第47話:プロローグ.壊れかけた時計のエテルネル
体調も治り、休んだ分の出席日数を取り返し、アズサさんを監視すること数日。
アズサさんはこれと言って問題行動を起こしはしないものの、同じ時間にどこかに連絡を取っていた。
それが少し気になるものの、それ以外に怪しい行動はなく、授業も真面目に受けたいるように見えた。
そう言えば、もう少しでテストがあるんだったかな?
トリニティではテストを受ける際に、上の学年を受けることが出来て、それで合格点を出すと、授業の一部が免除になったりする。
私の場合そこまで恩賜はないけど、二年生のテストを受ける予定でいる。
ありがたいことに私の頭は物覚えもよく、時々俺や私が出てくるので、二年生程度のテストならば余裕と予想している。
仮に赤点を取ったとしても、ナギサさんがなんとかしてくれるだろうし。
「さてと、今日も出掛けますか」
いつも通り、時間をかけて朝の準備を終えて家を出る。
今日向かうのはトリニティではなく、ミレニアムである。
ゼロカスタムの件をウタハさんに丸投げし、そのウタハさんはユウカさんに丸投げした。
その結果ユウカさんは只でさえ多忙なのに、更に忙しくなり、とうとうキレた。
それから少々あった後、ウタハさん経由で私に依頼兼お願いが届いたのだ。
ユウカさんを労うついでに、少し手伝って欲しいと。
現在ミレニアムのセミナーには会長を除いて三人所属しているものの、実質的な戦力は二人だけ。
そしてミレニアム全体の指揮を取る羽目になっているのが、会計であるユウカさんである。
外に内にと忙しく、その負担の一部を減らすだけでも大きな助けになるだろうとの事だ。
特に今はミレニアムプライスが迫っていることもあり、猫の手も借りたいらしい。
そんなわけで、手作りロールケーキを持ってミレニアムに向かっている。
シマエナガと共に空を飛んで…………いたら途中で撃ち落とされました。
1
「随分と気を抜かれていたようで、つい害鳥かと思い撃ってしまいました」
「用があるのでしたら、モモトークで……」
「なにか?」
私を撃ち落とした…………正確には撃たれたのを避けたので落とされてはいないけど、撃ったのはワカモさんだった。
仮面を着けているので表情は見えないものの、口調から機嫌が悪いのが分かる。
「こほん……それで、どうかしたのでしょうか?」
「最近先生の周りに小蝿が多いようですが?」
「それを私に言われましても……」
先生の役目的に、周りに人が集まるのは仕方のないことだ。
広大なキヴォトスを東奔西走しながら、シャーレに届く書類を処理しなければならない。
「全てを排除しろとは言いませんが、有象無象を許せるほど、このワカモの懐は広くはありません」
「あの……御自身で訪ねて……」
あっはい。無理ですよね。あっ銃を向けないでください。今は壊れ物を持っているので、戦うのはちょっと……。
「こほん。それではお願いいたしますね。それと、先生の近況報告をお忘れなきように。それでは」
突如現れたワカモさんは突如いなくなる。
どう考えてもモモトークで十分な気がするけど…………寂しかったりするのだろうか?
