翼を得た少女は自由の意味を探す   作:ココア@レネ

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いやいや、ちょっとお手伝いをね!


第39話:迷子のヒフミとちょっとしたお手伝い

「なんで奴がこんな所に!」

「おい! 今日の依頼はキャンセルだ! 奴が居る可能性があるのに、やってやれるか!」

「一体なんの依頼を受けたのか……退くか、進むか……」

 

 ナギサさんにロールケーキをプレゼントし、反応を楽しんだ日から数日。

 

 私はブラックマーケットに居た。

 

 ――そして、迷子を探している。

 

 はっきり言って私は目も耳も良く、勘もかなり良い方だと思う。

 

 なのに絶賛迷子のヒフミさんは、私がいくら注意していてもいつの間にかいなくなる。

 

 本人曰く戦いは苦手との事らしいけど、絶対に嘘だと思っている。

 

 何を求めているかは知っているので、先んじてその場所を探し出せば合流は出来るだろうけど、その間にヒフミさんの身に何かあれば面倒なことになる。

 

 普通のトリニティ生はほとんど金持ちであり、身代金を要求されるなんて事がよくある。

 

 そんなことがヒフミさんの身に起きた場合、私も少し本気を出さなければならなくなる。

 

 なるべく避けたい事態ではあるけれど、ブラックマーケットが焼け野原になるくらい私は構わない。

 

 焼け野原で思い出したけど、アルさん達は大丈夫だろうか?

 

 予定があったのと、金額が釣り合わなかったので断ったけど、あのアビドスに攻めいったらしい。

 

 借金があったり、弾を買うのも大変らしいのは知っているけど、あのアビドスと戦うならば、ヒナさんと戦う依頼と同額は欲しい。

 

 野外にて一対一ならばともかく、アビドス高校にて戦うならば尚更だ。

 

 何故ならば、アビドスには秘密兵器があるからだ。

 

 シロコさんに依頼を手伝って貰ったり、幾度となく校庭を駄目にしたお詫びとして渡したものだけど、使われると少々面倒な代物となっている。

 

 私が本気を出せばどうにかなるけど、ホシノさんとかに嫌われたくはないので、そんなことはしないし、本当にピンチになれば私はホシノさんの味方をする。

 

 私の中の全てがこの考えには納得しているので、私が迷うことはない。

 

 まあそんな方々の事はともかく、今はヒフミさんだ。

 

 中々見付からないし、先に限定品を売っているお店に…………うん? あれは……何故ヒフミさんとホシノさん達が一緒にいるのだろうか?

 

 かなり遠いので気付かれてはいないけど、どうしたものか……。

 

 普通に声を掛けても良いけれど、俺の部分が今は見守った方が良いと訴え掛けてくる。

 

 私の方は構わずヒフミさんを捕まえろと言っているけれど…………。

 

 サッと路地裏に入り、建物の屋根の上へと跳ぶ。

 

 今は一旦見守ることにした。

 

 ホシノさん達は信用できるし、遠くから見ている分には早々見失う事もない。

 

 いざとなれば狙撃すればいいので、護衛としても問題ない。

 

 ゼロカスタムに取り付けられるスコープはまだないけれど、単眼鏡はあるので、片手ならば狙撃が出来る。

 

 スコープについては既にウタハさんにお願いしてあるのだけれど、とある問題のせいで製作に難航している。

 

 ついでに他にも色々とあり、スコープの優先度は低いので、出来上がるのはまだまだ先となる。

 

 それに、ミレニアムのエンジニア部は私の専属というわけでもないので、手が空いた時で良いと言ってある。

 

 そんなわけで、さっきよりも更に距離を取り、単眼鏡でヒフミさん達を監視する。

 

 居るのはアビドスの全員にヒフミさんそして――先生か。

 

 何故先生が居るのか不思議に思い、軽くシャーレについて調べてみれば直ぐに情報が拾えた。

 

 どうやらアビドスが先生を呼んだみたいだ。

 

 流石に理由までは分からないけど、間違いなく借金の関係だろうな。

 

 その内首が回らなくなるだろうとは思っていたので、ある意味当然の帰結とも言える。

 

