「よっと」
空へと跳び、合体状態で二割位の出力でゼロカスタムを放ち、屋上の床を割らないように気を付けて着地する。
ヘルメット団達の断末魔が響き、土煙が晴れると良い感じのクレーターが出来上がっていた。
非殺傷モードのため、ゴーグルやヘルメットが壊れたりしたものの、血の一滴……まあ多少の怪我はしているようだけど、問題無いだろう。
しかし、二割でもこの程度か……殺傷モードで使っていたら、死にはしなくても手足の数本は骨折していただろう。
直撃していた場合は…………まあ死なないだろうし、大丈夫でしょう。
これから使い方には気を付けなければな。
待機モードにしたゼロカスタムを持って、校庭まで降りていく。
勿論階段で。
ゼロカスタムを持ってなければ、シロコさんみたいに飛び降りられるけど、失敗するとクレーターがもう一個できるのでやらないでおく。
「さっきのはエリスちゃんでしょ? どうもありがとうね」
「いえ。私も撃たれたので、その仕返しをしただけです」
校庭に出ると、ホシノさんがスコップを持って立っていた。
「それじゃあ、これを持って」
「はい?」
言われるがままスコップを持ち、ノノミさん達が居る所まで歩かされる。
ノノミさん達もスコップを持っているが…………ああ、そういうことか。
「それじゃあ頑張って埋めようか」
「はい、頑張りましょう」
「うん」
ホシノさんの号令の下、四人で私が作ったクレーターの穴埋めを始めるのだった。
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「ふぅ、お疲れ~。何とか今日中に終わったね」
私のやらかしだから何も言えないが、これだけの大きさならば重機を使った方が早く終わったのでは無いだろうか?
……あっ、お金が無いのか。
「流石に疲れましたね。冷たいお茶が飲みたいです」
「スポーツドリンクならあるよ」
クレーターを埋めて、ついでに銃弾の掃除をしてから対策室へと戻る。
因みにお昼の休憩はしっかりと取っており、調理実習室でノノミさんが作った料理を食べた。
今は無理だが、落ち着いたら料理の勉強もしてみたいな。
「いや~。本当に巻き込んじゃってごめんね。あれさえ来なければ、此処は結構良い学校だよ」
三人共仲が良く、とても良い人なのは今日一日の付き合いで良く分かった。
しかし、だからと言って簡単に決めるものでもない。
キヴォトスには無数の学校があり、今の私には選ぶ事の出来る事由がある。
今日の件で不良程度ならば、簡単に追い払えると自信を持てたので、外を歩くのも問題ない。
「お誘いは嬉しいですが、記憶の事や親族の件もあるので、時間を頂けませんか?」
「まあそうなるよね~。決めるのはエリスちゃんだし、大丈夫だよ」
「出来ればエリスちゃんと一緒に居たいけど、無理強いは出来ないもんね」
シロコさんだけは不服そうだが、ホシノさんとノノミさんは理解を示してくれる。
「エリスちゃんの事で何か分かったら連絡出来るように、モモトークを交換しない?」
「良いですよ。ただ、使い方が分からないので、教えてもらっても良いですか?」
「勿論です☆」
SNSで流れてきたので、文章をやり取りするアプリなのは知っているが、勿論私のスマホにはインストールしていない。
つまり、ノノミさんが私の初めての相手となる。
ついでにホシノさんとシロコさんとも交換をして、軽くレクチャーしてもらった。
「おっと、もうこんな時間だね」
あっという間に時間が経ち、そろそろ下校の時間になる。
ここでふと思い出したが、私にはまだ泊まる場所が無い。
今から市街地まで出て、ホテルに泊まる事は出来るだろうか?
「ホシノ先輩。エリスちゃんの泊まるところって、どうなってるんですか?」
「……うへ~。色々あって忘れちゃってたよ。今日は私の家に泊めるよ。エリスちゃんは、明日どこかに行く気だよね?」
「はい。とりあえず。ミレニアムとゲヘナ。それからトリニティを回ってみようと思っています」
お金はあるので、ゼロカスタムを持ち運ぶガンラックが一番今は欲しい。
後は学校次第だが入試の期限もあるので、二週間くらいを目途に必要な所を回ってみようと考えている。
SNSの情報ではゲヘナとトリニティは仲が悪く、ミレニアムは変態が跋扈していると書かれていた。
そしてゲヘナは不良が日夜銃撃戦に励んでおり、トリニティは陰湿な虐めが沢山あるらしい。
……今考えてみると、アビドスは割と優良株なのではないだろうか?
