おおよそ二年の歳月が過ぎた。公安のデビルハンターとしての実力が上がり、数々の実績を積み重ねたおかげでマキマさんの地位も上がっている。これも特異五課が日々の努力を怠らなかったおかげだろう。
そんな俺達特異五課だが、マキマさんに呼び出されたため公安対魔特異課本部の一室に勢揃いをしていた。
俺、女、バルエム、ソード、スピア、ムチコ。俺達は横一列に整列し、目の前にいるマキマさんに耳を傾ける。
「近々特異一課、二課、三課、四課が襲撃される。何も手を打たなければ、大勢死ぬだろうね」
マキマさんが一人一人の顔を見回すと、続けて話した。
「私はこの襲撃を犠牲者ゼロで乗り切りたいと考えてるの。すでに上には話を通していて、いずれ特異課の皆にも知らせるつもり」
公安が襲撃されると聞かされても、俺達に動揺はない。ただ、マキマさんの言葉を待つ。
「作戦なんだけど、襲撃者に感づかれちゃいけない。だから、それぞれの特異課から囮役を数名選出することにした」
席を立ったマキマさんが、窓の方へと歩み寄った。
「皆には彼らを護衛して欲しい。一課はバルエム、二課はスピア、三課はムチコちゃん、四課はソードとプロペラヘッド、そしてフミコちゃんが担当。皆、よろしくね」
そして、こちらへ振り向き命令を下す。俺達は疑問を呈することなく、彼女に了承をした。
数週間後、俺は女とソードを伴って護衛対象と顔を合わせていた。合計にして六人。髪を後ろで結んだ男、早川アキ。眼帯を付けた女、姫野。チンピラ然とした年若い少年、デンジ。角の生えた魔人、パワー。ガタイの良い青年、荒井ヒロカズ。ビクついた小柄な女、東山コベニ。
正直なところ、護衛対象多くね?と俺は思ったが、マキマさんが言うにはデンジの心臓が狙われるらしい。なので、彼らにも護衛を期待しているとのことだった。
公安本部の一室を借り受けた俺達は、お互いに自己紹介を始める。
「俺は特異五課所属、プロペラヘッドだ。お前らの護衛としてつく」
「同じく特異五課、三船フミコで〜す。よろしくね〜」
「同じく特異五課、ソード。お前らちゃんと兄貴の指示に従えよ」
俺達の自己紹介が終わると、続いて彼らの番となった。
「特異四課所属、早川アキだ。よろしく頼む」
「同じく四課、姫野で〜す!」
「デンジだ!」
「パワー!!!」
「同じく特異四課、荒井ヒロカズです! よろしくお願いします!」
「え、えっと、同じく特異四課の、東山コベニです……」
なかなかの個性派揃いであり、もっとも重要な護衛対象が馬鹿っぽいのが残念だが、彼らと段取りを組むために話し合う。
「当日のお前らの予定を教えろ」
「分かった。まず俺達は──」
しばらくして、大まかな計画は煮詰まった。といっても護衛対象には集団で行動してもらい、俺達特異五課は先回りをするか、離れた場所から見守る形となる。正直これでいいのかと不安を覚えたが、女からこれぐらいしか出来ないから大丈夫と太鼓判を押された。なので、このままいくこととする。
「休みを挟んだ明々後日、襲撃を受ける可能性が高いとされてる。くれぐれも気を付けてくれ」
「分かった。今日はありがとう」
「ああ、こちらこそ。当日はよろしくな」
「よろしくね〜! それじゃ!」
「あばよ」
そうして、俺達は退出した。このあとマキマさんへ報告しに行かなくては。ちなみにマキマさんも襲撃対象らしいのだが、自分でなんとかするとのこと。あまり詳しくないが、マキマさん自身もかなり凄腕のデビルハンターらしい。それを初めて知った時、俺は普通に驚いたものだ。
特異五課の面々が退出し、ここには特異四課の面々が残った。アキは一つ息をつくと肩を回し、背もたれにもたれ掛かる。
「あれがプロペラヘッドか……」
「意外と普通の人だったねぇ。それに他の面々も結構普通みたい?」
「特異五課?って何だよ。四課の上ってあんのぉ?」
「あるぞ! 特異百課まである!」
「嘘つけ!」
デンジとパワーが言い争いを始めたが、アキは無視をした。その時、ヒロカズが不安そうな顔をして姫野に問いかける。
「姫野さん、彼らは信用できるのでしょうか……? 敵の狙いはそこのデンジで、恐らく敵の本隊がやってきますよ!」
「どうしようどうしよう。私、死んじゃったりするのかな……」
「落ち着けたまえよ君達! 彼らは特異五課、悪魔処理のエキスパートなんだよ? これまでに積み上げた実績は数知れずあって、一度調べたんだけどケタが違うね、ケタが。間違いなく日本屈指のデビルハンターだよ」
だから大丈夫、心配なんていらないよ。そう姫野は言い、不安そうにする二人を落ち着かせた。
「お前ら、注目」
アキが声を張り、全員の注目を集める。
「彼らが護衛についてくれるからといっても甘えるな。自分の身は自分で守れ。さもないと最悪の場合、死ぬぞ」
「ハッ! たりめ〜だろ? 俺ぁ男の助けなんていらね〜よ!」
「お前は守られる立場なんだよ!」
「ワシもデンジと同じ立場じゃ!」
「違う!」
アキはどっかりとイスに座り、深いため息をついた。こんなので大丈夫かと不安を覚えたが、なるようになるしかないかとアキは諦めるのだった。
