翼を得た少女は自由の意味を探す   作:ココア@レネ

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トリニティだと、ミネが一番好きなんですよねぇ(ボソ


第27話:突撃! 隣の正義実現委員会

 美術館の一番奥で、今にも消えてしまいそうなハナコさんと別れたのは良いものの、本当に何で服を脱ぐ話になったのだろうか?

 

 もしも本当に服を脱ぐことが自由ならば、きっと今頃露出狂だらけになっているはずだ。

 

 まあハナコさんの事は忘れるとしよう。

 

 こんなに広い学園で会うことは、多分無いだろうし。

 

 しかし、絵や石像を見ても、よく分からないな。

 

 展示されているのだから、相応に凄い作品なのだろうけど、「へー」という感想しか出てこない。

 

 大聖堂が描かれた絵とかは確かに凄いとは思うけど、そこから先に繋がらない。

 

 それに、私の中からも反応が無い辺り、誰も教養的な物に詳しくないみたいだ。

 

 まあ一通り見て覚えたし、何かの際に話の種にはなるだろう。

 

 結局二時間程美術館で過ごしてから外に出る。

 

 美術館はトリニティでも端の方にあるので、外もあまり人気がない。

 

 授業でも使っているようだけど、校舎から遠すぎないだろうか?

 

 さてと、これからどうしようか?

 

 図書館はあれだし、大聖堂は論外だ。

 

 少し気まずいけど、正義……えーと、正実の所に行ってみるとしよう。

 

 まだ生後一ヶ月も経っていない私は、あまり戦い方というものを知らない。

 

 前世はアサルトライフルで、今世はこのゼロカスタムだ。

 

 そしてこのハンドガンのエピオンとなるので、ハンドガンでの戦い方を教えて貰えるなら、教えて欲しい。

 

 身体自体も変わってしまっているので、そこも含めて基礎から覚えるのは我ながら良い案だと思う。

 

 纏めて吹き飛ばした負い目はあるけれど、一応図書館では手助けもしていたし、今の所大聖堂の件では何も言われていない。

 

 なので、行くだけ行ってみるとしましょうか。

 

 

 

 

 

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「あーっ! 間違いなくあの子っす!」

「はい?」

 

 正実の本部を目指していると、急に私に指を指して叫ぶ正実の人が居た。

 

 はて? 何の用だろうか?

 

「私に何か?」

「大聖堂の件。あなたっすよね?」

 

 すっと近寄ってきた少女は、銃に手を掛けながらあの事を聞いてきた。

 

 …………どうしましょうか?

 

 いやこんな時のナギサさんだ。

 

 多分連絡が遅れているだけで、きっと手を打ってくれているはずだと……信じたい。

 

 ふと、ロールケーキをミカさんの口に突っ込んでいる姿が浮かんだけど、あんな凄い本を書ける程の人だし、大丈夫なはずだ。

 

「はい。確かに私がやりましたが、ナギサさんから許可を貰っての事になるのですが……話は行ってないでしょうか?」

「えっ、それほんとっすか?」

「はい。私としてもあの時巻き込むつもりはなかったのですが、少々事情がありまして。おそらく大きな怪我は無かったと思いますが、大丈夫でしたか?」

「……確かに疲労があった位で、後かすり傷程度でしたっすね……」

 

 正実の人は、納得いかない様な感じで銃から手を放して腕を組む。

 

 非殺傷モードのため瓦礫による怪我はあっただろうが、やはり軽傷だけで済んだようだな。

 

 人体は透過するものの、しっかりと無機物は破壊する謎の非殺傷モードだけど、やはり便利である。

 

「申し訳ないっすけど、確認も兼ねて一度本部まで来てもらってもいいっすか?」

「はい。私も用事があったので、渡りに船です」

「用事? ……あっ、一応自己紹介しとくっすね。見ての通り正義実現委員会所属の、一年のイチカっす」

「私は進学先を考えるために、トリニティの見学をしています、白凰エリスと申します。用事というのは、戦い方を少し教えて頂ければと思いまして」

「戦いって、あれだけの蹂躙をしておいてっすか?」

 

