正実の争いに巻き込まれ、ミカさんとお茶会をし、服の出来る日となった。
ヒフミさんを誘ったのだけど、運悪くテストがあるため、一人で取りに行く事となった。
そして、明日と言いたいところだけど、今日中にはナギサさんに返事をしなければならない。
どの学校にするか散々悩んだけど、とりあえずトリニティを選んでおく事にした。
入学費とかが免除になるのはありがたく、最悪の場合は転校なんて事をする場合も、入学費分が浮くため選びやすくなる。
ある意味ナギサさんの下に付く選択かもしれないが、ナギサさんなら多分大丈夫だろう……多分。
あまりにもトリニティが酷いのなら、トリニティを相手に戦い、ゲヘナかアビドスに逃げれば良い。
最大出力は流石にまずいけど、トリニティの校舎位なら瓦礫に出来ると思う。
そんなわけで今日も朝から身だしなみに時間を掛け、ペルツ・ドレスへとやって来た。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。こちらにどうぞ」
入店すると共に店長に奥の方へと案内され、前回とは違い強度が上がっているテーブルにゼロカスタムとウェポンハンガーを置く。
案内された所には試着室と、白い布を掛けられた三体のマネキンが置いてあった。
「此方がご依頼をされていた服になります」
店長さんはマネキンに掛けられていた白い布を一つずつ取り外し、服が露となる。
動きやすい服は黒を基調とした配色となっていて、背中については背中から脇の下辺りに二股に分かれた服をボタンで留めるようになっていて、背中の露出は最小限となっている。
少し複雑そうに見えるものの、基本的にはボタン留めで統一されており、着るのは楽そうだ。
動きやすいと頼んでおいたが、気品を感じるようなコーデとなっている。
次にフォーマルウェアだが、元となっているのはティーパーティーの制服だろうか?
白に青いラインが入った服になっており、背中については少し露出が激しい物の、決して下品には見えない感じになっている。
頑丈にと頼んだ物は前の二つとは違いズボンになっていて、布も厚手の物になっている。
店長曰く耐熱に優れ、防刃加工が施されているらしい。
なんでも正実で使われている制服とほぼ同じ繊維だとか。
とりあえず全部試着してみるとしよう。
「素晴らしい!」
「想像していたよりも神秘的な着こなしですね。素晴らしいです!」
「ズボンはどうかと思いましたが、纏まり感のあるコーデですね。選んで正解でした」
店長さんに見せるだけとなったものの、実際に着てみると店長さんの言う通り素晴らしい。
動きやすい服にはポケットが多く縫い付けられているし、ベルトを通す穴がいくつか隠されている。
これならばジャケットを着なくても、マガジンを複数持ったり出来そうだ。
フォーマルウェアにもハンドガンを隠し持つためのポケットが存在し、外からは分からないように工夫されている。
満足の出来る服達だ。
…………少々高いけど。
直ぐに追加で買うことは出来ないけど、後でまた服を買わせて貰うとしよう。
「どれも素晴らしい着心地ですね」
「ありがとうございます。問題ないのでしたら、このまま御包みしますが、大丈夫でしょうか?」
「はい。お願いします。あっ、今着ているのはこのまま着ていくので大丈夫です」
折角なので、新しい服でナギサさんに会いに行くとしよう。
1
「ふぅ……」
今日も一日頑張ろうと起きたナギサだが、鏡に映る自分を見てため息をつく。
エリスと邂逅を果たしてからの一週間。ナギサはとても頑張っていた。
エリスが起こした……書類上は巻き込まれた大聖堂のテロを始め、図書館にて起きた襲撃事件の調査やエリスとの関りについての確認。
正実の建物にエリスが連行されたとか、様々な分派が手中に収めようとしている才媛が何やらおかしなことを始めたとか。
途中からはセイアも手伝ってくれたが、エリス関係の書類や後処理は繊細な物であり、ナギサは神経をすり減らしながら片づけていった。
その結果が……。
「隈……ですか。少しファンデーションを濃い物にしておきましょう」
まだティーパーティーの仕事に慣れ切っていないのもあるが、ナギサの疲労は睡眠だけでは抜け切らず、薄くだが顔に現れてしまった。
