書けそうでしたら、次は時計じかけの花のパヴァーヌ編一章となります。
ミレニアムのセミナーが活動している最も高いビルの屋上。
そこから更に空へと飛び、私は騒動の結果を見ていた。
「案の定でしたか」
殺傷能力をオンにしたゼロカスタムの大体八十パーセントの一撃。
HMDの照準補正もあり、白い鉄の蛇の頭を正確に撃ち抜いた。
白い蛇……私はあれを知っている。
いや、私だけではなく、俺も私もだ。
名前……名前……預言者?
全部を思い出せないが、似たのが他にも居ることだけは思い出せた。
ゼロカスタムを翼へと収納し、ゆっくりと空から降りていく。
「おかえり。流石という言葉しか出ないが、お望みの結果になったかな?」
「はい。出来れば見ているだけにしておきたかったのですが、結果としては満足しています」
「そうか。それの感想は?」
ウタハさんにHMDを返し、先程のことを思い返す。
実は、あの白い蛇が現れた段階で撃ち抜く予定だったのだけど、問題が起きたせいでギリギリになってしまったのだ。
「ロックオンまでに時間が掛かり過ぎましたね。距離が距離なので仕方ないのでしょうが、少し焦りそうになりました」
「こればかりは仕方ない。今データを確認したが、よくこれだけの距離で精密射撃が出来たね」
問題とは、狙いを定めるのにかなりの時間が掛かったのだ。
あの蛇が動いていたのもあるけど、距離としてはおよそ三十キロ。
指先の振動によるズレだけでも弾はあらぬ方向へと外れてしまう距離だ。
装甲の強度や距離による減衰などの心配があったので、八十パーセントで撃ったけど、なんとかなって本当に良かった。
俺によれば、どうやらあれは無人らしく、私が与えたダメージでは再生してしまうらしいけど、今はこれで良いみたいだ。
「日々の訓練の賜物かと思います。後の事はお願いしても良いでしょうか?」
「ああ。片付けとセミナーへの言い訳は私に任せたまえ。良いデータも手に入ったからね」
「ありがとうございます。それでは先に失礼します」
どれだけの人が見ていたか分からないけど、私の撃った弾……と言うよりはビームだけど、当てるために結構大きいものを撃った。
そんなヤバいものをミレニアムの自治区。それも学校から撃ったので、問題になる可能性が高い。
なので、後処理をウタハさんにお願いし、私は空を飛んでトリニティへと逃げ…………帰る。
それにしても、ウタハさんは凄い人だな。
確かにゼロカスタムならば、空気抵抗や風の流れなどをほとんどを無視できるとはいえ、この距離を当てられるだけのプログラムを組んだのだから。
私自身もそれなりに頑張って構えて撃ったつもりだけど、ウタハさんの協力がなければ無理だったと言える。
それと……。
「少し寒いですね……」
射角の関係でどうしても高高度を飛ぶ必要があり、それなりの時間飛んでいたので、身体が冷えてしまっている。
風邪を引かないといいけど、今日は暖かくして寝よう。
1
アビドス最大の危機から数日後。
案の定風邪で寝込んだエリスを余所に、あちこちの自治区で様々な動きが起きていた。
まずはアビドスだが、借金自体は無くならないものの、驚異だったカイザー理事と黒服からの干渉が無くなり、少しだけ平和になった。
だが、シャーレの先生から貰った物資は使い切り、再び補給を依頼するのも憚れるため、これまでよりも一層賞金稼ぎやアルバイトにせいを出す日々を送り始めた。
そして、カイザー理事との決戦の後に現れた白い蛇。
ビナーと名付けられた、未知の機械との決戦時に飛んできたビーム。
その場に居た全員がエリスの援護射撃だと理解しており、そのお礼をどうするかと悩んでいたりする。
だが、お礼のメールを送った際、エリスは風邪で寝込んでおり、適当にモモトークを返していた。
当初の予定では、バレバレの援護とはいえ、エリスはシラを切る気でいた。
だが、朦朧としていた頭ではそんな事は出来ず、無難に「気にしないで下さい」と返したのだ。
その後、風邪が治ったエリスは自分のやらかしたと少しだけ頭を抱えたとか。
また、これを機にアビドスの生徒は全員シャーレの部員になったとか。
続いてホシノ救出作戦の際に部員を引き連れて参戦したゲヘナだが、部員達に大きな怪我はなく、出費も経費の範囲で収まっていた。
