「そこのあなた! 止まりなさい! ミレニアムに一体何の用なの!」
突如菫色の髪をした女性に呼び止められ、サブマシンガンを向けられる。
……はい。受付に着く前に絡まれてしまいました……。
目立つのは分かっているので、急いではいたのだが、無理だったようです。
あまり荒立たせたくないし、とりあえず気弱な振りをしておくとしよう。
「あ、あの、ミレニアムの学校見学に来たのですが、道に迷ってしまいまして……」
「……そんな物騒な物を抱えておいて、それが通じると思っているの?」
……無理……でしょうねぇー……。
普通の銃ならともかく、戦車で乗り込んできたならば、普通は警戒する。
そういうこった……。
「これは見た目だけです。見ての通り銃口はあっても、弾倉は付いていませんから」
「それは……いえ、確か電気エネルギーを撃ち出す銃に付いている、エネルギーパックに似ているわね。嘘は良くないわよ」
流石ミレニアム……技術が進んでいる。
だが、まだ挽回可能だ。
「ほ、本当です。ほら、引き金を引いても何も出ないでしょう?」
現在ゼロカスタムは待機状態にあるので、引き金を引いてもうんともすんともしない。
エネルギーパックには神秘が充電されたままなので、起動状態で引き金を引けば惨事を巻き起こす事となるが、今は関係ない。
ついでに、今嘘をついても後々バレるだろうが、今を凌げればそれで良い。
「……そうみたいね。疑って悪かったわね。名前は?」
「白凰エリスと申します。あなたは?」
「早瀬ユウカよ。トリニティからは何も話は来ていないけど、どうなってるの?」
「実は色々とありまして……」
ザックリと記憶が無いことと、アビドスで助けて貰ったこと。それから金だけはあることをユウカさんに話す。
物凄く疑っている雰囲気を出したままだが、話を聞いてくれているってことは、追い出されることはきっと無いだろう。
「なるほどね。突然訪ねるんじゃなくて、先ずは連絡をしなさいよ」
「それは考えたのですが、身寄りも学籍もないみたいなので、証明できるものがなくて……」
「はぁ……もう、分かったわ。とりあえず案内してあげるわよ。ただ、もしもミレニアムに入る気なら、一度トリニティに行ってからにしてよね」
あら、案外優しい。
つっけんどんな感じだが、根は良い人なのだろうか?
トリニティに行けってのは、本当に身寄りが無いか確認しろって事だろう。
自治区間の問題に発展しないとも限らないので、ユウカさんなりの忠告……優しさなのかもしれない。
「あの、受付とか大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。これでも私はセミナーの一員だから、手続きは私の方でするわ」
セミナー……確かミレニアムの生徒会みたいなものだったな。
確か来年度の会長は、引き続き調月リオさんって人がなるとSNSで書いてあった。
何やら凄い人らしく、ミレニアムの発展に大きく買っているらしい。
ユウカさんに連れられて何やら高層ビルに入り、ゼロカスタムも入る大きなエレベーターで上に登っていく。
重量制限に引っ掛からないか心配だったが、1トンまでは大丈夫そうなので、心配は杞憂だった。
「何所に向かっているんですか?」
「空いてる会議室の一室よ。場所を案内する前に、どんな場所か情報を知っておく方が良いでしょう?」
さも当たり前の様にユウカさんは話すが、当たり前なのだろうか?
まあこれだけ広大な敷地を持ち、色々な部活があるのだから全部を回るのではなく、先に行きたい場所を選んでから回った方が、効率が良いのだろう。
モノレールが通っている位だし。
エレベーターが止まり、到着音が鳴る。
そのまま空いている会議室へと入り、照明が落とされてプロジェクターを使用した学校説明が始まる。
私的にはとてもありがたいのだが、ユウカさんの予定的に時間は大丈夫なのだろうか?
セミナーの一員と言っていたので、心配である。
それはそれとしてユウカさんの説明は分かりやすく、キッチリと数字で説明をしてくれるので、私の感性に合っている。
自由に生きろとか曖昧な事は苦手だが、目標を達成しろとかなら得意だ。
5W1Hを踏襲してくれているユウカさんには、好感さえ持てる。
「……説明はこんな所よ。何か質問はある?」
「説明の途中であったエンジニア部ですが、個人で依頼とか出来るのでしょうか?」
「ミレニアムの生徒ならば可能ね。外部については相手次第よ。何か作って欲しい物でもあるの?」
「はい。あれを翼に取り付けて運べるような、ハンガーを作って頂けたらなと思いまして」
ユウカさんの説明を聞いていて自分の勘違いに気付いたのだが、ガンラックは銃を置いておく場所であり、携帯するならハンガーと表現する方が妥当だ。
普通はベルトで吊るしたり、バッグに入れて運んだりする位なので、そこら辺の知識はあまりない。
「確かにそんな長物を持ち運ぶのは大変そうだけど、大丈夫なの?」
「はい。今は畳んでいますが、伸ばせばこれ位になりますので」
四枚とも最大まで伸ばし、大丈夫だとアピールする。
しかしユウカさんは、惚けているのか、しばしの間固まって動かない。
「……あの?」
「ん! んん! そうね。その長さなら確かに問題なさそうね。それじゃあ先ずはエンジニア部に案内してあげるから、付いて来なさい」
大きな咳ばらいをした後、ユウカさんは直ぐに歩き出したが、大丈夫だろうか?
