「お邪魔します。頼まれたものを持ってきました」
「ありがとうございます。いつもの場所にお願いします」
トリニティにある、なんの変哲もない一軒家。
一部では隠れ家やセーフティーハウスなんて呼ばれる場所に、私は来ていた。
時間は深夜三時。
いつもの白い制服ではなく、闇に紛れるために黒いローブを着ている。
なんでこんな時間にこんな格好で態々来た理由は、隠さなければならないことがあるからだ。
この家はミネさんのものであるが今この家には私とミネさんの他に、もう一人居る。
「よいしょっと。セイアさんの様子はどうですか?」
「昏睡したまま変わりないですね」
「そうですか……セリナさん達が探していますが、本当に黙ったままで良いのですか?」
ミネさんはセイアさんを匿った後、私が入学してティーパーティーや分派と内紛をするまではちょこちょこ姿を見ていたけど、今では完全にトリニティから離れ、セイアさんの看病に専念している。
「申し訳ないと思いますが、今のトリニティには戻ることは出来ません。セイアさんからあまり長い時間離れる事も出来ませんので」
「そうですか……何が起きているのか、聞くことは出来ませんか?」
「――はい。知ってしまえば、エリスさんをトリニティの闇に巻き込むことになってしまうので」
多分ミネさんが私に荷物運びをお願いしているのも、苦渋の選択なのはミネさんの表情を見れば分かる。
当時トリニティに入学する前だった私は、事件とは絶対に無関係だとミネさんは判断したのだろう。
ミネさんならば全てを一人で出来たかも知れないけど、一人よりも二人の方が効率が良い。
ただ、ミネさんには大変申し訳ないけど、多分その闇には既に巻き込まれてしまっている。
エデン条約とかアリウスとか。
出来ればミネさんから事情を聞きたかったけど、あまり無理に聞くのはミネさんに悪いか……。
「そうですが……分かりました。無理を言ってすみません」
「いえ、エリスさんの疑問ももっともです。ただでさえ救護騎士団に力を貸して頂いているのに……」
「気にしないで下さい。ミネさんには色々と教えて頂いたので、その恩返しみたいなものです。それでは明るくなる前に帰りますね。何かあればまた連絡してください」
収穫は無かったものの、ミネさんはミネさんで動いているのだと知ることが出来た。
私が集めた情報を纏めると、関係者はティーパーティーとアリウス。それからゲヘナ。
ただ、ゲヘナがトリニティに手を出した可能性は低く、ナギサさんが言っていた事とミカさんの話を擦り合わせると、アリウスの影が浮かんでくる。
そしてアリウスと仲良くしたいと言っていたミカさん。
サクラコさんのせいで過去にトリニティで起きた事件を知っているので、その事件から考えるに体良くミカさんは使われてしまったのだと思う。
ただ、これだけ絡まり合い、今も尚表に出ていない狡猾さを思うに、アリウスは普通の分派……組織ではない気がする。
トリニティが荒らされたり、ナギサさんやミカさんの命が狙われるのは、私としても避けたい。
けれど、下手に動けばどうなるか分からない。
私のこれもただの予想であり、組織としての動きが分かっても誰を倒せば良いのかが分からない。
ミカさんは放置しておいても早々倒される事はないので問題ないだろうけど、ナギサさんはどうなるか分からない。
かといって常に張り付くなんて事は出来ないし、人間不信となっている今の状態では、私やヒフミさん以外の人を近くに置かないと思う。
一応アリウスが居るであろう場所は分かっているので、奥の手としてカタコンベを全て吹き飛ばす方法もあるけれど、この手を使えばどれだけの死人が出るか分からない。
私は既に死人であるけれど、だからと言って死人仲間を増やすのは気が乗らない。
そのために、ゼロカスタムは基本的に非殺傷モードで使っているし。
まさかトリニティがこんな陰謀渦巻く学校になるとは思わなかった……けど、ゲヘナでは風紀委員会と万魔殿で対立があり、ミレニアムではトップが不在である。
アビドスは借金があるし、他の学校も似たり寄ったりで問題を抱えている。
結局どこを選んでも、何かしらの形で巻き込まれていたと思うので、どこを選んでも同じ結果になっていたのでしょう。
それにしても、何も装備していないと身体が軽くて仕方がない……もしかして、昔よりも筋肉がついているのかな?