「なるほどね。おじさんはあまり他の自治区には詳しくないけど、何かあればすぐに戻って来て良いからね」
「私達はエリスちゃんの味方ですから、いつでも戻って来て良いですからね」
「入学届を準備しておく」
圧が……圧が凄い……。
しかし、だからと屈するわけにはいかない。
私の自由のためにも、自分で見て決める必要がある。
あの男が願っていた事だから。
「お気遣いありがとうございます。私も私が分からなく、混乱している部分がありますが、アビドス高等学校へ通う事になった時は、よろしくお願いします」
「硬いね~。とりあえず行こっか。夕飯も準備しないとだからね」
ノノミさんは迎えに来た車に乗り、シロコさんは自転車……確かロードバイクだったかな? それに乗って帰って行く。
私とホシノさんは砂で所々埋まっている、道路の上を歩く。
朝アビドスに来た時と一緒だが、車やロードバイクが走れるだけあり、そこまで砂は酷くない。
「それにしても、凄い銃だったね~。弾はどうなっているの?」
「私にも何を撃っているのかは何とも。ただ、念じて引き金を引いたら、弾が出ました」
ゼロカスタムの事はきっと聞かれるだろうと思っていたので、カバーストーリーを考えてある。
性能は分かっても、仕組みは私にも分からないので、大丈夫だろう。
「その刻印されている、XXXG-0W00ってのが名前なのかな?」
「多分そうだと思います。ホシノさんはこの名前の意味が分かりますか?」
何を思ったのか、あの男はゼロカスタムに型式を刻印していた。
銃の名前であるゼロカスタムではなく、型式を刻印しているのが、きっとあの男なりの美学なのだろうけど、私には分からないものである。
そう言えば、ホシノさんのショットガンにはアビドス高等学校の紋章が描かれているな。
所属を分かりやすくするためだろうけど、いつか私もする事になるのだろうか?
「うーん。全然わかんないね。普通の銃じゃないし、もしかしたらミレニアム製なのかもしれないね。けど、そうなると何でアビドスにって問題が出てくるけど、うーん」
ホシノさんの頭が左右に揺れ、一緒にアホ毛も揺れる。
考えるだけ無駄なので、心の中で謝っておく。
しばらく雑談しながら歩いてると、市街地までやってきた。
ただ、流石に私のゼロカスタムは目を引くのか、割りと見られる。
市街地にしては少し閑散としているが、何となく懐かしい気持ちになる。
砂漠と廃墟しか見てこなかったので、ちゃんと文明らしさのある風景を見たせいだろう。
「夕飯だけど、折角だし外で食べて行こうか。美味しいトンカツのお店があるんだよね~。あまり行かないんだけど、今日は特別だよ~」
「それは楽しみですね」
トンカツか。何やら俺の部分が喜んでいるのを感じる。
私としては太るので、脂っこいのは好きではないが、この身体ならばその事を気にしなくても良いかもしれないので、文字通り楽しみである。
「へいらっしゃい!」
「どうも。二人だけど空いてる?」
「空いてるよ。好きな席に座りな」
店に入ると快活な店長の声が響く。
店内はカウンターとテーブル席が幾つかあり、半分くらい埋まっている。
トンカツを揚げる音が、耳に心地よい。
ホシノさんとテーブル席に座り、ゼロカスタムを立て掛ける。
ギリギリ天井に着かなかったので、一安心だ。
メニューはロースかヒレ。それからエビのカツのどれかとご飯のセットか。
それと、ご飯と味噌汁はお代わり自由みたいだな。
シンプルだが、あまり悩まなくて良いので悪くない。
「どれにするか決めた~?」
「はい。ヒレカツ定食にしようかと」
「おっ、おじさんと一緒だね。ヒレは柔らかいから食べやすいんだよね~」
にへら~とホシノさんは笑い、店員を呼んで私の分も一緒に注文してくれた。
注文したヒレカツ定食は直ぐに届き、一緒に食べ始める。
ホシノさんがオススメするだけあり、とても美味しい。
思わず翼が動きそうになるが、何とか我慢する。
壁に当たってしまったら、穴を開けかねないからな。
折角ならばと、二回ご飯をおかわりをしたところ、ホシノさんが驚いていた。
何ならこれでも満腹ではないのだけど、身体の大きさはホシノさんとそう変わらないが、私には大きな翼が四枚も生えている。