運命の日がやってきた。アキは気合を入れて臨む。だが午前中に襲撃は無く、予定通り都内のビル三階にある飲食店で食事を取っていた。
大テーブルを囲い、黙々と食事をする六人。だが、彼らに話し掛ける者がいた。
「ここのラーメンよく食えるな。味、酷くないか?」
コートを着た中年の男。彼は顔を動かすこともなく、一人呟くように話し掛けてきたのだ。
「俺はフツーにうめえけどな」
「ワシに気安く話しかけるな!」
「味の良し悪しが分からないんだな。まあ仕方のない事だ。幼少期に同じような味のモンしか食べてないと、大人になってバカ舌になるらしい。舌がバカだと幸福度が下がる」
「ワシ幸福じゃが!」
「俺のじいちゃんは世界一優しくてな。高い店でいいモン食わせて貰ったな〜。じいちゃん、ヤクザだったけど正義のヤクザでさぁ」
「あの〜、すみませ〜ん」
違うテーブルから邪魔が入り、男が思わずといった様子でそちらを向く。
そこには女が立っていた。口元に無線機を押し当て、空いた手で拳銃を構えた女が立っていたのだ。
「死んでくださ〜い」
そして撃鉄が落とされ、雷管が叩かれる。それにより薬莢内の火薬が爆発し、目にも止まらぬ速度で弾丸が放たれた。計三発。それは男の頭部と胸部に突き刺さり、致命傷を与えたのだ。男は、あと数秒とせずに息絶えるであろう。
女──三船フミコは他の客にも発砲した。撃たれた彼らは懐から拳銃を取り出そうとしており、いずれも襲撃犯の一味であった。
リボルバーのシリンダーから空薬莢を取り出し、新たに弾薬を装填するフミコがこちらへ歩み寄ってくる。そして、アキ達に話しかけてきた。
「じゃ、移動しましょうか」
人を殺したというのに表情を変えず、ただ淡々と話す様に一部の者は冷や汗を流す。しかし、アキを含めた熟練のデビルハンター達は気にしていなかった。
「助かった。よし、お前ら移動するぞ」
「待てよ……!!」
いつの間にか男が立ち上がっていた。だが、先ほどとは様相が異なっている。彼の頭部には軍帽が被られ、分厚い刀身の刀が頭を貫通するように生えていたのだ。また、両腕も同様に刀が生えており、フミコはひと目を見て気付いた。
「武器人間……!」
男がしゃがみ込み、足に力を溜めるかのような動作をとる。しかし、フミコは焦ることもなく男──サムライソードに声をかけた。
「後ろ、見た方がいいっすよ?」
サムライソードの背後にある窓。そこには、巨大なプロペラが映っていた。
ビルの外壁を突き破り、刀の武器人間を鋼鉄の腕で薙ぎ払う。そしてそのまま地上へ引きずり落とすと、蛇腹状の下半身を操り自身もまた地上へと落下した。
道路を砕きながらも着地をすると、二階にまで相当する体躯を持ち上げる。この姿になった時は視界が高く、全能感に酔い痴れるため俺は密かにハマっていた。
『よオ、間抜ケ。お前らの企みは全て筒抜けダ。大人しく死ネ』
左腕と下半身で体を支えると、勢い良く右腕を振り下ろす。鋭利でいて悍ましい爪が刀の武器人間へと迫るが……残念ながら届くことはなかった。
──ヘビ、尻尾。
突如として現れた灰褐色をした大蛇の尻尾に、武器人間を弾き飛ばされたのだ。しかし、俺の右腕は大蛇の尻尾を引き裂き、大量の血を吹き出させる。
「だああ!! 何だってんだッ!」
「計画がバレてた。恐らく敵は特異五課。……この調子じゃ、計画は失敗かもね」
新たに現れた金髪の女は冷や汗を流していた。その後、彼女は無線機を取り出し連絡を取ろうとするが、何処にも繋がらない様子。
「兄貴ー! こいつらぶっ殺しといたぜ!!」
そこへソードが現れた。長剣と化した腕には人間の部位が幾つも突き刺さっており、串焼きを連想させる。なんとも冒涜的だが、実に合理的である。
異形の怪物となった俺の前にソードが立ち、見通しの良くなったビルの三階からは女を含むデビルハンター達がこちらを見下ろしている。もはや相手に勝ち目はない。
『俺達特異五課が全ての特異課を護衛していル。お前らの仲間は連絡員含めて死んでるだろうヨ』
「はっ! 全てお見通しなんだよ。諦めて降伏するんだな!」
悔しげに表情を歪めた金髪女は、自身に指を指した。そして、小さく呟いたのだ。
「ヘビ、移動ッ……!」
蛇の悪魔との契約が履行され、金髪女と武器人間はヘビに丸呑みにされる。やがて、彼らは風のように消え去った。
「兄貴、これでよかったんだよな?」
『あア。あいつらを拠点へ逃して一網打尽にすル。それがマキマさんの考えた作戦ダ』
今頃関西だろうか。俺は京都へ出張に行ったマキマさんを思い、空を見上げた。
京都行きの新幹線。その中で、マキマは肩肘をついて寛いでいた。
「皆は上手くやれてるかな」
「……あと、三十分ほどで到着です」
隣の部下が緊張した面持ちで報告をする。マキマは彼を労ろうと、優しく声を掛けた。
「心配しなくても大丈夫だよ。ほら──もう刺客は死んでるよ」
マキマは廊下に転がる血塗れの死体を彼に見させる。どの死体も体に大きな穴が開けられており、驚愕した表情で息絶えていた。
「……京都の偉い人達と会いたくないなあ。皆、恐いんだもん」
外の景色を見るマキマは、憂鬱そうにそう呟くのだった。