……でも、体重にはほとんど差は無いので、もしかしたら筋肉じゃなくて神秘が増えたのかな?
なんて悩んでいる内に帰ってきたので、別の場所へ出掛ける準備をする。
今日と明日はヒナさんの出張のお手伝いとなっているので、それなりの準備が必要となる。
最低限の準備はしてあるものの、確認をしておくのは大事である。
ナギサさんにも出掛けることは伝えてあるし、出掛けるので念のためミネさんへと物資を渡しておいた。
出張先はクロノススクールであるらしいけど、詳しくは知らない。
知らないけど、多分報道関係の打ち合わせなのだと思う。
単純な治安ではゲヘナはかなり悪く、言われたい放題となっている。
ただ、それを良い事にクロノススクールは虚偽報道をしているらしい。
エデン条約の件もあるので、今の内に釘を刺しに行くつもりなのでしょう。
私を呼んだ理由は、それとなくゲヘナとトリニティが寄り添い始めていると見せつけるため。
少なからずそんな意図がある気がする。
さて、準備を終えたものの、家を出る時間まで一時間程空いてしまったな…………折角だし、お弁当でも作るか。
そして、ヒナさんが食べている姿をアコさんに送ろう。
1
「今日は助かったわ。おかげで早く帰れそうよ」
「ヒナさんが態々来たからかと私は思いますけどね」
クロノススクールへの出張。
予定では丸一日掛かる予定だったのに、まさかの午後になる前に終わってしまった。
本当は長々と会議のはずだったのに、クロノススクールは全面降伏し、ヒナさんの要求を受け入れた。
なので今は、私が作ってきたお弁当を一緒に食べている。
勿論既に写真は撮影済みであるけど、まだアコさんには送っていない。
「美味しいわね。いつも作っているの?」
「お弁当はあまり作っていませんが、デザートは良く作っていますね。特にロールケーキは自信があります」
「ロールケーキが得意なんて変わってるわね」
「でしたら、変わり者が作ったロールケーキを今度持って行きますね。どんな感想を貰えるか、今から楽しみにしています……あら?」
「……少し待ってて」
雑談しながら食後のお茶を飲んでいるとヒナさんのスマホが鳴り出した。
私から少し離れてから電話に出たヒナさんの顔は、いつも以上に無表情となり、電話を切ってからため息を零しながら戻って来た。
「どうかしたのですか?」
「アコがまた暴走したみたい。どうやら大軍を率いてアビドスに向かっているらしいわ」
「それはまた……狙いは何でしょうか?」
アビドスなんて基本的に砂漠しかなく、ゲヘナが欲しがるような物はないはず。
トリニティや百鬼夜行ならば多少は理解できるけど、態々アビドスへ向かう理由が分からない。
「最近噂になっているシャーレの先生よ。表向きは便利屋の捕縛のためみたいだけど――エリス」
「依頼ですね。どうすれば宜しいでしょうか?」
今にもため息と一緒に全てのやる気も掃き出しそうになっていたヒナさんの纏う雰囲気が、風紀委員長の物に変わる。
アコさんが何故先生を狙うのかは私としてはどうでも良いけど、アコさんの暴走はお金になるのでとてもありがたい。
まあアビドスへ向かうって事はセリカさん達が巻き込まれる可能性があるので、お金が貰えて助ける事が出来るのでとても嬉しい。
「先にアビドスへ行って、先生の手助けをして。それと、もし戦闘になったら時間稼ぎをお願い」
「承知しました。因みにヒナさんの事は?」
「上手く誤魔化しておいて。特にアコには悟らせない様に」
「はい」
これは結構怒っているみたいだな……。
今の場所からアビドス学園までは、公共機関を使えば約三時間。
タクシーなら混み次第で二時間半。
私の足なら地形を無視できるので、多分一時間もしないで着く。
大軍と言っていたので、アコさん率いる風紀委員は徒歩でアビドスを目指す事になるので、時間的な余裕は少しありそうかな?
「時間的な猶予はどれ位ありますか?」
「一時間から二時間ってところね。上手くいったらボーナスをあげるわ」
「結構な緊急みたいですね。こちらの荷物をお願いします」
「分かったわ」
いらない荷物をヒナさんに渡し、装備を起動させて近くのビルの上に飛び乗り、真っ直ぐアビドスへと向かう。
目指す場所は…………さて、どうしましょうか?