だが、それも今日で一区切りつく。
全てはより良いトリニティのため。
エリスという不確定要素を監視下に置ければ、ナギサの心労も無くなる。
ナギサとしてはこのままエリスの記憶が戻る事無く、一トリニティ生として生活してくれるのが一番だが、それはあまりにも希望的観測だ。
もしも、エリスが調停者としての使命に目覚めた時、調停をしなくても大丈夫な環境作り。
それが一番被害が無く、最上の結果だ。
そのためにも、来年度のエデン条約は是が非でも締結させなければならなく、更に言えばトリニティの体制も変えていかなければならない。
身支度を整えたナギサは執務室へと入り、軽く勉強をしてからティーパーティーとしての執務を始める。
「やっほー。もうエリスちゃんは……うん、来ていないみたいだね」
「……あなたって人は……はぁ」
丁度一息入れようとしたタイミングで、ミカの襲撃にナギサは遭った。
文句を言おうとするも、疲れるだけだと諦めて紅茶を飲む。
「何故エリスさんが来ると?」
「えっ? この前エリスちゃんとお茶会した時に、今日答えるって言ってたよ?」
「そう……ですか。因みにですが、何を話していたのですか?」
「何って、普通にトリニティでの生活や、トリニティ以外に見てきた学校についてとかかな?」
関わるなと言ったのに、この幼馴染はとふつふつと怒りが湧いてくるナギサだが、文句を言う前に扉を叩く音がした。
ミカへの怒りを一旦鎮め、落ち着くために小さく深呼吸をする。
「はい」
「ナギサ様に面会したいと、エリスという方がお見えです」
「直ぐに呼んでいただいて構いません。丁寧におもてなしくださいませ」
「はい」
ついに来たかとナギサは覚悟を決め、ミカを軽く睨む。
「ミカさん。本当に、どうか静かにお願いします。それ以上は望みませんので」
「ひっどーい。静かにお茶を飲んでいれば良いんでしょ。それに、私とエリスちゃんは友達だから大丈夫だよ」
ふと、この幼馴染みを窓からポイ捨てするか悩むナギサだが、その前に再び扉をノックする音が聞こえた。
扉が開き、エリスが入室する。
「わーお」
これまでとは違い、エリスの服は自分に合わせたものになっており、思わずミカが失言するくらい似合っていた。
白と黒。組み合わせとしては無難なものではあるが、エリスの場合は正に調和が取れているのだ。
調和。調停。白と黒。平和か破滅か。
そんな言葉をナギサは頭に浮かべる。
「……ようこそお越し下さいました。よくお似合いですね」
「ありがとうございます。ナギサさんが紹介して下さったお店で買ったのですが、とても満足出来るものでした」
エリスとミカの分の紅茶を淹れ、ナギサは座る。
ほんのりと手に汗が浮かぶのを感じながら、あくまでも冷静を装う。
「今日来ていただいたのは、お返事についてでしょうか?」
「はい」
「もう、ナギッ!」
無駄口を叩こうとするミカの太ももをこっそりとつねり、先制して潰す。
先程黙っている様に伝えたので、悪いのはミカなのだが、突如ミカが悲鳴を上げたのを聞いたエリスは引いた。
目尻に涙を貯めたミカはしょんぼりと落ち込みながら、紅茶を飲んで口を塞ぐ。
「こほん。では、お返事をお聞きしても宜しいですか」
「はい、私はトリニティに進学しようと考えています。ですが、一つだけ約束して頂きたいことがあります」
「それは……何でしょうか」
「ティーパーティーから私への干渉をしないで頂きたいのです。仮に干渉を受けた際は自衛の自由をお願いします」
「……」
ナギサはエリスが入学を決めたことを喜ぶが、その後のお願いについて考える。
エリスが入学すれば、その容姿から噂が広まるのはほぼ確定事項だ。
そしてエリスは調停者として見なかったとしても、その武力は既に凶悪だと証明している。
いくらナギサやセイアが頑張ったとしても、現在のトリニティでは完璧にエリスを保護することは出来ない。
後程エリスに立ち回りについてお願いをするつもりであったが、先んじて手を打たれた……そういうことなのだろう。
問題は、自衛権についてだろう。
手を出されたからやり返す。
それ自体は誰もが与えられているが、エリスのそれは少し厄介となる。
ティーパーティーを名指ししているということは、既に不信感を持っており、自衛の名の下に裁くと言っているのだ。
