翼を得た少女は自由の意味を探す   作:ココア@レネ

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早く先生を登場させたいと思いながらも、しっかりと掘り下げた話も書きたいと思うこの頃。
先生が苦悩する場面を早く見たい(書きたい)


第24話:トリニティが一番ヤバい

「エリスちゃん、そろそろ向かいましょう」

「分かりました」

 

 トリニティの歴史と書かれていた本を読んでいたところ、どうやら結構経っていたらしい。

 

 ヒフミさんに声を掛けられるまで、全く気付かなかった。

 

「お昼も用意してくれているみたいなので、楽しみにしていて下さいね」

「それはありがとうございます」

 

 本を棚へと戻しながら、ヒフミさんに返事を返す。

 

 少しとは言え神秘を使ったのと、本を読んでいたせいか、お腹が空いている様だ。

 

 しかし、総合学園と名前がついていたのが不思議だったけど、その謎が本を読んだ事でよく分かった。

 

 よく分かったけど、トリニティはゲヘナよりヤバい疑惑が浮上した。

 

 様々な学校が争い合い、このままでは共倒れしてしまうので、その結果出来上がったのがトリニティ総合学園となる。

 

 しかしそう簡単に纏まるならば、トリニティは今頃天下を取っていてもおかしくない。

 

 今もゲヘナと険悪なことからも、トリニティは過去から問題を抱えていた。

 

 反発や問題は色々とあり、ぼかされていたものの、総合学園からハブられた学校もあったみたいだ。

 

 総合学園となってからも様々な問題があったようだけど、今も問題自体はある。

 

「えーっと、場所は……あっ、ここですね」

 

 図書館から出てヒフミさんに連れてこられたのはトリニティの校舎ではなく、屋敷のような建物だった。

 

 入り口には門番も居て、中々厳重そうだ。

 

 その門番は何やら腰が引けているように見えるけど、多分私のせいだろう。

 

「あ、あなた達は一体何のようですか!」

「此処がティーパーティーの建物だと分かっているのですか!」

「あ、あの! 私達はナギサ様に呼ばれまして……あっ、私は阿慈谷ヒフミです。何か聞いていませんか?」

 

 銃を構えられるとまではいかないものの、ヒフミさんが頑張って弁明したことで、取り敢えず門番の人達は落ち着きを取り戻した。

 

 何やらボソボソと相談をしていたが、大丈夫なのだろうか?

 

「そうでしたが、確かに来客があるとは聞いていましたが……あの、どこのご令嬢でしょうか?」

「いえ、一般の出でございます。見ての通り、生徒でもありません」

「――そう言うことなのですね。分かりました。どうぞお通り下さいませ」

 

 何やら勝手に納得してくれたようなので、ヒフミさんと一緒に建物の中に入る。

 

 門番がいるということはそれなりの建物だと思うのだが、武器とか取り上げなくて良いのだろうか?

 

「ふぅ。何とかなりましたね。まさかあんなことになるなんて思いませんでした」

「私のこれはどう見ても、危ないものにしか見えませんので、仕方のない事です」

 

 翼だけでもインパクトがあるのに、駄目押しとばかりに巨大な銃が見えるのだ。

 

 怯えるのも仕方ない。

 

「ヒフミさん此処に来たことがないのですか?」

「はい。いつもは校舎にあるお茶会用の部屋で会っているので、此処に来るのは初めてです」

 

 ……それなら誰か迎えを寄越した方が良かった気もするが、何故ヒフミさんだけに任せているのだろうか?

 

 ティーパーティーとしての権力を、使いたくない理由とかあるのかな?

 

「そうだったんですね」

「でも、待ち合わせの部屋の場所は、しっかりと分かるので安心してください」

 

 ヒフミさんについての心配はしてはいないけど、建物のロビーには勿論私達以外にも生徒がいて、遠巻きに見られているのを感じる。

 

 私もヒフミさんも場違いであるのは確かであり、もっと個人的な場所の方がヒフミさんにとっても良いと思うのだが、ナギサさんは何を考えているのだろうか?

 

 お嬢様特有の常識とかあるのかもしれないな。

 

「それでは案内をお願いしますね」

「はい!」

 

 ……今更だが、いざナギサさんに会うとなると、少し緊張するな。

 

 ヒフミさんの友達みたいな感じもするので、出来れば敵対するなんて事はしたくない。

 

 どうか平和にご飯が食べられればよいな。

 

 

 

 

 

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 ヒフミがナギサの居る部屋へと向かおうとしていた頃、先にナギサの居る部屋へと訪れていた生徒が居た。

 

「ナギサ様。お客様がお見えです」

「通して頂いて構いません。それと、合図をしたら食事を運んで来て下さい」

「承知しました」

 

 生徒は扉を閉めて出て行き、部屋にはナギサだけが残される。

 

 部屋は一般的な来客用に使われている場所だが、他の部屋よりも防音性に優れており、扉に耳を当てた程度では部屋の中の声を聞く事が出来ない。

 

