翼を得た少女は自由の意味を探す   作:ココア@レネ

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彗星はもっとバーって動くもんな(作品違い)


第45話:先生が見た流星

「へー。そんな面白い事があったのですね」

 

 イチカさんに功績を擦り付けてから数日後。私は菓子折りを持ってヒナさんの所に来ていた。

 

 どうやら私が来る少し前に、先生が来ていたらしく、ヒナさんに救援のお願いをしたらしい。

 

 なにやらアビドスで問題が起きているらしく、その解決に戦力が必要なのだとか。

 

 私に連絡をしてくれてもと思うものの、既に先生はいないので、私にはほうじ茶を飲むことしか出来ない。

 

「思っていたよりも、誠意のある人みたいね。アコとイオリはそう思っていないみたいだけど」

「どう思うかは人それぞれかと思います」

 

 満足そうにしているヒナさんとは違い、アコさんとイオリさんは渋々ヒナさんに従っている感じだろうけど、だからと言って手を抜かないことは知っている。

 

「直ぐに動くのですか?」

「まだ先よ。早くても三時間位後じゃないかしら」

 

 三時間……呼ばれていないとはいえ、アビドスの危機に何もしないなんて事は出来ない。

 

 詳細を知ってしまったならなおのことでしょう。

 

 借金の件で直接手を貸すのは駄目と言われているけど、ホシノさんを助けるためならば大丈夫なはずだ。

 

 それに、ゲヘナに助けを求めたってことは、トリニティにも話を持っていくだろうし、ちょっとした手助けならば誤魔化すことも出来る。

 

 現地に行くのは念のため止めておくとしても、私ならば現地に行かなくてもなんとかなる。

 

「分かりました。今日は用事があるので、これで失礼しますね」

「エリスは行かないの?」

「砂漠での戦いは苦手ですので。それと、今回は質よりも量があれば大丈夫な気もしますので」

 

 ペコリと頭を下げ、執務室を出る。

 

 そしてエレベーターで地上に降りずに、屋上へとやって来た。

 

 今から向かうのは、トリニティでもアビドスでもなく、ミレニアムである。

 

 私がやろうとしている事には、どうしてもミレニアムのウタハさんの協力が必要であるが、時間的な猶予はあまりない。

 

 なので……。

 

「いい風ですね。それでは飛びますか」

 

 屋上から空へと飛び、ゼロカスタムを撃って推進力を得てからミレニアムへと向かう。

 

 初速を得るだけなら、ゼロカスタムの反動は丁度良いのだ。ただ、かなり高く飛ばないと飛んでいる物体を撃ち抜いてしまう恐れがあるので、注意しないといけない。

 

 そして風を切りながら飛び続け、あっという間にミレニアムに着いた。

 

 流石に疲れたけど、この後休む時間があるので、周りの視線に耐えながらウタハさんの所に向かう。

 

「ねぇ、あの子空から降って来なかった?」

「うん。多分噂のトリニティ生だよ」

「あっ、あの一棟吹き飛ばした!?」

「それ以外にも七囚人とドンパチしてたり、戦車も一人で吹き飛ばしたりしているらしいよ」

「トリニティって怖いね……」

「うん恐ろしいね……」

 

 なにやら色々と噂に尾ひれが付いてるけど、気にしないったら気にしない。

 

 少しだけ早足になりながら歩き、エンジニア部の部屋に入る。

 

 今年から増えた部員の方々に挨拶をしながら歩いていると、ウタハさんを発見した。

 

「こんにちは」

「ん? エリスか。依頼の物はまだ出来上がていないぞ」

「あれは後でも良いのですが、例のあれを作る際に出来上がったものをお借りしたくて」

「あれをか?」

「はい。出来れば二時間以内に最低限使える様に調整して頂けると……」

 

 ウタハさんはレンチを少しの間悩み、頷いてくれた。

 

「良いだろう。エリスには助けて貰っているしね」

「ありがとうございます。代金は……」

「あれの代金は要らないよ。その代わり使った感想を頼む」

「はい」

 

 今回ウタハさんから借りるのは、宇宙進出計画の際に作ったものの一つとなる。

 

 ウタハさん達エンジニア部は、今年度入部した生徒達と共にそんな計画を立て、今年度の部費だけではなく、ウタハさんの私費のほとんどを使いきってしまった。

 

 しかし、それだけの費用があっても計画は頓挫し、宇宙船の本体すら作られる事はなかった。

 

 その代わり、三つの宇宙船に積み込む予定だったものの開発は今も私のお金で続けられている。

 

 

 三つの内一つは既に完成し、今回頼んだのはまだ未完成だが、使用自体は出来るものだ。

 

 それは私が頼んでいたゼロカスタム用のスコープを、更に進化させたものなのだが、色々とまだ問題が多く、実用化まで至っていない。

 

 それと、持ち運ぶのに邪魔なのも理由としてある。

 

 それは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)と呼ばれるものであり、視線で標的をロックすることが可能となる。

 

