ノリで秘密結社立ち上げたら入ってくるやつ全員秘密しかなかった   作:恋狸

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傭兵エルフと一般人
ノリで秘密結社を立ち上げてみた


「うーわ、マジか」

 

 一通の手紙と、何枚かの契約書だけで数十億の大金を手に入れた。

 膨大な金額にクラリと目眩がする。正当な手段で手に入れた金だけに現実感がない。詐欺で騙されていると言われた方が納得できるだろう。

 

「天涯孤独な爺さんが大富豪とかどんな偶然だよ……」

 

 偏屈だが筋の通っている老人がいた。

 歯に衣着せぬ物言いで、近所の人たちには嫌われていた老人だが、俺は嫌いじゃなかった。

 だから子供の時から邪険に扱われながらも時折遊びに行っていた。そんな俺に彼はため息と文句を言いながら付き合ってくれた。

 周りから見れば不思議な組み合わせだったと思う。

 

(ほし)絢斗(けんと)。間違いなく俺の名前だよなぁ……手続きした後なのに現実感ねぇや。銀行に入ってるわけだし」

 

 俺はアパートの一室でため息を吐いた。

 大学に入ってから爺さんとの繋がりは薄くなった。嫌いになったわけじゃない。電話でのやり取りは続いていた。

  

 そして大学を卒業した次の日。

 実家に帰ってきて、爺さんに顔でも出そうかと寄ってみれば、いつもと変わらぬ仏頂面で出迎えた爺さんは『卒業おめでとう』と素直に祝福してくれた。

 スタスタと背筋を伸ばして歩く姿は、とても90歳とは思えなかった。

 だからこそ、しぶとく生き続けるだろうと思っていた。

 

「会った次の日には呆気なく死んじまって……。まるで俺を待ってたみたいじゃねぇか。……最期くらい、素直でいれよ」

 

 涙は出なかった。必死で堪えた。

 涙を流せば爺さんに鼻で笑われるような気がした。馬鹿は馬鹿のまま生きろと言われたんだ。馬鹿らしく生きてやるさ。

 

 ……家族はいないようで、俺に莫大な遺産を遺した爺さんは、例えどんな使い方をしようが何も言わないだろう。

 

「でも、まあ……どうせなら馬鹿らしく生きてぇや。俺()()の夢を、叶えるか」

 

 いつの日か馬鹿らしく夢を語った日があった。

 珍しく酒の入った爺さんは若干照れたような顔で言ったもんだ。

 

 

『ワシはなぁ、秘密ってもんに憧れた。スパイとか、謎の力を持った……非現実なもんを望んでいた。だが、それを恥ずべきことだとも、馬鹿らしい夢だと笑いたくねぇだろ。どんな形でも良い。一度でも良いから夢ってもんを叶えてみせろ』

 

「そうだな、爺さん。俺も叶えてやるよ。大言壮語な夢ってやつをよ」

 

 笑いたいやつは嗤えば良い。

 二十歳超えた大人がくだらないと嘲るがいい。

 

「秘密結社、作ってやるよ」

 

 斯くして発症、いや、再発した厨二病は金という武器のお陰で叶うこととなった。

 

 相続税でかなりの金額を引かれても、莫大な資産が俺の手元にはあった。軽くウン十億。爺さんの家にあった資産的価値の高い置物も含めたらもっといく。

 ……純粋に喜ぶことは到底できないけど。

 

「降って湧いた奇跡……なんて綺麗なもんじゃねぇからな。どうして使えば消える金を遺していくのか不思議なもんだ」

 

 暮らしを楽に、なんてあの偏屈爺さんが思ってるわけない。かと言って大いなる目的があったわけでもないだろう。

 

「一先ず、諸々の手続きは終わったし、会社の物件探しと行くか」

 

 所謂ペーパーカンパニーというやつだが、大ぴっらに秘密結社なんて言えるわけないだろう。普通に考えても正気を疑われる。

 だからこそ、会社の場所は拘りたい。

 こじんまりとした一室に居を構えて裏では……という感じ。雰囲気は重要で、形から入るのも大事だ。

 

「社長って響きは悪かねぇ」

 

 ニヤリと弧を描いた口元を擦りながら、俺は物件探しへと赴いた。

 

 

 

 

☆☆☆

 

「ここが俺の会社……」

 

 2ヶ月程度かけて探し、ようやく雰囲気、利便性ともにマッチする物件と出会うことができた。事情も聞かないで根気強く付き合ってくれた不動産会社の人たちには感謝しかない。

 

 そして、これから生活拠点となるアジト。

 都内の外れにある少々寂れた空きビルの5階全てを借りた。

 勿論散財する気はないし、大っぴらに金を尽くして外面を良くするのは秘密結社ではない。

 

「おぉ……良いなぁ」

 

 キィと鳴る鉄製の錆びた扉を開ける。

 すぐに人一人通れるスペースの階段が出迎え、上がるとそこは十二畳ほどの広さがあるスペースがある。

 すでにソファとそれなりに値が張る机が常備されている。ここに家電などを設置すれば探偵事務所のような雰囲気が出来上がる。

 ちなみに二階は寝るためだけの部屋を作った。

 

「ふっ……ニヤケが止まらねぇ。なんだこの非日常感は。感動を誰かと共有したいものだ」

 

 生憎と一人である。

 厨二病は叩けば埃のように出てくる。人員は後で良い。

 

 それよりも!