「ふぅ……」

 

 ナギサは飲んでいた紅茶を片付け、ヒフミ達のために新しいのを淹れてから、椅子へと座って一呼吸入れる。

 

 あまり緊張というものをしないナギサだが、流石に今回の件については気を楽になんてすることは出来ない。

 

 今日に至るまで、エリスの噂がトリニティ内で広がるような事はなく、今もエリスの容姿に言及するような報告は上がっていない。

 

 それはつまり、トリニティの調停者の事を知っている人物が皆無なのを意味する。

 

 ナギサがトリニティの調停者の事を知ったのは偶然であり、ナギサとしても眉唾物であった。

 

 調停とは第三者が争いを止める行為の事であり、武力ではなく対話にて行われるものだが、このトリニティの調停者とはそうではない。

 

 そしてトリニティの調停者とは記されているものの、その行いはトリニティ内に留まるものではなかった。

 

 一種の神の裁き。或いは災厄。

 

 争う力を取り除く暴力装置。

 

 それがトリニティの調停者なのだ。

 

 ナギサはエリスの件を知り、急遽古書館にて調べたのだが、時間の関係もありトリニティの調停者について書かれている本は一冊しか見つからなかった。

 

 そしてその本に書かれていたのが上記の事だ。

 

 もしも本に書かれている通りならば、エリスへの対応次第ではトリニティが滅びるかもしれない。

 

 そう、ナギサは考えている。

 

 ナギサの友人には一人とても強い少女が居るのだが、流石に分が悪すぎるため、今回の件からは遠ざけている。

 

 ヒフミと仲良しという面では安心も出来るが……。

 

「――どうぞお入り下さい」

 

 思考の海を泳いでいると、来客を告げる音が聞こえ、ナギサは廊下への放送装置を使う。

 

「失礼します」

 

 まずはヒフミが入室し、後ろから目当ての人物が現れる。

 

 中学生にしては背が低く、その代わりとなるようにしてある、大きな白い翼。

 

 そしてその翼には……。

 

(……ふぅ)

 

 ナギサは悟られないように一息入れてから、エリスの翼を改めて観察する

 

 四枚ある内の二枚に取り付けられた、金属製の翼カバーの様なもの。

 

 そしてそのカバーからぶら下がっている、あまりにも長く、異様な二丁の銃。

 

 報告では聞いていたものの、実際に目の当たりにすると、威圧感を感じる程だ。

 

 戦車や迫撃砲よりも大きさで言えば劣っているが、本に書かれていたような人物であるならば、侮ることは出来ない。

 

 エリスはヒフミの指示に従い、ゼロカスタムをガンラックに置いてから、ナギサの前へと向かう。

 

 その時、ナギサはエリスの翼に何かが居ることに気付いた。

 

 それはどう見ても鳥であり、毛繕いしていることから、アクセサリーなんて事は有り得ない。

 

 ヒフミに気にしているような様子は見られず、ナギサは一旦見なかったことにすることにした。

 

 銃に比べれば、生きてる鳥くらいなんらおかしくない。

 

「お越し頂きありがとうございます。自己紹介の前に、まずはお座り下さい」

「分かりました」

 

 トリニティで過去の経歴を確認出来ていない以上、エリスはトリニティ式の作法を学んでいないはずなのだが、その所作は多少拙いものの、ナギサの目からしても悪くないものである。

 

「私はティーパーティーに所属しています、桐藤ナギサと申します」

「自己紹介して頂きありがとうございます。私は白凰エリスと申します。本日はトリニティの見学の許可と、ヒフミさんをつけていただきありがとうございました」

「気にしないで下さい。ティーパーティーの一員として、将来の同胞を導くのは当然のことですから。それに、ヒフミさんによい友達が出来たようでなによりです」

「ナギサ様!」

 

 お互いに笑い合い、掴みは上々だとナギサは気を引き締める。

 

 今回のナギサの一番の目的は、エリスにトリニティへの入学を確約させる事だ。

 

 トリニティで生活している子共が、トリニティ以外に学校へ行くことは基本的にないのだが、エリスは根無し草であり、どの学校に通うか迷っているとヒフミから聞いていた。

 

 もしもエリスが他の学校へ入学を決めてしまった場合、来年行われるとある条約の締結について問題が起こる危惧がある。

 

 特にゲヘナへの入学を決めてしまった場合、ゲヘナがトリニティの正当性に苦言を呈してくる可能性も無くはない。

 

 今は誰もエリスの存在を正確に理解していないが、エリスが目立ち始めれば過去の文献などから、調停者についての情報が見つかる可能性は大いにある。

 

 そう、トリニティ以外にも情報は間違いなくあるのだから。

 

「まだトリニティをほとんど見学なされていないと思いますが、何か印象の様なものはありましたか?」

「最初に大聖堂を見に行ったのですが、とても綺麗でした。少々ゴタゴタがありましたが、流石トリニティが誇るだけの事はありました」

「それは良かったです。しかし、ゴタゴタですか……何があったのかお聞きしても?」

 