翼にもカロリーを奪われているので、かなり燃費が悪いのだ。
身長よりも大きな翼とか、頭が悪いとしか思えない。
「強盗だー! 金出せ!」
最後に味噌汁を飲んで和んでいると、大声を出しながら店内に入ってくる少女がいた。
コンビニ強盗ならば分かるが、こんな定食屋を襲ってもそんなに金になるとは思えないのだが…………また襲撃者か。
どうしたものかとホシノさんに視線を向けると、一瞬視線が鋭くなり、銃を持ってテーブルを飛び出す。
「なっ!」
強盗が驚く声と、ホシノさんが引き金を引く音が同時に聞こえ、店内が静寂に包まれる。
「うへ~。食事のときくらいゆっくりしたいのに……店員さん、あとはよろしくね~」
「は、はい! 助けて頂き、ありがとうございます!」
ホシノさんを賞賛するような拍手が起こり、照れながら戻ってきた。
「いや~、今日は運が悪いみたいだね。一日に二回も襲われるなんてね」
「ですが、先程のホシノさんはとてもカッコ良かったですよ?」
「もー。おじさんをからかわないでよねー」
こんな狭い店内では、私は戦うことが出来ない。
一発でも撃てば滅茶苦茶になるし、なんならゼロカスタムを構えるついでに壁に穴を開けかねない。
やはりサブウェポンはあった方がいいかも知れないな。
徒手空拳とか良く分からないし、多分気を付けないと吹き飛ばすだけでは済まないだろうし。
研究所でそれなりに身体の動かし方は覚えたけど、完全とはいかない。
「それじゃあそろそろ行こっか。おじさんはもう眠くて仕方ないよ~」
「そうですね。私も少し疲れました」
強盗から助けてくれたということで、食事代を無料にして貰い、食費が浮いたことを喜びながら、コンビニで買ったアイスを食べながら帰る。
……帰ろうと思ったのだが、一つ問題があった。
「あ~。エリスちゃんって、着替えの服とか無いよね?」
「……はい。着の身着のままですので」
そう、服がないのだ。
今来ている服も翼が広げられるように、後ろがガバッと開いており、翼で見えないようにしているが、ブラの紐とかも出てしまっている。
翼がある人用の服とかもあるらしいが、私みたいな生え方をしている場合は、オーダーメイドするしかないだろう。
「それだけ立派な翼があると、私のを着ることも出来ないし、とりあえず洋服店に寄って行こっか」
「はい……」
研究所から服や下着を持ち出しても良かったのだが、それだと不審に思われる原因となり得るので、持ってきたのは本当に最低限の物だけだった。
記憶喪失なのに替えの服や、食事を持っているのは不自然だからな。
スマホさえあれば、後は電子マネーで払える場所を見つけるだけで問題ない。
アイスのゴミを適当なゴミ箱に捨て、服屋……アパレルショップに入る。
少し俺の記憶が悪さをするせいか、呼び名がおじさん臭くなってしまったな。
花のJCなので、言葉位は若くしておきたい。
生前の私は結構キッチリとした性格だった様に思えるので、なるべくちゃぴちゃぴした高校生を目指したい……無理そうだけど。
どうしても言葉が硬くなってしまっているし、考える時もあまり女性らしいとはいえない言葉となっている。
死んだからと、簡単に変われるわけではないのだろう。
「うわ。エリスちゃんの服ってそうなっていたんだ。エッチだね~」
「翼が大きいおかげで隠せていますが、私としてもこの状態なのはあまり……」
アパレルショップで着られそうな服を探す時に、ホシノさんに背中を見られたところ、エッチと言われてしまった……悲しい。
「まあ落ち込まないでよ。アビドスじゃ売ってないけど、トリニティに行けば専門店とか有るらしいし、それまでの辛抱だよ」
「そうですね。買うのは最低限にして、背中は隠すように頑張ります」
服のついでにバッグも買い、手頃なハンドガンも一緒に買っておく。
使い捨てる気でいるので、マガジンまでは買わないでおく。
流石にアパレルショップに強盗が来るなんて事はなく、途中でバスに乗ってホシノさんの家に向かう。
シャワーを浴びて、早く寝たい。
服の問題を解決するか、銃の問題を解決するか……よし、明日は先ず、ミレニアム方面に行ってみるとしよう。
背中は誤魔化せるけど、ゼロカスタムは誤魔化せないからね。