 言いたい事はごもっともだけど、私は鍵の掛かっている扉を殴って開けたようなものだ。

 

 それで解決できることもあれば、しっかりと鍵を開けて解決しなければならない時もある。

 

 それに、手札は多い方が良いと、皆が賛同してくれている。

 

「そこが事情というものですね。ミサイルの発射ボタンを押せば、誰でも大量破壊が可能ですが、銃で戦うのはまた別というものです」

「なるほど……まあとりあえず行くっすよ」

 

 まだ釈然としてはいないものの、とりあえず保留にしてくれたみたいだ。

 

 イチカさん……か。

 

 どことなく煤けているというか、薄い感じのする人だな。

 

 一時はどうなるかもと思ったけど、一旦なんとかなって良かった。

 

「……そのシマエナガ達はどうしたっすか?」

「トリニティに入ると、勝手に止まるようになりまして。振り払っても直ぐにまた止まるので、無視しています」

「そっ、そうっすか……」

 

 妙に残念な物を見る様な目をするイチカさんだが、残念なのは私ではなくトリニティだ。

 

 ここまで人懐っこいって事は、誰かが世話をしているシマエナガだと思うけど、それらしい人物から今の所接触もないし、止まる理由もわかっていない。

 

 あとたまに増える事があるのも謎である。

 

 翼を啄んだり、糞をしたりしないから良いものの、今の所毎日これである。

 

 しばらく歩くと、正義実現委員会本部と書かれた建物が見えて来た。

 

 捕縛されて歩いている生徒。救護騎士団に運ばれていく生徒。普通に雑談をしている生徒。

 

「あっ、ハスミせんぱーい!」

「その声はイチカ…………ちょっと待ってください」

 

 イチカさんが私に引けを取らない位翼の大きな生徒に話しかけるが、私たちを見ると目頭を押さえた。

 

「大丈夫っすか?」

「……大丈夫です、その方はどうしたのですか…………と聞くまでもないですね。伝え忘れていて済みませんが、大聖堂の件はティーパーティーから直接報告を頂いてるので、解放して問題ありません」

「えっ本当っすか……あー、ここまで連れてきてすまなかったすね」

 

 イチカさんはハスミさんに対して何も反論せず、更に私に直ぐに謝罪をしてくれた。

 

 ヒナさんと同じ感じで、良い人そうだな。

 

「いえいえ。用事のついでなので、問題ありません」

「そう言って頂けるとありがたいっす。用事の件っすけど、こちらのハスミ先輩に相談してみてくださいっす。来年の副委員長になるので、力になってくれるはずっす!」

 

 それはなんともタイミングの良い出会いだな。

 

 何やらハスミさんには、歓迎されていない感じもしなくもないけど、イチカさんは頼もしい笑みを浮かべてくれている。

 

「用事ですか……ここでは目立ちますので、本部にどうぞ。イチカもついてきて下さい」

「了解っす」

 

 本部の一室へと案内されて、紅茶とお菓子を出してくれた。

 

 ナギサさんが淹れてくれた紅茶とはまた違った味で、これはこれで美味しい。

 

「さて、用事と言っておりましたが、どの様な内容でしょうか?」

 

 紅茶を飲んで落ち着いたのか、とても凛とハスミさんはしている。

 

 翼以外が小さい私とは違い、ハスミさんは何もかも大きいな……何故だか羨ましく感じてしまう。

 

「ハンドガンでの戦い方を教えて頂ければと思いまして」

 

 ハスミさんはチラリとイチカさんを見るが、イチカさんは首を傾げて返す。

 

「聞いた話では、その翼の銃が武器だと聞いておりましたが?」

「これでは野外で広い場所でしか使えないので、サブウェポンで閉所でも戦えるようにしたいと思いまして。学生ではない私に、教える事が出来ないのでしたら、素直に諦めますが……」

 

 トリニティで駄目なら、アビドスやゲヘナで教えてもらうなんて方法もある。

 

 ……ゲヘナには少しだけ行きにくいけど、イオリさんならきっと許してくれるだろう。

 

 ハスミさんはしばし顎に手を当てて考えているので、その間にお菓子を摘まむ。

 

 ナギサさんが用意していたのもそうだけど、お嬢様校なだけあり、とても美味しい。

 

 老舗とかって奴のお菓子なのだろうか?