ヒナさんの言い方からすると、先生と便利屋の方々は今アビドスに居る。
しかしアビドス高校に便利屋がいるはずがないので、アビドス高校へ向かっても意味がない。
うーん。 とりあえずセリカさん……じゃなくてアヤネさんに連絡を取ってみるかな。
2
「困ったね……」
「うーん。困りました……あれ?」
全速力でエリスがアビドスへと向かいながらモモトークを打っている時、アヤネと先生はアビドス高校の屋上で困っていた。
「どうしたのかな?」
「これを提供してくれたエリスさんから丁度連絡がありまして」
「エリスってあの?」
「はい。ヒフミさんと同じくトリニティのエリスさんです」
アヤネから見たエリスは、小さなお姉さんと言った感じだ。
年齢は一緒だが、何かと世話を焼いてくれて、いざと言う時のために、現在修理中の物も置いていってくれた。
試作品なだけあり一度で壊れてしまったが、これがあったのでアビドス高校の被害はかなり抑えられた。
そんなエリスからの連絡は、一緒にお昼を食べないかという誘いだった。
修理に掛かりきりとなっていたため、アヤネは勿論のこと先生もまだお昼を食べていなかった。
誘われたのはアヤネだけではなく全員だが、先生についてはどうすれば良いのかアヤネは少し悩む。
先生がエリスと一応知り合いなのは先日のブラックマーケットの件でヒフミとの会話で知っている。
なので、先生も一緒でも良いかとモモトークを送ってみると直ぐに大丈夫だと返事が来た。
いつものお店で待ち合わせをについても決め、アヤネが先生に話し掛けようとした時――街から煙が上がっているのが見えた。
「先生!」
「向こうの方角は……もしかして……」
「アヤネ! 先生!」
アヤネと先生の頭に嫌な予感が過ろうとしたその時、険しい顔をしたセリカが屋上の扉を音を立てながら開け放った。
その後ろにはシロコとノノミの姿も見え、三人とも銃を手にしている。
「行こう」
全員の顔を見た先生は一度頷き、立ち上がる。
ただ、そこで一人足りないことに気付いた。
「あれ?」
「ホシノ先輩は朝から姿を見ていないです。さっき連絡をしたけど、返事はまだ……」
「分かった。気になるけど先に大将の所に向かおう。心配だからね」
ホシノを除いた全員で柴関ラーメンを目指して走り出す。
近付くにつれて、嫌な予感は確信へと変わっていく。
そしてたどり着いたのは――瓦礫となり、跡形もなくなった店だった。
「――当然でしょう。冷酷無比! 情け無用! 金さえ貰えればなんでもオッケー! それがうちのモットーよ!」
呆然とするセリカの耳に、聞いたことのある声で、聞きたくない言葉が聞こえた。
そして、誰が何をしたのが理解した。
「――そういう事だったのね!」
理解は怒りに変わり、怨嗟の声を吐き出す。
もしもセリカ一人だったならば、言葉と共に銃を撃っていただろう。
しかしこの場には先生を含め仲間がいる。
そして怒りをぶつけたい想いもあるが、それ以上に大将の事も気になっていた。
セリカとシロコが声の主である便利屋達へと銃を向ける中、アヤネと先生は負傷している大将を見つけ、直ぐに逃げるように説得していた。
「えっ、これは、ちが……」
「あんた達――よくもこんな酷い事を!」
釈明しようとするアルだが、その言葉に耳を貸そうとする者は誰も居なかった。
先生が居ればまだ違ったかもしれないが、今は大将の見送りをしている。
一触即発となり、アルが覚悟を決めようとしたその時、空から迫撃砲が迫ってきていた。
ヒナの想定通りならば風紀委員はもっと遅くアビドスに着く予定だったが、エリスに幾度となく全滅……鍛えられてきた風紀委員の練度は高く、迅速な進軍を可能としていた。
「きゃぁ!」
「うそ!」
「これは……」
直撃は避けたものの、突然の迫撃砲に混乱する。
「大丈夫か!」
「あれは……ゲヘナの風紀委員会……なんでアビドスに……」
戻ってきた先生は事態に驚くものの、直ぐに状況を理解する。
「こっちは大丈夫」
「いたた……今度は何よ!」
「直撃していたら危なかったですね」
「全員集まって!」
先生が体勢を整えるなか、アル達は吹き飛ばされたのを良いことに、廃車の裏で作戦会議を行っていた。
「風紀委員会ね。私達が狙いだろうけど、どうする社長?」
「アル様の敵なら、私が排除します!」
「これは面白いことになってきたね~」
(いいい一体何なのよ! どうして風紀委員会がこんな所まで来てるのよ! それに、なんでこんなにやる気があるのよ!)
