『初めましてエリスさん。私は黒服と呼ばれている者です。――良ければ少しお話をしませんか?』
「夜間の依頼は受けていませんので、日を改めてご連絡を下さい」
急に掛かって来た電話を切り、スマホをポケットにしまう。
まったく、こんな時間に電話をしてくるなんて、常識があるのでしょうか?
ご飯も食べたし、ホシノさんとあまりよろしくない話もしたので、今日はお風呂に入って早く寝たい……なんて考えていると、再び電話が鳴った。
うーん、無視をしても良いけど、態々折り返してくるって事は、訳ありなんでしょうか?
訳ありはもうお腹一杯だけど、もしかしたらアビドスと関係がある可能性もあるし、仕方ないけど出ておくかな。
「もしもし」
『クックック。夜分遅くにすみません。どうか依頼金を出しますので、お話だけでもどうでしょうか?』
「深夜料金を加味しまして一分十万円で宜しければ今すぐに向かいますが、どうでしょうか?」
『それは中々のぼったくりですね。ですが、払わせていただきましょう。それ程の価値が貴女にはあります』
えっ、適当に流して確認だけしようと思ったのに、まさかこんなにお金を払ってもらえるの?
流石の私も良心が咎めるものの、直ぐにDMで地図と契約の内容が送られて来た。
『それでは楽しみに待っています。エリスさん』
返事をする前に通話は切れ、一度建物の屋上に着地してDMを確認する。
依頼は話し合い。金額は先程言った通りであり、武器の持ち込みは問題無し。
指定された場所はとあるビルの中。
うーん。深夜料金とは言ったものの、時間はまだ二十時なので、遅いという程ではない。
まあ貰えるものは貰うとして、まずは会ってから考えましょう。
再び空を飛び、トリニティではなくシャーレのあるビル地帯に向けて翼で羽ばたく。
相手次第だけど、お金のために頑張って時間を長引かせよう。
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「お待ちしておりましたエリスさん。どうぞお座り下さい」
物静かなビルに入り、エレベーターで昇って来た先にあった部屋に入る。
そこに居たのは、黒い燕尾服を着た頭? 顔? に罅が入った人だった。
先生とは違った意味でユニークな人だけど、少しジャブをしてみましょう。
「その前に武器を置きたいのですが、どちらに置けばよろしいでしょうか?」
「その翼に背負っている物ですね。確かにそれを背負ったままで座るのは厳しそうですね。クックック……気が利かずにすみません。申し訳ありませんが、壁に立て掛けて下さい」
見た目はともかく、言葉はとても丁寧で高ポイントだけど、俺の反応が凄まじい。
私は凪の海の様に静かなのに、珍しい。
言われた通りに壁にゼロカスタムをゆっくりと立て掛けてから座る。
この時間だけですでに三十万円だ。
これなら欲しい装備も直ぐに予算が付くかな?
「まずは謝罪を。女性を夜遅くにお呼び立てして申し訳ありません。どうしても話をしておきたかったものでして」
「こちらも依頼としてお金を頂いていますので問題ありません。出来れば飲み物が欲しいのですが?」
「これは失礼を。お持ちしますので、寛いでいて下さい」
スッと立ち上がってから部屋を出て行き、少ししてコーヒーを持って来てくれた。
うーん、嫌がらせと取るか、それとも大人として扱ってくれていると見るか……。
私は全く問題ないけど、基本的にトリニティ生にコーヒーを出すのは禁忌である。
「お砂糖とミルクはどうしますか?」
「ブラックで問題ありません」
一口飲むと豊かな香りが口一杯に広がる。
あんな依頼金を払う位なので、豆も良いものを使っているみたいだ。
「私は黒服と申します。とある組織に属していますが、エリスさんにとっては関係のない事ですので、割愛させていただきます。早速質問ですが、キヴォトスの暮らしはどうですか? 聞いた話では記憶が無いとか」
「学生でも生きるのに困らない程度のお金を稼げるのはありがたいですね。連邦生徒会長が居なくなってからは慌ただしかったですが、先生が来てからは少しずつ犯罪率も下がり始め、過ごしやすくなり始めました」
「そうですか。その先生についてはどう思っていますか?」
「嫌いですね」
「それはまた……珍しい反応ですね」
ホシノさんと話して自覚し、どうするか決めたけれど、先生が先生である限り、多分私は先生が嫌いなままだと思う。
博愛が悪いわけでも、先生という立場が駄目な訳でもない。
しかし最後には必ず、選ぶ時が訪れる。
そこで壊れるのか、それとも足掻き苦しむのか。
そうならないようにはする気だけど、私の想いは変らないと思う。
なんなら敵対するなんて事も起こるかもしれないけど、その時はその時で考えれば良いでしょう。
「お恥ずかしいですが、個人的な感情です。別に憎しみがあるとか、恨みがある訳ではないのですが、好きか嫌いかでしたら間違いなく嫌いですね」
「クックック。いえ、質問をした此方が悪いので、どうか謝らないで下さい。ついでで失礼ですが、嫌いなだけで対立する気は無いのですね?」
「時と場合によるかと思います。黒服さんと先生がどの様な関係かは分かりませんが、依頼であるならば昨日の友達と敵になるのが傭兵です。勿論悪事には加担しませんが」
過去に風紀委員会だけではなく、トリニティの正義実現委員会や、シロコさんとも依頼の関係で戦った事がある。
ただ、敵対と言っても直接手を下すことはない。
下手なことをするとワカモさんが襲って来ますし。
「つまり、依頼がない限りは敵対しないわけですね?」
「基本的にはそうですね。後は一応私の目的と相容れない時は戦うかも知れませんが、私から争いの種を蒔く気はありません」
「あくまで中立ということですか。つかぬことをお聞きしますが、その目的とは?」
「いつかこの世界に訪れるかもしれない災いを倒すことです」
「クッ……クックック……」
黒服さんはいきなり狂った様に笑い始め、それからコーヒーを飲んで落ち着いた。
この反応からするに、私の発言を与太話としてではなく、本気と捉えたのでしょうか?