…………ワカモさんに限ってはないか。
俺も微妙そうな感じだし。
少しだけ時間を食ったけど、早く向かうとしよう。
再び空へと飛び上がり、ミレニアムを目指す。
翼で空を飛ぶ関係で、最高速度はともかく、初速はどうしても遅くなってしまう。
空を飛んでいる状態ならゼロカスタムを撃って推力を得れば良いけど、地上からではそうもいかない。
一度の失速で、数十分の遅れとなってしまう。
時間を指定している訳ではないけど、だからと言って遅くなって良い理由はないので、頑張って空を飛ぶ。
因にあまり知られていないことだけど、ミレニアムサイエンススクールには防空システムが存在している。
鳥や気球程度の速度ならば問題ないけど、速度を上げすぎるとこれに引っ掛かってしまう。
私は過去に何度か防空システムに引っ掛かり、ユウカさんにお叱りを受けてたりする。
なので、ミレニアムサイエンススクールが見えてきたところで速度を下げて、低空飛行へと移行する。
そして広場へと着地しようとしたタイミングで…………何故かゲーム機が飛んできた。
銃弾程ではないものの、かなりの速度であり、タイミングが悪く避ける事も出来ない。
エピオンで撃ち落としても良いけど、あまり物を壊すような事はしたくない。
「あら」
なんて考えている内にゲーム機は頭に直撃し、軌道を変えて落ちていく。
「あいたぁ!?」
ゲーム機は二次被害を齎したらしく、聞き覚えのある声が耳に届いた。
私に当たった事で威力は落ちているし、ヘイローのないあの人でも大丈夫だろう。
助けて上げたい気持ちはあるけど、これ以上は遅れたくないので、一人で頑張ってもらおう。
大人だし、大丈夫でしょう。
2
「お久しぶりです。ユウカさん」
「本当に来たのね……」
会って早々、ユウカさんの態度は酷いものだった。
それも仕方のない事であり、疲れからきているものだと分かっているので、言い返したりはしない。
「一応仕事の一環ですので。宜しければこちらをどうぞ。甘いロールケーキになります」
「ありがとう。こんな気遣いが出来る生徒がミレニアムにも居れば良いのに……」
「ミレニアムには、やりたいことを全力で楽しむ生徒が多いですからね」
ウタハさんを始め、ミレニアムでは部活よりも大きい枠組みでの繋がりはあまりない。
興味があるのは、自分達の目標や趣味。それから予算だけだ。
ユウカさんの事なので、直ぐに仕事を始めるかと思いきや、休憩と説明の時間も兼ねてお茶をする事となった。
トリニティでは基本的に紅茶やコーヒーは人が淹れるのが基本だけど、ミレニアムでは機械任せとなる。
「そう言えば、ノアさんとコユキさんはどうしたのですか?」
椅子に座り周りを見渡すが、大抵居るはずのノアさんの姿は見えず、今年から入った……入れられた……監視されているコユキさんの姿が見えない。
「ノアは風邪よ。あまりにも忙しかったから、こればかりはどうしようもないわ。コユキはいつもの場所よ」
コーヒーと、私が持ってきたロールケーキを持ってきたユウカさんが座りながら答える。
なるほど。それでどうしようもなくなったから私に声が掛かったのか……。
普通なら一部とはいえ、生徒会の仕事を他校生に任せるなんて事はしないだろうし。
「やって貰いたいのは、各部活から上がってきた経費の処理と、その整合性の確認。それから、私の補佐よ。期間はとりあえず三日間で、後は様子見でだけど良いかしら?」
「はい。問題ありません」
「それから、ミレニアムで活動する間はこの服を着てちょうだい。更衣室はそこよ」
袋を渡され、中を見るとミレニアムの制服が入っていた。
それも、私用にカスタマイズされ、背中がバッサリと開いている。
………………こんな時、どんな顔をすれば良いのか、私には分からない。
ウタハさんから話しが来て、決まるまでに掛かった時間はたったの三日だけであり、これだけの服を短期間で用意するのは難しいと思う。
つまり、ユウカさんはもっと前からこの制服を用意していたことになる。
どうしてなんて聞くのも野暮であり、個人的には聞かないでおきたい。
「分かりました」
「今日は午前中に書類を済ませて、午後は部活をいくつか回る予定だから、よろしくね…………このロールケーキ美味しわね」