現状エリスの提案を断る理由はないが、セイアとナギサがティーパーティーの舵取りを間違えれば、トリニティが吹き飛ぶ可能性もある。
逆に言えば、何もなければエリスが権利を使うことはなく、何も起こらない。
調停とは争う者が居るから必要なのだ。
その意味を、ナギサは強く噛み締めた。
「承知しました。ですが、多数の分派がある以上中にはエリスさんに声をお掛けする方がいらっしゃると思います。出来る限り穏便に収めて頂けると、トリニティを預かる身として助かります」
「はい。あくまでも保険ですので、あれを振るう回数は少ない方が良いですから」
エリスはそっとゼロカスタムに視線を送る。
それは平和を願う少女のような、優しさに満ちていた。
これならば大丈夫だろうとナギサは考えるが、エリスが考えているのは残念ながらそうでは無い。
上手く誤魔化したが、いざと言う時の被害の責任をティーパーティーに擦り付けるための方便だ。
戦いとなればエリスは、威力は抑えるが躊躇することなくゼロカスタムをぶっ放す気でいる。
それが一番手っ取り早く、無駄のない戦いだからだ。
残念ながら、エリスはナギサの考える調停者ではない。
目的としては調停者に近いかもしれないが、決して正義心がある訳ではない。
色彩を倒すのは映像の男への恩と、自分を殺した復讐が一番の理由であり、キヴォトスに来てからは気の向くまま活動しているだけだ。
自由とは何なのか考えながら、適当に行き当たりばったりに生き、邪魔者が居たら排除する。
媚びはしないが、利益になるのならば相手をし、恩には恩で返す。
今の所は、キヴォトスでは普通の生徒と言えるかもしれない。
フィジカルとウェポンは少々度を越しているが。
「そうですね。平和であるのが一番だと思います。入学テストは後で受けて頂くとして、寮の方はどういたしますか?」
「個人で借りようと思っています。重量制限に引っ掛かるかもしれませんので」
ジョーク……ではなくて事実のため、ナギサは苦笑いを浮かべ、何か言いそうにしているミカの口にクッキーを突っ込む。
その自然な動作に、エリスはこれがティーパーティーの日常なのだと気にするのを止めた。
ナギサは予め用意していた入学手続きの資料と、入試に関する資料をエリスへと渡す。
トリニティは基本的にエスカレーターとなっているため、他区からの入学は殆ど無く、それに伴い他区からの入試については期限までならばいつでも受けられるようになっている。
とは言っても受けられる日にちは決まっているため、その日に来るようにとエリスへと伝える。
「忙しい所すみませんでした。それでは失礼します」
「気になさらないで下さい。エリスさんの入学を心よりお待ちしております」
伝える事を伝えたエリスは部屋から出て行き、エリスが居なくなったのを確認したナギサはホッと息を吐く。
「いやー、良かったねナギちゃん」
「はい。これで肩の荷が下りました……一旦となりますが……」
入学してそれで終わり…………ではなく、入学してからが本番となる。
エリスの事を特別扱いしてしまっているが、その事を表沙汰にすることは出来ず、それでいてトリニティの改革も行っていかなければならない。
これまで以上にトリニティが荒れるかもしれないが、嵐の後には青空が広がるものだ。
「来年度になれば、今以上に忙しくなりますので、ミカさんもよろしくお願いしますね」
「あー……うん。出来る限り頑張るよ……うん」
思いの外本気で睨まれたミカは、ちょっとテンションを下げて答えた。
ナギサとエリスの事について話しながら、これから先にエリスとどう付き合っていくかをミカは考える。
運が良い事に、ミカはカタコンベで散歩中に、とある生徒と遭遇する事が出来た。
今はまだ警戒され、殆ど話すことは出来ないが、その生徒はミカが探していた人物であり、これから先のトリニティにとって大事な存在になると思っている。
表面上は落ち着いた雰囲気のトリニティだが、その裏では各々の思惑が動き始めるのだった……。
「ところでナギちゃん。エリスちゃんの翼に止まっていたシマエナガについて何か知ってる?」
「いえ、私も気になってはいるのですが、どう聞けば良いのか困っていまして……」