いつかやらかすとは思っていたけど、民間人相手に発砲とは……後でヒナさんが激怒しそうだな。
間に合わなかった私も悪いけど、依頼通りに時間を稼ぎつつ状況を理解しないと。
便利屋の方達は隠れているのを見るに、ラーメンを食べてたら店ごと撃たれた感じかな?
それを先生達が目撃し、セリカさんがキレた……そんな感じですかね?
「確認ですが、これは委員長に許可を取っての行動でしょうか?」
「そっそれは……」
「イオリさんではなく、後ろで聞いているアコさんに答えていただきたいのですが?」
イオリさんはともかく、チナツさんの表情を見るに、アコさんの目的を察していそうだな。
巻き込まれただけだと思うけど…………ドンマイ。
『まさかあなたが現れるとは思いませんでした。それと、先生とアビドスの皆様。こんにちは。私はゲヘナ学園所属の行政官。アコと申します』
飛んできたドローンから、アコさんのホログラムが投射され挨拶をする。
上手く取り繕っているけど、間違いなく慌てているな。
どうせアコさんの事だから、ヒナさんがいない内に手柄を立てて、褒められようと考えていたに違いない。
「久しぶり、チナツ」
「先生……」
いつの間にか横まで来た先生が挨拶をするが、出来れば後ろに控えていて欲しい。
「アコと言ったね。どうして突然攻撃をしようとしたのかな?」
『いえ、私は構えさせただけで、発砲までは許可を出していません。ですが、イオリについては独断となるので、その件は謝らせて頂きます』
「アコちゃん!」
イオリさん……可哀そうに。
何があったのかあまり見えなかったけど、多分セリカさんやシロコさんと戦ったのだろうな……イオリさんは結構喧嘩っ早いし。
一応風紀委員の規則的にイオリさんは罪に問われる程の事ではないけど、多分全部終わった後にヒナさんから反省文を書くように言われそうだな……ついでにチナツさんも。
そんなアコさんの発言を聞いた先生は、眉をハの字にして困った顔する。
『ところでエリスさん。あなたは何もしていない風紀委員会を攻撃しましたね? それが何を意味するのかお分かりですか?』
責任転嫁の次は罪の擦り付け。
イオリさんの行動は風紀委員会とは関係ないと切り離しての言葉なのでしょうが、私も考えなしではない。
今の私はただのトリニティ生であり、トリニティ生がなんの罪も無い風紀委員を攻撃したとなれば問題になる。
正直問題になっても今回はヒナさんの依頼なので問題はないけれど、タネ明かしをするには少し早い。
「勿論分かっています」
『でしたら、銃口を下げては?』
スッとスマホを取り出し、アルさんにDMを送る。
前回の護送依頼の時アルさん達が、風紀委員会を襲撃したいなーって話していたのを私は聞いていた。
そして私はブラックマーケットの件でアルさん達に借りがある。
送信ボタンを押すと、後ろで音が鳴った。
ついでに変な声も聞こえた気がするけど、気にしなくても良いか。
『何を……』
「現時点を持ちまして、私の雇い主は便利屋となりました。私への文句は便利屋の方々にお願いしますね」
私がトリニティで、どこにも属していないから取れる手段。
トリニティ生ではなく、一傭兵としてこの場にやって来たことにすれば、責められるのは私の雇い主となる。
それでもゲヘナとトリニティの問題に出来るけれど、最終的な責任は私に降りかかってくる。
けれど、下手にトリニティをつつけばエデン条約がどうなるかわからない。
つまり、アコさんが出来るのは便利屋に八つ当たりするくらいだ。
『……詭弁ですね』
「お互いさまかと。先生。この場で戦闘をしても良いですか?」
「……良いけど、大丈夫なの?」
先生は心配そうに聞いてくるけれど、既に勝ったことのある相手であり、迫撃砲以上の攻撃がないならば、かなり楽に戦える。
けど…………かなり汚れることになりそうだな。
……折角だし少しだけカッコつけておこうかな?
これから先先生とナギサさんが会うこともあるだろうし、ヒフミさんみたいな普通を間違えている人ばかりがトリニティと思われるのは避けておきたい
起動していなかった装備も起動させ、翼を大きく広げる。
「――心配無用です。相手がいくら居ようとも、雑兵ならばどうとでもなります。この状況をトリニティ風に言うのでしたら、哀れな悪魔に魂の救済を……ってところでしょうか?」
「エリス。君は……」
まあそんな悪魔の味方をしているので、人の事を言えないんですけどね……。
なんだか恥ずかしくなってきた。
「ん、私も加勢する」
「
「援護は任せてください」
シロコさん達も私の横に並び、銃を構える。
そう言えばホシノさんがいないけど、どうしたのでしょうか?
