「ほ、ホシノ先輩! あの子どうしたんですか!」
「まあまあ落ち着いてよノノミちゃん」
「で、でも、どう見てもトリニティの子ですよね!」
「ん、流石ホシノ先輩。身代金を要求するんだね」
「いや、しないからね?」
騒がしい声が聞こえて目が覚める。
思っていた以上に、熟睡してしまったな。
ホシノさんが勧めてただけはあり、とても良い感じだった。
マットから起き上がり下を覗くと、ホシノさんの他に二人の少女が居た。
巨乳の子と、ケモ耳の子。
巨乳の子は慌てているようだが、どうしたのだろうか?
「あの……」
「あっ、目が覚めたみたいだね~。気持ち良く寝られたでしょ?」
「はい。思っていた以上に疲れていたみたいで、良く寝られました」
身体を解すついでに、翼を最大まで広げる。
翼を動かすのは筋肉であり、動かさないでいると結構凝るのだ。
「あっ……」
「おお~」
「凄い」
翼をたたみ、ゼロカスタムを持って降りる。
何やらみんな固まっているようだけど、どうしたのだろうか?
「……あの、どうかしましたか?」
「見た目通り立派な翼で驚いただけだよ。こっちの大きいのが十六夜ノノミちゃんで、隣の普通なのが砂狼シロコちゃんだ」
「ホシノ先輩★」
ホシノさんがにへらと笑い、誤魔化そうとするが、ノノミさんの圧は大きくなるだけだ。
パッと見ノノミさんが一番年上っぽいけど、どうなのだろうか?
「私は白凰エリスと申します。記憶喪失で砂漠をさ迷っていたところ、ホシノさんに助けて頂きました」
「私と一緒なんだ」
……えっ、シロコさんも記憶喪失なんだ。
前例があるから、ホシノさんは私をそこまで疑わなかったのか……。
「シロコちゃんと違って、着の身着のままじゃないみたいだけどね。あっ、ノノミちゃん。後でエリスちゃんの捜索願が出てないか調べてくれない?」
「分かりました。けど……うーん。」
何やらノノミさんが首を傾げながら悩み始め、何故かシロコさんが私の頭を撫で始める。
……あれ? シロコさんが持っている銃って、見ていると何だか親近感が湧いてくるな。
カスタマイズしているけど、SIG550系統の銃なのだろう。
私の銃がどんな銃だったかまでは思い出せないが、SIG550系統の銃は基本的に良い銃だ。
「シロコさんの銃って、SIG550シリーズのですか?」
「ん、SIG556をカスタマイズした奴だよ。頑丈だし、命中精度も高くて良い銃」
やはりか。シロコさんは表情が変わらなくて少し怖いが、友達になれそうだ。
「エリスちゃんのそれは……銃で良いの?」
「多分そうだと思います。私が目覚めた時に隣にあったので、貰ってきました」
「良い性格しているね。見ても良い?」
「大丈夫ですけど、ちょっと待ってください」
現在ゼロカスタムは合体させている状態なので、五百キロある状態だ。
こんな物を渡せば持てずに落としてしまうので、分離して一丁の状態にする。
合体ギミックは、神秘を流し込まなければ起動しないので、勝手に分解するなんて事故は起こらない。
「えっ、それって分離出来るんだね。おじさんにも見せて~」
「凄いね。これで威力があるなら、金庫を破壊するのも簡単そう」
「重いので気を付けて……あっ」
シロコさんに渡したところ、軽く腕を伸ばしていたせいか、少しずつ腕が下がっていく。
いや、多分少しでも持てている時点で凄いのかも知れないが、この世界の人達の見た目に騙されてはならない。
私がゼロカスタムを持てているのだし。
「シロコちゃん。やっぱり重かった?」
「エリスが苦もせず持っていたから騙された。ホシノ先輩は知ってたの?」
「いや、見た目的にノノミちゃんのより重いのは分かるからね。持とうなんて思わないよ」
シロコさんが持てずに床に置いたゼロカスタムを拾い、再び合体させる。
流石の私も合体させた状態では片手で保持するのは辛いが、脇に抱える分には問題ない。
「あの、ところで朝の学校なのにやけに静かな様に感じるのですが?」
素朴な疑問を漏らすと、何やらホシノさんが頬をかき始めた
「あはは、まあ生徒は此処に居る私達だけだからね」
それは……思っていたよりも、アビドス高等学校はヤバいのかもな……。
見た目が立派だから、ほとんど転校したといっても、それなりの人数が残っていると思っていた。
たったの三人……既に廃校一歩手前ではないだろうか?