 とある依頼でカイザー系列へ報復する際に、法外な金貸しやそれに伴う地上げ。違法行為の証拠となる書類を私は見たことがある。

 

 その中にアビドスの物は無かったけど、アビドスへ金を貸し出しているのカイザーなので、間違いなく違法行為をしているだろう。

 

 やろうとすれば、アビドスを救う事は簡単に出来る。

 

 けれどそれはホシノさんが望む物ではなく、少しだけ釘を刺されてしまっているため、ちょっとしたお手伝い以外は出来ないでいる。

 

 もしも……もしもあの先生が居る事でホシノさんの考えが変わるのならば、俺の思う通り今は見守った方が良い。

 

 ホシノさん達が向かう先は大体読めているので、なるべく見つからない場所に移動しながら監視を続ける。

 

 ブラックマーケットにある銀行を見下ろせる位置へと着地し、単眼鏡でどうするのか見る。

 

 流石の私も口の動きで何を話しているかなんて分からないけれど、視線や表情。動きを見れば少し位は分かる。

 

 疲れたのか、休憩をしながらたい焼きを食べ始め、大きく驚いてからその視線が一台の車へと向かう。

 

 あれは現金輸送車か……ついにカイザーとヘルメット団の癒着に気付いた感じかな?

 

 私も証拠が無い以上何も出来なかったけど、これでもう少し動くことが出来るかな?

 

 さて、このあとは…………えっ? えっ!?

 

 ホシノさん達はともかく、ヒフミさんが加担するのは物凄く不味い。

 

 特にナギサさんからあの話を聞いた後なので、間違いなく問題となる。

 

 止めるべきである先生も何やらやる気になってるけど、出来れば止めて欲しい……。

 

 ………………少し冷静になろう。

 

 加勢するのは犯罪行為なので駄目であり、止めるにしてもホシノさん達の気持ちも分かるので、止めることは出来ない。

 

 いや、加勢自体はカイザーの事を考えれば問題ないけど、完全にカイザーと敵対すると私の収入が減ってしまう。

 

 その内手を切る予定であるけれど、まだその時ではない。

 

 確固たる悪の証明が欲しいのだ。

 

 どちらも取れないとなると…………。

 

 強盗と言えば最後は逃亡と決まっている。

 

 カイザーの私兵は勿論の事マーケットガードが派遣される事となる。

 

 私に出来るのは、その足止め位だろう。

 

 適当に難癖つければ発砲してくるだろうし、正当防衛を理由に戦えば良い。

 

 よし、そうしようと考えている内にホシノさん達は銀行へと突入し、シャッターが降ろされる。

 

 直ぐに警報が鳴らないので、上手くやれていそうだ、

 

 ついにシロコさん念願の銀行強盗だけど、今頃喜んでいそうだな……。

 

 待ってるだけでは暇なので、ホシノさん達が食べていたたい焼きを私も買い、屋上で待機する。

 

 たい焼きと言えばハルナさんを思い出す。

 

 二週間位前にまたやらかして風紀委員会に捕まっていたので、差し入れにたい焼きと依頼の品を渡した。

 

 あんな危ない部活なのに、なんと新入部員がいるのだから驚く。

 

 因みに次の日には脱獄していたとか。

 

 つぶあんのたい焼きを食べていると、ホシノさん達が銀行から出てきて逃走を始める。

 

 全員頭は隠しているけれど、ヘイローの形が見える私にとっては誰が誰なのか直ぐに分かる。

 

 逃走を始めると共に警報が銀行から鳴り響き、ブラックマーケット内が慌ただしく…………あら? あれはアルさん達か。

 

 何やらアルさんの目が輝いているけど、何かあったのだろうか?

