「……」
ゲーム開発室の部室であるドアを開けようとしたユウカさんが、ドアに手を掛けた態勢で固まる。
耳を澄ますと中から微かなに話声が聞こえてきた。
話を聞いているユウカさんはドアに掛けた手に力を込め、ゆっくりとドアを開ける。
「それに関しては、私からご説明しましょうか?」
中には二人の生徒と先生が居て、なにやら見覚えのあるゲーム機が置いてあった。
かなり散らかっているけど、ミレニアムの大抵の部室はこんなものなので、ある意味これが普通なのかもしれない。
「出たな、生徒会四天王の…………えっ、誰?」
「うわ、すっごい大きな翼。えっ、転入生?」
ユウカさんと並んで入ったせいか、赤いヘイローの……確か資料によればモモイさんかな?
モモイさんの勢いは削がれ、ついでに緑のミドリさんがとても驚いた表情をする。
ふーむ。何かしら反応すると思ったけど、思ってたよりも私と俺が静かだな。
どうしてだろうか?
「この子の事は気にしないで。それよりも……先生」
「やあ、ユウカ。それからエリス」
「……先生とは色々と話したい事もありますが、それは後にして……モモイ」
「な、なんでしょう?」
「ゲーム開発部の廃部は決まった事なのよ。シャーレを巻き込んだとしても、これはもう誰も覆せない」
「そ、そんな事はない!」
たじたじになり、モモイさんは後ずさるものの、その顔から闘志は消えてなく、ユウカさんに反論する。
先程までミレニアムの予算を見ていた私としては、削減できる所は削減しなければならないと思う。
私や企業からの多額の支払いがあったとしても、それを上回る支出があるのは見ていれば分かる。
ユウカさんも出来れば廃部にしたくないのは、ここに来るまでの表情を見れば分かる。
けれど、公と私は別にしなければならず、何とかして欲しいからこの様に足を運んでいるのでしょう。
「言ったでしょ、部員が規定人数に達するか、ミレニアムの部活として見合う成果を出せれば……」
「それが出来ていないから、今私が此処に居るのよ。言ってから、もう何ヶ月経っているんだか……」
この通り、ユウカさんはとても甘い。
今この場に先生が居る事にも、実は内心で安堵していたりするのかもしれない。
「結果も出せず、部員も定員に達していない今、廃部になっても何も意義はないはずだけど?」
「異議あり! 凄くあり! 私達だって全力で部活動をしている!」
……そう言えば、もう一人部員が居たはずだけど、姿が…………うん?
ロッカーの所にヘイローが浮かんでいるのが見える。
確か部長な筈だけど…………気にしても仕方ないか。
それにしても、本当に沢山ゲーム機やゲームが置いてあるな。
あまりそうこういったもので遊んでこなかったけど、いくつかはアビドスで遊んだ事があるボードゲーム見えた。
気になりはするけど「分かった、じゃあそこまで待ちましょう」……あっ、いつの間にか話が終わりそうになってる。
「今日からミレニアムプライスまでの二週間……この短い時間でどんな結果が出せるのか、楽しみにしているわ。それじゃあエリス行くわよ」
「はい」
「先生も、次は落ち着いた状況でお会いしましょう。それではまた」
ユウカさんが出てから、私も一礼してから部室を出る。
無言のまま少し歩き、ゲーム開発部のドアが見えなくなったところでユウカさんは溜息を零す。
「はぁ、まさか先生が居るだなんて……」
「落ち込まないで下さい。それよりも時間が時間ですし、お昼でも食べて落ち着きましょう」
「……そうね」
落ち込むユウカさんを励まし、食堂へと向かう。
食堂に向かう間もやらかしている生徒を多く見かけ、その度にユウカさんは注意をし、二度だけ銃撃戦に発展した。
トリニティとは違い、悪い雰囲気は無いものの、本当に大変そうだ。
ノアさんが倒れるのも仕方ないかなぁ……。
「やっとお昼ね。私が奢るから、好きなのを頼んで大丈夫よ」
「ありがとうございます。それでは……」
折角のご厚意なので、四人前の定食を頼み空腹と疲れを癒し、最後にデザートのプリンも食べる。
食の豊富さではミレニアムが一番だけど、味の面では、トリニティが一番に感じる。
ゲヘナは…………腕だけは良いので、学園側に頑張っていただきたい。
「……ちょっと依頼とは別にお願いがあるんだけど」
「はい?」
食後のティータイムをセミナーの部屋でしていると、ユウカさんがスマホを見てから神妙な顔をする。
「ちよっと隠れてモ……先生達の様子を見てきてくれない? 大丈夫だとは思うけど、先生の身に何かあると困るから」
モが何を指すのかは置いといて、護衛らしい護衛もないなか、先生を放置するのは危険かもしれない。
個人的にはどうなっても良いけど、もしもミレニアムに居る間に先生に危険が迫れば、他の自治区から何を言われるかも分からない。
一応ミレニアムにもC&Cと呼ばれるエージェント集団があるけれど、今回は動かすには動機が弱すぎる。
先生の実績がもっとあれば良いけれど、まだまだ新人の粋だ。
断っても良いけど、見守るのもありなので、今回は受けておこう。
ユウカさんに恩も売れるし。
「承知しました。しかし、仕事の方は大丈夫なのですか?」
「今日の分は問題ないわね。エリスがミレニアムに居るって広まったおかげで、問題を起こす部活は少なくなってるし」
そう言えば食堂に着くまではいつも通り騒がしいミレニアムだったのに、戻ってくる時はほとんど爆発や違法行為をしている生徒を見掛けなかった。
私自身に逮捕権は無いし、依頼以外では倒す気もないので、そこまで抑止力があるのだろうか?