「ありがとうございます。それでは着替えて来ますね」
きょとんとするユウカさんに微笑んでから席を立ち、更衣室に入る。
制服の上着は白を基調とし、青色のラインが入ったモノであり、スカートは紺色となっている。
背中の翼の部分はなにやら電子音と共に布っぽいモノが形成され、鏡を見ると肌はほとんど隠されてきた。
流石ミレニアム……服も最先端だな……。
「お待たせしました」
「…………似合ってるわね」
物凄い小声でユウカさんが呟いたけど、私の耳にはしっかりと届いた。
やはりユウカさんの趣味だったのか……。
でも、トリニティのお高い改造制服と同じくらい通気性に優れ、翼と服の擦れる感覚はほとんどない。
更に服の内側にはハンドガンであるエピオンを収納する場所もあり、ついでに弾倉も二つまで持ち運ぶことが出来る。
…………これ、結構高いような……。
「それじゃあ始めるわよ。見ての通り、問題ない書類はそっちの箱で、計算間違いならこっち。不自然なものはそれで、問題ないのは纏まり次第私の机の上に置いて」
「はい」
勿論だけど、部屋に入ったタイミングでゼロカスタムは翼から取り外し、ガンラックの上に置いてあるので、椅子やソファーに座っても問題ない。
それじゃあ、頑張って書類を片付けるとしよう。
…………あっ、そう言えば先生をミレニアムで見たことを、ユウカさんに伝え忘れていたけど…………別に良いか。
今の様子を見るに、ユウカさんが呼んだわけでもなさそうだし。
3
「ふぅ……なんとか午前中でキリが着いたわね」
「はい。お力になれたようで良かったです」
「本当に助かったわ。時間は…………昼間で少し時間があるし、先に面倒な一件を片付けようかしら」
グイっと背を伸ばしたユウカさんは時計を見てから呟く。
「面倒ですか?」
「ええ。少し面倒な部活……規約的には部活じゃないけど、廃部を伝えに行くのよ……まあ、既に書類は送ってあるんだけどね」
面倒とは言うものの、ユウカさんの表情には辛そうな影が見える。
なにかしら訳ありのようだけど…………あっ、先生がミレニアムに来てたのは、もしかしてこの関係かな?。
「なんて名前なのですか?」
「ゲーム開発部よ。人も足りなければ、実績もないね」
「なるほど。武器は有った方が良いでしょうか?」
「……それを置いていかれても、困るんだけど」
ゼロカスタムを指差しながら尋ねると、ジト目で返される。
そうは言われても、武力が必要ない場面でゼロカスタムを持って行くと、その事で衝突したことがこれまで何度もあったのだ。
確認は必要なのだ。
とりあえずゼロカスタムを翼へとセットし、部屋から出る。
ミレニアムの制服でミレニアムを歩くのは、少しだけ不思議な感じがする。
「そこ! 指定場所以外での販売は禁止よ!」
「げぇ! ユウカだ! 逃げろ!」
「畜生! 後少しで全部売れたのに……」
「あなた達、新素材開発部ね。後で売上の報告をしなさい。しなかったら、予算から減額するからね!」
「わっ、分かってるよ……」
部室棟へと向かう途中、違法販売をしている生徒を見つけたユウカさんは、即座に止めるように声をかける。
ミレニアムは様々なものを作り、そして販売しているものの、その財政は決して良いものではない。
その理由は、趣味と爆発である。
ミレニアムはよく爆発が起こり、爆発が起こればその修理費が発生する。
そして、爆発をした開発品の材料費も一緒に無くなる。
売り上げや予算を湯水の様に使うため、いくらお金があっても足りないらしい。
私がお世話になっているエンジニア部も、新学期が始まって早々に予算をほとんど食い潰していたし。
「まったく……今度こそ行くわよ。早くしないと、お昼に遅れちゃうわ」
「そうですね。お腹が空いてはなんとやらと言いますし、ゲーム開発部に早く行きましょう」
実のところ、ユウカさんからゲーム開発部の名前を出された時に、俺と私が反応していた。
俺の方はただ寂しそうな感じで、私の方は明確な敵意を持っていた。
ミカさんの時もだけど、どちらも大きな反応なため、きっと昔に関わりがあったのだろう。
少しだけ、楽しみだったりする。