この状況で、一番怒りそうなのはホシノさんのはずなのに。
「わ、私達もやるわ!」
アルさん達も加わるが、シロコさん達からの視線は冷ややかなものだ。
もしかして、なにか……ああ、そう言えばアビドスを襲っているんでしたね。
私の中ではアルさん達は悪い人ではないと言っているので、後で仲裁するとしましょう。
『くっ! ――それでしたら、存分に相手をしてあげま……』
「――その必要はないわ」
今にも戦いが始まる様な緊張感が走るなか、冷たい一言が駆け抜ける。
そしてその一言で、風紀委員会は全員背筋をピンと伸ばして固まる。
その様子を見てシロコさん達は、銃口を下げながら困った顔をした。
どうやら時間稼ぎは成功したみたいだ。
『ひ、ヒナ委員長……』
「なんで空から……」
空から降ってきたヒナさんは、威圧するように私達の前まで歩いてくる。
「こんなところで何をしているの?」
『それは……その……』
現行犯では、言い逃れも出来ないか……。
『え、エリスさんが便利屋と結託し、風紀委員会に攻撃をしてきまして……』
「ふーん。なんでアビドスにこれだけの数が居るの? やるにしても、ゲヘナじゃない?」
『こ、ここまで逃げられまして……』
淡々と説明を要求され、アコさんはたどたどしくなっていく。
「自治区外での許可無しの行動は風紀委員会の領分を越えているわ。……察するにゲヘナにとっての不安要素の確認、あるいは排除ってところかしら?」
『……』
ヒナさんが来た以上、私の出番は終わり……とはいかない。
折角でもあるし、この場を少し活用させて頂こう。
「どうしますか? 今でしたら追加料金無しでヒナさんを含めた風紀委員会を倒せますが?」
「えっ?」
「今は雇われている身ですので、アルさんの指示に従います」
アルさんの判断次第では、このままここは戦場となり、大変な事になる。
ただ、私はアルさんはそんな選択をしないと思っている。
これでアルさんとシロコさん達のわだかまりを解く一助けになれば良いけど……。
そして微妙そうな顔をヒナさんがするけれど、ここは一旦無視をしておく。
アルさんはムツキさんに冷やかされ、カヨコさんに求められ、ハルカさんに殺ろうと声を掛けられる。
「……いえ、ここは手を引くわ。ここはゲヘナでは無いし……それに……その……と、とにかく、手を出されないなら、私達に戦う意思は無いわ。勿論捕まる気もね」
「分かりました」
全装備をオフにし、ゼロカスタムを分離させて翼に収容する。
そしてシロコさん達は渋々とだが銃をしまった。
これでアコさんが打てる手は完全に無くなった。
「……アコ」
『は、はい!』
「これ以上の弁明は帰ってから聞くわ。それまで謹慎していなさい」
『うっ! 了解しました……』
「イオリ。チナツ」
「はい!」
「はい……」
「何があったか全て話しなさい」
アコさんのホログラムが消え、それにともないイオリさんとチナツさん以外が撤退……逃走を開始する。
向こうとしても好きで私と戦いたくはないだろうし、逃げられるなら逃げたかったんだろうな。
「とりあえずこれにて一件落着ですね。ところで、私が来るまでの間に何があったのですか?」
ヒナさんが事情聴取している間に、私は私でシロコさん達に話を聞くことにした。
しかし、その瞬間シロコさんたち、特にセリカさんがアルさん達を思いっきり睨み付けた。
あら?