少し顔が赤かった気がするが、話疲れたのかな?
1
朝の書類仕事を済ませたユウカは、同期である生塩ノアに一言断わりを入れてから、ミレニアムの見回りに出かけた。
ミレニアムはトリニティやゲヘナよりも銃撃戦が起こる事は少ないものの、日常的に爆発や機械の暴走が起こっており、たまに見回る事で事件をなるべく事前に防ごうと、ユウカは頑張っているのだ。
そんなユウカが外を歩いていると、妙な噂が聞こえてきた。
曰く、変態的な銃を持った少女が居た。
曰く、トリニティからの破壊工作員と思われる子が居た。
曰く、翼の生えた幼女をペロペロしたい。
三つ目はともかく、噂が少し気になったユウカは進む方向を変えて、ミレニアムにある監視カメラの映像を覗く。
件の少女と思われる映像を見たユウカは走り出し、直ぐに見つけ出した。
声をかけられた少女は直ぐに立ち止まり、ユウカへと振り返る。
身長はユウカよりもかなり低く、噂通り幼女……美少女の部類に入りそうだ。
背中には翼が生えており、それはトリニティの生徒によくみられるものだ。
だが此処はミレニアムであり、トリニティから生徒が来るとは、ユウカは連絡を受けていない。
少女がただミレニアムに来ただけならばユウカも目くじらを立てないが、少女の持っている物は看過できないものだった。
目測で約二メートル。銃口は二つ付いており、見た目通りならば、その破壊力は戦車に迫るかもしれない。
そこまでかユウカが導きだした答えだった。
しかし……。
(……もしかして、本当に見学に来てくれただけかしら?)
話をしている内に絆され、銃が張りぼてだと説明されたユウカは銃を下ろして、改めて少女を見る。
服は私服であり、どう見てもトリニティのものではない。
また髪と翼は白く、目は緑色であどけなさが残っている。
正直なところ、ユウカの好みであった。
少々上品さもあるが、それもアクセントとして悪くない。
(案内もセミナーの仕事と言えば仕事だし、案内してあげるか……)
将来の後輩になるかもしれない少女……エリスのために、ユウカは一肌脱ぐことにした。
そして本人には内緒で一枚写真を撮り、ノアへとモモトークで送る。
この少女の事について調べて欲しいと添えて。
モモトークが送られて来たノアは、首を傾げながらも了解のスタンプを送り、ヴェリタスに依頼を流す。
ユウカの意思を汲んで、必要最低限で良いと言葉を添えて。
だが、この依頼を受けたヴェリタスの部員が頭を掻きむしる事になる事を、ノアとユウカが知る事は無い。
何せ、名前年齢性別。これらが分かっているのに、何も情報を得る事が出来ないのだから。
通っている中学校は勿論、銃のメーカーも分からず、仕方なくハッキングしたトリニティの監視カメラにも、一つとして姿が見当たらない。
正体不明。それがエリスを表すに最も適した言葉と言えよう。
そんなヴェリタスが頭を悩ませていた頃、エリスはユウカからマンツーマンで説明を受けていた。
真面目に話を聞いてくれるエリスに、ユウカは感心し、ついついいつもの調子で話してしまう。
エリスは話を聞きながらもしっかりと相づちをして、説明を理解していると示す。
ユウカのそれは正直なところ、学校の説明から脱線したり、無駄に専門的な用語をしたりと、中学生向けの物とは言えない。
しかし、いつもならばツッコミをいれてくれるノアはいないため、唯々ユウカが気持ちよく話すだけの空間となってしまった。
エリスは記憶が無いものの、ユウカの話を理解できるだけの頭と、事前情報をそれなりに仕入れていたため、わりと楽しく話を聞いていた。
「……説明はこんな所よ。何か質問はある?」
そして長いようで短いユウカの説明が終わる。
説明以外も多々含まれていたが、本人は気付いていないし、エリスも説明の一環だと思っている。
「説明の途中であったエンジニア部ですが、個人で依頼とか出来るのでしょうか?」
そんな質問にユウカは出来ると答えると共に、説明の意図をエリスへと聞く。
そして理由を聞いて、理解を示す。
ユウカは本当にエリスが持っているゼロカスタムをただのハリボテだと思っているが、重さはともかく、長いものを運ぶのは大変だ。
そんなものを持つくらいならば、アサルトライフルの一丁でも持った方が有意義だとは思うが、何かしらの事情があるのだろうと察する。
「確かにそんな長物を持ち運ぶのは大変そうだけど、大丈夫なの?」
