ウタハさんによるミレニアムの紹介は恙無く終わったものの、帰るまでの間にユウカさんにもC&Cの人達にも会うことは出来なかった。
出会いとは一期一会であるので、こればかりは仕方ない。
別れる際にウタハさんとはモモトークを交換し、また何かあったら連絡するように言われた。
お金に余裕が出来たら、ゼロカスタムを装備中でも空を飛べるような追加ブースター的なものをつくって貰うとしよう。
「さてと、朝食は……」
適当なホテルに泊まった次の日の朝。
朝のバイキングで、お腹一杯になるまで食べる。
ウタハさんやホシノさんの前では遠慮してしまったけど、今は誰の目もないので食べ放題である。
少々ホテルの従業員の人が驚いているけど、そんなことよりご飯である。
今日の予定は、軽くミレニアム自治区を見て回り、それからゲヘナに行く予定である。
候補としては他にトリニティがあったけど、どうやらトリニティは作法にかなり煩いらしいので、少し勉強しておこうと考えたのだ。
付け焼き刃となるが、やっておいて損は無いはずだ。
武装運べるん改め、ウェポンハンガーを翼に取り付け、ゼロカスタムを装備する。
着ていた服もコインランドリーで洗ったので、これで準備完了である。
「い、行ってらっしゃいませ」
少し声が震えているフロントに見送られ、ホテルを出る。
すると、まるで見計らったかのように、ホシノさんからモモトークが届く。
要件は私の身分や戸籍のことであり、まったく分からなかったと書かれている。
それと、また一度アビドスに来られたら来てと言うものだ。
来年入学予定の子にも会わせたいとか何とか……。
一通り回り、入る学校を決めてから寄ってみるとしよう。
もしかしたら、同級生になるかもしれないので、その時はその時だけど。
先ずは電車に乗り、市街地に向かう。
大きなショッピングモールがあるらしく、そこで作法の本を買い、フラフラと午後まで歩く予定だ。
平日ではあるのだが、屋上で何やらイベントをやるらしいので、それも見てみたいと思っている。
確かモモフレンズって呼ばれるマスコットらしいのだが、こういったものは詳しく調べるよりも、実際に見て感じてからの方が楽しいものだ。
よって、あまり調べていない。
今から楽しみだ。
1
「ふむ。仕草はこの様に……言葉は優雅な感じにですか……」
ショッピングモールに着いたので、早速書店で本を買い、読みながら歩く。
店員に聞いて見た所、トリニティの生徒が出版した本があり、私のニーズに丁度良かったので買わせてもらった。
少々堅苦しく、表現も遠回しの物が多いけど、この本の文章の通りに話せば、トリニティでは問題ないと捉えることも出来る。
後は挿絵で所作の紹介もしてくれているので、一般的な事は練習次第で如何にかなりそうだ。
ついでに何故か紅茶のうんちくが結構な文字数書かれているが、これが中々面白い。
あまり飲み物に強い拘りはないけど、少し飲んでみたくなる。
……が、俺の部分が珈琲を飲めとも訴えかけてくる。
珈琲と紅茶……後でどちらも試してみよう。
「出来立てのクレープはいかがですかー! 甘くて美味しいですよー!」
「申し訳ございません。チョコ生クリームを一つお願い出来ますでしょうか?」
「は、はい! ありがとうございます!」
小腹が空き始めた時に、丁度クレープの屋台があったので、本に書かれていた所作を試してみる。
反応を見る限り、案外良い線いってそうだ。
何となく背中辺りに視線を感じるけど、きっと気のせいだろう。
クレープを受け取り、食べながらウィンドウショッピングを楽しむ。
「そこのお前! うぼぉ!」
「そこのお嬢ちゃん。ちょっとお姉ちゃんと一緒に ひでぶっ!」
「その背中の高そうなのを……あっ、すみませんあやっぱ何でもないです」
……一人で楽しんでいるのに、時より変な少女達が声をかけてくる。
どうみても誘拐や金目当てなので、翼で叩いて吹き飛ばす。
こんな建物の中でゼロカスタムを撃てば、最悪の場合爆発事故や崩落が起きかねない。
態々目の前に来て恐喝をしてくれるので、ハンドガンを使うまでも無く退治出来ている。
これまでは隣に人が居たおかげで変な人達が寄って来なかったが、一人になった瞬間にこれとは……。
目立つ容姿だから仕方ないのだろうか?
