「それじゃあ頼むっすよ」
「お任せください。突入のタイミングはお任せします」
私が提案した作戦は直ぐに了承され、イチカさんは銃を構えながら前線へと向かって行った。
既に作戦の一部は無線を通して正実に行き渡っているので、後は私が派手に気を引ければ問題ない。
ゼロカスタムを翼から受け取りながら、手頃な装甲車の上に飛び乗る。
右腕に持ったゼロカスタムで空中に弾を撃ち、犯人の一部が私に気付く。
……少し装甲車のルーフがへこんでしまったが見なかった事にしよう。
わざとらしく翼を大きく広げると、シマエナガ達が空へと避難する。
視線が集まってきているのを確認し、空へと大きく飛び上がる。
私へと放たれる銃弾を無視し、先端が淡く光る二丁のゼロカスタムを犯人達へと向ける。
威力は最小の更に最小の。
スナイパーライフルと同程度まで抑える。
……スナイパーライフルまで抑えるって言葉は少しおかしい気もするけど、右左と弾を放ち、犯人が頭に被っているヘルメットを貫通して気絶させる。
犯人達の目が私に引き付けられている間に、眼下ではイチカさんが犯人達の懐へと潜り込み、殲滅を開始していた。
これにて私の仕事は終わりとなるが、このまま落下しては装甲車のルーフが更にへこんでしまうので、頑張って翼をはためかせ、落下地点を後ろにずらす。
「なっ! いつの間に!」
「潜り込まれているぞ 直ぐに……グヘェ!」
どうやらイチカさんの方は問題なさそうだな。
……このまま顔を出しても良いけど、ここはイチカさんに花を持たせるために、こっから逃げるとしよう。
私が大聖堂の前でやらかしたばかりに、イチカさんには少し迷惑を掛けた。
それと、あまりちやほやされるのは好きではないので、イチカさんに頑張って貰うとしよう。
そうと決まればゼロカスタムを翼へと戻し、装甲車の陰に隠れながら現場から離れる。
目立つ容姿だと自負しているけど、今ならばバレずに逃げられるだろう。
こそこそと正実から離れ、跳んで建物の上へと乗る。
そのまま適当に飛び越えていき、適当な路地裏に降りる。
路地裏から顔を出して右左と見るモノの、平和なトリニティが広がっているだけだ。
問題なく逃げて来られたようだ。
空から舞い降りてくるシマエナガ達は、いつもの事なので無視して歩き出す。
すると、こんなタイミングでモモトークの通知音が鳴った。
ヒフミさんからかと思ったら、何故かミカさんから届いていた。
どうやって私のモモトークを知ったのか気になるが…………。
内容は二人きりで会いたいと言ったものだ。
――パテル派の次期リーダーになるミカさん。
どうも私に混じっている方々は、何やらミカさんに思う所がある。
どれも良い感情ではなく、冷たかったり悲しかったり。
無念の様な、苦しみの様な……。
今の私としては臭い物に蓋をする様に、君子、危うきに近寄らずが信念だ。
だけども、ミカさんの事が気にならないのかと聞かれれば、声に詰まってしまう。
会うべきか、会わざるべきか……。
……会って見るか。
ミカさんに了承の返事を送ると、直ぐに時計塔の見晴台で待ていると返事が来た。
ここからなら、急いで十分位といったところか。
あまり目立ちたくはないので、急ぎながらも隠れながら行くとしよう。
1
「ふぅ……」
どこからか調達して来たテーブルと椅子。
そしてどこからか持ってきた紅茶一式。
それらを時計塔の見晴台に準備してミカはナギサの様に紅茶を飲んで一息つく。
この数日間。ミカは何度かエリスに接触しようとしたが、全て邪魔が入った事で会う事は叶わなかった。
タイミングが悪かった……ただそれだけだが、ミカは言いようのない焦燥感に駆られた。
一度や二度ならまだ分かる。それが三度四度と続けば、まるで運命が自分に行いを咎めているように感じたのだ。
そしてついに強硬手段に出たのだ。
エリスのモモトークのIDを知っている人物は少ないが、丁度良い人物がトリニティには居た。
そう、ヒフミだ。
とある伝手を使ってヒフミのスマホからエリスのモモトークのIDを盗み見とり、ミカはエリスへとモモトークを送ったのだ。
断られる可能性はあったが、ミカは賭けに勝ち、今はエリスが来るのをただ静かに待っていた。
そして……。
「お待たせしました」
「わーお」
