翼を得た少女は自由の意味を探す   作:ココア@レネ

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作者はロールケーキが好きですが、それ以上にクレープが好きです。


第38話:ヒナからのお願い。ナギサからのお願い

「お邪魔します」

「帰って下さい」

 

 約束通り風紀委員会の執務室へ来ると、アコさんが脊髄反射で返事をしてきた。

 

 初めて会った時はここまででは無かったのに、時の流れは残酷だな……。

 

 まあアコさんが暴走してくれれば私としては美味しいので、この程度の態度は気にしてないけど。

 

「今日はトリニティの老舗のプリンになります。ちゃんとイオリさんの分もあるのでどうぞ」

「……ありがとう」

 

 アコさんが居る手前無愛想なイオリさんだが、実はかなり仲が良い。

 

 私が来ると知っている時は、いつも執務室に居る位だ。

 

「来たのね。とりあえず座って。アコ、いつものお茶をお願い」

「……はい」

 

 嫌々や渋々といった感情を出しながらアコさんは居なくなり、いつものソファーにヒナさんと向かい合って座る。

 

「先日はすみませんでした」

「別に良いわ。それで、詳細は?」

 

 先日の便利屋から受けた依頼と、それに伴う企業間の抗争についてヒナさんへ包み隠さずに話す。

 

 隠したところでヒナさんが調べれば簡単に知る事が出来る内容なので、下手に隠さない方が良いのだ。

 

「……ネフティスとカイザーね。後で釘を刺しておくわ」

「私としてはしっかりとお金を払って頂けるので、ありがたい企業ではあるのですけどね」

「そう言いながら、かなりの被害を与えてるでしょ?」

「トリニティ生として、違法行為は見逃せませんから。ナギサさんの顔に、あまり泥を塗りたくもありませんし」

 

 キヴォトスにある大手企業のほとんどは、企業としての利益しか見ておらず、法律なんて無視しているのがほとんどだ。

 

 いや、キヴォトスで法律をしっかりと守っている人の方が少ないのだけど、何事も限度がある。

 

 その限度を超えている場合、私は依頼を破棄して反逆している。

 

「ゲヘナにも、エリスみたいな子が居ればもう少し良くなるのに」

「イオリさんが居るじゃないですか。あれほど誠実で真っすぐな人は中々いないですよ」

 

 イオリさんはちょっとだけ調子に乗る事があるけれど、とてもしっかりとしている人だ。

 

 トリニティで言えば、スズミさんに近い感じがする。

 

 ヒナさんの視線がイオリさんの方に向くが、ヒナさんは直ぐに視線を逸ら

す。

 

 そのタイミングでアコさんが、ほうじ茶と渡したプリンを持って来てくれたので、一息入れる。

 

「美味しいプリンね」

「それなりのお金が手に入りましたので、少し奮発しました。一日五十個限定なので、中々買えないのですが、買えて良かったです」

 

 何かお土産を買っていく際はハスミさんに聞いているのだけど、今のところ外れがない。

 

 ただ、個数限定のものがほとんどなので、普通に買いに行くと売り切れている事が多い。

 

 今回は運が良かった。

 

 因みにアコさんは、今にも「ぐぬぬ」と言いそうな顔をしながら食べている。

 

「それで、お願いとはなんでしょうか?」

「今度出張があるから、その時に付き合って欲しいの。少し気掛かりな事があるから」

「……個人的には構わないのですが、ゲヘナとして良いのでしょうか?」

「今更よ。それに、傭兵として雇うから、トリニティにも角が立たないわ」

 

 確かに今更なのでなにも言えないなぁ……。

 

 まあこれまでも特に何も言われていないので、大丈夫かな?

 

「分かりました。因みにいつ頃ですか?」

「来週よ。詳しくは後で連絡するけど、そう長くはならないはずよ」

「来週ですね」

 

 来週なら大丈夫かな。

 

 今度またヒフミさんがブラックマーケットに行きたいと言ってたけど、それは今週末にしておこう。

 

 一応年上のはずなのに、ヒフミさんは目を離すと直ぐにいなくなるので、一緒に買い物に行くのがたいへんだったりする。

 

 けどかなり良い人であり、中々断ることが出来ないので、今回もまた仕方なく付き合う予定だ。

 

 普通の買い物を含めてもヒフミさんは五回に一回ははぐれるので、今から心配だ……。

 

 更に言えば、普通に平日である。

 

「そう言えば、あなたってティーパーティーと仲が良いの?」

「一応ナギサさんの御厚意でトリニティに通っていますので、それなりに仲が良いと私は思っています」

「そう……エデン条約について話は聞いてる?」

 

 エデン条約? ナギサさんからは特に何も聞いていないけど、ヒナさんが聞いてくるって事は、ゲヘナに関係のある条約なのかな?

 

 ナギサさんとお茶会をする事は結構あるけど、話す内容は私の生活についてがほとんどだ。

 

 それと、やらかした事についての謝罪をしている。

 

 まあ悪いのは私と言うよりは四割ミネさんで、四割は分派の方々で、二割が私自身となる。

 

 ご迷惑を掛けている自覚はあるけれど、これもナギサさん自身が選んだ道なのだから仕方ない。

 

 帰りにゲヘナのお饅頭をお土産に買って帰るかな?