「――どう落とし前をつけるつもり?」
「……ちょっと待って下さい」
あまりにもドスの利いたセリカさんをアヤネさんが止める。
そして先生を含めて少し離れ、話し合いを始めた。
とりあえずアルさんの方を見ると、気まずそうな感じにしている。
「えっと、とりあえずお話を聞けますか?」
「……ええ、分かってるわ」
アルさん達から話を聞き、その間にアヤネさん達の方の話し合いも終わり、擦り合わせをする。
一から纏めると、アルさん達が間違えて店を爆破。そこにホシノさんを除いたアビドス高校の全員が来て一触即発となるが、そこの風紀員の砲撃が来たため、流れで一時休戦。
その後イオリさんと戦闘を開始し、風紀員が不穏な動きをしようとした所で私が合流。
ついでに店の爆発については手違いではあるものの、アルさん達は悪いと思っているらしく、後で大将に謝るという事で落ち着き、戦闘には発展しなかった。
それでもセリカさんの怒りは収まらないみたいなので、頭と耳を撫でてご機嫌を取っておいた。
あのツンツンしていたセリカさんも、こうしてしまえば大人しくなる…………ここに至るまでかなり苦労したけど。
そんな私とセリカさんのやり取りを先生が羨ましそうに見ていた。
「待たせたわ」
ヒナさん達の方も話し合いが終わったみたいだ。
ギリギリで大規模な戦闘にはならなかったものの、一応大軍で自治区へと進行したのは問題となる。
どう治めるのかな?
1
事の流れを見守っていた先生は、ヘルメット団の時みたいな戦いにならなかった事に安堵しながら、一連の事について大人らしく考察をしていた。
事件の蓋を開けてみれば、ゲヘナの風紀委員会の暴走と、便利屋が受けた依頼。
この二つが関わってくる。
ヒナ達の話で風紀委員会の目的は分かり、便利屋については依頼でアビドスに居た。
そして便利屋は間違えて爆弾を爆発させ、それを目印に風紀委員会が進軍を開始。
最後にアビドスの生徒を敵と判断して戦闘を始めた。
「……おかしいですね」
「アヤネ?」
対策委員会としての話し合いが終わり、シロコ達がアル達と話している時にアヤネが呟いた。
「あ、いえ。ゲヘナが犯罪者を追うためとはいえ、こんな事をするとは思えないものでして……」
「待たせたわ」
アヤネの疑問に対して先生が考えようとした所で、ヒナがイオリ達を連れて近づいてきた。
「まずは……エリス。助かったわ」
「いえいえ。アビドスの皆さんとはお友達ですので、この程度は問題ありません」
そのヒナとエリスの会話に、全員疑問を浮かべた。
「どういうこと?」
「私がアヤネさんに連絡を入れ、ここまで来たのは偶然ではなかった事です」
「最初から話すから聞いて」
先生の疑問に対し、エリスはにこやかに答え、ヒナは最初に今日は出張に出ており、アコの暴走については出張先で知った事から話を始めた。
止めるにしてもアコが誤魔化す事は分かっており、状況証拠を得なければ止まる事は無い。
正規の方法では間に合わず、かと言って放置することも出来ない。
なので、護衛として帯同させていたエリスを向かわせたのだ。
「流石に疲れましたが、皆さんのためですから」
そう付け加えるエリスだが、ヒナがどこから来たのかを話すと、ヤバイものを見る目をエリスに向けた。
それと便利屋に雇われたことについては、今回は目をつぶると言い、アルはこっそり安堵した。
「――けれど」
こごではまるで自分達に非があると認める言葉ばかりだったがその一言で流れが変わる。
「風紀委員会は公務としてそこの便利屋68を捕まえに来た。その公務を妨害した事実は揺るがない」
「それは……」
「やるのは構わない」
「待ってください!」
非を認めたヒナだが、アコの暴走とはいえ風紀委員会は公務として動いており、その責任はしっかりと果たさなければならない。
セリカは怯み、シロコがやる気を出す中で、アヤネが止めに入る。
今の話からエリスはヒナに雇われている事が分かり、この場で戦いを始めた場合、ヒナとエリスの二人を相手にしなければならない。
いくら先生が居たとしても、この二人が居ては勝てるわけが無いと焦ったのだ。
(こんな時ホシノ先輩が居たら……)
アヤネはどうすればと焦るが、今回は風紀委員会に被害を出したのはヒナが雇ったエリスであり、イオリについては個人的な責任にされたため妨害という妨害はしていない。
適当な所で手打ちにし、シャーレの先生に恩を売れれば良い程度の腹積もりでいる。