普通に時計塔を登ってくるだろうと思っていたミカだが、エリスはその翼を大きく広げ、直接見晴台に乗り込んできた。
これで天井が無ければ、正に天使の様に舞い降りてきたのかもしれないが、どちらかと言えば鷹の様な鋭い感じで着地していた。
翼を畳みながらエリスは立ち上がり、 気品のあるカーテシーを披露する。
そこにはトリニティらしい気品があるが、それと共にトリニティらしくない鉄の塊も見える。
「そんなに堅苦しくしなくて良いよ。座って座って」
「それでは失礼して」
エリスは背中からゼロカスタムを外し、態々壁に立て掛けてから椅子に座る。
敵意は無く、話し合いをする気でいる。
まるでそう言うかの様な行動に、ミカは少しだけ笑みを深くする。
「トリニティでの生活はどう? 図書館にずっといるみたいだけど、ちゃんとショッピングとか行ってる?」
「はい。お菓子とか買わせて頂いています。食事もキッチンカーなどで買わせて頂いています」
「へー。食堂とかは使わないの? ナギちゃんから許可を貰ってるんでしょ?」
まずはアイスブレイクということで、最近の生活について聞く。
調停者としてではなくエリス個人にも興味があり、どんな人物なのかも探る。
ミカが欲しているのはその肩書きだけだが、だからといってエリスを軽視することは出来ない。
ミカの行おうとしている事が事のため、信頼関係を作る必要がある。
そしてその事については今日は話すつもりは無い。
雑談は続き、ミカのマシンガントークにエリスは余裕を持って答えていく。
「なるほどねー。他の学校に入学を考えているみたいだけど、トリニティじゃ駄目なの?」
今回のミカの目的。
それはエリスにトリニティへの入学を決意させることだ。
焦ってやるような計画ではなく、まずはトリニティにエリスが居る状況を作れるだけでも、ミカにとっては嬉しい結果となる。
相手がどう思うか分からないが、トリニティを恨んでいるのは確かだろう。
そこで調停者という存在を教えれば……和解の一手となるかもしれない。
「キヴォトスにはトリニティ以外にも、私を受け入れてくれる学校が他にもあるので悩んでしまうのです。トリニティも良い学校であると思いますが、だからと言って他をないがしろにするのは、少し違うと思うのです」
「しっかりと考えてるんだね。私とは大違いだよ」
「学校を選ぶのは基本的に一生に一度だけですから。それに、私自身がかなりの訳ありなので、学校側に迷惑を掛ける事になるのは間違いないのもあります」
出された紅茶をエリスは飲んでから、壁に立て掛けたゼロカスタムへ視線を送る。
ミカも釣られてゼロカスタムを見るが、今になって色々とおかしい事に気付く。
エリスはゼロカスタムを翼に保持しているが、翼にはそこまでの強度は無い。
空を飛ぶには相応の軽さが必要であり、アクセサリーを付けるだけならばともかく、ゼロカスタムの様な鉄塊を保持するのは不可能なのだ。
調停者だからそこまでの強度があるのか、又はエリスが特別なだけなのか……。
「大きな銃だね。どれ位重いの?」
「一丁辺り二百五十キロになりますね。合わせて五百キロになります」
「……わーお」
実際の重量を聞いて、流石にミカも引いてしまった。
五百キロならば持つ事自体は出来る。
しかし、普通に歩いたり跳んだりは無理であり、それを翼に取り付けようものなら折れるどころか根元から千切れるだろう。
そうなる筈なのに、エリスは五百キロを持ったままたこの見晴台まで跳んできた。
味方に出来れば心強いだろうが、もしも敵となれば間違いなく障害となる。
「見た目以上の破壊力がありまして、装甲車や戦車等も一撃で破壊できる威力があります。私と言う存在が、学校の火種となる可能性があるのです」
「……それって話して大丈夫なの?」
「遅かれ早かれ分かる事ですから。悲しい事に寄った全ての自治区で使う事になりましたので」
アビドスを始め、エリスはゼロカスタムを事あるごとに撃っていた。
隠れて撃ったのではなく、堂々と撃ったため、防犯カメラ等に映っており、調べればどれだけ危険な存在なのか知る事が出来る。
現にミレニアムはエリスの関係で少し動きがあり、リオが頭を悩ませている。
「ちゃんと考えてるんだね」
「そうでもないです。ただの浅知恵です。将来パテル分派のリーダーとなるミカさんに比べれば、私程度は……」