 

「何も聞いていませんね」

「なら聞かなかったことにして」

「……先日の件もあるので、聞かなかったことにしておきます」

「ありがとう」

 

 ヒナさんからは聞かなかったことにして、ナギサさんかハスミさんにそれとなく確認しておこう。

 

 態々ヒナさんが私に確認するくらいだし、きっと大事だろうから、私も関わることになる可能性がある。

 

 なんて考えていると、モモトークが届いたのか、スマホが振動した。

 

 一部の人からの通知だけは用事がある時でもオンにしている。

 

 念のためヒナさんにお断りを入れてから確認すると、ナギサさんからだった。

 

 夕方に話をしたいので、来て欲しいと書かれていた。

 

 この後は温泉で休憩をする予定だったけど、ヒナさんから聞いた件も気になるので、行くと返信しておく。

 

「会話中にすみませんでした」

「気にしなくて良いわ。エリスも忙しいのは知ってるもの」

「ヒナさんとは違い、責任がある訳ではありませんから。今日はこの辺で失礼させて頂きますね。ヒナさんとの出張、楽しみにしています」

 

 トリニティ式の礼をし、アコさんの歯軋りをチラ見してから部屋を出て行く。

 

 今からまっすぐ帰ればナギサさんとの約束の時間よりも少し早く帰る事が出来るので、いつもの装備を全て外す事が出来そうだな。

 

 外に出るならばともかく、トリニティ内でこの格好は目立ち過ぎるので、出来る限り外すようにしておきたい。

 

 一応色は白を基調としているけど、目立って仕方がない。

 

 元々翼のせいで目立っているけど、態々威圧するような姿をする趣味は無い・

 

 それと、お土産にロールケーキを買って帰ろうかな。

 

 何をプレゼントしてもナギサさんは喜んでくれるけど、美味しいロールケーキをプレゼントをした時は他とは反応が違う。

 

 無意識なのか分からないけど、翼が小刻みに動くのだ。

 

 本当に少しだけだけど、私の目からは丸分かりである。

 

 ただ、ナギサさんがそこまで喜ぶレベルのロールケーキは早々買える物ではないので、最近では家で作ってみたりもしている。

 

 ほんの暇潰しも兼ねて作っているけど、おかげさまで料理の腕も上がって来た。

 

 ついでにナギサさんの好きな味も結構絞り込めたりする。

 

 さてと、今日は一体何の用なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

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 自分以外誰も居ない部屋で、ナギサは目を閉じたまま紅茶を飲み、とある人物について考え事をしていた。

 

 白凰エリス。

 

 その戦闘能力はナギサが思っていた通り凄まじい物であり、トリニティ内で起きたクーデター紛いの事件をほんの数人で鎮圧する程だ。

 

 ナギサとしては頭の痛い事件であったものの、事件のおかげでトリニティの陰険とした雰囲気が少しだけマシになり、事件の規模にしては怪我人はほぼいなかったことに安堵した。

 

 これが調停者の姿……それ以外の言葉しか出なかった。

 

 調停者と言うよりは破壊者の方が近い行いではあったが、救護騎士団の尽力もあり、次の日には平常運転に戻れたのと、どれだけ悲惨だったのかをナギサ自身は見ていなかったため、その位の感想だった。

 

 セイアが居なくなったためティーパーティーでの仕事はナギサ一人に集中し、更に書類が僅かながら改ざんされていたため仕方ない事だった。

 

 この事件以外にもエリスによってナギサの仕事が増えに増えているため、ナギサとしてはいい加減にして欲しいのだが、エリスが動いた後は何かしらいい結果が残る事がほとんどであり、エリスとの間に結んだ約束もあって強くは言えないでいる。

 

 それにエリスは事あるごとにナギサへとプレゼントをあげているため、ナギサはエリスが反省しているのだろうと考えている。

 

 エリスのせいで忙しくなっているが、こればかりは仕方の無い事だとナギサはお腹に手を当てながら考える。

 

 今は、そのエリス以上に大きな問題があるのだから。

 

「お疲れ様です。お話があるとの事ですが、なんでしょうか? あっ、こちらロールケーキになります」

「ありがとうございます。今紅茶を淹れますので、座ってお待ちください」

 

 密かに楽しみにしているエリスのロールケーキを切り分け、紅茶と一緒にテーブルへと置く。

 

「ナギサさんが急に呼ぶなんて珍しいですね。何かありましたか?」

「実は折り入ってお願いがありまして。今の私には、エリスさん以外に今回の件をお願い出来る相手がいないものでして」

 

 今のナギサは様々な問題を抱えている中で、二つの大きな問題を主軸に置いている。

 

 一つはゲヘナとの和解・相互不可侵を結ぶためのエデン条約だ。

 

 本来はセイアが音頭を取る予定であったが、それが出来なくなったので、ナギサはエデン条約の締結にかなり力を入れている。

 