 ただ元々宇宙用なのと、まだ試作段階なので使える倍率が少なかったり、HMD自体が大きいので携帯するのが難しかったりする。

 

 ちなみに残りの一つはゼロカスタムの追加武装として生まれ変わっている途中だったりする。

 

 絶対に使うような場面は訪れないだろうけど、ウタハさんの趣味百パーセントなのと、科学の進歩のための研究も兼ねているので、私から止めるように言うことは出来ない。

 

 通常のゼロカスタムを局地制圧武装とするならば、追加武装は決戦兵器となる。

 

 汚染の心配はないけど、地上でフルバーストしようものなら、一体どうなることやら……。

 

「しかし、これは使うとは……今度は一体何をする気なんだね?」

「ちょっと恩人のお手伝いをしようと思いまして」

「ふむ……確かアビドスの生徒だったか。ミレニアムから撃つつもりなのか?」

「はい。射程は問題ないのですが、双眼鏡程度では流石に狙うことは出来ないので」

 

 私の手を借りなくても、ゲヘナと多分トリニティからの戦力だけでどうにかなるとは思う。

 

 あのヒフミさんが動かないはずがなく、最近少し危ないとは言え、ナギサさんがヒフミさんのお願いを無下にすることはない。

 

 戦車か迫撃砲位貸し出すだろう。

 

 けれど、絶対大丈夫なんて事はあり得ない。

 

 相手はあのカイザーコーポレーションだ。

 

 幾度か依頼を受けているけれど、表向きだけでもかなりの資金があり、物資も豊富だ。

 

「なるほど……概要は理解した。出来上がるまでは休憩室で待っていてくれ。それと、もしも面白い案があればまた挙げてくれ」

 

 フッと笑ったウタハさんは部屋から去り、後は待つだけとなる。

 

 私の用意が無駄になるのが一番だけど、後はホシノさんを信じるとしよう。

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 ゲヘナの風紀委員会の援護に、ヒフミことファウストの援護射撃。

 

 そして、便利屋68の面々。

 

 先生はホシノを取り戻すに十分だと思える手を用意し、カイザーの牙城をほぼ崩し掛けた。

 

 しかし、エリスが懸念していた通り、カイザー理事はただでやられる男ではなく、エリスの懸念は当たろうとしていた……。

 

「ここまでだカイザー理事。大人しく負けを認めてもらおうか」

 

 PMCをなぎ倒し、パワードスーツを着込んだカイザー理事を倒し、そして、遂にホシノを助け出した。

 

 全て上手くいった。後はカイザー理事が負けを認め、アビドスへと帰ればまた日常が返ってくる。

 

 ――けれど、追い詰められているはずのカイザー理事は怒りを露にしているものの、そこには余裕があった。

 

「そうだな。確かに私の計画は当面どうしようもなくなるだろう。だが……」

 

 今のカイザー理事には動かせる兵士も、使える武器もこの場には残されていない。

 

 だが、カイザー理事は既に宝だと思われるものを発見し、今回失ったものはまだ替えが利く範囲の損害でしかなかった。

 

 ある夜の事だった。突如空へと立ち昇った光を発見したカイザーの兵士は、とてつもなく大きな黒い物体を発見した。

 

 それは下手な兵器や工作機械では壊す事すら叶わず、多少削った程度では自己修復する極めて珍しい物だった。

 

 中身の解析は出来ていないが、これこそが探し求めていた物(アトラハシースの箱舟)だと確信していた。

 

 

「最後の置き土産だ。精々抗うがいい」

 

 カイザーは背中から生えたジェットパックで飛び去りながら、隠し持っていた装置のボタンを押して投げ捨てた。

 

 逃げていくカイザーを撃ち落とそうとシロコとセリカは銃を構えるが、先生はそれを手で制す。

 

 既に勝敗は決し、カイザーについても先生は手を打っていた。

 

 ここで追い打ちを掛けるよりも、最後の捨てセリフについて注意をしようと考えたのだ。

 

「さっき何か飛んで行ったけど、もう大丈夫なのかしら?」

 

 カイザーも去り、カイザーの兵士と戦っていたアル達が合流し、先生へと話しかける。

 

「うん。これで終わりだよ。今日は本当に……」

 

 特に何も起こる事無く、逃げるために注意を引くための戯言だったのだと判断したその時……。

 

 地面が大きく揺れ、巨大な物体が砂漠の砂を突き抜けて現れた。

 

「な、何よ一体!」

「あれは……白い蛇?」

 

 見上げなければならない程の巨体は金属の光沢を放ち、見た目は大きな蛇だった。

 

 だが、その頭部にはヘイローがあり、先生達の方に顔を向けると共に咆哮し、その口にエネルギーを溜め始める。

 

「あー。これはちょっとまずくないかな?」

 

 少し前までは感動的な再会をしていたホシノだが、今はその頬を引き攣らせ、ついつい言葉が漏れ出る。

 

「に、逃げろー!」

 

 先生の叫び声が響き、便利屋68の面々と対策委員会は左右に分かれて走り出す。

 