「あっ、でも来年二人入ってくれるから、三人じゃなくて五人ですよ」
「おじさんとしては嬉しいけど、本当に良いのか悩みどころだけどね~。とりあえず、約束通り案内するよ。ノノミちゃんは捜索願の件を宜しくね」
既に選択を間違えたかもしれないけど、別に入学を強制されているわけではない。
私に混ざっている、俺や混ざった何かの知識の中に使えるものがあれば良いのだけど…………混ざっているだけで、好きに引き出せる訳ではないので無理そう。
ただ、一度寝て頭が冴えてくれたのか、ホシノさんについての知識が少し見つかった。
多分並行世界のモノなので、本当かどうかは分からないが、ホシノさんはとても強いらしい。
それと、慕っている先輩がいるとか……でも三人しかいないと言っていたし、これは間違ったものだろう。
あと、暁のホルスがうんたらかんたららしいけど、分からないので後で調べてみようと思う。
1
ホシノさんとシロコさんに校舎や体育館をぐるっと案内して貰ったけど、砂嵐が吹くだけあり砂が凄い。
プールは水ではなく砂が積もり、廊下にはホコリではなくて砂が積もっている。
掃除はしているらしいけど、焼け石に水みたいなものだ。
私には校舎は吹き飛ばせても、砂だけを吹き飛ばす方法はない。
非殺傷モードでも、建物は普通に壊れるのだから。
授業は基本的にBDなので、授業を受けることは出来る。
ちゃんと入学式と卒業式もあるので、学校として成り立っているし、銀行も利用できるみたいだ。
ただ、ホシノさん達に案内されている中で、違和感というか、何か隠している雰囲気がある。
シロコさんの金庫を壊す発言だったり、妙に俺に入学して欲しそうにしている。
一体何を隠しているのだろうか?
「それじゃあ最後に此処だね」
最後に案内された場所は、手書きでアビドス廃校対策委員会と書かれた、紙が貼られた部屋だった。
「復興委員会ですか?」
「うん。見ての通り、アビドスは砂嵐でご覧の有り様だからね。何とかしようとしているんだ」
「特にお金を稼ぐことを頑張っている。銀行を襲う計画も立ててる」
………………そう言えば、目が覚めた時にも身代金がどうとか聞こえたような……。
治安が最悪と書かれていたゲヘナよりも、アビドスの方がヤバいのではないかしら?
部屋の中にはあまり物はなく、銃を置いておく用のラックや、銃弾を保存しておく箱。
それからホワイトボードが置いてあり、色々と書かれている。
「よっこらせっと。いや~久々に校舎をグルって回ったね。まあ座って座って」
「はい……」
正直困惑している部分があるのだが、ここはいう事を聞いておく。
時間にして、二時間位経ったのだろうか?
ゼロカスタムは流石にラックに置けないので、地面に置いてからパイプイスに座る。
「あっ、此処に居たんですね」
私が座ったタイミングでドアが開き、ノノミさんが入ってきた。
その手にはガトリングがあるのだが、ゼロカスタムに比べると小さく見える。
「ノノミちゃんお帰り~。エリスちゃんの件はどうだった?」
「アヤネちゃんに調べて貰ったんだけど、捜索願は出ていないみたいです。それと……」
ノノミさんはホシノさんにゴニョゴニョと耳打ちをして、ホシノさんが「うへ~」と声を出す。
私のバックグラウンドは何も無いし、この世界に痕跡はない。
中学の学籍も勿論ないので、もしかしたらその事だろう。
シロコさんという前例が居るので大丈夫だろうけど、何となくノノミさんの私を見る目が最初より優しくなっている気がする。
「ん、お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
シロコさんがくれたお茶を飲んで一息つく。
さてどうしたものかと悩んでいると、窓ガラスが割れて、何かが側頭部に当たり衝撃を受ける。
「エリスちゃん! 大丈夫!?」
「またガタガタヘルメット団が来たんだね。エリスに怪我をさせるなんて……」
「シロコちゃん。ガタガタじゃなくてカタカタだよ」
ノノミさんが心配してくれるが、痛いって程ではなく、驚きの方が大きい。
一体何なのだろうか?
「今日こそ出て行って貰うぞ! カタカタヘルメット団の名にかけてなー」
銃撃の音が聞こえるが、昼間っから襲われる学校とは……。
もしかして、アビドス高等学校がおかしいのではなく、これくらいは普通なのだろうか?