 そしてもう一つが、そのセイアが襲われる事になったトリニティの裏切り者を探し出す事だ。

 

 裏切り者の動機は明白であり、この裏切り者を探し出さなければエデン条約を結ぶのは難しいと考えている。

 

 自分の身もそうだが、このままではミカすらも命を狙われるのは明白であり、寝る間も惜しんでナギサは行動をしている。

 

 誰も信じる事が出来ず、最近ではセーフティーハウスで過ごす日々を過ごしている。

 

 そんなナギサだが、ミカを除いて一人だけ信用できる人物が居る。

 

 それがエリスだ。

 

 エリスが様々な事をしているのは大体知っているが、調停者である以上公平な人物なのは確かだと考えている。

 

 現にエリスはちょっと……かなり……持っている武器通り過激な事をしているが、これまで一度としてナギサに物理的な危害を加えず、相手にも慈悲を与える寛容さがある。

 

 大手企業と戦ったり、ミレニアムやゲヘナへ頻繁に出かけているが、何故と聞けば普通に答え、裏取りをしても本人が言った通りである。

 

 そもそも、エリスが裏切り者側だった時点で詰みだとナギサは思っているので、放置するくらいならお願いをした方が良いと思って呼んだのだ。

 

「なんでしょうか?」

「エリスさんはエデン条約というものをご存じですか?」

「いえ。初めて聞いた単語ですね」

 

 既にヒナから名前だけを聞いているエリスだが、エデン条約が何なのかは知らないので嘘ではない。

 

 そして知らないと答えたエリスを見て、ナギサは少しだけ安堵する。

 

「今回のお願いと関係する事なので、少しだけ説明させて頂きますね」

「分かりました」

 

 ナギサはエデン条約について掻い摘んだ説明と、それに伴いトリニティ内で問題がある事をエリスへと伝える。

 

 途中で手を止めて食べたロールケーキが思いの外美味しく、少しだけ味わってしまい、少しだけ会話に間が空く。

 

 味わっているナギサを見て、エリスはニコニコと笑顔を浮かべる。

 

 そんな一幕があったが、エリスは話を聞いてエデン条約が大事なのとセイアの件がとんでもないことになっているのだと再確認した。

 

 セイアの襲撃事件が起きた時エリスはまだトリニティ生ではなかったのだが、ミネに捕まって研修やお仕事をしていた。

 

 そしてミネとお泊まり会をしていた結果、当然のようにミネに巻き込まれた。

 

 そのミネも最近ではほとんど姿を現すことがなかったりする。

 

「なるほど。とても重要な条約なのですね」

「はい。そしてエリスさんにお願いしたいのは、ミカさんを守るのと、いざという時に私に協力して欲しいのです」

「そのいざという時とはどの様な時でしょうか?」

「それは大変申し訳ないのですが、今お話することが出来ません。ですが、エリスさんにしか頼めないのです」

 

 エリスはナギサがかなり限界なのを見抜いている。

 

 だからこれまでの事もあり協力するのはやぶさかではないのだか、どうして皆中身を話さないのだろうかと不思議に思う。

 

 更に言えば、一応ただの一年生である自分に頼むのかと……。

 

 これで正実からも何かお願いされれば、トリニティ内の大勢力全てからお願いされている事になる。

 

「分かりました」

「――ありがとうございます」

「ですが、いざという時の判断が間違っていると私が判断した場合はその限りではありません。私は悪には加担したくありませんので」

 

 目を細めたくなるのをナギサは辛うじて耐えながら、笑顔を保つ。

 

 エリスに記憶が無いのが嘘ではないと、ナギサはこれまでの会話で結論を出している。

 

 だが、記憶が無くても行動の結果に齎されるものは調停者の名に相応しい物であった。

 

 だからこそ、お願いすることが出来る。

 

 自分の選択が間違いなのかそれともあっているのか……。

 

 これからナギサは、出血を伴うとある政策を執行する予定である。

 

 その政策は裏切り者をあぶりだすためのものであり、傍から見れば暴君のようなものだ。

 

 出来ればそんな政策を取りたくないが、そんな悠長な事を言っていられる余裕は既にない。

 

 仮に自分が倒れようとも、やらなければならない事がある。

 

「ありがとうございます。このロールケーキですが、どこで買ったものでしょうか?」

「それは内緒です。また食べたくなったら、私に伝えて下さい。持ってきますので」

「そうですか……残念ですが、その機会を待つことにします」

 

 真面目な話を終えて、いつもの様な雑談へと話を変える。

 

 割りと本気でナギサはこのロールケーキを……いや、エリスが持ってくるロールケーキを気に入っている。

 

 これまでも何度か似たような質問をしているが、一度としてエリスは教えてくれない。

 

 何故なのかと疑問に思うが、流石のナギサもまさかエリスが自分で作っていて、買って来たものではない事には気付かなかった。

 

 実はエリスに遊ばれているとナギサが知った時、ナギサはどんな表情をするのだろうか?

 

 それは、全ての事件が終わる頃に分かるだろう。

 

 

 

 

 

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