クレープの包装紙を丸めて、今にも喧嘩を売ってこようと口を開いた、不良グループのリーダーに放り投げる。
驚いている所にすかさず近寄り、全員を順番に翼で地面へと叩きつける。
二百五十キロを超えるゼロカスタムを持ち上げる翼の一撃は相当痛いだろう。
少し地面に罅も入っているし。
この程度は仮小競り合いと判断されるのか、警察機関に通報するような通行人は誰も居ない。
最低でも銃撃戦をしない限り、商業施設とはいえ問題ないと判断されてしまっているみたいだ。
いっそのことゼロカスタムを撃ちたくなる衝動に駆られるが、撃てば捕まるのは私である。
相手が団体ならともかく、数人程度では過剰防衛と捉えられるのは必定だ。
次襲われたら、少しだけ派手に倒して、威圧することにしよう。
『ご来場の皆様にお知らせします。本日屋上にて開催する、モモフレンズ主催。ペロロ&ウェーブキャット。友達大作戦のショーが始まります。席は来場順となっていますので、お早めにお越し下さい』
……不良退治はおいといて、ショーが始まる時間になるか。
早めに行って、本の残りを読んでしまうとしよう。
2
「えっ、キモ」
モモフレンズの単語だけで楽しみにしていたけど、思いの外ペロロがキモかった。
思わず素の様なものが出てしまったけど、仕方ない。
キモいのはペロロだけであり、他のモモフレンズはそこまでではない。
放送でも名前が出ていたウェーブキャットやMr.ニコライとかは普通に可愛い分類に見える。
そう言えば、どうも実際に話す時と内心の言葉が少しずれているように感じる。
固いというか、男っぽいというか……。
これも色々と混ざった弊害なのだろうか?
まあ私の事はおいといて、こんなにキモいペロロだが、屋上には結構人がいる。
物販も結構並んでいるが、折角だし何か買っていこう。
どうやら限定品として、ペロロとウェーブキャットが握手しているキーホルダーが売っているらしい。
何となく限定品と聞くと、買わずにはいられなくなる。
買えなかったら買えなかったで仕方ないかも知れないけど、取り敢えず列へと並ぶ。
待ち時間で本を読んでいると、トリニティでは紅茶風呂と呼ばれる文化があると書かれていた。
紅茶の成分を考えるに、効果は見込めるだろうが、とても費用がかかりそうだ。
お嬢様だからこそ入れるお風呂なのだろう。
本では美容や体臭に効果があるが、大量の茶葉が必要になり、後片付けや手続きの大変さについても触れられている。
そう言えば、本の著者は……。
「次の方どうぞー」
あら、私の番まで回ってきたのか。
残っているのは……限定品のキーホルダーが最後の一個か。
運が良いのか分からないが、買ってしまおう。
「限定キーホルダーと、こちらのウェーブキャットスマホケースをお願いします」
「はい。三千五百円になります!」
サクッと電子マネーで支払い、売場から放れる。
キーホルダーサイズになれば、キモさも少し和らいでいる様に思える。
『ただいま限定キーホルダーが全て完売しました。売場のお客様は注意してください』
アナウンスが聞こえ、売場に並んでいた数名が残念そうに気を落とす。
最後の一個を買えた優越感を感じながら、その様子を少し眺める。
「そ、そんな……折角間に合ったのに……」
眺めていると、膝をついて絶望している少女が目に入る。
あまりの雰囲気に、周りの客が引いている。
……ん? あの服についている校章って、トリニティ総合学園のものじゃないだろうか?
一応平日なので、普通に授業等があると思うのだけど、お嬢様校の生徒が何故こんな場所で膝をついているのかしら?
うーむ。パッと見不良には見えないし、トリニティの話を聞く相手としては丁度良いのかもしれない。
少し怖いけど、これも一つの縁だ。
「あの、大丈夫ですか?」
「え? ……な、何で此処にトリニティの生徒が! ど、どうしよう……学校をサボった事が知られたら、ナギサ様になんて謝れば……」
顔を上げたと思ったら再び蹲り、何やら泣きわめいている。
感情表現が豊かな子だなー。
「私はトリニティの生徒ではありませんので、気を落とさないで下さい」
「え? ほ、本当ですか!」
「はい。見ての通り校章を付けていませんから」
「よ、良かったで…………へ?」
やっと立ち直ったかと思ったら、今度は私の背後を見て固まった。
やはり初見でゼロカスタムとウェポンハンガーは中々のインパクトの様だ。
……もしかして、不良に絡まれるのは、目立つからなのかな?