 そして白い蛇の口からレーザーが放たれ、爆発を起こす。

 

 全員大きく吹き飛ばされるものの、地面が砂のため怪我はなかったが、あまりの威力に全員直ぐに起き上がる事は出来ないでいた。

 

 そしてそんな先生達を見逃すはずもなく、白い蛇は背中からミサイルを撃ち出した。

 

「シロコ! ノノミ! 弾幕を張ってミサイルを落として。アル! 顔に向けて数発お願い!」

 

 先生の指揮に従い、生徒達は直ぐに行動を起こす。

 

 カイザーが残した置き土産。それは、白い蛇が発する特殊な電波と同じ物を放つ装置だった。

 

 装置に反応した白い蛇は呼び出され、近くに居た先生達を敵と判断した。

 

 元は基地へとやってくる白い蛇を追い払うためにカイザーが開発したものだったものなのだが、もしもの時のために懐に隠し持っていたのだ。

 

 ミサイルはノノミとシロコにより着弾する前に爆発するが、アルの撃った弾は金属の皮膚に掠り傷をつける程度で終わってしまう。

 

(正攻法は駄目か……なら、関節や内部を狙って……)

 

 先生は直ぐに作戦を立て、タブレットに宿るアロナの力を借りて次の指示を飛ばそうとしたその時……。

 

 再び白い蛇の口にエネルギーが集まり出す。

 

 それは先程よりも大きなものであり、当たればただでは済まないだろう。

 

「ちょっとどうするのよ! このままじゃまずいんじゃない!」

「うへ~。これは少し覚悟を決めるしかないかな」

 

 セリカは焦り、ホシノは盾を持って走り出す。

 

 ビームが放たれれば、どれだけの犠牲が出るか分からない。

 

 そして時間さえ稼げれば、先生ならなんとかしてくれるだろうという期待。

 

「おじさんが受け止めるから、その間に作戦をお願いね」

「ホシノ! クッ! ノノミ以外は蛇の口へと撃って! ノノミはミサイルをお願い!」

 

 時間にすれば一秒すらも無い葛藤。

 

 先生は、一撃だけならばホシノが耐えられると結論を出した。

 

 だが、それは命が無事なだけであり、無傷とはいかない。

 

 だからホシノを犠牲にしないために賭けに出た。

 

 撃たれる前に破壊。あるいは爆発させることが出来れば、ホシノの覚悟を無駄に終わらせることが出来る。

 

 そしてホシノを助けるために、全員が銃を撃つが……。

 

 確かにダメージを蓄積させられているが、今のままでは間に合わない。

 

 そんな予感が先生の脳裏をよぎる。

 

(どうする……迫撃砲の一撃でもあれば……)

 

 たとえ間に合わなくても、最終的には勝てるだろう。

 

 けれどそれは、ホシノの犠牲によって得られた結果だ。

 

 今までの頑張りを無駄にするようなものだ。

 

 今に至るまで、先生打てる手を打ってきた…………一つを除いて。

 

(エリスが居れば……)

 

 当初、先生はエリスもホシノの奪還作戦に誘うつもりだった。

 

 しかし、これ以上エリスの力を借りるわけにはいかないとセリカやシロコが否定し、ホシノの手紙にも出来れば巻き込まないでと書かれていた。

 

 その結果が今だ。

 

『こ、これは! 先生! 空を!』

 

 もう出来ることはない。そう歯を噛み締める先生の耳に焦ったアロナの声が届く。

 

 言われた通り白い蛇から目を離さない様にしながら空を見ると、昼間だと言うのに一つの星が光っていた。

 

 そしてその星は瞬く間に大きくなり――白い蛇を貫いた。

 

 口に集まっていたエネルギーは四散し、砂漠へとその巨体が崩れ落ちる。

 

「……へ?」

 

 あまりの出来事にホシノの口から声が漏れ、直ぐに何が起きたかを理解し、誰が何をしたのか思い至った。

 

「今のは……」

「エリスちゃん……ですかね?」

 

 困惑しながらシロコやノノミが辺りを見回すが、当のエリスは見つからず、アロナも付近には反応がないと先生に返事をする。

 

「さ、流石ね」

「アルちゃんどうしたの?」

 

 いつと以上には謙虚不動なアルに、ムツキが話しかける。

 

 偶然だが、アルはどこから星……ではなくビームが飛んできたのか、見ていた。

 

 無論エリス本人が見えたわけではないが、あんなことを出来るのはエリスだけだろうとここに居る全員は思っている。

 

(何度か見たけど、どれだけ凄いのよ! よく当てられたわね……痺れるわ!)

 

 狙撃とはスナイパーの華であり、距離や精度が凄ければ凄い程見惚れるのだ。

 

「よし、撤収するわよ! もう私達の出番もないわ」

「りょうかーい」

「了解」

「はい! アル様!」

 

 先生がシロコやホシノ達と話している間にアル達は颯爽と立ち去り、先生へとメールを一通送った。

 

 これからも便利屋68を宜しくお願いします……と。

 

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