 

 向かう方向はホシノさん達と同じようだけど、このままだとマーケットガードとかと鉢合わせしそうだな。

 

 うーん。ヒフミさんへ伝言を頼むかな。

 

 様子を見るにホシノさん達を追いかけているみたいだけど、あのアルさんなら悪いことにはならないだろうし、直接ヒフミさんに合流するのは悪手な気がする。

 

 そう考えるとアルさん達とマーケットガードが鉢合わせし、銃口がアルさん達へと向く。

 

 あれにアルさん達が負ける事はないだろうけど、私が戦うための理由を作るのに丁度良い。

 

 屋根から飛び立ち、発砲されるタイミングでアルさんの前へと降り立つ。

 

「貴様は! 何故こんな所に!」

「エリス!」

 

 銃弾を畳んだ翼で受け、開きながら立ち上がる。

 

 アルさん達は驚き、マーケットガード達の銃撃が一旦止まる。

 

「先日は依頼を断ってすみません。少しお願いがあるのですが、良いでしょうか?」

「――何かしら?」

「紙袋を被ってる方に駅で待っていると、誤魔化しながら伝えてください。それと、ここは私が受け持つので、先に行ってください」

 

 ゼロカスタムを起動させながら翼から受け取り、アルさん達に銃口が向かないように軽く翼を横に広げる。

 

「――その依頼。便利屋として確かに受けたわ」

「ありがとうございます。今度お茶でも致しましょう」

 

 アルさん達が走り去るなか、マーケットガード達は撃つことなく待ってくれていた。

 

 折角ならば撃って欲しかったけど、そう上手くいかないか。

 

「態々待っていただきありがとうございます」

「……災禍を相手にするのがどれだけ分が悪いか知っている」

 

 まるで七囚人みたいな扱いだけど、悪いことはあまりしていないんだけどな……。

 

「いくらで雇われた? 倍額払うから、退いて貰えないか?」

「退きたいのは山々ですが、あなた方は私を撃ちましたよね?」

「それは貴様が入り込んできたからだろう!」

「見て下さい。私の白い翼が銃弾に撃たれたせいで、黒い跡がついてしまいました。つまり、私の今からの行動はただの報復になります。ですが、皆さんが退いて頂けるのでしたら、私も帰りましょう」

 

 帰ってくれるのならば、別に戦わなくても問題無い。

 

 もしくはこのまま時間稼ぎに付き合って貰えるならば、それはそれでありがたい。

 

 下手に楯突くとブラックマーケットに来るのが難しくなるし、変な依頼が増えてしまう。

 

 出来ればこのまま……なんて考えていると、返事の代わりにジャベリンの発射を以て返された。

 

 ジャベリンは戦車やヘリコプター用であり、まかり間違っても人に撃っていい物ではなく、当たれば普通に大怪我をするものだ。

 

 なので、素早くゼロカスタムを向けて、マーケットガードごと撃ち抜く。

 

 仮に私に当たった場合、向こうも巻き込まれる位の爆発だろうけど、私の隙を突くためにって事か。

 

 それに、あんな大物は準備に多少時間が掛かるので、時間を稼いでいたのは向こうも同じであり、最初から私を排除する気だったのだろう。

 

 それに、最初にジャベリンを撃って来た辺り、私の戦闘方法を熟知していると考えて良い。

 

 空を飛んだら、あれが大量に撃たれるのは明白だ。

 

 一番楽だからとそう戦っていたけど、たまには物理で戦うのも悪くない。

 

 もう言葉は不要という事で、追加で一発ゼロカスタム撃ってから、マーケットガード達に接近する。

 

 ゼロカスタムは強力な射撃性能を持っている。

 

 そして、その射撃性能に見合った強度を持ち合わせている。

 

 なので……。

 

「えい!」

「ぐは!」

「う、撃て! 味方を気にしてたら全滅するぞ!」

「飛ぶんじゃなかったのかよ! 話が違うぞ!」

 

 両手のゼロカスタムを振り回し、マーケットガード達を吹き飛ばしていく。

 

 話が違うと言われても、私が空を飛んでいる理由はゼロカスタムを撃った際の被害を軽減するためであり、撃たないならば飛ぶ必要が無い。

 

 それに、とある人が言っていたけど、物理で殴るのが一番早いらしい。

 

 まあ私の場合は被害を無視すれば撃った方が早いけど、これならば飛んでったマーケットガードによる被害位しか出ない。

 

 十分ほどゼロカスタムで殴り続け、もうそろそろ時間稼ぎとしては十分だろうと判断する。

 