だが風紀委員として大きく動いた結果、万魔殿に目をつけられ、ヒナの仕事が更に増える事態となった。
その結果、エデン条約も迫ってきている中で、万魔殿が完全なフリーとなる。
万魔殿の長であるマコトも流石に馬鹿なことをしないだろうとヒナは思っているが、これが裏目に出るかどうかは神のみぞ知る。
また、エリスの超長距離射撃は全員目撃しており、部員の内数人が急に叫んだり項垂れたりと不調を露にしたが、報告書にも書かれない些細なことである。
ゲヘナの風紀委員は、エリスに様々な意味でお世話になった部員が多いのだ。
そしてミレニアムはだが、一番の被害を被ったのはユウカだ。
他の自治区や企業からの問い合わせだけではなく、生徒達からの問い合わせも相次ぎ、てんてこ舞いとなった。
本来なら会長が対応しなければならないのだが、当の会長は不在であり、泣く泣くユウカが対応した。
一応関係者であるウタハからはしっかりと報告を受けていたため、対応自体は問題なく出来たが、エリスへのヘイトは高まりに高まる事となる。
そんなデスマーチをユウカがしている中、ウタハは収集したデータを元に。HMDの改良に乗り出していた。
今回エリスが使用したのは宇宙での使用も視野にいれたものであり、大型化を避けることが出来なかった。
また、拡大の倍率についても今回程のものを求められる事はまずなく、エリスの特異性を含めても十キロ先が見える程度に抑えれば小型化も可能となる。
研究費がエリスから出ていることもあり、ウタハの暴走……研究は止まらない。
そしてトリニティについてだが、他の学校とは違い、表立ってはいつもと変わらないでいる。
外からは見えないだけで、内では様々な争いが行われているが、それもトリニティの日常だろう。
「エリスちゃん大丈夫ですか?」
「はい。少し体調を崩しただけですので。買い物を頼んですみませんでした」
そんなトリニティで揃ってアビドスの問題に首を突っ込んだ件の二人だが、エリスは風邪で寝込み、ヒフミはその看病にやってきていた。
「そう言えば少し前ですが、流れ星が降ってきたのを見ましたか?」
「いえ。見ての通り寝込んでいるので、知りませんね」
「あはは。なんでも砂漠の方に落ちたとかで、今も話題になってたりするんですよ」
ヒフミはエリスへとスマホの画面を見せるが、話題を出された時点で自分のゼロカスタムの事だろうと察していた。
また風邪をひいた時は額にタオルを乗せ、仰向けで寝るのが良いのだが、エリスは諸事情で仰向けになれないため、冷えピタを貼って横になっている。
「落ちたのが砂漠で良かったですね」
「確かに街に落ちてたら、大きな被害が出てしまいますもんね」
二人揃って緩い雰囲気を出しているが、トリニティの中でも問題児側の生徒である。
また今度モモフレンズのライブに行こうねーなんて平和な会話をしているなか、トリニティのトップであるナギサは苦い顔をしながら書類を睨んでいた。
その書類は、ヒフミに関してのものだった。
疑心暗鬼に陥り始めているナギサは、手始めに身近な人間の調査を行った。
その結果――ヒフミが何やら悪いことをしている可能性が浮上したのだ。
ナギサにとってヒフミは信頼できる友人で会った。
品行方正であり、少しおっちょこちょいだが、それでも元気がある良い子。
しかし、報告書の通りならば、裏で一体何をしているか分からない不穏分子にしか見えない。
ヒフミが嘘を吐いているのか、それとも報告書が嘘なのか…………それを正確に判断出来る程の余裕はナギサには無い。
そして、もしも報告書通りならば、セイアの件に噛んでいる可能性は否定できない……。
ナギサが託されたエデン条約の締結まで、残された時間はあまり多くない。
「そう言えば、先生でしたか……」
持っていた報告書をテーブルへと戻し、紅茶を味わいながら飲む。
「試してみる価値はありますが……」
決して推奨されない方法を思いついたナギサだが、ナギサには一手だけ今も尚使える手が残っている。
だが、その一手は結果次第ではトリニティの破滅を招くものであるが、上手く使う事が出来ればナギサの正しさを証明する一手にもなりえる。
