッド、この前の応援要請に駆けつけてくれてありがとう。おかげで助かったよ」
「仲間を救うのに理由はいらない。気にしないでくれ」
「同志プロペラヘッド……!!」
やけにバルエムからの好感度が高い。高すぎるくらいだ。そのため俺は彼を訝しむが、あまり言葉を交わす間柄でもないため、この疑問は胸の内に秘めておく。
「やはり、君は武器人間として素晴らしい人材だよ……。それでね、少し君には相談があるんだ」
バルエムは表情を消すと、体を前にのめらせてきた。
「俺はね、武器人間が最も輝く時は虐殺する時だと思ってるんだ」
そして口角を上げ、俺を真っ直ぐに見つめてくる。
「というのも、人も武器も悪魔も人を殺す為に生まれてきた。俺はそう思ってるんだよ。──それでね、同志プロペラヘッド。君にとって、武器人間が輝く時はいつだと思う?」
彼に問われた武器人間が輝く時。俺は考えを一瞬で纏め、即答した。
「マキマさんに戦果を報告した時だ。俺のこなせる最良の結果を報告し、評価を貰う。もしマキマさんが虐殺を命じるなら、俺は嬉々として虐殺してみせる」
「……なるほど。忠義を尽くす時にこそ、武器人間は輝くというわけか。そして、虐殺は行程に過ぎないと……」
バルエムは顎に手を当てて、真剣な表情で考え始めた。やがて思考が纏まったのか、彼は笑顔を見せて立ち上がったのだ。
「同志プロペラヘッド! 今日は有意義な時間をありがとう。君のおかげで新しい知見を得られたよ」
バルエムが右手を差し出してきたので、俺は彼の期待に応えて固い握手を交わした。
「朧気ながらに野望が見えた。俺が何を望んでいるのかがようやく分かったのさ。少し、一人で考えてみるよ」
「ああ、いつかバルエムさんの野望を聞かせてくれ。きっと力になれる」
「ははは! 俺は君のような友人を持てて本当に幸せ者だな。じゃ、これで失礼するよ。今日は本当にありがとう、プロペラヘッド君」
「こちらこそ」
にこやかな笑顔を浮かべ、バルエムは去っていった。初めは癖の強い人物だと思ったが、ただただ武器人間への愛が強い人だと知った。存外、話してみると印象が変わるものだな。
一息つき、ソファに腰掛けると突如としてソードが立ち上がった。そして頭を下げ、膝に手を乗せる。その様はまるで舎弟だ。
「兄貴と呼ばせてくださぁいッ!!!」
「いきなり何なんだよ」
流石に困惑する。初対面の相手から兄貴と呼ばせろなんて、一度たりとも経験がないのだ。
「兄貴の圧倒的な戦闘力! バルエムさんと対等に渡り合う知力! そして、マキマさんに絶対的忠誠を誓った漢力! 全てに感服いたしました! 兄貴、ぜひとも兄貴と呼ばせてくださァい!!!」
「もう呼んでるじゃねえか」
こいつ、もしや馬鹿だな。俺はそんなことを考えながらも、一度ソードを落ち着かせてソファへと座らせた。
「それで、俺を兄貴と呼びたいと」
「はい! 是非に!」
「いや、まぁ。いいけど」
慕ってくれる分には構わないんだが、これは同僚というのか?
「なら、私は姉貴っすね!」
「は? えっと、誰スか……?」
今まで黙っていた女がしゃしゃり始めた。間違いなく碌なことを考えてないぞ。
「私は三船フミコっす! プロペラヘッドこと、三船センカイ君のお姉ちゃんです!!」
「な、なんだってぇ〜〜〜!!?」
案の定だ。俺は溜息をつき、口を開こうとする。しかし、女に無理やりお茶を渡されて口を噤んだ。
「君の名前は須郷ミリ君、年齢は十六歳! 私の弟のセンカイ君は、十八歳! そしてこの私、三船フミコは二十歳! 誰がお姉ちゃんか、賢いミリ君なら分かるよね〜?」
「俺の名前を知ってる!? それに、年齢まで!! それだけじゃなくて、年上だって!!?──姉貴と呼ばせてくださァい!!!」
「おっけーい!!」
「何がおっけーいだ馬鹿」
流石に好き放題やり過ぎだろ。明らかにキャパオーバーしてるじゃねえか。俺はそう言って立ち上がろうとしたが、女に膝の上へ座られて初動を挫かれたのだ。こいつ、よく見てやがる……!