 

「……少し確認しておきたいのですが、この件をナギサさんは知っているのでしょうか?」

「ナギサさんですか? 知らないはずだと思います。ふと思い立っただけなので」

 

 どうしてここでナギサさんの名前が出るのか分からないけど、一応正実の偉い人なので、私が見学している事をナギサさんから聞いているのだろうか?

 

「そうなのですね……訓練につきましては、一旦射撃訓練まで許可をしておきましょう。それ以降は、イチカの判断に任せます」

「私ですか!? ……分かりましたっす」

「イチカならば問題ないと思いますので、お願いしますね」

 

 イチカさんは驚いたものの、直ぐに了承の返事をしてくれた。

 

 イチカさんが持っているのはアサルトライフルではあるけど、基礎位ならば問題ないって事なのだろうか?

 

 私としてもイチカさんは何となく親しみが持てるので、全く知らない人を呼ばれるよりは助かる。

 

「さて、私が居ては邪魔になるでしょうから、先に失礼しますね」

 

 紅茶を全て飲み、ついでとばかりにお菓子をしっかりと全て食べてから、ハスミさんは部屋を出て行った。

 

 しっかりとして良い人そうだけど、この嫌がらせの様にピーピー鳴いていたシマエナガについてツッコミをして欲しかったなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

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 エリスとイチカが射撃場へと向かっていた頃、ナギサは大量の書類仕事に追われていた。

 

 来年度の引継ぎの書類。エリスがやらかした大聖堂の書類。エリスが巻き込まれた図書館での書類。

 

 その他諸々が増えに増え、自身の執務室から出られない状況に陥っていた。

 

 一部の仕事は次期ホストであるセイアに任せなければならないのもあるが、エリス関連は全てナギサが処理しなければならなく、更にセイアはあまり身体が強くないため、無理をさせる事も出来ない。

 

 幼馴染のミカはチャランポランであり、下手に任せても仕事が増えるだけだと理解しているので、黙々と一人で処理をしているのだ。

 

「……まったく、大事には至らなかったものの、どうして次から次へと……」 

  

 エリスに少しでも良い見学ライフをと思っているものの、既にエリスは数回トリニティ内での事件に巻き込まれている。

 

 それらの報告に対してナギサは精密に精査し、正実からハスミを呼び寄せ、ネチネチと文句を垂れ流した。

 

 ついでに見学者が居る事と、それとなくやんごとなき存在なのを匂わせるのも忘れない。

 

 そんなナギサがストレスを流すように紅茶を飲みながら執務をしていると、訪ねてくる少女が居た。

 

「やあ。随分とお疲れの様だね」

「――セイアさんですか。体調は宜しいのですか?」

「最近は調子が良い位だよ。エデン条約の件も、来年度から本格的に始める事が叶いそうだけど……」

 

 ナギサの執務室へと入ったセイアは、ナギサの様子を見て眉を顰める。

 

 ギリギリ平然を保ってはいるものの、見る人が見れば疲れているのが分かる。

 

 セイアは何も暇だからナギサを訪ねたわけではなく、ナギサに呼ばれたのと、セイア自身も能力の関係でナギサに聞きたい事があったから来たのだ。

 

「それが要件ではないのだろう?」

「はい。お茶の準備をしますので、座ってお待ちください」

 

 直ぐにお茶の用意をしたナギサはお菓子と一緒にテーブルの上に置き、セイアの対面に座る。

 