「懲りない奴らだね~。ちょっと退治してくるから、エリスちゃんは待っててね」
「性懲りもなくまた来たんですね。私が一掃してあげます!」
「サクッと追い出してくる」
三人は愛用の銃を持ち、飛び出していく。
シロコさんに限っては割れた窓から飛び降りていくが、此処って三階ではなかっただろうか?
校庭を見ると、ヘルメットとゴーグルをした少女達がシロコさんに向かって銃を撃っていた。
遮蔽物が置かれているが、相手は二十人くらい居る。
三人で勝てるのだろうか。
……いや、折角だし少し手を出させて貰おう。
私に偶然とはいえ銃を当てたのだし、お礼する理由としては問題ない。
ゼロカスタムを持ち上げ、屋上へと向かう。
ゼロカスタムは威力に見合った反動があるので、撃つ場所に気を付けなければならない。
威力を絞って一丁のみで撃ったとしても、場所次第では窓ガラスが割れる。
威力を上げれば、踏ん張りで地面にヒビが入ったりもするだろう。
屋上の扉を開けて、ゼロカスタムを起動状態にする。
さて、仕返しといきましょう。
2
エリスが撃たれたことに怒った三人は、校庭に出てヘルメット団に応戦する。
「今日は少し人数が多いね~」
「ん、けど敵じゃない」
いつもは五人から十人位だが、今日は二十人ものヘルメット団が弾幕を張っていた。
更にグレネードの類も使い、ホシノは面倒だとため息を溢す。
「シロコちゃんは左翼。ノノミちゃんは中央で隙を見て牽制をお願いね」
「ん」
「はい!」
盾を構えたホシノはわざと姿を現し、軽く走って校舎の右側へと向かう。
ヘイトがホシノへと向かっている間にシロコは左翼へと走り抜け、ノノミがカバーする。
これでヘルメット団の銃撃は分散されるが、今回は人数が多いので、あまり効果を見込めない。
それでも一人二人と倒していくが、少しずつ遮蔽が壊されていく。
(勝てるだろうけど、後が面倒そうだな~。かといって弾を使い過ぎるのも……)
勝つことは出来る。しかし後の事を思うと、ホシノは昼寝の時間が減ってしまうと泣き言を漏らす。
だからと言ってヘルメット団に情けを掛ける気は無く、エリスに弾を当てた事を許す気は無い。
いっちょ頑張ろうかと、ホシノが突っ込もうとしたその時。
背筋に悪寒が走り、ホシノは校舎の屋上を見た。
そこには四枚の翼を大きく広げ、空中であの巨大な銃を構えたエリスが居た。
銃の先端には光が灯り、そして――放たれた。
「あ、あはは~。これは凄いね……」
放たれた光は校庭に小さくないクレーターを作り、ヘルメット団のほぼ全員を吹き飛ばした。
幸いピクピクと痙攣しているので、誰も大きな怪我をしていない。
威力を見るに、大きな怪我をしていてもおかしくないのだが、流石のホシノもそこまでは気が回っていない。
まるで天使の裁き。
そう思える様な光景だった。
「今のって、エリスちゃんですよね?」
「エリス以外は校舎には誰もいない。それに、あの銃はエリスのだった」
生き残った僅かなヘルメット団はエリスの銃撃により戦意を喪失し、抱えられるだけの仲間を背負って逃げていく。
あっけなく終わった戦いにノノミとホシノは、残りのヘルメット団を校門の外へと放り出し、先程の事について話す。
「いや~。まさか助けて貰えるなんてね。後でお礼を言わないと」
「エリスちゃんが入学をしてくれれば、ヘルメット団への対処が楽になりそうですね☆」
「ん、エリスは入学すべき」
意気揚々としている二人を見てホシノは、それは難しいだろうと考える。
せめてヘルメット団が来なければ取り繕えたものの、こんな状態の学校へ好き好んで入ってくれる人はいない。
それを理解している。
シロコの時とは違い、エリスにはお金があるため、学校を選べる余裕がある。
なんとなーくエリスが不審に思ってるのも感じているので、ホシノはこれからどうするか悩む。
お礼を言うのが先決だが、それはそれとして問題がある。
「ところでこの穴どうします? かなり大きいですけど」
「埋めないとだね~。門まで被害が出なくて良かったよ」
エリスが作ったクレーター。
校門の近くに出来ているため、埋めなければ邪魔になる。
助かったのは事実だが、だからと言ってやり過ぎな様な気がしなくもない。
勿論埋めるのは、エリスにも手伝わせる気でいる、ホシノだった。