その後、なんやかんやあってソードこと須郷ミリは弟分となった。慕われることに悪い気はしないのだが、予想以上に女と仲良くなっていたのが少し不満だ。ただ、同僚と良い関係性を築けたのでこれで良かったのかもしれない。俺はそう思うことにした。
少し時が流れ、午後四時頃。須郷ミリと女と別れた俺は、一人でショッピングモールに来ていた。目的地は宝石店。いつの日か女が仕事で疲れてると言っていたので、俺もマキマさんの真似事をして労ってやろうと考えたのだ。しかし何をあげればいいのか分からなかったため、取り敢えず高価な物を送ることにした。その結果、ネックレスを買うことにしたわけだ。
モール内に設置された地図を頼りに宝石店を探し出し、俺は入店した。ショーケースがいくつも置かれていたため軽く全体を周り、目ぼしいものに目をつける。そしてトーナメント方式で一番良さげなネックレスを選ぶと、店員に声を掛け購入をしたのだった。
辺りが薄暗くなってきた午後六時。フミコは家のソファでのんびりと寛いでいた。その時、物音がしたのでそちらへ振り向くと、リビングのドアを開けて入ってくるセンカイがいた。
「おかえり〜」
フミコは挨拶を早々にテレビへと意識を移す。しかしその時、センカイが話しかけてきたのだ。
「おい、受け取れ」
「え? なんすかこれ」
フミコは高級そうな箱をセンカイから受け取った。思わず疑問を口にすると、センカイが何でもないかのように話す。
「前に仕事で疲れてると言ってただろ。これで元気だせ」
センカイはそう言うと、食料品を冷蔵庫に入れるためかキッチンに行ってしまった。彼を見送ったフミコは恐る恐る箱を開けてみると、中には赤い宝石──ガーネットが印象的なネックレスが入っていた。一瞬見間違いかと思いフミコは目を擦るが、まごうことなき本物だ。
度肝を抜かれて硬直している最中、センカイがリビングへと戻ってきた。フミコは即座に声を掛け、彼を隣に座らせる。
「え、これどうしたんですか」
「さっき言っただろ。お前への労いの品だ」
背もたれに大きくもたれ掛かり、体を伸ばすセンカイにふざけた様子はない。どうやら、本当にフミコを労おうとしてネックレスを渡してきたようだ。その事実に気付いたフミコは純粋に嬉しかったが、ネックレスはちょっと重いなと素直に思う。
「なんでネックレスなんすか?」
「……駄目なのか?」
どうやら重いと気付いていないらしい。フミコは心から笑うと、センカイに抱き着いた。
「駄目じゃないっすよ〜! めっちゃ嬉しいっす!」
センカイは抵抗することなくフミコを受け入れている。フミコはセンカイへ何かを言おうとしたが、言葉に詰まってしまった。どこで買ったの、幾らしたの、なんでネックレスを選んだの、どうしてガーネットなの。いろんな疑問が頭に浮かんでいたが、今はセンカイをより近くで感じていたいと心が望んでいたのだ。
しばらくの間、テレビの音だけがリビングを支配していた。センカイが物静かなフミコに疑問を抱いたのか、探るような目線を送ってくる。だが、フミコはただ薄っすらと笑いセンカイに寄り添うのだった。
就寝する時間となり、ベッドへと入った俺は目を瞑る。その時、女に声を掛けられた。
「センカイ君、起きてます?」
「なんだ」
「プレゼント、本当に嬉しかったです」
「ああ」
手を握られる感触を覚えたのでそちらへ向くと、女が俺に笑いかけていた。
「明日からもよろしくね」
「ああ、よろしく」
それ以降話しかけられなかったため、俺は段々と深い眠りについていく。やがて、夢の中へと旅立った。
──ずっと一緒にいようね。