「相変わらず良い紅茶だ」

「ありがとうございます。要件ですが、セイアさんはトリニティの調停者をご存じですか?」

「名前だけはね。ユスティナ聖徒会が作られるよりも前。トリニティだけではなく、他の自治区すらも巻き込み、争いの虚しさを説いた存在。組織なのか個人なのかすら曖昧な存在だが、それがどうかしたかね?」

「私の家にある文献には、調停者の事がもう少し詳しく書かれていまして、その調停者に合致する存在が確認出来ました」

 

 セイアは「ふむ」と頷き、ナギサの要件について大体察した。

 

 セイアの能力とは、予知夢であり、それはかなり正確なものだ。

 

 その能力で見た未来の一部が、光で塗りつぶされて見えなくなってしまっている。

 

 その現象はこれまで起きた事は無く、何か不確定要素が加わったせい……そうセイアは考えており、それがこの調停者なのかもしれないと考えた。

 

「その発言をしたのがミカならば、何を馬鹿なと笑う所だけど……調停者か。君はどう考える?」

「……トリニティはあまり良い状況とは言えません。私達の目が届かない場所では虐めが蔓延り、ゲヘナとの仲も悪化を辿る一方です。エデン条約の件も進んではいますが、まだ不確定要素が多く、私達や連邦生徒会長の身に何か起これば、どうなるか分かりません」

 

 今でこそ机に齧りついているナギサだが、決してインドア派というわけではない。

 

 主にミカのせいだが、高等部に上がるまでは結構やんちゃもしており、トリニティの黒く悍ましい部分も少なからず知っている。

 

「現れてもおかしくはない……と。その調停者について教えてくれないか?」

「軽く纏めた資料があるので、こちらをどうぞ。名前は白凰エリス。身長は低く髪は白いロングヘアーになります。背中には調停者の証である二対四枚の翼が生え、私達のとは違い、かなりの強度があるようです」

 

 資料を受け取ったセイアは、説明を聞きながら資料を読んでいく。

 

 不自然な経歴。存在しない過去。身の丈を越える二丁の銃とそれらを保持している翼。

 

 その翼に止まって……止まっているシマエナガ?

 

 話の内容は真剣なものだが、セイアはトリニティに帰って来てから、いつもは寄ってくるシマエナガの数が少ない事を、ふと思い出した。

 

(ふむ……情報もだが、調停者の信憑性は高いと見て良いな。そうなると、あの白い光は調停者が何か行動を起こした結果か……希望と絶望は表裏一体と言うが、どちらに転ぶのか……)

 

 ナギサの説明で四割位確信し、自らの予知とシマエナガにより完全に調停者の存在をセイアは信じた。

 

「また厄介だけど、これからどうするつもりだい? これはパンドラの箱の様なものだ。どう選択したとしても、問題は起こるだろうね」

「出来ればトリニティへの入学を。後は見守るしかない……そう考えています。本人には自覚が無いようですが、もしも調停者としての責務に目覚めた場合、まだ対処が出来ますので」

 

 対処とは言うが、どうにかなるとは思っていない。

 

 だが調停者である以上、争いが起こっていないならば何もしないはずなのだ。

 

 トリニティが焼け野原になるかどうかは、セイアとナギサの手腕次第と言える。

 

「そうか……来年度の冬辺りまでにエデン条約が締結出来れば良いと思っていたけど、夏位には出来るように進めるとしよう。それと、トリニティ内の秩序もどうにかしないとか」

「正実には軽く話してありますが、正式に委員長と副委員長に就任した際に、方針や条約について詳しく話す予定です。その際は同席をお願いします」

「分かった。任せてくれ」

 

 それからもナギサとセイアによる打ち合わせは、新たな書類を持ってきたティーパーティーの生徒が来るまで続いた。

 

 そして報告書を軽く見たナギサは、少しだけ気が遠くなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、またエリスが巻き込まれていたのだ。

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