「そうですか……それでは行ってきます。なにかありましたら連絡しますね」
「お願いね。問題が起きたら私の名前を使って良いから……あと、その服は着ておくようにね」
もしもの事を考えればいつもの服の方が良いけど、ユウカさんの名前を出すことを考えればミレニアムの制服の方が都合が良い。
正直嫌だけど、依頼なので仕方ない。
「それでは失礼します」
単眼鏡を元の服から取り出し、部室を出る。
アズサさんの観察で磨かれた、ストーキングスキルを試すとしよう。
1
ユウカとエリスが居なくなったゲーム開発部ては、モモイとミドリが大きくため息を吐いてから、やる気に満ちた視線を先生へと送る。
「驚いたねー。ミレニアムにあんな子が居るなんて思わなかったよ」
「うん。モデルとかお願い出来ないかな?」
「それは少し難しいかな……」
先生はエリスが実際はトリニティの生徒である事を教えた。
ついでに屈指の武闘派であり、ゲヘナの委員長と何故か仲が良い事と、傭兵をやっていることを。
話を聞いたミドリは直ぐにスマホで調べるが、そこには驚きの情報が広がっていた。
「災禍の天使。死を告げる天使。死神エリス……えっなにこれ?」
「うわ! どう見ても危険人物じゃん!」
単騎で企業に喧嘩を売り、七囚人とやり合い、ゲヘナに喧嘩を売る。
SNSやネットに書かれていることはどれもこれも過激であり、実際に会った印象とはかけ離れていた。
おまけに先日ミレニアムで発生した超大型のエネルギー砲と思われるものの容疑がかけられており、推定では都市を吹き飛ばす威力があると見られている。
「なんでこんな人がユウカと一緒に居るんだろ?」
「分からないけど、ユウカは大丈夫なのかな?」
「大丈夫だよ。エリスは悪い子じゃないからね」
当然の疑問をモモイが口に出すが、知る者はこの場には誰もいない。
そして、エリスの事も気にはなるが、それ以上にモモイ達にはしなければいけないことがある。
「そうなんだ。色々と気になるけど…………先生――G.Bibleって知っている?」
2
気付けばモモイとミドリ。そして先生はミレニアムの出入り禁止区域である廃墟の中に居た。
廃墟の中にはロボット達が徘徊しており、その手には銃が握られている。
見るからに危険な存在であり、モモイ達は見つからないようにしながら、ロボット達の動きを窺う。
見付かれば戦えるのはモモイとミドリの二人だけであり、逃げる以外の選択肢は無い。
まるでこそ泥の様に進む三人だが、ふとミドリは辺りを見渡す。
「ねえお姉ちゃん」
「どうしたの?」
「何かぶつかるような音が聞こえない?」
聞かれたモモイは首をかしげてから先生を見る。
先生は首を横に振り、それにモモイは同調する。
「ロボットが狂って壁にぶつかった音じゃない? 気にするような音は聞こえてないけど」
「うーん。気のせいなのかな?」
「それより、早く進まないと。G.Bibleが私達を待っている!」
小声で大声を出すなんて器用な真似をするモモイだが、三人が気付かないだけで、この廃墟には
その
最低限先生達が危険に陥らないように破壊活動をしているが、数十体を壊しても尚気付かれていない。
これはエリスが幸運に見舞われたのもあるが、ウタハの協力があったおかげでもある。
「今の所問題はありませんね」
『頭部で通信を行うのは人型なら当然の事だからね。先に頭部さえ破壊してしまえば、増援の心配はない』
エリスは先生達の後を追う前にウタハへ会いに行き、念のためにと通信機器を借り受けたのだ。
何故態々ウタハに会いに行ったかだが、とある人物がウタハへとお願いし、そのお願いをエリスが聞き受けたからである。
「モモイさん達の方は大丈夫ですか?」
『情報提供者曰く問題無いそうだ。信頼性は低いけどね』