「あ、あの大変立派な物をお持ちなんですね」
「そう畏まらないで下さい。その制服を見る限り私の方が年下でしょうから」
いつまでも膝を突かせたままなのもどうかと思うので、手を取って無理矢理立たせる。
幼い印象を受けるが、私よりも背は高く、中々可愛らしい。
流石トリニティの生徒と言ったところか。
「申し遅れました。私は進学先を探して旅をしています、白凰エリスと申します。お見知りおきください」
「あ、私は阿慈谷ヒフミです」
「ヒフミさんですね。今日はショーを見にきたんですか?」
「はい! 今日が初めての公演になるのですが、それに伴ってペロロ様の限定キーホルダーが販売されるので、頑張って来たのですが……完売……してしまいまして……」
元気よく声を出したと思ったら、徐々にテンションが下がっていく。
とても楽しみにしていたのが良く分かる反応だ。
あの鳥の何が良いのか分からないけど、これはチャンスだな。
「それは残念でしたね……」
「はい……でも! 公演も楽しみなので、これ位でへこたれたりなんてしません!」
「宜しければ、公演が始まるまで、ペロロの事を教えてくれませんか? 何かのショーをやるとの事で折角来たのですが、あまり詳しくなくて。それと、トリニティ総合学園の高等部についても教えてもらえると……」
「任せて下さい! ペロロ様の魅力を知ってくれる方が増えるのは、嬉しい事ですので、何でも聞いて下さい!」
あらら? もしかして何か火を付けてしまったかな?
それに、後半部分を完全に無視されている様な……。
ヒフミさんに手を引かれ、ショーが行われる会場の椅子に座る。
ヒフミさんには少し申し訳ないが、翼の関係で後ろの席に、一緒に座らせてもらった。
もしも前に座れば、後ろの人達がステージを見られなくなってしまうからだ。
身長は低くても、翼を含めた全長はかなりのものである。
今はゼロカスタムを装備している関係で、畳むことが出来ないので尚更だ。
ショーが始まるまで、約一時間。
「それでは、ペロロ様の事を話させて頂きますね!」
何れくらいトリニティの事を知ることが出来るだろうか……。
3
ああ、一時間前の私を殴りたい。
何となく、俺の部分が変な雰囲気を出していると思ったら、これを予想していたからだろう。
「……それでですね! その時スカルマンが突如現れて、ペロロ様と共闘したんです! その時のシーンは……」
ヒフミさんの話は全く終わらず、丸々一時間話通しだった。
自分から言い出した手前、遮るのも悪いと思っていたが、ここまでとは思わなかった……。
つまらない話ならば、逃げるのも手だったかもしれないけど、思いの外ヒフミさんは話上手であり、うんざりはするものの決してつまらなくは無かった。
結果としてトリニティの事は一つとして分らなかった代わりに、モモフレンズについては詳しくなってしまった。
「あっ、そろそろ始まりますね! 楽しみですね!」
「は、はい。そうですね」
これには流石の私も反応に困る。
これが一種のオタク……いや、マニアと言われる存在なのだろう。
よく見れば、持っているバッグや小物は全てペロロが関係している物であり、かなり徹底している。
やっとペロロの話が終わり、ペロロのショーが始まったけど、頭がペロロに浸食された気がする。
「いけー! ペロロ様ー! ほら! エリスさんも声を出しましょう!」
「は、はい……」
ショーが始まってからヒフミさんのテンションは更に振り切れ、先程まで膝をついて絶望していたとは考えられない変わりようである。
トリニティではこれが普通なのだろうか?
何とかヒフミさんに合わせる形でショーを乗りきり、艶々になったヒフミさんと一緒に会場から近くのカフェに入る。
今日中にゲヘナに行こうと思っていたけど、思いの外疲れたな……。
まあ、ショーは普通に面白かったので、また何かイベントがあったら行くのも有りかもしれない。
いやはや、ヒフミさんが熱狂する理由も分からなくもない。