アビドスとやりあうと思いきや、今度は風紀委員会の登場。
元々風紀委員会襲撃なんて事を考えていたアル以外のメンバーにとっては渡りに船であり、逃げるなんて選択肢は無い。
「――一旦様子見よ。少し考えがあるの」
考える時間を稼ぐために、アルはそれらしい表情で便利屋のメンバーを見る。
逃げる事は何時でも出来るが、店を壊した罪悪感がアルには残っているため、直ぐに損切りをする判断が出来なかった。
アル達が廃車からひょっこりと顔を出すと、風紀委員会と先生達が向き合っていた。
イオリ。チナツ。そして大量の風紀委員。
たった四人のアビドスの方が断然不利だが、店を壊された三人はイオリ達との会話を途中で打ち切り、発砲した。
「これは私達の問題よ!風紀委員なんてお呼びじゃないのよ!」
「ん、邪魔をするなら容赦しない」
「やれやれですね~」
「っち。仕方ない。相手してあげるよ。私一人でね!」
先日エリスにボコボコにされたイオリはストレスが溜まっており、止めようとするチナツの言葉を聞かずに三人との戦いを開始した。
チナツが困りながら先生に視線を向けると、同じく困った顔を返される。
便利屋が店を爆発させ、そこに風紀委員が現れ、キレたアビドスと風紀委員が戦いを開始した。
言葉としては理解出来ても、どうしたものかと先生も困るしかなかった。
まずは話を聞かなければどうしようもないが、便利屋はどこに行ったのか分からない。
一旦戦いが落ち着くまで待とうと決めた先生だが、チナツの後ろで控えていた風紀委員達が銃を構えるのを見て、考えを変える。
「隠れて! アロナ!」
見るだけに留める予定だったが、卑怯な手を使うと言うのならば黙って見ているわけにもいかず、三人を指揮下に置いた。
「なっ!」
直ぐにイオリは異変に気付き、他の風紀委員を見たイオリは思わず声をあげた
現場の指揮権はイオリにあるが、それ以上の強権を持つ存在が風紀委員会には二人居る。
そしてそのうちの一人が優雅な笑みを浮かべ、通信機を手に取っていた。
本来ならばイオリが勝手な行動をし、仲裁する形で命令をする予定だったが、今ならば簡単に先生を手中に収める事が出来ると考え、話し合いではなく戦う事を選択したのだ。
『攻撃を開始してください』
様子を見ていたチナツは直ぐに助けようと行動しようとするが、空から光が落ちてくるのを見て動きを止める。
アビドスの三人が隠れ、風紀委員の構えた銃が火を噴く――はずだった。
空から降って来た一条の光が前方の風紀委員を吹き飛ばし、突然の事に引き金を引こうとする指が止まる。
光の後に空から白い羽が舞い降り、一人の少女が姿を現す。
「間一髪……と言うには少し遅かったみたいですね」
少女を見た一部の風紀員は身を震わせ、セリカ達は驚きに声を出すのも忘れてしまう。
そして動き出そうとしていたアルはあまりのカッコよさに痺れていた。
「な、なんで此処に……」
少女がこの場に居る事はありえない事だった。
それはイオリの一言が表しているが、それ以上に後ろに控えている
「ヒナさんからお暇を貰いまして。折角なのでお昼をと思ったのですが……ああ、先生もお久しぶりですね」
「うん。久しぶり、エリス」
「アビドスの皆さんも思う所はあると思いますが、少しお待ちください」
場を支配した少女――エリスは少し怒っていた。
エリスから見た現場は風紀委員会が暴走し、店を爆破した。
その様に見えているのだ。本当はハルカがやった事だが、遠目からしか見ていないエリスには分からない。
ヒナからの依頼が無ければ、既に合体させたゼロカスタムを問答無用で撃っていただろう。
「それでは――少しお話しましょうか」
エリスはゼロカスタムの銃口を光らせ、笑顔でイオリ達へと話しかけるのだった。
なんで二次創作の一話って長いのが多いのかが気になっていたのですが、少し分かった気がします。