更に言えば、色彩について知っている?
「失礼しました。ええ。確かにあなたの立場を考えれば、あれは明確な敵なのでしょう。ですが、世界そのものであるあれに、一生徒であるあなたは勝てるのですか?」
やっぱり知っているな……そして尚且つ色彩と敵対している。
ある意味味方なのかもしれないけれど、俺の部分の反応からするに、味方と呼べる存在ではないのでしょう。
ただ、私側から見るに敵と呼べるほどでもない…………のかな?
どこまでの情報を開示して良いのか悩む所だけど、とりあえずゼロカスタムについては話しても良いかな。
どうせ私以外には持てても使うことは出来ないし。
「絶対とは言えませんが、そのための銃がゼロカスタムとなります」
「それは……どの様な意味でしょうか? 素晴らしい銃であると噂は聞いておりますが、それでも火力は戦車程度と思うのですが?」
「火力を抑えて使っていますので、その程度となっています」
練習で殺傷モードを使って以降は、常に非殺傷モードで使い、更に言えば非殺傷モードでも最大出力では一度も使用していない。
基本的に市街地戦ばかりなため、下手に出力を上げて撃てば、建物の一つや二つは普通に倒壊してしまう。
ついでに私の貯金も崩壊してしまうのと、態々威力を上げる必要もないため、黒服さんが言った程度の火力までしか出していない。
それでもちょっと過剰火力だとは思っているけど。
「あれでですが……最大とは言いませんが、どの程度までの威力を出せるのですか?」
「そうですね。開示できる程度ですと、最低でもシェルターは一撃で壊せる程度の威力は出せるとだけ。それも連発で」
「それはまた恐ろしいですね。既存の壁では防ぐことが出来ないと言うわけですね……」
一応私のゼロカスタムにも弱点はあるものの、連発出来る関係でそこまで弱点ではない。
それと、ゼロカスタムの動力は私の神秘なのだが、エネルギーパックも付いているため、そう簡単に撃ち尽くす事もない。
「威力を上げて撃てばですけどね。それでも殺傷能力は無いので、撃つよりも近付いて殴った方が早いですが」
「そう、そこです。その銃は私が見た限り殺傷能力が全くありません。一体どの様な原理なのでしょう?」
「残念ながらこれ以上は別料金となります。教え過ぎてしまいますと、私の仕事に支障が出てしまいますので」
「クックック。商売上手ですね。エリスさんの事を知る事も出来ましたので、今日はこの辺までにしておきましょう。それと、これはサービスになりますが、ホシノさんから目を離さない方が良いかと。どうやら私が思っていた以上に、あなたはこちら側らしい」
こちら側というのが良く分からないけど、ホシノさんか……。
今になってあんなお願い事をするって事は、何かしら抱えているのだろうけど、私が直接関わってはいけないと、俺と私が忠告をしてくる。
ホシノさんの問題については先生も居るし、任せておいて問題無い。
ただ頼まれているので、先生達で手に負えない相手が出たならば、その時は助けようと思う。
なるべく派手に。
「そうですか。本日はありがとうございました」
「此方こそとても有意義な時間でした。出来れば、これからもエリスさんとは仲良くしたいものです」
「それは黒服さんの行動次第かと思います。それでは依頼金の九百五十万円の振り込みをお願いしますね」
一時間半コーヒーを飲みながら話していただけでこの金額である。
これだけあればスコープ以外にも何か作る事が出来そうだ。
黒服さんと話していて思ったのだけど、本当にこのゼロカスタムで色彩を倒す事が出来るのか? そんな不安が過った。
一応私の頭の中にゼロカスタムの強化案はある。
けれどあまり現実的ではないのと、動力が私自身である以上、下手な頼み方をしては、ウタハさんが頷かない問題がある。
私自身が弾である以上、ゼロカスタムを強化して使うという事は、私自身を削る事になる。
そして削り過ぎれば私は死ぬ。
あくまで最終手段ではあるけれど、ウタハさんに無理を言って進めた方が良いだろうか?
そもそも作れるか分からないけど。
「ええ。直ぐに振り込ませて頂きます。それではおやすみなさい。エリスさん」
「はい。それでは失礼します」
ゼロカスタムを装備してから部屋を出てエレベーターに乗り、ビルの屋上に出る。
そこから空を飛んで家へと帰る。
明日はミカさんの言っていたアズサさんでも見に行こうかな?