 まだ敵は残っているけれど、逃げる分にはジャベリンなんて撃ってこないと思う。

 

 間違いなく建物にも当たるし。

 

「わたしはこの辺で失礼させて頂きます。銃を使わなかったのは、誠意と思って下さい。あなた方を敵には回したくありませんので」

 

 一方的に話し、ゼロカスタムを収納して飛んで逃げる。

 

 流石に盾もなくゼロカスタムで殴るのは無謀だったみたいで、かなり被弾してしまった。

 

 一度シャワーでも浴びて着替えたいけど、その前にヒフミさんを迎えに行かないといけない。

 

 なんて考えながら飛んでいると、ヒフミさんが探しているペロロの限定ものの一つを偶然発見した。

 

 今回ヒフミさんの目当てのものはアイスやとコラボしていた奴だけど、それ以外にも沢山ある。

 

 見付けたのは、ヒフミさん曰く限定二百体のとある団子屋とコラボした時のものだ。

 

 確か生産は二百体だけど一部は暴動で起きた爆発に巻き込まれて消えてしまったとか。

 

 無視をしても良いけど、見付けてしまったものは仕方ない。

 

 こんな目に遭わされたので思うところもあるけど、ヒフミさんのことはどうも嫌いになれない。

 

「すみませんこちらを一つ下さい」

「ひっ! ご、五千円になります」

「五千円ですね。どうぞ」

「あ、ありがとうございました」

 

 店の前にストンと降り、買ったらまた空を飛んで駅を目指す。

 

 通知音がしたのでスマホを見ると、ヒフミさんから謝罪の言葉が届いた。

 

 どうやらアルさん達は無事に合流出来たみたいだ。

 

 後でアルさん達には、依頼分の支払いをしないとだな。

 

 バッサバッサと頑張って飛んでいると、ようやく駅が見えてきた。

 

 ついでにヒフミさんのヘイローが見えたので、近場の路地裏に降りてからヒフミさんの所に向かう。

 

「ヒフミさん」

「あっ! エリスちゃん! またごめんね」

「分かっているのでしたら、私から離れないようにして下さいと何度も……」 

 

 毎度の事ではあるけれど、しっかりとヒフミさんを説教しておく。

 

 年上ではあるけれど、それはそれで言わなければならない。

 

「……本当に気を付けて下さいね。特に今回は色々とあったみたいですし」

「あ、あはは……私もあんな事になるとは思わず……」

「ヒフミさんが良い人なのは分かりますが、もしも正体が知られて困るのはヒフミさんなんですからね」

 

 頭を掻いて反省しているヒフミさんへ、スマホを操作してとある投稿を見せる。

 

 それは覆面水着団のファウストについての投稿だ。

 

 せめてトリニティの制服でなければ良かったものの、もう色々と手遅れだ。

 

「ヒフミさんの趣味は理解していますが、しばらくは静かにした方が良いと思います。私がいつも助けられるわけではないですから」

「はいぃ……」

「そう落ち込まないで下さい。代わりと言ってはなんですが、こちらを差し上げますので」 

 

 先程買って隠し持っていた、ペロロの限定ぬいぐるみをヒフミさんへと渡す。

 

 すると、落ち込んでいたヒフミさんは向日葵のような笑みを浮かべる…………が、ここでヒフミさんに主導権が渡るとぬいぐるみについての口撃が始まるので、先手を打つ。

 

「ヒフミさんも買いたいものが買えたみたいですし、今日は帰りましょう。思ってたよりも時間が経ってしまいましたからね」

「はっ! そうでしたね! アニメの放送に間に合わなくなってしまいます!」

 

 自然に差し出されたヒフミさんの手を握り、駅の中へと入る。

 

 色々とあったけど、終わりよければすべて良し。

 

 ただ、この後ホシノさん達は動き出すだろうな……。

 

 タイミングがあまりにも悪すぎるけど、傍観するのも気が引ける。 

 

 自由とは自分に責任を持つことらしいけど、まあやりたいようにやるとしましょう。

 

 流石のヒフミさんもこれで控えてくれるだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて考えが甘かったと思い知るのは、そう遠くない未来の事でした。 

 

 

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