「トリニティの調停者――あなたならばきっと……」
――トリニティを救う事が出来る――
2
各学校で多かれ少なかれ動きがある中、キヴォトスの命運を握っている先生だが……。
「お、終わらない……」
アビドスへと出張していた間に溜まった書類を片付けていた。
「頑張らないと終わらないよ~」
今日のシャーレの当番はホシノであり、迷惑を掛けたこともあって真面目に手伝いをしている。
アビドス関係で東奔西走していたため、書類仕事が山となっていた。
また、小さい応援依頼も沢山来ており、簡単なものは他の部員にお願いしたりしている。
まだ栄養ドリンクではなく、コーヒーで耐えているので問題はないが、一日二日頑張った程度では終わらないだろう。
「……ねえホシノ」
「どうしたの先生?」
ふと手を止めた先生は、ホシノへと話し掛ける。
「あの時だけど……」
「エリスちゃんだったよ」
やれやれといった感情を込めて、その名前を口にする。
ホシノは本心からエリスを巻き込む気はなかったし、それはシロコ達も同じだった。
だが、どこから情報を手に入れたのか分からないが、最大のピンチを絶妙なタイミングで救ってくれた。
もしも助けがなかったとしても、ホシノが大怪我をするものの勝ちは出来ただろう。
けれどそれはホシノが選んだ自身の犠牲の上での結果を受け入れるものであり、いつの日か同じ過ちを選ばせることになる。
「後でお礼をしないとだね」
「そうだね。いつも助けて貰ってばかりだしね~」
『あの、先生。少し報告が……』
先生とホシノが少しだらけ始めたタイミングで、先生の持つ特殊なタブレットであるシッテムの箱のOSであるアロナが先生に声を掛けた。
呼ばれた先生はシッテムの箱を取り出して画面を見ると、そこには驚きの情報が表示されていた。
『あの時の砲撃ですが、確認したところミレニアムサイエンススクールの上空から撃たれたものだと確認出来ました』
「これはまた…………凄いね」
アロナが拾ってきたデータは、HMDのデータだった。
無論ハッキングして無断で手に入れたものだが、それによるとエリスが撃ったゼロカスタムの距離は約三十キロだった。
これは戦艦の主砲と同程度であり、個人が携帯している銃で出して良い射程ではない。
残念ながらエリスが撃った瞬間の姿は残っていないが、その姿は神々しいものだったろう。
そんな姿を想像した先生は、少し胸がときめいた。
男として、ロマンには心が好かれるのだ。
「エリスとは仲が良いの?」
「それなりにね。屋上の防衛装置について少し話したでしょ? あんな感じで、色々とお世話になってね。この前も夕飯を作りに来てくれたりもしたんだよ」
「良い子なんだね」
「……ウン、ソウダネ」
先生の言葉に、ホシノはそっと目を逸らす。
エリスは確かに良い子なのだが、それ以上に騒動を起こしている。
無論ホシノもその騒動には巻き込まれたことがあり、簡単な賞金稼ぎのはずが、いつの間にか中堅とはいえ企業に殴り込むことになり、弾すら切れて盾で殴りながら戦うなんて事もあった。
最終的にその企業は違法な銃を販売していたため、ご用改めととなったが、エリスとホシノは迷惑料として結構な金額を持ち帰った。
確かに収支は大幅にプラスだったが、それ以上に疲れたため、ホシノはエリスと仕事をするのだけは苦手としている。
「おっと」
再び仕事を始めようとした先生だが、一枚の手紙を落としてしまい、ゆっくりと拾う。
「どうしたの先生?」
手紙を読んだ先生は少しだけ困った様な素振りをし、気になったホシノが話し掛けた。
「また少し出掛けることになりそうでね」
「それは良いけど、せめてそれはちゃんと終わらせてね」
「…………うん」
先生でなくても問題ないのもあるが、大半は先生が処理しなければならない仕事のため、それだけはどうにかしてとホシノは持っているペンで書類の山を指す。
「それで、今度はどこに?」
「それは……」
「ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部だよ」
砂漠に舞い降りた天使を太陽が救った。
堕ち逝く太陽を天使が救った。
誰もが皆、本来より少しだけ救われた。
そんな