「この場で便利屋を……とは言わない。けど、ゲヘナとしては正式にアビドスに抗議をする必要がある」
「少し待ってくれないかな?」
「何? シャーレの先生?」
今のアビドスに、借金とカイザー以上の問題を抱える余裕はない。
アビドスの生徒達の視線を受け、先生はどうすればこの状況を打開できるか考え始めた……そんな時。
「うへ~。これはまた凄い沢山居るね」
「ホシノ先輩!」
「ごめんごめん。ちょっと昼寝をしててね~……ってエリスちゃんじゃん。アビドスに居るなんて珍しいね」
「ご無沙汰しています。少し所用がありまして」
目は半開きであり、眠たげな雰囲気なホシノがゆっくりとだが隙の無い雰囲気で歩いてきた。
「ホシノ――小鳥遊ホシノ……」
「うん? おじさんの事を知ってるの?」
「……一年の時とは随分と変わった……いえ、何でもない」
「ふーん。ところでアヤネちゃん。どんな感じなの?」
「はい……」
アヤネがホシノに軽く状況を話し、ホシノの目がアル達。それからヒナ達へと向けられる。
「なるほどね……なら、私と一対一なんてどう? エリスちゃんは個人的に巻き込みたくないんだよね~」
抗議をするならば力にて跳ね返す。そう宣言するホシノをヒナはジッと見つめ、緊迫した空気が流れる。
ホシノが向けて来たショットガンに対して即座にヒナも銃を構えるが…………直ぐに目を閉じて溜息を漏らし、銃口を下げた。
「あれれ?」
「元々抗議をする気も、戦う気もない。イオリ、チナツ」
「委員長……」
「……はい」
「先に帰ってなさい。それと、反省文を十枚書くように」
「うっ、はい」
「私もですか……」
イオリは自分が悪いと分かっているので反論をしないが、完全に巻き込まれただけとなるチナツは少しだけ気落ちし、ヒナに言われた通り、直ぐに帰って行った。
そしてそんな風紀員に視線が集中している間に、アル達はこっそりと逃げ出す。
手を出さないとヒナは言ったが、それが本当という証拠は無く、柴関ラーメンの店を爆破したのは事実であり、逃げる機会をずっと窺っていたのだ。
若干蚊帳の外に置かれているエリスと先生はアル達が逃げて行くのに気づいていたが、苦笑いしながら見送った。
そして……。
「えっ」
「うん?」
ヒナがホシノ達に頭を下げた。
「風紀委員会委員長として、正式に謝罪する。今後一切許可無く風紀委員会はアビドスの地を踏まないと誓う」
「それは……」
「それと、先生」
「なにかな?」
「迷惑料って訳ではないけど、少し話しておきたい事がある……」
先生達とヒナが真面目なやり取りをしているなか、エリスはスマホを取り出し、謹慎しているアコに止めを刺すためにお昼の時の写真を送っていた。
その送られてきた写真を見たアコは、顔から出せる全ての水分を出しながら嘆いた。
「……それじゃあね、先生。それと、便利屋68に伝言を宜しく」
「ああ、教えてくれてありがとう」
アビドスにとって重要な話を終えたヒナは立ち去り、ホシノ達……とエリスが残された。
「……あら?」
まさかのヒナに放置されて帰られたエリスは、どうしたもんかと首をかしげる。
「えっと、エリスちゃんはどうするの?」
「そうですね……皆さんとお昼を食べに行きたいところですが、それどころではなさそうなので今日は帰ろうと思います」
置いてかれたエリスを、哀れに思ったホシノが声をかける。
お昼を食べたものの、その後の運動ですっかり腹ペコだが、アビドスの問題に自分から関わることが出来ないエリスは帰ることにした。
「エリス」
「はい? なんでしょうか?」
「良かったらシャーレの部員にならないかい?」
「私がですか?」
今まさに飛び立とうとしているエリスを呼び止めた。
打算だとかトリニティ生だからではなく、ふと思い立って言ってしまったのだが、先生は自分で提案しておいて、何故提案したのか自分でも分からなかった。
「そうですね……」
シャーレは様々な事をしているとSNSで知っているが、今のところエリスはそこまで魅力に感じていない。
先生についても可もなく不可もなくなので、先生の手伝いをする位なら寝ていた方が良いかななんて思っている。
「先生が私にとって大事な人になったなら考えてあげます。それでは」
柔らかな笑みを浮かべ、勘違いされそうな言葉を残してエリスは飛んで去って行った。
その後先生はセリカやノノミに弄られ、苦笑いをするのだった。
「あら?」
空を飛んでいたエリスはモモトークの通知音を聞いて、スマホを見る。
そこにはホシノの名前が映し出され、今夜会いたいと書かれていた。