 

 俺が最もこだわった場所がある。

 

「よい、しょと」

 

 ソファを移動させ、床板を外す。

 現れたのは地下室へと降りる梯子だった。

 これは、このビルを建てる時に先方からの要望で作ったものらしい。その会社は私財を不正に溜め込んで社長は逮捕。会社は倒産。

 詳しくは語られなかったが、恐らく私財の隠し場所がここなんだろう。普通に過ごしていれば絶対に発見できないからな。

 

「雰囲気あるなぁ」

 

 降りるとまず扉が現れる。三方に3つある扉のうち一つだけが部屋になっている。有効活用すれば罠として使えそう。

 正しい扉を開けると、十五畳の部屋があり、俺が設置した円卓とそれなりに高い椅子が4脚。

 高スペックのパソコンが3台ある。

 

「すげぇ……無駄遣い感すげぇよ。ロマンを追い求めた果てがこれか」

 

 同士が見つかった時に有効活用するとしよう。

 

「おっと、この部屋を忘れていた」

 

 この部屋は天井が低い。

 広さに見合わず圧迫感があるのは……俺は部屋の隅の壁紙をペリッと剥がす。すると、直径3センチほどの紐が壁の中を垂れ下がっているのが見えた。

 紐を引っ張ると、ガタンッ、と音がしてロフトの階段が降りてくる。感動でしかない。どんだけ金かかったんだか。

 

 ロフトは所謂武器庫である。

 有事の際にここから武器を選んで出動する。……有事ってなんだ。

 ……もちろん、銃刀法違反を犯すつもりはサラサラないので、近くの骨董屋からそれっぽいもんを蒐集して並べた。

 見映えだけならそれっぽい。

 

 とりあえず適当に集めてきたものは六つほど。

 少しお高めだった錆の入った刀剣が二つと、年季の入った薙刀。

 昔偉いお坊さんが使ってたとか言われてる錫杖? 的なもの。

 ちょっとデカい壺と、箱に入ったお札? のようなもの。

  

 あまりにも俺が無知すぎて価値も使い道も分からねぇ。

 

「こんなガラクタに武器としての価値もないし、完全な自己満足だな」

 

 と苦笑しながら俺は地上へ戻る。

 やはり埃が積もっていて、軽く咳き込む。

 これは掃除が必要だ、と嘆息していよいよ次の作業に移る。

 

「来るとは思えないが、雰囲気作りのために求人募集をするか」

 

 こういうのはこだわってなんぼだ。

 最善を尽くせば失敗しても後悔はしない。精神的な観点からすると、結果は二の次で、過程が一番。例え自己満足でも、自分が納得できればそれでいい。

 

「メモ用紙に会社の……はないから俺の携帯番号を書いて……『助けが欲しいか?』と書く」

 

 よし! できたぞ。

 これぞ秘密結社と出会う筋道が完成した!

 これを量産して適当な路地裏に貼り付けて、諸々の設備を整えれば遂に動く。夢への第一歩が近づく。

 

「怪しい路地裏……ガチモンの裏社会の人間が釣れたりして……なんてあるわけないか。ははは!」

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

Side ???

 

「はっ、はッ、ハァッ……!」

「どこだッ! 見つけろ! 殺せッ! まだ近いはずだッ!」

 

 心の中で小さく舌打ちして、あたしは降り注ぐ銃弾をククリナイフで切り落とす。後ろ手に迫る追手と、無作為に降り注ぐ銃弾。どちらも厄介この上ないが、追手に見つかるリスクの方が断然高い。

 あたしは被弾覚悟で銃弾の雨を突っ切った。

 

「──ッ、チィッ!」

 

 肩、太ももに鈍い衝撃と、遅れて鋭い痛みがくる。

 止まってる場合じゃない。

 

 あたしは、あたしは……

 

「死んでたまるか……ッ!」

 

 路地裏を駆け抜ける。

 都内郊外。四十年前に発達を遂げたビル街は寂れ、ここらには人っ子一人もいない。人のいないコンクリートジャングルはまさしく深い森のようで、曲がりくねった路地が今のあたしには有り難い。

 

「……っ、うぅッ!」

 

 痛みで失神してしまいそうだ。

 舌を噛んで意識を回復し、壁を蹴り上げビルの上を駆け上がる。これで血の跡を誤魔化せるはずだ。

 

「あたしは死ねない。死ねない……ッ! でも、このままじゃ……!」

 

 組織は裏切りを許さない。

 どんな場所でもいずれ足がつく。隠れても【探知】されバレる。余程()()()()()()()()が無ければ、あたしは走り続けるしかないのだ。

 

「誰かに縋ってもどうせ助けはこない……! それでもあたしは……」

 

 痛い、痛い、痛いッ!

 心が! 張り裂けそうな程に痛い!

 

「誰か助けて」

 

 心からそう願った。

 味方など一人もいない。助けに来てくれるはずなんてないのに。

 

 ──瞬間、風に飛ばされてきた一枚の紙が顔に張り付いた。

 

「こんな時に……!」

 

 視界が効かない、と乱暴に紙を取ってふと書かれている内容が目に入る。

 

『助けが欲しいか?』

 

「──あ」

 

 偶然とは思えなかった。

 紙には番号が書いてあったが、生憎と私は通信機器を持ち合わせていない。

 

「……これが最後の。あたしの希望だ」

 

 紙をギュッと握り奇跡を紡いだ。

 

「──《コネクト》」 

 

 万物への繋がりを感知する魔法は、ここから近くの寂れたビルを指した。

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