エリスは苦笑いを浮かべ、一度隠れてから見回りのロボットを再び破壊する。
モモイ達がなんの情報源も無くこんな廃墟に来る事は不可能であり、モモイ達のバックにもとある部活が付いている。
それがなんの保険にもならないのだが、それはそれとしてエリスは一人で重労働に勤しむ。
立場上此処にエリスが居る事を知られるのはあまり良い事ではなく、モモイ達はシャーレの活動と捉えられるが、エリスは完全に無断である。
罪に問う人物が居ないとはいえ、後ろめたい事には変わらない。
『おっと、どうやらモモイ達がへまをやらかしたみたいだ』
「……結構頑張っていると思うのですが、多いですね……」
ウタハの通信を皮切りに、廃墟のあちこちから機械音が響き、銃声が鳴り響き始める。
エリスは結構倒したはずなのにと愚痴を零すが、先生達を見捨てることも出来ないので、音のする方へと走り出し、廃墟の通路には部隊どころか軍団と呼べる程のロボットが犇めいていた。
エリスはロボット達が視界に入って直ぐに建物の壁際に隠れたので気付かれずに済んだが、このロボット達を相手にする場合、ステルスなんて言っていられないだろう。
『……通信状況が悪いな。先生達の位置は完全に分からなくなってしまったが、エリスの方はどうなっている?』
「大量のロボット達が同じ方向に進んでいますね。先生達の姿は見えませんが、銃声は聞こえています」
エリスとウタハが通信を行っている頃、先生達は必死に逃げ回り、隠れられる場所を探していた。
そして隠れるに良さそうな工場を見つけ転がり込み、進んだ先にあった扉の前で機械の音声が響き、落とし穴へと落ちていった。
『……判断は任せるが、どうか無事に帰ってくるように』
「勿論です。ロボット程度の銃では、汚れる程度ですから問題ありません」
先生がモモイ達の尻に引かれていた頃、エリスはロボットを殲滅する事に決め、廃墟の屋上へと飛び立つ。
今回
ただ先生が外にいた場合、誰が何をしたのか気付かれてしまうが、先生達は工場の中のため問題無い。
「さて、お掃除といきましょう」
エピオンをホルダーにしまい、翼からゼロカスタムを受け取ったエリスは制限を外し、屋上から飛び立ちながらチャージを始める。
ゼロカスタムの銃弾となるのは神秘なのだが、広域で言えばビームを弾として発射している。
つまり、弾としてではなくビーム兵器としても使うことが出来る。
扱いを間違えば広域を破壊してしまう恐れがあるが、空から地上を薙ぎ払うように撃てば、破壊範囲を抑えることが出来る。
そして、立ち入り禁止区域であり、人のいないこの場所ならば周りを気にする必要もない。
強いて言えば先生達の居る方向にだけ注意しておけば良い。
「20パーセント位ですかね。それでは——さよならです」
——トリガーを引き、発射する。
そしてトリガーを引いたまま地上のロボットを薙ぎ払い、ロボット達は爆発を起こして四散していく。
見る者が見れば地獄と形容するような世界が出来上がり、エリスは撃ち漏らしが無いか辺りを見回す。
ついでに先生達も探すが、見付けることが出来なかったので、安否とは別の意味で安堵する。
一応コッソリとする様に言われているので、見付からないなら見付からないに越したことはない。
どうせ先生がこの程度で死ぬとはエリスは思っていないので、軽く残党を破壊してから適当なビルの屋上に舞い降りる。
「こちらエリス。見える限りのロボットは殲滅しました。また、先生達は見付けられませんでした」
『そうか……こちらのレーダーにも映らないが…………どうするかはエリスの判断に任せる』
「了解です」
ウタハとの通信を終えたエリスはゼロカスタムを翼に戻し、屋上の軒に座り込む。
ユウカに頼まれてしまっている以上、安否の確認が終わるまでは帰れないのだ。