「はい。今は畳んでいますが、伸ばせばこれ位になりますので」
翼を広げたエリスはあまりにも神秘的であり、思わずユウカは言葉を失う。
エリスが小さいのもあるだろうが、翼との対比により、その姿はまるで一枚の絵の様であった。
ユウカとて、翼持ちの子に会うのはエリスが初めてという訳ではない。
だが、これ程大きいのを見るのは初めてだった。
「……あの?」
「ん! んん! そうね。その長さなら確かに問題なさそうね。それじゃあ先ずはエンジニア部に案内してあげるから、付いて来なさい」
そして何か違和感を感じるが、その前に現実へと引き戻される。
テキパキと後片付けをしたユウカは、エンジニア部のある建物に向かうため、再びエリスと共にエレベーターに乗る。
すると、ノアから電話が掛かって来たので、エリスに一言断わってから電話に出る。
「どうかしたの?」
『さっきモモトークで貰った件ですけど……その前に、その子って近くに居ますか?』
「居るけど、何か分かったの?」
『それが、何も分からなかったらしいです。それらしい生徒はトリニティでも確認出来なかったそうでして、勿論痕跡も見つからないみたいです』
ユウカはチラリとエリスに視線を送り、会話が聞かれていないか確認する。
幸いエリスはエレベーターの外を眺めており、気にしていなさそうなので、再び会話に戻る。
「本人が記憶喪失って言ってたし、それならそうなんでしょうね。一応アビドス方面から来たとは言ってたから、そっち方面でも調べてみてくれない?」
『分かりました。でも、その子は大丈夫ですか? その……色々と』
ノアが言葉を濁した事に、ユウカは少しだけどう答えるか考える。
色々とは、大きく分けて二つの事だ。それはユウカの身の安全と、エリスの身の安全だ。
訳ありの子とは大抵何かしらから狙われているモノであり、事件に巻き込まれる可能性は高い。
必要ならば、セミナーとして協力をすると、遠回しに言っているのだ。
「大丈夫よ。エリスは良い子だし、普通に電車でここまで来たらしいから、狙われているわけでもないわ。もしも本当に何も出てこないようなら、一応トリニティに写真を送ってみてもらっても良いかしら?」
『分かりました。けど、あまり無理をしないようにしてくださいね』
「はいはい。あまり心配しなくても大丈夫よ」
エレベーターが一階に着くのもあり、ユウカは話を切り上げて通話を切った。
「悪かったわね。構ってあげられなくて」
「いえ。エレベーターから見る景色を楽しんでいたので、大丈夫です」
エリスは全く気にしておらず、 本当に景色を見て楽しんでいた。
知らない世界の景色とは、見ているだけで時間を潰せる物であり、近未来的なミレニアムは光っているようにエリスには見えた。
「それは良かったわ。こっちよ」
エリス一人だけならば、ミレニアムに蔓延る狂人の一人や二人が、ゼロカスタムに興味を抱いて襲ってくる可能性は大いにあるが、ユウカがいることにより、それは未然に防げていた。
いや、ユウカが居ても構わず襲う者も居る筈なのだが、その筆頭となる三年生は大多数が忙しくしており、問題なかった。
ミレニアムは現在改革中であり、二年生である会長の調月リオ主導であれこれ動いている。
ついでに来年度の予算も、一年ながらユウカが割り振っている最中であり、ユウカの機嫌を損ねてまで問題を起こそうとする生徒は少ない。
少ないだけで、ユウカ達がエンジニア部に向かう途中、一度爆発が起きていた。
ユウカは方角と距離からどの部活がやらかしたのかを直ぐに導き出し、ノアにモモトークを送っておく。
C&Cに出動の要請を出すようにと。
忙しい時に酷使したくはないのだが、ユウカも手が離せないから仕方なくだ。
決してエリスを一人にしたく無いからではない。
「この部屋よ。危ない物が多いから、注意するようにね」
「分かりました」
エンジニア部の部室へと着き、ユウカは扉を開ける。
すると、ガトリング砲が回転する音と共に、大量の銃弾がユウカとエリス目掛けて飛んできていた。
しかも一門ではなくて二門である。
突然の事態にユウカは固まるが、エリスの行動は早かった。
ユウカの後ろへと回り込み、翼で一緒に包み込んだのだ。
「エリス!」
「大丈夫です。危ないので、動かないで下さい」
エリスの翼はガトリング砲の銃弾を通す事は無く、しばらくの間ガトリング砲が撃たれる音と、エリスの翼に弾かれた銃弾が地面を跳ねる音が響き続けた。