「またまたー」
エリスの話し方がとある友人に似ていて、若干ミカはイラっとするものの、笑顔で謙遜しておく。
「因みに、どうすればトリニティに入学してくれたりするのかな?」
「そうですね……」
あくまでも雑談の延長線。
本題と悟られない様に冗談半分に。
そんな緊張を隠すミカに対し、エリスは悩む素振りを見せる。
「何かがあれば……と言えるものは無いですが、出来るだけ自由な時間がある、学校が良いですね。その点だけで言えばゲヘナが一番ですが、自由というよりは身勝手な側面が強いんですよね」
「ゲヘナ……ね」
ミカはあまりゲヘナに対して良い感情を持っていない。
何故と聞かれれば、ゲヘナはゲヘナだからと答えてしまう曖昧な感情だが。
トリニティで生きて来たせいと見る事も出来る。
幼いころから言って聞かされてきた思想は精神の根底にこびり付き、簡単には剥がす事が出来ない。
ゲヘナだけには行くなとミカは思うが、その事を口に出してはいけない程度の良識は持っている。
「私としては、エリスちゃんにはトリニティに入学して貰って、こんな風にお茶会をしたいかなーなんて思ってるよ。――仲の良い友達も出来たみたいだしね。アハハ!」
「友達……と言うよりはただの止まり木ですけどね」
ミカが用意していたクッキーを食べようとしたエリスは、翼から飛んできたシマエナガ達にクッキーを強奪され、その様子を見たミカは腹を抱えて笑う。
態々皿の上に戻して食べているのがまたシュールであり、エリスは何故持っていたのを奪ったのか考えながら溜息をつく。
「そうだ。私のモモトークの登録お願いね」
「はい……私のアカウントはどうやって知ったのですか?」
「ナギちゃん経由でちょちょいとね。出来れば内緒にしておいて」
テヘペロをしながらミカはサラッとナギサへと罪を被せる。
そのせいでエリスの不信感はミカよりもナギサの方が若干強くなるが、ナギサにはモモトークを教えていない事を思い出す。
どこからかハッキングしたのか、それともヒフミからただ教えてもらっただけなのか……。
おそらくミカの言い分は嘘なのだろうとエリスは考える。
「分かりました。ミカさんがまたあれをされるのは可哀そうですからね」
「あんな事、本当に怒らない限りしないんだけど、あれは驚いたねー」
ミカは過去に何回かロールケーキを突っ込まれた事があるが、それは本当にナギサが怒った時だけだった。
そして人前ではしたことが無かったので、あの時は二つの意味でミカは驚いていた。
「それじゃあ今日はここまでにしておこうかな。エリスちゃんがトリニティを選んでくれることを願ってるね」
「ご期待に沿えるかは分かりませんが、その時は後輩としてよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げたエリスは立ち上がり、ゼロカスタムを翼に取り付ける。
最後にカーテシーをしてから、エリスは見晴台の外へと跳んで行った。
「うーん。悪くは無いけど、芯は強い感じかな?」
お茶会を終え、エリスが完全に見えなくなったミカは感想を呟く。
名目上目上であるミカに対し、敬意を払いながらも決して自分を曲げない言葉。
ゲヘナに対しても嫌悪感を感じている様子はなく、トリニティらしい見た目と言葉使いだが、決してトリニティには染まっていない。
悪くは無い。けれど、手下として利用は絶対に出来ない。
見た目は面白く、トリニティに来てからやらかしている事もミカとしては割りと好感触である。
後は入学さえしてくれれば、ミカとしては第一課題がクリアとなるが……。
「釘は刺したし、後はナギちゃんに頑張ってもらおうかな」
グイッと伸びをしたミカは立ち上がり、テーブルの片付けを行う。
種は蒔き、顔を繋ぐことは出来た。
立場上あまり馴れ馴れしくすることは出来ないが、連絡先はあるので、何かあれば呼び出す事も出来る。
持って来たテーブルやティーセットを元の場所に戻したミカは、人目を避けるようにしてカタコンベを目指す。
今日もまた、とある
余談ではあるが、エリスが提案した作戦は諸事情によりイチカが単身敵陣に突っ込んで殲滅した事になり、イチカの評価は大幅に上がる事となる。
――そして、ツルギの再来として、名を馳せるのだった。