 言い方からして、トリニティの悪い部分を見られたのだとナギサは思い、少しだけ紅茶を飲むペースが速くなる。

 

 一見華々しく見えるトリニティだが、ゲヘナとは違った問題を沢山抱えている。

 

「私が説明するよりも、ヒフミさん。お願い出来ますか?」

「わ、私ですか?! ――それって結末もですか?」

「隠していて知られるよりも、先に報告をしておいた方が良いでしょうから。それに、ナギサさんを困らせたくはないですから」

「それも……そうですね。結構派手でしたし……」

 

 話が纏まり、ヒフミから何があったのか聞いたナギサは、ふと今朝の事を思い出しながら頭を悩ませた。

 

 珈琲部は紅茶部や茶道部よりも小規模の部活であり、この三つの部活は日夜争っている。

 

 そして、そんな争いばかりするならと、来年度の予算を減らす案を出したのは、ここに居るナギサだった。

 

 案は満場一致で決まったのだが、紅茶部と茶道部は渋々了承する中、珈琲部だけは大いに反発し、その結果が今日のデモであった。

 

 そんな事態になっていたとは寝耳に水であり、この後あるであろう報告をどうするかと一人考えを巡らす。

 

「それは災難でしたね。お怪我が無くて何よりでした。この件につきましては私個人とはなりますが、謝らせていただきます」

「いえ、私も道を破壊してしまったので、その事を咎めないでいただけるなら問題ありません」

「そうですか……分かりました。エリスさんの行いに付きましては、私の方で責任を取っておきます」

 

 酷い目に遭ったはずなのに、思っていたよりも気にしていない事と、ヒフミと同じく怪我がなく本当に良かったと、ナギサは胸をなでおろす。

 

「それと、記憶が無いとの事ですが、トリニティで見覚えのあるものとかあったりしましたか?」

「全くですね。他の自治区でも調べてみると言われましたが、そちらの方も進展が無いみたいです」

「それは残念ですね……これ以上は先にお昼を頂いてからにしましょうか」

 

 一度話に区切りをつけて、ナギサは手元の装置で食事を頼む。

 

 ナギサもエリスの身辺調査はしたものの、そもそも白凰の苗字が存在せず、名前の方もここ十数年では同じ名前の赤子も産まれていない。

 

 名前自体が嘘の可能性もあるが、目の前に実在する以上、何かしらの痕跡がなければおかしい。

 

 直ぐに料理が運ばれてきて食事を開始するが、ナイフとフォークを使う手に拙さはない。 

 

「とても美味しいですね」

「折角なので、パーティー等で出される料理を用意させて頂きました。足りないようでしたら、お代わりも出来ますよ」 

「それは嬉しいですね。それでしたら、この量を後四人前お願いしても良いでしょうか?」

「はい……大丈夫ですよ」

 

 言葉に詰まりそうになるものの、ナギサは何とか平然を保って、追加の料理をお願いする。

 

 そしてエリスは今食べているのも含め、全てを綺麗に平らげてしまった。

 

 その小さな身体のどこに収まるのか、ナギサは少しだけ遠い目をするが、なんとか直ぐに帰ってこられた。

 

 そして食事の最中にエリスがナギサの書いた本の愛読者と分かり、更にその本で予め勉強していたと聞かされ、ナギサがほんのりと赤面するなんて場面もあった。

 

 エリスが大食漢だと、新たな一面を知る事が出来た食事も終わり、食後のティータイムに移る。

 

 ――ここからが本当の意味でナギサの戦いの始まりであり、どんな手を使ってでもエリスを仕留める……入学して貰わなければならない。

 

 来年度のフィリウス分派のリーダーとなるナギサだが、ホストではないため、出来る事は限られている。

 

 ホストとなるサンクトゥス分派のセイアは、サンクトゥムタワーに出かけているためいないのと、出来ればセイアに迷惑を掛けずに解決できるのがナギサとしてはありがたい。

 

 あまり身体が強くなく、下手なストレスを掛けたくないのだ。

 

「食事も終わりましたので、本日お呼びした本題に入らせて頂きます」

「はい」

 

 カップをソーサーに置いたナギサは、エリスとヒフミを見据える。

 

「実は……」

「ねぇねぇナギちゃん聞いたー!? 大聖堂の前に大穴が……あれ?」

 

 本題に入ろうとした瞬間に乱入者が現れ、ナギサは遂に堪忍袋の緒が切れた。

 

 理由は様々だが、これからトリニティの命運を左右する話をしようとする中、アポイントもなればノックもせずに入って来たこの幼馴染だろう。

 

 ナギサは手が出る前に、先にしっかりと言葉で注意する人間だ。

 

 だが、それは時と場合によるとしかいえない。

 

 この時起きた事を目の当たりにしたエリスは、やはりトリニティが一番ヤバいのだと再確認したのだった。

 

 

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